第16話 勇者に絶望を
「は?」
ガレリーバはそう言って固まっている。
僕の部下も、そして勇者たちも固まっている。
僕は声を出さずに静かにその場で佇んでいた。
「もう一度、言う必要がある?」
「いいや、別にいいさ。でもなぜだ?理由によっちゃあこの場で殺すしかなくなるぜ」
そうだ、理由だ。なぜ彼女は僕のことを指さしたのか。
それに僕は今フードをかぶっている。顔はしっかりと隠すように深くかぶっている。
あの国に住んでいたアル・ローダスである可能性を限りなくゼロにしたはずだ。それがなぜ……?
「まず一つめは、おそらく彼は副長みたいな立場なんでしょう。でも団長であるあなたが顔を出してるのに副長が顔を出さないなんておかしくない?」
「自分の顔を知られたくないんじゃないのか?」
「そう、そこよ。なぜ顔を知られたくないのか。それは、後ろめたい事や、顔にコンプレックスがある人ならそうでしょう。でもあなたはおそらく違う。だって、声すら出してないもの。コンプレックスを持つならほとんどの確率でどちらかしかないはず。なら、声も顔も出せない理由があると言うこと。それに当てはまるのは私たちの関係者や知り合いなどに限られてくるわ。私の予想通りなら、長年探し続けた彼の顔があるはずよ。6年前のあの事件で唯一いなくなった人物の顔がね」
「だとしてもよう、それは強引過ぎないか?」
「ええ、だからこそ、あなたの存在よ、ガレリーバさん」
「俺か?」
「ええ、あなたの顔はあの国の中で私だけが知っているもの。あなたが来てすぐにピンと来たわ。あの時、彼を攫った時の悪魔だってね」
「それは悪魔違いじゃないのか?」
「そうかもしれない、でもあの時私が見た顔とあなたの顔はよく似過ぎているのよ。私、記憶力だけは自信があるのよ。しかも、私には魔眼があるの」
「へえ、どんな魔眼なんだ?」
「『真偽の魔眼』そう呼ぶらしいわ」
「っ!?なるほど、んで、その眼には何が写ってるんだい?」
「あなたの言葉に一つだけ嘘があったわ。それは人違い改め、悪魔違いと言ったところよ。つまり、それは間違いなどではなく、あなたがあの時いた悪魔だと言うことなのよ」
おいおいヤバいぞヤバいぞ……ガレリーバ、どうするんだよ……
俺は声が出せないから何とか……頼む……!
「そうかい、まあ、それに関しては謝らせてもらうさ、嘘ついて悪かったな。だがな、そんなことがわかったって、結局のところ、証拠がねえぞ?」
「ええ。でも、彼がフードを外してくれればそれで解決するじゃない?悪魔を呼び出したと噂されている少年、アル・ローダスだと、わかるはずよ」
「なっ!?」
あら、勇者たちが大層驚いてらっしゃる。
でもガレリーバはまだ諦めていないようだ。
「でもよ、じゃあなんで人間に翼が生えてたんだ?」
「……え?」
「お前ら見なかったのか?その、アル・ローダス、だったっけか?そいつだと言うんならまずそいつはハーフだろ?じゃあ何で翼生えてるんだ?」
「そ、それは……っ!」
お!そうか、その手があったか!いいぞ、ガレリーバ!終わらせてしまえ!
