金木犀

門前払 勝無

第1話

金木犀


 金木犀のある家の門を少し行った所のコインランドリーで出会ったね。

 君は小さな声で謙虚に鳴いていたね。

 お腹が空いてるのにご飯をせがまないでそばに居るだけで、僕はアパートに走って帰って冷蔵庫からウィンナーを三本持ってきた。あの時の金木犀の甘い香りを覚えてるよ。

 君は僕の手からそっとウィンナーを食べて、僕の手を数回舐めたね。

 洗濯機が廻ってる間もずっとそばに居て君の小さな身体が僕の足に寄り添って居たのを覚えているよ。君は安心したのかウトウトしていたねー。


 君はシャワーが怖くて、でも我慢してくれたね。もふもふになった君は僕の膝の上でゴロゴロ言いながら寝てたね。僕も君の熱を感じながら寝てしまったね。


 何度も金木犀の甘い香りを二人で感じてたねー。

 金木犀の頃になると君との出逢いを思い出す。時の旅を二人で廻ったね。いつも君は僕のそばに居て優しく寄り添ってくれた。


 激しい雨の日ー。

 僕は君の大好物のモンプチを買い忘れてずぶ濡れになりながら買いに行った。

 君は大好物のモンプチの前に僕の濡れた体を舐めてくれたね。


 あれから十五年、僕は薄くなる君の鼓動を感じながら金木犀の甘い香りを感じている。


 大丈夫だよ…君は僕の宝物。安心して良いよ。僕は君との思い出は忘れないよ。


 ありがとう。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金木犀 門前払 勝無 @kaburemono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