第28話 覚醒
不味い不味い不味い……!!
「クソッ……」
僕は後退するしかなかった。早くこいつを倒さなければならないのに……!
しかしこいつに早さで勝てるわけなく。
一瞬で追いついてしまった。
「ガアアアアアアアア!!」
僕は苦し紛れにそいつの体に向けて、土と風の混合魔術の
しかしそれは発動しなかった。
放とうとした瞬間、消えたのだ。
まるで手のひらに吸い込まれるように。
「……はっ!?」
このままでは不味い。そう思った時、それは起こった。
【所持色が一定に到達しました。これよりスキルの解放を始めます】
そう頭の中に響いた瞬間、僕の体が何かに乗っ取られた。
そして僕の意識がプチっと切れた。
***
あいつから受けたダメージがまだ僕を蝕んでいる。これだとまだ動けそうにない。団長が何とか引きつけているけど、それも時間の問題だ。何とかして体を動かさないと行けないのに、僕の体は言うことを聞いてくれない。このままだと団長が死んでしまう……!
僕は何とか首より上を動かして、団長を見た。それは丁度あの悪魔が団長にとどめを刺そうとする瞬間だった。
「……だ…ん……」
声が出せない。まだ動けない。このままでは団長が……!
すると団長を中心として、強い風が発生した。それはあまりにも強く、あの悪魔も団長からかなり距離を離した。
そして次に見た団長は、何かおかしかった。
今の風は魔術じゃない。何故なら、魔術を使う際の魔力の放出を感じなかったから。だとしたらあの風は何だろう?そして団長は魔術のスペシャリストだ。つまり、彼は魔術以外は言っちゃ悪いがあまり強くない。特に近接戦闘だ。
故に団長は魔術以外であの風を発生させることは不可能に近い。
「ガ、ガア?」
悪魔も戸惑っている。それもそうだろう。魔術しか使えない奴がいきなり魔術以外を使ったのだから。
だとしたら彼は誰だ?
容姿と魔力の質以外何もかも違う。彼は団長の皮を被った何かだ。
『アビリティのレベルアップを確認。レベルを2とし、スキルを解放。新たに、
団長とは違う声が聞こえた。この声は何だ?
そして僕が混乱している間にも物事は進んでいく。
悪魔が団長に向かっていくが、そんなことお構いなしに団長は続ける。
『種族のハーフエルフを削除。これにてアビリティのレベルアップを終了する。次に目の前の標的の削除に移行する』
そして団長は向かってくる悪魔に向かって右手を出した。
『発動。
すると、団長と悪魔の間に透明な壁みたいなものができた。
「ガアアアア!!」
そんなことは関係ないと悪魔は突進する。
このままでは団長が死んでしまう。
しかし、僕は衝撃的なものを見てしまった。
悪魔の体が、その透明な壁をすり抜けたところから細かい砂みたいなものになったのだ。
悪魔はそれに気づいて体を離そうとしても、もう遅かった。
気づけば悪魔は全てを砂に変え、消えた。
それは、あまりにもあっさりと。一瞬で、悪魔の存在の何もかもを消し去った。
まるで色を失ったように。
そして団長は崩れるように倒れた。
僕はそれまでの光景を黙って見ることしかできなかった。一体何が起きた?どう言うことだ?
そして少し経ったところでようやく体が動くようになり、団長の元に向かった。
ちなみにゴラン団長はまだ気絶していた。
正直何もかもわからない。団長に起こった事。そしてその後の光景。僕らが苦労して、そして追い詰められた
『団長!こちらの救助は終わりました!団長!団長!どうされましたか!?』
すると、グレンから連絡が団長に来たみたいだ。
僕は団長に代わり、応答に答える。
「団長がダウンしてるから代わりに僕が言うよ。了解した。それでは魔物の討伐に向かってほしい。僕は二人の団長を運ぶから」
『……っ、バララか。分かった。俺たちは今から魔物の討伐に向かう。それより団長がダウンしたってどう言うことだ?そんなに強い魔物がいたのか?』
「ああ、やばい奴がいたよ。それについては後で話すよ。それじゃあ、よろしく」
『分かった。気をつけろよ』
「ああ。んじゃ」
そう言って僕は通信機の電源をそのままに、次に第八へと連絡をかけた。
「どうも、第八?こちら第三だけど」
『あれ?バララ副団長?でもこれってシン団長のものですよね?』
「ああ、今団長はダウンしてるからね。代わりに僕が連絡したんだよ」
『なるほど。それで状況はどうですか?』
「うん。簡単に言うなら、
『……っ!?』
「僕らがついたときにはゴラン団長はすでに瀕死状態、僕らも応戦したんだけど結構苦戦してね。命からがら何とか勝ったんだけど、結果団長二人がダウンしてる。幸い死ぬことはないから、大丈夫だけど。あとグレンがいるところに魔物が出たみたい」
『ちょっと待ってください、ヤバい情報が多すぎます!ええっと、
「ああ、そうだ。僕はこれから団長をそっちに運ぶから、医療室を手配しといてくれないかな」
『わかりました。それくらいはお任せください。それで……応援要請は出しますか?』
「いや、必要ないよ。取り敢えずこれで終わりかな。それじゃ」
『はい、お疲れ様でした』
僕は通信機の電源を切った後、それを団長の懐にしまって、二人を風魔術で浮かした。
彼らを浮かす程度の魔力はギリギリ残っていてよかった。
そして僕がこの場から去ろうとした時、後ろから声がした。
「おい、何処へ行くのだ」
全くと言っていいほど気配を感じず、そして振り返ると、それはいた。
全身から溢れるプレッシャー。それはもう、プレッシャーの塊と言ってもいいだろう。それが全て僕に向けられている。
さらに魔力を全く感じることができない。と言うことはつまり、魔力値が僕よりも遥かに高いのだろう。
そして何よりもその容姿だ。
蛇のような尻尾と目、体や顔の構造は僕らと同じようだが、至る所に蛇の特徴が垣間見れる。
こんな種族は見たことがない。
「もう一度聞こう。何処へ行くのだ」
返事ができない。それほどまでにプレッシャーが凄まじかった。
彼女は一体誰だろう。今日は驚くことばかりだ。
「ど、何処と、言われても……戻るだけ、ですが」
「成程。感じたから来てみたものだが、どうやら当たったようだ」
一体何を感じたと言うのだろうか。彼女の言っていることがわからない。
「よし、ならば私も連れて行け。何、アリシアに許可はとってある」
「な、なぜアリシア様の、名が……」
本当に何なのだろう。
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