第30話 昔話と邂逅
「あるところに一人の神がいた。その名はアルテミアス。人間によく信仰されている神じゃな。
「その神は神魔戦争によって三次元世界にいった元神どもを心配していた。
「その彼らに手助けがしたいと、この世界にアビリティという概念を作り出した。
「いつしかアビリティは普及し、元神たちも魔法などを作り、広めながら世界を旅していた。
「しかし、時が経つにつれて人間同士で戦争が勃発し始めた。
「世界は大混乱に満ちていたが、そこに六つの希望の光が現れた。アルテミアスが六人に直接アビリティを与えたのだ。
「そのアビリティものすごく強く、最後に『使い』という言葉があることから、それらのことをいつしか『使い者シリーズ』と呼ぶようになった。
「そして戦争が終わり、アルテミアス教が出来上がったのだが、アルテミアス教は使い者シリーズの情報は封印しようと決めたのだ。そして教会でそれを知るものはごく一部となった。ここまでが昔話じゃ。
「ここからはアビリティの話じゃ。
「使い者シリーズは我々が持っている五感に直感などの感覚を合わせた六感をもとに作られたと言われておる。
「どれも他のアビリティとは随を見ない強力なアビリティじゃが、二つだけ例外があるのじゃ。
「それが色使いと空使いいうアビリティじゃ。
「空使いは嗅覚を司るアビリティじゃ。
そのコンセプトは空のものを埋める、じゃ。
「例えば空気とかじゃな。空使いは空気の流れ等を制御できるからのう。逆に、何もないところを埋めるために吸い込む、なんてこともできるらしい。そこら辺はよくわからん。
「そしてもう一つの色使いは視覚を司るアビリティじゃ。そのコンセプトは色がないものはこの世に存在しない。
「つまり、色を消されればこの世から消えるし、色を足せば新しいものが生まれる、創造と破壊を司っているとも言えるのう。
「これが一番危険と言われておるが、滅多に出ないとも言われておる。出た年は波乱の年、なんて知っている者共から呼ばれるほどじゃ。その力に対しては勇者なんて雑魚同然じゃからのう。そして、このアビリティが一番この世界の理に対して影響を持っている。
「これで分かったじゃろ?蛇神様がわざわざ来た理由。そうじゃ、覚醒したのじゃよ。
「色使いが」
***
「ところで、貴方は、誰、ですか?」
空を飛んでの移動中、僕は彼女から溢れるプレッシャーに耐えながら、そう尋ねた。
「私か?そうだな……差し詰め神、と言ったところか」
「神、ですか?」
「これ以上の詮索は無しだ。それよりも私はその彼から話を聞きたい。早く行くぞ」
「分かりました」
僕は彼女に言われた通りにスピードを上げた。
彼女もしっかりとついて行って、予定よりも早くついた。
そして僕らは兵団の本部と呼ばれるところに着いた。入り口に案内人がいたのでそこに向かった。
「お疲れ様でした、バララ副団長殿。話は通していますので早く団長二人を医療室へとお願いします。それと」
着いた直後彼にそう言われたが、どうやらもう一つあるようだ。
そして彼は僕の隣にいる彼女に顔を向けた。
彼女には着く前にそのプレッシャーをしまって欲しいと言っていたので、彼も怖がることなく話せるのだ。
「貴方様に着いても話はアリシア様より聞いております。どういたしましょう?バララ副団長殿について行きますか?」
「ああ、そうさせてもらう」
「わかりました。そう伝えておきます。それではまずは医療室へとご案内します」
僕らは彼について行った。
医療室についた後、僕は団長二人をベッドに置き仕事があるからと医療室を出た。
彼女はシン団長から話を聞くために残るようだ。
僕は自分の部屋に戻り、一人溜め息を吐く。
油断していた。後一歩で皆死んでいた。あいつの生態を知らなかったでは済まされない失態。
僕は弱い。あいつを追い詰めることはできるが、逆に言えばそこまでだ。殺し切れない。殺し切る力がない。
あいつを殺し切れる力を手に入れよう。
僕は一人決意をするのだった。
***
「……ここは?」
僕は死んだのか?また死んだのか?でも、ここは違う気がする。
「ふむ、やっと起きたか」
僕はその声で僕の他に人がいたことに気がついた。
その方に向くと、蛇を体現したような人がいた。もう人であること以外まんま蛇だった。こんな種族、今まで見たことがない。
「……えっと?貴方は?」
「私か?一言でいならば神だ。神聖樹の子よ」
最後の言葉で僕は驚きを隠せなかった。
「何で……」
「ん?安心しろ。ここには私とお前以外誰もいないから聞かれる心配はない。それでなぜ知っているか、その答えは私が神であるから。それが答えだ」
答えになっていない。神だからなんだというのだ。神は本当に全知全能なのだろうか。
「お前の言いたいことはわかる。確かに私たち神は全知全能に近いが、近いだけで全知全能ではないのだ。それではなぜ知っているのか。それはさっきも言った通り、神だからだ。神は神聖樹の魔力を感じ取ることができる。それは例え魔術で作られたとしても、だ」
なるほど……?いるか?そんな能力。いらねえだろ。
「こんな能力欲しくて手に入ったわけないだろう……まあいい。それでは神聖樹の子改め、色使いよ。名を何という?」
僕はまた驚かされた。何で僕のアビリティを知っているのだろう。
「なぜ知っているのでしょうか……僕のアビリティを」
「反応があったからな。色使いが覚醒した反応が、な。私はそれを感知したのだ。それではもう一度聞こう。名は?」
完全に信用しているわけではない。でも彼女は只者ではない。プレッシャーが無いのだ。恐らく抑えているのだろうが、そういうものは必ず少しは漏れるものだ。しかし目の前にいる彼女には全くプレッシャーを感じない。それは気配操作に慣れているということ。しかも、例え慣れていたとしても、微量は漏れるものだ。僕はそれを感じ取ることができる。気配には敏感なのだ。でもそれでも感じられない。全く漏れていない。
まだ信じられない。でも名前だけなら大丈夫……なはずだ。
「シン・ユグドラシアル、です」
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