第12話 朝焼け

 ボーイスカウトは人間を苦しめることについてはスペシャリストといえるだろう。あらゆる制度と活動とは人を苦しませるためにあるという確信めいたものを僕は抱いていた。


 もっとも苦しめることが必ずしも悪かというとそうでもない。若いころの苦労は買ってでもせよ。という言葉通り時には不幸が人を育てるのだろう。


 しかしながら、何事にも限度というものがある。苦しめすぎて挫折させてはいけないのだ。具体的にはこの状況とかは早急に改善するべきといえる。


「ぐぉぉ」


 とりあえず唸ってみる。部屋に軽く反響するばかりで、これといって何かが変わるわけでもない。


 現在時刻は朝七時三十分。あと十五分くらいで出発しなければならない。


「ドタキャンできねえかなあ」


 まあ、できないことはない。だが、それをするというのは全面降伏を宣言するのと同義だ。ほかの班員に大見えを切って自分の主張をした以上、ここでやめるなんて言うのは選択肢にすら入らない。


「はあ、行くか」


 ズルズルと出発を引き延ばしているうちに遅刻してしまわないようにかけておいたアラームを聞いて、ようやく行くことを決意した。


 わざと床板を大きく軋ませて玄関まで歩く。抵抗はいつでも大事なのである。たとえそれが無駄であろうと、精神衛生的には重要なことである。


「しかもキャンプだもんなあ」


 そう今回の隊集会はキャンプである。必然的に独り言も多くなる。キャンプ中は一人になれないのだから独り言をいう機会もない。今のうちに言っておくことでキャンプ中に突然しゃべりだす変な人認定を防ぐのだ。

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スカウティング! 坂崎 座美 @zabi0908

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