第9話 ◼️◼️◼️
そして僕は神聖樹になり、今に至る、と。
こうして振り返ってみると、かなりヤバかったな。
特にあの5年間。
あれはマジで地獄だった。
給料が碌に出ずに、辞めようとすれば犯罪者にするぞと脅され、休みが殆どない。
そして、アリシアの精神は崩壊し、最後あたりには僕のことを過剰に求めてくるし。
僕も術式を作りたかったのにそれもできず。唯一の救いはガイルとの愚痴のこぼし合い。
あれ、なんか泣けてきたな……
僕が寝転がりながら、過去のことについて結構ヤバいと再認識していた時にちょうどガレリーバが部屋の中に入ってきた。
「どうした、シン?何泣いてんだよ」
「いや、別に。前世のことを思い出したらやばいくらいのブラック企業だったなと思っただけさ。仕事内容が」
「そのぶらっくきぎょう、ていうのは何だかわかんねえが、そんなに辛かったんだな」
「うん。あれはヤバい。もう二度とやりたく無い。絶対必ず確実に」
「お、おう。そうか」
そうしてガレリーバと話している時、不意に思い出したことがあった。
「あ」
「ん?どうした?」
「そういえば、思い出した記憶の中で、僕のアビリティのことについてわかったことがあって」
「そういえば、お前のアビリティって確か……」
***
(第三者視点)
ここはニュールンクにある唯一の神殿。
そこの神殿唯一の司教は自分の部屋であることで悩んでいた。
「失礼します、司教様。おや?どうされました?」
「いや、最近悪魔を呼んだと噂されている少年がいたじゃろ?」
「ああ、確か名前はアル、でしたっけ?」
司教の部屋に入ってきた見習いの男がそう言った。
アルがガレリーバに連れ去られてから3日が経っていた。
その間、ニュールンクではその話題で持ちきりだった。
「そうじゃ」
「その少年がどうかしましたか?彼ならもういませんよ」
「わかっておる。だが、少し心配なのじゃ」
「え?あの少年のことですか?まさか司教様は彼の事を……」
「違うわ。心配なのはこれからのことじゃ。もう少ししたら世界が荒れるやも知れんからのう」
「え?なぜですか?」
「そういえばお前さんはあと数ヶ月経つと司教になるんじゃったか」
「はい、そうです。こことは違うところの小さな神殿になりそうですが……」
「まあ、お前さんになら話しても良かろう」
そういうと司教の雰囲気がガラリと変わった。
「ドアを閉め、静音魔術を起動せい」
「わ、わかりました」
見習いの男はすぐに言われた通りのことをした。
そして司教はそれが終わったと分かるとその男に向けて《《》》語り始めた。
「これから話すことは司教になってから言われるもの。決して他の人には話してはならんのじゃ。いいな」
「は、はい」
「よろしい。それでは話すかのう。さっきの答えを」
そう言って、司教は静かに口を開いた。
***
「『色使い』、だよ。ガレリーバ」
「そうだ、それだよそれ。そんなアビリティ聞いたことねえぞ?EXランクのもんじゃねえのか?」
「違うよ。正式には、ね。これから話すことは多分、この世界の唯一の宗教でもあるアルテミアス教の司教以上の人しか知らない情報だと思う」
「何でそんな情報知ってんだよ」
「昔任務でアルテミアス教の総本山に侵入したときに偶然聞いちゃったんだよね。そのことがアリシアと関係があったからとても驚いたことを思い出してね」
「ふうん、そうか。で、その情報ってんのは?」
そして僕は興味津々な彼に、笑いながらこう言った。
***
「■■■■■■■、ですか?」
見習いの男は首を傾げながらこういった。
「そうじゃ」
「何ですか?それ。ていうか■■■■って何ですか?」
「儂も詳しくはしらん。確か、関連性のあるものや、続きのあるものを纏めたもの、という意味らしいが……」
「へえ、初めて知りました。この言葉便利ですね。でもなぜ広まっていないのでしょう?」
「それは裏聖書が広めることを禁止しておるからじゃ」
「裏聖書!?本当にあったんですね……噂には聞いていましたが実際にあるとは……」
「まあ、裏聖書や、■■■■の話は置いといて、重要なのは■■■■■■■じゃ」
「■■■■■■■……獣使いや、蟲使い、みたいなやつですか?」
「それらは使い魔群じゃろうが……使い魔群と■■■■■■■は全くと言っていいほど別物じゃよ」
