第21話

 最近、道玄坂の様子がおかしい。誰もいないLL教室でお昼ご飯を食べているらしい。わたしは道玄坂にフレンドリーに接するか迷っていた。

 

 ミヤビは縁を切る覚悟が必要だと言う。元々、道玄坂は霊感が強く思念の塊に支配されやすいのである。わたし達がLL教室の後ろの入り口から、道玄坂の様子をうかがっていると。道玄坂は王者の剣を抜く。


「わたしは一人でも生きていける。友達の要らない人生にエリカは不要……決着をつけましょう」


 ふ、正直な奴だ。


「いいだろう、わたしも弱い仲間など要らぬ、勝負だ」


 わたしは銀鏡の刀を抜刀して構える。


『乱れ突きの舞』


 道玄坂はいきなり必殺技を出すのであった。大丈夫だ、道玄坂とはまだ距離がある。わたしは間合いをはかり慎重に戦うのであった。


 さて……どう攻略する。


 長刀で突きの連打はうかつに近寄れない。力技で勝負するか。わたしは刀を引き一撃に最大限の力を込めることにした。目を瞑り道玄坂がわたしの間合いに入るのを待つ。次の瞬間に刀を力いっぱいで振りぬく。道玄坂の王者の剣の剣先に当たり反動で王者の剣は吹っ飛ぶ。わたしは道玄坂に刀を突き付ける。


「終わりだ。選択しろ、わたしを仲間と認めるか。あるいはこのまま終わらせるかだ」

「……」

「バカ正直な奴だ、道玄坂は道玄坂らしくしろ」

「エリカの答えは決まっているのか……」

「そうだ、わたし達は仲間だ」


 道玄坂の目から殺気が消える。ホント面倒くさい奴だ。それからわたし達はお昼ご飯を一緒に食べることにした。


 わたしは深夜に家を抜け出して公園に来ていた。桜が咲いていた。


 この時期に桜か……。


 思念の気配はしない。ただの季節外れなかもしれない。画像におさめると満足するのであった。ふと、後ろを見るとササがいる。驚き刀を構えるひますらない。


「まあ、嫌われたものね」


 ササは微笑んでこちらを見ている、どうやら気配を消せるらしい。どうする……一人では勝ち目はない。殺気のないササは手を伸ばして桜の花びらを触る。


 美しい……。


 綺麗な指で花びらを触るササの横顔は妖艶で美しかった。


「何故、殺気がない?」

「あら、今日はお花見ですもの心静かに桜を見たくてよ」


 わたしは時々思うがササは子供の様に純粋でなにか親しみすら感じることがある。遠い昔に出会っていたのかもしれない。それでも感じるのは危機感である。わたしは銀鏡の刀を握りいつでも抜刀できる体制にする。


「そんなに怖い目つきはダメよ、今日はお花見ですわ」


 わたしはこのまま、抜刀してスキだらけのササに切りかかるかと思った。しかし、右手が動かない。恐怖心が神経を麻痺させていた。わたしは諦めて刀から手を放す。秋の夜桜に視線を移した瞬間である。ササの右手から強い風が発せられるとササの姿は消えていた。遠くのビルの屋上にササの気配が感じられた。


 去ったか……。


 わたしの神経は落ち着きを取り戻し大きく息を吐く。その場を後にすると自宅に戻る。しかし、桜を見るササは美しかった。携帯に収められた桜の画像を見るとササの横顔を思い出すのであった。


 ある晴れた日の事である。わたしは街外れの神社にきていた。思念の塊らしき目撃情報があったからだ。木々がうっそうとしている境内は昼間でも暗く肌寒かった。戦力はわたしとミヤビ、道玄坂は寝たいらしい。社に着いたが何もない。


「とりあえず、思念の塊はいないみたいね」


 ミヤビはつまらなそうに言う。


「裏手も見てみる?」


 わたし達は社の裏側に行ってみる。暗い森の中で無数の蛍が舞っていた。


「この季節に蛍?」


 わたしは銀鏡の刀を抜刀する。


「この蛍……おそらく、思念の塊ね」


 ミヤビも短刀を構える。一瞬であった。この次元が切られたように空間がゆがむ。ササの気配である。何処からともなく、悲鳴が聞こえ。


 蛍の光は消える。


「思念の塊はわたしが美味しく頂きました」


 暗がりにササが現れる。


くぅ……つけられたか……。


「まあ、怖い目つき、この思念の塊は空間を操っていてよ。わたしがいなければ永

遠に出られなかったでしょうね」


 確かに……幻術より厄介な感じであった。

今日みたいな日は漆黒の闇である夜が怖く無かった。

わたしは土手をランニングする事にした。

「あら、偶然ね」

ミヤビが土手に座っている 絶対待ち伏せしていたな。 わたしがむず痒い気持ちでいると。

「今日はわたしの過去を知りたくなくて?」

イヤ結構です。

「エモイ気持ちになれるわよ」

エモイ気持ちとはいかに?

「博識なミヤビはエモイの意味が分るのか?」

「……」

さて、ジョギングの続きをするか。

「エリカ待って、話しておきたいの」

ミヤビの過去か?

「そう、それは一人の銀鏡の使い手であった」

どうやら、語るらしい。仕方がない聞くか。

「わたしが悪霊としての存在であった頃に、わたしは剣を交えた。死闘の末にわたしは刀を突きつけられていた」

『その着物姿、わたしの失った娘にそっくりだ』

「何が言いたいの?早く、わたしを消せ」

『俺の式神にならないか?』

「娘の代わりか……」

『素直に言えば、そうだ。しかし、その強さを消すには惜しい』

銀鏡の使い手は等価交換として一番大切な人を失う。

わたしは迷ったが式神の提案を受ける事にした。

そう、その失った娘はササであった。

銀鏡は時代を超えて再びササとの因縁の運命が回りだしたのだ。


 わたしは眠れないでいた。銀鏡の刀の前の使い手か……。何を思い旧生徒会室に隠したのであろう。この銀鏡は人を選ぶらしい。


 それでいて力の等価交換で一番大切な人が悪霊化する。


 凛正……少し、様子を見てくるか。


 わたしは凛正の部屋に行く。ドアを開けると明らかに生気のない凛正が座っていた。


「エリカさん、どうしたの?」

「あぁ、ここのところ体調が悪いらしいな」

「心配性だな、僕は元気です」


 それ以上は何も言えなかった。自室に戻ると銀鏡の刀を抜刀する。鏡のように映るわたしの顔は迷いに満ちていた。


「キーワードはササよ」


 いつの間にかミヤビが座っている。


「ササは銀鏡の等価交換で悪霊化した、曇りなき信念でササに接しればあるいわ……」


 似たような事を何度か言われたがミヤビはササと会って何かを感じたらしい。



 ササは普通の悪霊ではない、思念の塊を喰らい自身の体を維持している。思念の塊の汚れを浄化してエネルギーに変えているのだ。その力で凛正を浄化すれば銀鏡の呪いを解けるかもしれないとミヤビは語る。基本はササの状態は問わない。つまり、ササを倒してその欠片を凛正に与えれば良いのだ。ま、ササがすき好んで凛正を救うはずがない。倒すしかないのである。


「ミヤビ……お前、ササの父親の式神であったな。ササの存在を消して良いのか?」

「あのお方の本心は成仏させてあげる事よ。ササを救えなかった後悔と新たな光であるエリカの為にならと」


 新たなる光か……むず痒い表現だな。

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