第20話

 道玄坂と四階の空き教室でお昼ご飯にするつもりで階段を上がっていく途中の事である。


 ラ♪


 うん?

 

 歌が聴こえる。


 ル♪


 透き通った女性の声だ。音楽室ではなく美術室からだ。思念の塊のような邪気は感じられない。わたしは引き込まれるように美術室に入る。無人の美術室は独特の臭いがした。


「道玄坂、歌は聴こえるか?」


 道玄坂は首を傾げ不思議そうにこちらを見ている。


「聴こえるよな、聴こえないような」


 わたし達が美術室を出ようとした瞬間に思念の欠片が広がる。やはり、この歌この世のモノでなかったか。わたしは銀鏡の刀を抜刀する。それは白いワンピースを着た女性の絵から思念の欠片が出ていた。


「絵だ、美術室に飾ってある絵から歌が聴こえるぞ」


 道玄坂も王者の剣を抜く。


 「何か強烈な邪気にやられて元は無害のはず」


 一緒にいた、ミヤビが呟く。


「ササか……」

「多分」


 よく見ると、白いワンピースの女性の絵に椿が一緒に描かれている。思念の塊の本体は椿の花か。わたしは銀鏡の刀を椿に突き刺す。黒い煙とともに椿の花が消えていく。


 ル♪


 元の透き通った歌声に戻る。この絵は歌うことしか出来ない簡単な霊体だったらしい。ササが目をつけても、喰らうには、その儚さから何もできずに終わったのだろう。そして、ササの邪気だけを受けて椿の花が咲いたようだ。


 歌う絵か……。


 きっと、選ばれた者にしか聴こえないのだろう。



 それは、晴れた日の事である。旧棟の屋上に人影が……思念の塊のようだ。


「早く行こうよ」


 道玄坂は気楽に言うが屋上は立入禁止だしわざわざ思念の塊に……。わたしがちゅうちょしていると刀がうずくのであった。


 定めか。


 わたし達は屋上に向かうのであった。青空の広がる屋上に着くとササが思念の塊を吸収していた。ササの広げる和傘に思念の塊が消えていく。くっ、イヤな予感が当たった。


「これは皆さんおそろいで」

「挨拶は無しだ、勝負するか?」

「荒ぶる気持ちは怖いですね……。そう、こんな晴れた日は戦いより散歩がよろしくて」


 余裕のササに焦りの色が隠せないでいた。


「そうそう、ここは一つ幻術で遊びましょう」


 さっきまで晴れていたのに霧が辺りを包む。


「幻術か……」


 するとササの姿が何人にもわかれていた。


「幻術の恐ろしさは術者の能力に比例する。撤退しましょ」


 ミヤビが撤退を打診してきたしかし、無理だな。もう、すでに幻術にかかっている感じだ。わたしはミヤビに吹雪で氷のナイフを作ることを依頼した。ナイフを取り出して手首を切りつけ流れだした血は足元に落ちて幻術の中で正気を保てた。銀鏡の刀を抜刀すると気を集中する。そこで銀鏡の刀を振りかざすして霧を切り裂く。ササの作った幻術は解かれ、ササは屋上の更に上にある柱の上にいた。


「まあ、すごい」


 ササは嬉しそうにしている。


「今日は気分が良くてよ、また、会いましょう」


 一瞬の闇が風のように流れるとササの姿はなくなっていた。わたしは血を使い幻術と戦ったおかげでフラフラである。道玄坂の助けを借り保健室で休む事にした。


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