第22話

 この学園には小さなホールがある。ミッション系ではないのでお祈りの場所ではない。簡単なダンスの授業などに運動部に体育館が占領されている時に使う。この時間は誰も使っていない。ふと、気づくと思念の欠片が舞っている。道玄坂が王者の剣こと長刀の鳥の舞を取り出すと。一突きで消えてしまう儚い欠片であった。わたしは試しに切り裂いてきた思念の塊のイメージを膨らませる。ホールの中だと言うのに和傘をさしてササが現れる。


「わたしに何か用かしら?」


 そう、ササを呼んでみて成功したのだ。


「決着をつけよう」


 わたしはササを睨みつけて剣気を放つ。


「まあ、怖い。でも、その心がけは好きですよ」


 ササは和傘を閉じると同時に滑る様に突撃してくる。摩擦ゼロの加速だと!


 本体をほんの少し浮かせての加速だ。一瞬にして間合いに入ったらしく、和傘が剣の様に振り下ろされる。銀鏡の刀で防ぐが細いのササの体からは考えられない物凄い力であった。


 この勝負厳しい……。


 道玄坂が横から長刀でササを突く。ササはふわりと後ろに飛び、道玄坂の突きをかわす。


「道玄坂、逃げろ!間合いに入るのが速い、長刀では不利だ」

「そうですね、雑魚を倒しても面白くありません」


 ササは道玄坂の足元に和傘を振るう。すると、地面から無数の槍が突き出して道玄坂を閉じこめる。


「問題はミヤビさんですね、その短刀は厄介なので……」

『真闇』


 ササのその言葉の後でミヤビの周りが闇に包まれる。


「妖にしか効かない幻術です。ミヤビさんはしばらく闇の中を彷徨っていただきます」


 頼れる仲間はなしか……。信じれるのは己の力のみであった。


 ササの和傘による攻撃はとてつもなく重いモノであった。体に直撃すれば骨など簡単折れそうだ。


 どうする……?


 試しに間合いに入り得意の蹴りを与える。腹に入った。ササは数メートルさがる。この技は剣に注意をよせてスキをつく技である。


「わたしはこの体にわざと痛覚を入れてますの」

「?」


 ササの言葉にためらいを持つ、そして更に喋り始める。


「人間だった薄い記憶が痛さを与えますの」


 わたしは迷ったが凛正の事を頼むのであった。


「えぇ、その銀鏡は覚えが有ってよ」

「そうだ!この銀鏡の刀はお前を思念の塊にした、だからこそ凛正が救えるのだ」


 ……。


 ササは何か悲しそうになり、言葉をつまられる。


「賭けをしない?わたしに切り傷を与えたら、その血は浄化の力になるわ」


 それから出た言葉は凛正を助けるモノであった。わたしは静かに頷くと銀鏡の刀を構え直す。


「素直な子ね……手加減はしなくてよ」

「分っている、わたしも命がけで戦う」


 ササは和傘を振り上げると高速ダッシュで襲ってくる。わたしは銀鏡の刀で防ぐ。


 重い……長期戦になると体力が消費して不利だ。


 考えろ、ササのスピードに勝てるには何が必要だ。


 水……だ。


 ササの高速ダッシュは一瞬だが地面をつく。力を込めて蹴る事で浮遊による高速ダッシュを可能にしている。


 ふ、自分の血しか見当たる水がない。わたしは銀鏡の刀の硬化を強めて左手首を切る。噴き出す血をササのつま先にかける。


「なんですの???」


 ササの体のバランスが崩れてスキができる。わたしの刀はササの右手をかする。


 賭けはわたしの勝ちであった。


 それから……。


「エリカさん、学校に遅れるよ」


 朝、わたしが寝ぼけていると声が聞こえる。凛正はササの血の洗礼を受けて元気になった。


 そうそう、道玄坂の呪い友達も人の姿に戻った。


 昨夜は紅い月が出ていた。夜遅くまで思念の塊を退治していたのだ。


「もう少し……」


 うん?


 銀鏡の刀が疼く。ササが現れたのだ。


「昨夜は残念ながら思念の塊を渡してしまいましたが、次はわたしが貰います」


 朝の光に弱いのか、ササはゆっくりと消えていく。


 ヤレヤレだ。


「エリカさん!」


 制服姿の凛正が部屋の中に入ってくる。


「分かった、起きるよ」

  

 凛正を部屋から出すと、今度はミヤビだ。何をするかと思えば凛正との仲をヤユするのだ。


「はいはい、そうですね、凛正が元気になって嬉しいです」


 本音だがミヤビには棒読みで返す。


 ブルルル……。


 携帯が鳴っている。道玄坂からのメールだ。


『新しい呪いが完成したの、一番目の犠牲者になってくれない?』


 アホか!


 わたしは断りのメールを返す。さて、今日も退屈な授業を受けるか。


 銀鏡の刀を抜刀すると。映った自分の顔を見る。


 それは凛と輝く横顔であった。


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銀鏡の華 霜花 桔梗 @myosotis2

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