でも何でだろう、何か嫌な予感がする……
「何でだ?教えてくれよ」
「ふふっ。ええ、いいでしょう。その前に一つだけ質問してもよろしいかしら?」
「なんだ?」
「私は、いつ彼がハーフだと言ったかしら?」
「……っ!?」
あー、やっちまったよ、ガレリーバ。
俺の種族がハーフエルフなのは彼女は知ってるんだよなあ。
あーあ、だめだこりゃあ。
もう介入するしかないか。
「はあ。何してるんだい?ガレリーバ」
「すまねえな。こりゃあ、ミスったわ」
「本当だよ……ったく」
僕はため息を吐きながらある魔術を発動させた。
それは結界魔術。
イリスとガレリーバと僕だけを囲むようにして、展開した。
当然防音システムもあるので、会話が外に漏れる心配はないし、中も見えないようにしてある。プライバシー対策バッチリ。
「よく僕がアルだとわかったね、イリス」
「ようやく白状してくれたのね、アルくん」
「いや、今はシンの名前で通ってるから、そこだけは合わせてくれよ」
「むう、わかったわよ。シンくん、これでいいんでしょ?」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして。それで、これからの話をしようと思うんだけど」
「そうだな、そこについては俺も参加させてもらうわ」
「うん、ガレリーバにも参加してもらった方が良さそうだ」
「それじゃあ、まずはガレリーバさん」
「おう」
「私の要求、受け入れてくれますか?」
「それはシンに聞いてくれ。今回の決定権は全てシンにある」
「そうなんですね、それでシンくん、どうなの?」
「僕は別に構わないよ。むしろいいと思う。一応勇者パーティからできれば1人仲間にしてこいって命令が来てたから。僕はボーナスがもらえるし」
「わかった。あ、あと私、今後シンくんについて行くから、よろしくね?」
「……ゑ?それじゃあ勇者パーティは?」
「もちろん抜けるよ。だってあそこ嫌いだし」
「あ、そうですか」
「よし、大体のことは決まったな。まあ俺たちは悪魔でも鬼じゃねえ。最後の別れくらいさせてやるよ」
「いえ、結構です、ガレリーバさん。私あそこに未練なんてないので」
「そうか、それじゃあシンはこの結界を消せ。消してからすぐに行動開始だ」
そして、僕が結界を消したあと、この後の流れをガレリーバが説明した。
「話し合った結果、そこの……ええと」
「あ、名前言ってませんでしたっけ?イリスです」
「イリスの魔王様への謁見はこの俺が認める。今後については知らんがな」
「ありがとうございます、ガレリーバさん」
「そして、勇者共は今回は見逃してやる。さっさと帰れ。二度と来るな」
そう言って、ガレリーバはしっしと手のひらで追いやる仕草をした。
が、それでも食い下がる者がいた。
「イリスは、イリスはどうするんだ!?」
そう、勇者だ。
「さっきも言っただろう」
「納得できない!」
「だとよ、イリスの嬢ちゃん」
ガレリーバにそう呼ばれてイリスは勇者の前に立った。
「イリス、さあ、僕らと一緒に帰ろう。みんなが待ってるから、だから……」
「だからなんです?」
彼女の表情は先ほどとは違い、何も示していない。つまり、無表情。
彼女のその一言には重みがあった。故に、勇者はすぐに言葉が出なかった。
「あなたたちと一緒に行って何かいいことでもあるんですか?私があなたたちについていたのは、アルくんの生存を確認し、そして一緒に暮らすためですよ?場所なんて関係ありません。なので私は辛いのを我慢してあなたたちと行動をしていました。わかりますか?この辛さが。私よりも弱い人たちの面倒を見なければならないこの私の気持ちが。きっとあなたたちは弱くないなんて言うんでしょう?そして、強くなるために努力してきたと言うのでしょう?そんな努力は私にとって笑止千万です。そんな努力は努力とは呼びません。私にとってはですけど。あなたたちは口から血を吐いたことはありますか?毎日のように魔力欠乏に陥ったことはありますか?ありませんよね?故に私はあなたたちの努力を、想いを、何もかもを否定する。そんなちっぽけな正義を振りかざしてるんだったらあなたたちは所詮、その程度の人間だったと言うことです。私はアルくんがいなくなったあの日からあの街にいる人全てを敵として認識しました。要は、あなたたちも敵なのですよ?フィリスを除いてですけど。これで私の考えははっきりしたでしょう?あなたたちは敵。それ以上でもそれ以下でもない。いえ、やはり、敵にもなり得ませんね。所詮はそこの雑草以下です。それではごきげんよう。私はあなたたちとは戦場でしか会いたくありません。だって、殺せるんですもの。鬱陶しい蝿を」
勇者はイリスからの言葉を聞いていくうちにどんどん顔色が悪くなり、ついには白くなり出した。そして最後にはただの抜け殻みたいになってしまった。
そりゃあ、好きな人から敵認定されてその上自分の想いがちっぽけだと言われたら何も考えられないわ。
僕は少しだけ彼の同情した。
「それじゃあいくぞ。イリスは……」
「大丈夫、浮遊魔術覚えてるから」
「っ!?」
「分かった。それじゃあついてこいよ」
「ええ」
イリスが浮遊魔術を覚えてると言ったあたりで勇者が反応したが、どうせ、何で僕らと一緒にいた時使ってくれなかったんだとか何とか考えてるんだろうな。
きっと彼の今までの人生には勝てたものばかりで、自分の行いは正義だなんて調子こいて、自分の本当の実力から目を逸らしていたんだな。
ほんと、僕からしたら笑えるね、そんな屑みたいな人生は。
だからこそ。
そんなとぼとぼと歩きながら帰っていく彼らに一つ言葉を送ろう。
「現実を見ろよ、雑魚が」
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