第17話 1.5章エピローグ
イリスはアリシアの住む城に着いた後、すぐに謁見へと案内された。
そして彼女の願いは聞き届けられ、承認された。
ただし、今後彼女の立場は僕の部下兼メイドとして働くようにと命じられた。
彼女はそれでも構わなかったのか、すぐに承諾した。
そして次の日から彼女は僕の元で働くこととなった。
「ねえねえ、イリス?」
「何?シンくん」
彼女は僕の部下でありながら、特例として、敬語で話さなくてもいいことになっている。というか僕がそうした。
「ステータス確認してみてよ。何か変わってる点がないか知りたいしさ」
「分かったわ」
そう言って、彼女は自分のステータスを確認すると、次第に疑問を浮かべるようになっていった。
「ねえねえ、シンくん」
「何?」
「何で私の種族に悪魔が追加されてるの?」
「あ、やっぱり?」
「やっぱりってシンくんも?ていうかシンくんあの時翼出していたから悪魔か」
「そうだよ?こっちに来て6年経ってからようやく分かったことなんだけれどね。なるほど、ここで過ごした年数は関係ないと……」
成程。でも彼女の体に変化した様子は無い…でも、自分の時は3年前くらいに体全体が急に痛み出してそれから………体の改変に必要なのは………
「おーい、シンくーん?」
「それじゃあ原因はこの空気中に含まれている魔素?でもそうだとしたら……」
「もう、シンくん!」
「え?何?」
「今さっき連絡が入ったよ。各団長は会議室に集合だって!」
「本当に?ありがと!すぐ行ってくるよ!」
僕は勇者を追い返した事が功績と認められ、ガレリーバの推薦を受けて見事第三兵団の団長になったのだ。これはある程度予想されていたのであまり驚かれなかった。
ちなみにガレリーバは一旦人間の世界である、3次元世界の調査に戻った。次に会えるのは未定なんだとか。また会える日を楽しみにしよう。
***
僕らは負けた。そして、奴らの慈悲によって生かされた。
それは勇者である僕にとっては最大の屈辱。
でもそれ以上に彼女の言葉が僕の心に重くのしかかっていた。
「何で……何でなんだ……イリス……」
「今はそう言ってらんないわよ、クラン。とにかく今は帰ることを優先しましょう」
「そうだな、カグヤの言う通りだ。今はなるべく早くこの世界から脱出しなければならない。フィリス、今こいつは戦えそうにないから、もしもの時は頼む」
「わかりました、ゴウさん。クランさんのことは任せてください」
設置型ポータルについた瞬間、僕らは逃げるように、この世界から去った。
その後、悪魔の世界の調査の件に関して、皇王直々に感謝が述べられたが、今の僕にとってはそんなことはどうでも良かった。
イリスは、僕のことを何とも思っていなかったと言うのか。
彼女は言っていた。僕の意思は脆弱だと。そんなことはないと声を大にして言いたかったが出せなくて、さらに続いた彼女の言葉に何故か何も反論できなかった。
しかも、彼女の実力は僕らが一番把握していたはずなのに、それすら見抜けなかった。隠していたのだろうけど、それでも見抜けたはずだ。ずっと一緒に行動していたから。
時々おかしなことがあった。緊急クエストで、街に大量の魔獣が襲ってきた時、いつも通り普通のクエストで討伐する時みたいにできていたのはもしかして、彼女が裏で間引いていたからかもしれない。
考えれば考えるほど、見抜けたタイミングがあったのに、それを僕は毎回毎回、僕らの実力だと誤って認識してしまっていた。
彼女にとって僕らは蟲以下なのだろう。それほど実力が離れている。
僕の努力も彼女にとったら、そりゃあやっていないも当然だったのだろう。
彼女は常に一つの願いのために走り続けていた。
比べて僕は何なのだ。目標を決めたからって、そこに願いが、強い意志がなければ意味がなかった。
「ははっ……」
僕はもう、笑うことしかできなかった。
***
「シンが来てもう6年、か」
彼は待ち続けた。たとえその身が悪魔になろうとも。
待ち続けた。生涯でたった1人の親友のために。
「そろそろ頃合いだろう。あいつにちゃんと正面から会って、そしてまた……」
彼は願う。
あの頃に戻りたいと。
しかしそれは他でもない彼が望まない。
あの時期はまさに地獄。
直接話を聞いていたとしても、いや聞いているからこそ、その辛さは誰よりも知っている。
「あいつがあんなのに出会わなければ、あいつはあんなに苦しまずに済んだのにな」
彼は願う。
その親友の為に。
彼は願う。
いつか、この剣をあの憎き王の心臓に向けて───
今、彼は決意を新たに。
彼は進む。
全ては親友の為に。
***
「もうすぐ、もうすぐ会える……!」
獣は走る。
走る走る走る。
その白い獣が向かう先は────
獣は休まず今日も走る。
ある願いを抱いたまま。
彼の場所へと、走り続ける。
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