「そうなんですか?それじゃあ、■■■■■■■って本当に何なんです?」
「それはな━━━」
***
「は?SSSランクのアビリティ?あの伝説上の?あるかも分からない、あの?」
そう言って、ガレリーバは大きく混乱した。
しかし僕は話を続けた。
「おかしいと思わない?SSランクは存在が発見されたから設定されてるけど、SSSランクなんて存在が確認されていないのに設定されてある。普通、存在が確認されていなかったら、SSSランクなんていうアビリティなんていうものはない。なのにランク表には載っている」
「確かにそうだな。あの宗教は聖書上に存在しないものは基本否定するか、神の軌跡だ、なんていうからな」
そう、この大陸にある唯一の宗教、アルテミアス教には絶対のルールみたいな物がある。
それは、聖書に載っていることがこの世の絶対の理。
聖書に載っていないことはこの世には存在し無い。
絶対。100%。必ず。そう定義しているのだ。
「そう。SSSランクなんていうあやふやな存在、あるかも分から無いとされている存在。そんなものは彼らにとっては無いに等しいはず。もしくはこの世には無いと既に発表していてもおかしくない。なのに存在が認められている。ならば、実際にあったってことなんだよ。遥か昔、もしくはあっても存在が隠蔽されて今まで公表しなかった」
「なるほどな。それでその盗み聞きした内容の中から■■■■■■■ってものがあったわけだ。そういえば、アリシア様も持っていたなそんなアビリティ。確か名前は……」
「時使い、でしょ。確か」
「そう、それだ。それで結局■■■■■■■の正体ってなんだ?」
ガレリーバが至極当然の質問をしてくる。
なので僕はちょっと勿体ぶってその答えを言った。
「それはね━━━」
***
「…………は?分からない?」
見習いの男は言葉が出ないようだった。
それほどまでに言われたことが衝撃的だったのだ。
「じ、じゃあなんで聖書に、正確には裏ですけど、定義されているんです?」
「さあ?儂も知らんわい。もしかしたら総本山にいる大神官とか大司教辺りが何か知っているのかもしれんがのう」
「し、知らないって…普通、おかしいと思わないんですか?実在するか分からない、普通の聖書には載っていないものを総本山が何も言わず、黙認しているって。普通ありえないことですよ?」
「そうじゃな。しかし、これが真実。アルテミアス教が隠していたことじゃ」
「………」
男は何も言えなくなった。
そして男は初めて、アルテミアス教に疑問を抱き始めた。
司教は男が黙っているのを見ると、今までの雰囲気を緩めた。
「誰だって最初に言われたらそうなるわい。実際、儂もそうなったしのう」
「……ええ、確かにそうでしょうね。まるで総本山に裏切られた気分です」
「そうじゃろうな。しかし、さっき言ったことは本当のことじゃよ。しかも儂は見た事があるしのう」
その言葉に見習いの男は驚いた。
「え!?見たことあるんですか!?」
「うむ。一度、破壊の魔王が使っておるのを見たわい」
「は、破壊の魔王が、ですか?」
「うむ。凄かったぞ。彼女に襲いかかっていく魔術の動きを止めて、時間を逆戻りさせ、そのまま返しておったのう」
見習いの男はその光景を想像して震えた。
「お、恐ろしいですね」
***
「ふうん。ガレリーバ、アリシアが使ってるとこ見たことあったんだ」
「ああ、あれは凄かった。今まであれが何なのか分からなかったが、そのランクの位置でならなるほど、合点がいく。そうだな、凄かったぞ、あれは。無数の人間の魔術がアリシア様に当たると思ったら、片手を前に出すだけで全て止まって、アリシア様に向かってた時よりも倍以上の速さでその術師の元まで行かせんだから」
「まあ、魔術を止めるっていうことこそがおかしいんだけどね」
「まあな。んで、お前の『色使い』ってどんなものがあるんだ?」
「わかんないよ。だからこれから解明させていくさ。まあ、魔術の開発のついでにね」
「ええ……先に『色使い』の解明から始めろよ……」
「やだよ」
僕はそう言いつつも、以前よりも少しだけ自分のアビリティに興味を持ち始めた。
そして僕が異次元世界に住み始めてからもうすぐ6年が経とうとしていた。
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