第29話 邪神
これは、バララがシン達を運ぼうとする前のはなしである。
***
「今回は魔王会議の参加、誠にありがとうございます。それでは私が提案した議題である、クラウディア皇国とその勇者の対抗策等について話し合いを始めようと思います」
今回の議題を提出したライランのその言葉で魔王会議は始まった。
「まずはクラウス魔王国に対しての侵攻についてですね」
その言葉に真っ先に反応したのは閃光の魔王、ジーバルだった。
「そうだな、今回のことは正直驚いたもんだ。というかよく追い返せたな」
「はい、それについては幸運でした」
アリシアが淡々と返すと、次に発言したのは悪夢の魔王、ムギレイだった。
「でも、もしかしたら次は私のところに来るかも……」
「まあ、その時のためにこうして集まったんだし、ね?」
「そうですな…確かにこのままではまずいですからな。特に私たちにとって、勇者はかなりの天敵になり得ますから」
ムギレイの言葉に返したのは淫乱の魔王、ローレライと死霊の魔王、グレイだった。
グレイは顔を顰めながら話を続けた。
「それで、今回の勇者のデータはとってあるんでしょうか?アリシア殿」
「はい、それはもちろんですが、提供する際にある条件を飲んでいただきます」
「その条件とは?」
「ここにいる魔王で、勇者に対しての同盟を結ぶのです」
「「「「「!?」」」」」
アリシアの言ったことは魔王たちにかなりの衝撃を与えた。
魔王は基本、干渉しないのが暗黙の了解とされている。無理に干渉してしまうと、最悪戦争にまで発展してしまう。そうなることを嫌ってか、彼らは無理に協力はしないのだ。
「どうしますか?」
「「「「「………」」」」」
ここにいる魔王が難しい顔をする。
彼らは悩んでいるのだ。手を組むメリットとデメリットを天秤にかけているのだ。
「私はいいわよ。手を組んだ方がメリットがありそうだしね」
最初に同意したのはローレライだった。
「ありがとうございます」
「いいのよ別に」
「それでは私も同意致しましょう」
「私もいいですよ……?」
そしてグレイ、ムギレイが同意した。
「私は今回は同盟に参加しません」
そう言ったのはライランだ。
「俺は別にいいぜ」
そしてジーバルが同意し、残りは始まりからずっと黙っている博識の魔王、ネモだけになった。
堪らずムギレイが聞いた。
「…ネモさん、どうしますか?」
「……来るぞ」
「……え?」
彼女がそう言った途端、魔王が集まっている会場の壁何かが衝突し、突き破った。そして壁に大きな穴ができた。
そこにいたのは蛇の尻尾、目を持ち、アリシアたちと同じような容姿をしながらも所々に蛇の特徴が見える者がいた。
「お久しぶりでございます、蛇神様」
その者に真っ先に挨拶をしたのが、ネモだった。
「うむ、久しいな、ネモよ」
「ネモ殿、まさかこの方は……」
すかさずグレイがネモに質問する。
ネモはその質問に淡々と答える。
「この方は蛇神様。七大罪の神の柱の一人で、暴食の名を冠しております」
その言葉にここにいる魔王は唖然とした。まさか神がここに現れるなんて、と。中には神はいないと信じていたものがいたので、その驚きの大きさは計り知れないだろう。
「それで、ネモよ」
「分かっております。使い者が現れたのですね?」
「ああ。今回の使い者は特殊だからな。私自ら見る」
「ここにいらしただけ、そうでしょうね。場所は分かっているのでしょうか?」
「ああ、大体の位置は分かっている。今からそこに向かうが、一応許可を取りたくてな」
「何処にいるのでしょうか?」
「あっちだ」
そう言って指をさした方角はアリシアの国だった。
「方角としてはアリシアさんの国ですかね。アリシアさん、蛇神様の滞在許可はいかがでしょうか?」
「問題ありません。私が許可したと言ってくれればおそらく問題ないはずです。今から連絡入れておきます。しかし、正体は成るべく明かさないで頂けると助かります」
「分かった」
「よろしくお願いします。それでは蛇神様、許可が出ましたので、どうぞ言ってらっしゃいませ」
「ああ、感謝する」
そう言って蛇神はものすごいスピードで飛んでいった。
彼女が去った後、アリシアは一人考え事をしていた。
(使い者と言っていました。もしかしてシン様のアビリティが覚醒したのかもしれません。となると、あの時の教会の話は信憑性が増しますね。と言うことは私のアビリティもそう言うことなのでしょう。でも情報が足りません。もっと情報を集めてから判断しても遅くはありませんね。そうしましょうか)
蛇神が去って少し微妙な空気になってしまったが、各々すぐに自分の席についた。
そして全員が座ったところでジーバルが口を開いた。
「ネモさんよ、あれはマジもんの神なのか?」
その言葉にネモは元の口調に直して答えた。
「ああ、あれは正真正銘、我らが神様じゃよ。彼女は暴食の蛇神と呼ばれているんじゃよ。でもおそらく文献にはないじゃろうな。載ってる文献なんて恐らく1000年以上前に全部燃やされたからのう」
「成程。どうりで知らないわけだ。でもよ、それじゃあ何で来たんだ?」
「ああ、それは、アリシアが一番よく知っているんじゃないかのう?」
ネモは矛先をアリシアに向けた。
「アリシア、心当たりがあるんじゃろう?」
「ええ、そうですね。ですがこればかりは話すことはできません。代わりにネモさんが話してください」
「はあ。しょうがないのう。それじゃあちょっと話をするかのう。内容はアビリティについてじゃ」
こうして、ネモが昔話を始めた。
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