エピローグ

満天の星

5日ほど別荘で過ごした後、私達は婚姻届を出し正式に夫婦となった。

その足で、渚は沖縄に帰って行った。


その後、実家で安静に過ごした私は妊娠の経過も順調。

渚からは毎日メールが届き、月に1度は沖縄からやって来る。


梨華は山口さんと上手くいっているようで、反抗的な態度もなくなり、かわいらしくなった。

母さんは何とか梨華と山口さんを結婚させようと必死になっている。


それに、なぜか最近頻繁に家に来る桃子さん。

母さんにも父さんにも気に入られ、大樹ともいい感じ。

大樹が結衣ちゃんと遊んだり、時には叱ったりする姿はもう親子にしか見えない。


と言うわけで、竹浦家は万事順調。



そして、1月下旬。

私は出産した。

妊娠36週での計画帝王切開。

これ以上は母体が待たないとの判断で、出産となった。

生まれたのは、小さいけれどとても元気な男の子。

事前に来ていた渚は出産に立ち会うことができた。


無事生まれてきた息子を前に、

「樹里亜、ありがとう」

両手を握りお礼を言ってくれる。

「私こそ、ありがとう」

あなたのお陰でお母さんになれた。


リスクの高い出産で私にも危険があり、赤ちゃんを臨月までお腹で育ててあげられなかったけれど、無事に生まれてくれたことが今は嬉しい。


子供の名前は、渚が決めた。

渚と樹里亜の子供だからどれだけおしゃれな名前かとみんなが期待していた中、

『道貫(みちつら)』

と言う、古風な名前がつけられた。


「思いのこもったいい名前だ」

父さんもご満悦。


どうやら、沖縄のお父さんの『道彦』から一文字もらったらしい。


名前の通り、自分の道を真っ直ぐ貫いて欲しい。

そう思いながら、小さな命を抱きしめた。


「じゃあな。母さんと一緒に早く来いよ」

一足早く沖縄に帰る渚が息子に話しかける。

心配しなくても、春になれば沖縄に行くつもり。

もう、渚なしでは生きてはいけないから。


***


春、沖縄に立つ前夜。

私の部屋から見える夜空には無数の星が輝いていた。


一応医者であり、理系女子の私は、

神とか、仏とか、運命とか、

そういう非現実的な物を信じていない。


でも、私の命の始まりは、

父さんとジュリアさんの出会い。


竹浦樹里亜になったのは、

悲しいことだけれど、ジュリアさんに病気が見つかったから。


渚とのきっかけは、

側溝に落ちた500円玉。


みのりさんとの偶然出会いがなければ、

渚は今でも沖縄に帰れないままだったかもしれない。


そう思うと、山口さんとのお見合いも、桃子さんとの関係も、

何かに導かれた気がした。


この先、私にはどんな人生が待っているんだろう。

幸せな時間ばかりでないのは分かっている。

でも、渚と道貫と私に関わるすべての人に

小さな幸せが訪れ、穏やかな日々が送れますようにと、

満天の星に願いを込めた。

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満天の星 紅城真琴 @makoto_k

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