第15話 勇者と対面
僕とガレリーバは共に翼を広げ、ツノを出して彼らのいる場所へと向かった。
悪魔になって分かったことだが、翼やツノは出し入れ自由であると言うことだ。これにはとても驚いた。だからガレリーバは冒険者として人間に溶け込めたと納得した。彼はツノと翼さえなければただの人間に見えるからだ。
そして、今の僕はフードを被っており、顔を隠した状態で向かっている。
「もうすぐ着くよ」
「分かってるって、そのくらい。俺をなんだと思ってるんだ?シン」
「怠け者」
「くっ……反論できねえ……」
「もう、そんなのいいから降りるよ」
「……おう」
満身創痍の彼らの前に僕らは降り立った。
「お前が噂の勇者様ってか?」
今回僕はほとんど喋らずに黙ってるだけ。ガレリーバが勝手にやってくれる。
まあ僕がそう指示したんだけど。
「……だからっ…どうしたって言うんだ。卑劣な悪魔め。僕たちはこんなものなんかに負けたりはしない」
「へえ、威勢だけは立派なもんだな。だが、実力が伴ってない。お前も、その仲間も。一人だけヤバい奴はいるが、そいつがいても何も変わりはしない。そいつの足をお前らが引っ張ってるんだからな。威勢を張りたきゃ、実力をつけろ。それだけだ」
「くっ……」
おーおー、勇者さんが悔しそうにしてますねえ。
「クソっ……ふざけるなっ……魔王とはこんな回りくどいことをするものなのか……こんなことさえなければ、僕は絶対に勝てると言うのに……目の前に魔王がいるのに……」
あれ?ちょっと勘違いしてません?勇者の……なんだっけ……名前……さっきは普通に覚えてたはずなんだが……………まあいっか。
というか、ガレリーバさん、めっちゃ怒ってません?ほら、勇者達はまだ分かってないみたいだけど、僕らの部下みんな怖がってるし。
「……貴様、今何と言った?」
「ひっ…!?」
うわあ、彼の威圧に気付いて、勇者さん達みんな青ざめてますねえ……
特に後ろにいるなんか聖女っぽい人なんか泣いてるし。号泣だし。
もう1人の後衛は無表情すぎてわかんない……てか意識から無理やりそらしていたけど、何でさっきからこっち向いてるんだろう……怖い。
「この俺が……魔王だと?」
「そ、そうだろう!?お前が魔王なのだろう!?だから……」
「俺は魔王ではない」
「……は?」
「俺は魔王ではない。俺はただのしがない兵団の団長だ。しかも、もう少しでその座を他のやつに渡すしな。だから今、貴様の前に立っている俺は、ただの一般兵に過ぎん。故に、もう一度言うぞ。俺は魔王ではない。我が魔王様はこの俺よりも遥かに強いお方だ。そのお方に対する数々の暴言、さらには俺を魔王だと?ふざけるのも大概にしろ、人間。本当なら、この俺が出向かなくても、そこにいる奴らだけでお前らを蹴散らせたんだぞ?それを魔王様の寛大なる慈悲のおかげでこんな回りくどいことをして今こうしてお前たちは生きているのだ分かったか?それが分からずに尚減らず口を叩けるのなら、いいだろう。この俺が、魔王様の足元にも及ばぬ俺が持つ力の一端を見せてやろう。なあに、殺しはしないさ。命令だからな」
勇者の彼は今の状況を無意識のうちに分かっている。でも、分かってはいるが、認識していない。そして、認めようとしない。
他の奴らは勇者よりも多少はマシなようで、今の状況を大体は理解しているようだ。分かっていないのは勇者だけ、か。
おそらくだけど、あと一押しか二押しすれば勇者の心は、プライドは、瓦解するだろう。まあでもこのくらいでも十分だけどね。
それじゃあ、ガレリーバに念話で伝えとこっか。
《ガレリーバ、もうこのくらいでいいよ。あとは見逃すとかなんか言っとけば勝手に逃げてくれるから》
《……分かった。納得はしていないが》
《まあ、納得してないのは僕もだから。それよりも後衛の無表情のやついるだろ?さっきからこっち向いてて怖いんだよ。だから早く帰ろうよ》
《ん?ああ、彼女か。確かに彼女だけは俺の威圧に耐えてるというか、受け流してるな。へえ、さすがはこのパーティで唯一のヤバいやつだな》
《それは分かったから、もう行くよ》
《分かった》
僕は念話を切り、傍観に徹した。
そして、ガレリーバが口を開く。
「今回のところは見逃してやる。だがな、忘れるなよ。お前らは喧嘩を売る相手を間違えたとな。分かったならとっとと立ち去れ!」
「クソっ……行くぞ、みんな」
ふう、これでようやく帰れ……
「待って」
ここで、さっきまで僕の方を向いていた彼女が口を開いた。
「なんだ、何か文句でもあるのか?」
「ううん、そうじゃないの。私を魔王様に合わせて欲しいの」
「何?」
は?
「ま、待ってくれ!イリス!どう言うことだ!」
「クラン、あなたは黙って。ねえ、あなたの名前は?」
「……ガレリーバ」
「そう、それじゃあ、ガレリーバ。私だけを魔王様の元に連れてって。多分だけど、あなたならそれができるはず。違う?」
「……確かに俺ならできるけどよ。行ってどうするんだ?」
「そこにいる彼とこの世界で同棲する権利をもらう」
そう言って彼女──イリスは指をその方向に向けた。
フードをかぶっている僕に向けて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます