第10話 1章エピローグ
僕がこっち、悪魔の住む四次元世界にきてからもうすぐ6年。
もうすぐで、人間の世界でいうところの成人になろうとしていた。
そして、僕がこの6年の間何をやっていたのかというと、魔術の研究と戦闘訓練、そしてアビリティである色使いの軽い研究だ。
魔術については、つい最近になって不老不死の術式が完成した。
神聖樹にいた頃から考えていたもののうちの一つがようやくできた。
本当に長かった。特に延命のための術式を考えるのに神聖樹にいた時間の約3分の1かかったのだから。
不老不死は、今まで魔術では再現不可能だと言われていた、言わば魔法の分類に位置するものだ。それを魔術だけで再現した。これは僕にとって、いや世界にとっての大躍進とも言える。
だが僕はこの術式を発表したりしない。
何故って、必要な魔力値が普通の人間では圧倒的足りないからだ。おそらくギリギリ悪魔が足りるかどうか、と言ったところか。
ならその術式を使いたい人間がいた場合、その人間は足りない魔力をどうするか。
簡単な話だ。どうせ何十人、何百人、もしくはそれ以上の人間を犠牲にして術式を自分に向けて起動させる。
故に僕は発表しない。この術式のせいで何人もの人間が死んで、責任がこっちに向けられては困るからだ。
そして、成人となった今、僕は一人でこの術式を発動させる。
足りない分は空気中にある魔素を使う。
今僕がいるのは連れてかれた時最初に使っていた部屋。
あの日からこの部屋は僕のものになって、好きなように使ってもいいと言われた。
なので、今部屋の中は僕一人。
それじゃあ、始めよう。
「術式、タイプN、発動準備」
僕がそう言った途端、部屋中を術式が駆け巡った。
どこを向いても術式術式。壁にも天井にも。なんなら術式が宙に浮いてたりする。よし、成功。
まずは第一関門突破。
今回の術式は無詠唱だとかなりヤバいくらいの術式を使っている。
もし無詠唱でやると、脳が焼ける。オーバーヒートして、文字通り焼ける。
なので、少しだけ詠唱を入れた。
他の人から見たら、それは詠唱じゃない!、なんて言われそうだけど。
「肉体永劫固定、成功。魂永劫固定、成功。精神永劫固定、成功。魔力値の不足により、魔素変換で魔力追加、成功。必要魔力値が一定に到達。世界の理の書き換え………………………成功。よって、存在名、転生者シンの不老不死の存在証明に成功」
よし、これで第二関門突破。
あ、でも今ある術式だけじゃちょっと足りないな。
よし、追加しちゃおう。
「必要術式追加。必要術式が一定に到達。肉体のバックアップ、成功。魂のバックアップ、成功。精神のバックアップ、成功。記憶のバックアップ、成功」
よし、第3関門突破。
あとのやつはおまけだけど、この際だからやっちゃおうっと。
「脳内容量の大幅な追加、失敗。魔力値不足。同次元世界からの魔素供給、成功。魔素変換で魔力追加、成功。必要魔力値が一定に到達。存在名、シンの脳内の容量を強制的に追加、成功。また、記憶の保存先の設定、成功」
僕の脳の限界値を上げた。これで多少の無理は通せる。
あ、あとは長生きして辛くなった時用にこれも設定しなくちゃ。
「最後に、存在名、シンを消滅させるための術式を設定、成功。『消滅術式』を脳内に封印、成功。封印の解除は今から5000年後に設定。それ以降は任意で発動可能に設定、成功。全ての術式の展開に成功」
よし。
それじゃあ、やってしまおうか。
「術式、不老不死。対象、存在名、シン・ユグドラシアル。術式発動」
僕がそう言った途端、部屋の中に展開していた全ての術式が僕に向けられて効果を放った。
しかし、僕は術式の維持で精一杯でそんなのを見る余裕はなかった。
そして全ての術式が発動し終わると、僕は糸が切れたように意識を失った。
***
次に目を覚ました時、僕は床で寝ていた。
どうやら、あれからあまり時間が経っていなかったようだ。
しかし、城内はかなり慌ただしいようで、一体どうしたのだろうと思っていたら、ガレリーバが部屋の中に入ってきた。
「おう!シン!無事か!?」
「う、うん……なんともないけど、どうしたの?」
「さっき強力な魔力反応が城内と領地の近くの二つで起きた。城内に関してはアリシア様が大丈夫だと言っていたが、問題がそのもう一つの魔力反応だ」
「……うん、その魔力反応って?」
「勇者パーティーが四次元世界に侵攻してきたんだよ!」
「……は?」
「今その対応に城内は追われている!あと、シンはアリシア様のところに行け!呼んでいたぞ!伝言は伝えたからな!早く行けよ!」
「う、うんわかった」
ガレリーバは伝言を言い終わるとそぐに別のところに行ってしまった。
とりあえず僕はアリシアの魔力を探して、そこに転移した。
ちなみに転移魔術は神聖樹にいた頃に作ったものだ。
アリシアがいる広場に転移して、すぐにアリシアの元に向かった。
そこにはアリシアの他に作業している悪魔達がたくさんいた。
見たところ、まるで戦争準備をしているようだ。
一応彼女の方が立場が上なので、敬語で話さなければならない。
「アリシア様!どうされましたか!?」
「シン様、敬語はやめてください……恥ずかしいです」
恥ずかしがっているアリシアを僕含めこの場にいた全員が温かい目で見た。
そして、皆こう思っただろう。
可愛いと。
「あ、貴方たちは早く仕事に戻りなさい!そしてシン様はこちらにきてください!」
アリシアが恥ずかしそうにそう怒鳴った瞬間、彼らはすぐに自分の持ち場に戻っていった。
そして僕は言われた通りにアリシアについていった。
向かった先は城にあるバルコニー。
彼女は着いてすぐにこっちを向き、僕にこう言った。
「城内のあの大きな魔力反応、あれはシン様ですね?」
「うん、そうだよ?なんで?」
「なんでって、皆驚いてましたよ?あんな魔力感じたことないって。私だって驚きました。一体何をされていたのです?」
「ああ、それはね。不老不死の術式を発動させてたんだよ」
「ふ、不老不死!?う、嘘です!あり得ません!不老不死は魔法じゃないとできない代物……本当ですか?」
「じゃあその眼で見てみなよ。もう一つのやつで」
「は、はい」
彼女にはもう一つの魔眼がある。
それは鑑別眼。
鑑別眼はその名の通り、相手のステータスが視れる、というものだ。
その能力はまさにチート。
しかし、格上の相手には通用しないという、ありふれたデメリットもある。
そして、鑑別眼で僕をみた結果……
名前:シン・ユグドラシアル
アル・ローダス
■■ ■■(この世界の言語では表現不可)
種族:・ハーフエルフ(仮)
・悪魔
年齢:16歳
状態:不老不死
生存値:計測不可/計測不可
魔力値:510/92476320
アビリティ:色使い Lv.1
所持色:赤×500 青×320 黄×400 緑×100 茶×45 紫×90 白×100 黒×500
スキル:・加羅?デ*$ Lv.1
・%&ー!鬆 Lv.1
・嘉<ー麼?菟 ()邉…懿
「な、なんですか、これ……種族が二つあるだけでおかしいのに、そこに異常な魔力値と意味不明なアビリティ……シン様、おかしすぎません?」
「やっぱりそう思う?だよね。アビリティのとことかめっちゃバグってるし。ていうかアビリティのこと言ってなかったっけ?」
「はい、初めて見ました。そしてそのばぐ、とやらは存じませんが、確かにこれはおかしいです。もしかして、■■■■■■■だったりします?」
「僕はそうだと思うよ。聞いたことないアビリティ、これは潜入したあの時に見た裏聖書には載っていなかった。今は知らないけど。でも可能性があるとすればそれだよね」
「はい。しかし、シン様。本当に不老不死になってたんですね」
「そうだよ?だから言ったじゃん。これで良いんだよ、これで」
「……わかりました。それでは話を変えますが、どうします?」
「……ああ、勇者かい?普通、四次元世界から人間が住む三次元世界に行く分には簡単だけど、その逆は悪魔でない限り難しいはず。ならば、きっと向こうの世界で何かあった。そう思うのかい?」
「……はい、その通りです。しかし、勇者だから。という理由で片付けることもできますよ?」
アビリティ、勇者。
Sランクアビリティにして唯一SSランクに対抗できるアビリティ。
その能力はSランクでありながら未だ全貌が見えず、持つ人によってその特性を変える不思議なアビリティである。
「もしかしたら、今回の勇者は次元世界を超える能力を持っているのかもしれない、と?」
「はい、私達はそう睨んでいます」
「ふうん、そうか。でもなんでそれを僕に?」
「シン様でしたら何かわかるのではないのか、と思いまして。人間に関して、私たちよりも知識がありますから」
「なるほどね。それじゃあ、わかったことから言うけど、今回の勇者にそんな能力はないよ」
「なんでですか?」
「今回の勇者は歴代の勇者の中で最も雑魚だからだよ」
「そうなのですか?」
「そう。彼の能力をあの街に住んでた時に見たんだよ。あと、今後の成長具合もね。そしたら、勇者を代表するスキルの『鼓舞』はあったんだけど、もう一つの代表スキル、『ブレイブスラッシュ』はなかったよ。今後出る可能性もあるけど」
「未来視の術式と鑑別眼の重ね技を使ったんですか?」
「ん?そうだよ?」
「そんな負担になることを……ならその情報は8割ほど確定ですね。イレギュラーがない限りは」
「もしかして、疑ってたのかい?僕は計画を進めるためになんでもするつもりだよ?嘘を言うわけないじゃないか。まあ、今回のことは想定外だけど、問題ないよね?」
「ええ。この情報があれば、勇者パーティの中に次元世界を移動できる者がいるかもしれないということがわかるだけで有力です。しかも勇者の情報まで貰いました。シン様の世界の言葉を借りるなら、今回は勝ち確ですね」
そう、僕は今後人間の味方なんて絶対にならない。
なぜか知らないけど、もう人間に分類される種族じゃなくなったし正直言ってもう、うんざりだ。
だから、覚悟を決めよう。
僕は人間だった。今まで生きてきた中で人だった年数はかなり少ないけど、それでも僕は人だったんだ。
だから覚悟を決めよう。
人だった時の感情、決意諸共何もかも。
それらを捨てる覚悟を。
そして、ここから始めよう。
悪魔としての生を。
僕は生まれ変わったんだ。
………となると、新しい名前がいるな。
「ねえ、アリシア。僕に新しい名前、付けてよ」
「わ、私が…ですか?」
「うん、そうだけど。ほら、僕ってまだ悪魔になってからあんまり経ってないじゃん?だからさ、付けてよ」
「分かりました……それでは私、破壊の魔王アリシア・クロム・ローザリアスが真名を授けましょう。これからシン様は…………シュレイン・クロム・ローザリアスとして、新たな生を謳歌してくださいませ」
「うん、ありがと!アリシア」
「は……………はい!!!!!」
お礼を言ったら、アリシアから抱きつかれた。めっちゃ笑顔で。前世の時でも見たことないくらいの、全身から喜んでますとわかるくらいのオーラを出して。
「ア、アリシア。そのくらいにして、僕はガレリーバのところに行くから」
「…………分かりました。必要ないかと思いますが、お気をつけて」
「うん、ありがと。んじゃ」
ここからだ。ここから遂に出来るんだ。
前々世と前世の恨み。
せっかく晴らす機会ができたんだ。
ああ、とても楽しみだよ。
さて、それじゃあ混沌とした世界をつくろうじゃないか。
全ての種族を巻き込んで、この世全てを巻き込んで、この世界を混沌と殺戮で溢れる時代をつくろうじゃあないか。
さあ、準備は整った。
勇者は殺さずに送り返したら、始めよう。
僕の中にある憎悪と復讐心を満たすため。
悪いけど、人間共には餌になってもらおう。
***
「よし行くか、シン」
「うん。一応僕はガレリーバの副官という立場だから、そこだけ忘れないでね」
僕の立場はこの6年で変わった。
客人から魔術師の下っ端兵士のうちの一人になり、そこから昇進を重ね、アリシアが治めているこの国、魔帝国ガーバスで最速で魔帝魔術師団の第三兵団団長、ガレリーバの副官になった。流石に団長になるには後数年必要だったが、それでも第三兵団の次期団長はもう決まっている。エリの元ではどう頑張っても昇進出来なかったので、この状況はとても嬉しい。
「そうだけどよ。でも後数年したらお前がトップになるだろ?そしたら俺があっちに戻るんだから、今のうちに第三兵団の奴らに慣れさせたほうがいいだろ?だから今回はお前が指揮しろよ」
「やだ。まだ勉強中なので。それでは出陣の号令を。ガレリーバ団長」
「…………押し付けやがって。…………まぁいいか。よし!お前ら!!これから戦うのはあの勇者だ!だが臆することはない!お前らは少数精鋭部隊、この国のトップ集団だ!相手が何人だろうが関係ねぇ!とにかく倒せ!とにかく殺せ!勇者だろうが何だろうが関係ねぇ!とにかく倒せ!とにかく殺せ!今回は
三次元世界の奴らに混乱をもたらす為の戦いだ!手負いで逃げる気満々な奴は見逃してもいいが、こっちに向かってくるやつはとにかく殺せ!俺からは以上だ。次は副官から話がある」
………まさかさっきの恨みか?何で僕に話を向けるんだよ。まぁいいか。ちょっと訂正しなきゃいけないことがあったし。
「副官のシン改め、真名シュレインだ。だがこれからも僕に対してはシンで構わない。先程の団長の話に一つ訂正を。勇者だけは殺すな。そいつは第七兵団が三次元世界で操る予定だ。なので、もし死にかけで向かって来ても来た場所に戻せ。死ななければ何しても構わん。後は分からないことがあったら通信術式で連絡しろ。以上だ」
これでいいだろう。僕が話すことはもうない。
僕の話が終わったら、ガレリーバが前に出てきた。
「分かったな!勇者だけは殺すな!それでは、出陣!!!」
「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」
戦争が、始まる。
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