第6話 マユとの再会
2011年1月中旬 宮古市内 愛宕食堂(あいとうしょくどう)
宮古市愛宕交差点の近くにある愛宕(あいとう)食堂。
店主「何注文すっか今日中に決めてね」
女子高生たち「は~い」
テーブルにあるメニューはタッチパネルになっていて、それで注文できるようになっている。
メニューの食材の詳細なデータ、食物アレルギーや食品添加物の有無、メニューのカロリー数なども見ることができる。
注文して15分、最初に焼き肉定食が美春に、海鮮サラダがマユに、かつ丼が深雪に運ばれてきた。
店主「はい、お待ち~沢山注文するのはありがたいけど、店は食べないでね」
女子高生たち(笑)
店主は無類の冗談好きで、通じる通じないにかかわらずバンバンかましてくれる。
ラーメン単品のみの「まんぷく」と同様、この店も宮古では有名なお店。
盛りが半端ないメニューと面白い店主が地元の人には人気があり、他県からのお客も多い。
しばらく料理がテーブルに増え続けて、マユたちのテーブルには所狭しとならんだ皿や丼ものであふれかえっている。
特にマユの前にある皿はどれも大盛りばかり。マユは食べることが大好きで、とにかく食べる。
父親の賢正もその食べる姿をみるだけでお腹いっぱいになれるくらい凄まじい食べっぷり。
この体のどこに収まるのかわからないがマユはよく食べる。
皐月美春(さつきみはる)「ねえねえ聞いた、また川井市で女子高生の不審死があったって」
マユ「重茂の原発ができてから続いてる事件だから犯人は地元の人じゃないってお父さんは言ってたよ」
如月深雪(きさらぎみゆき)「やだやだ、ただでさえ漁師に処女(おとめ)を狙われる宮古の女子が、また違うヘンなやつに狙われるとか嫌だよね」
マユ「私も中2のときナンパで連れ去られそうになったの、だけど、お父さんが車で迎えに来てて危なく拉致られるとこだった」
深雪「あたしも~、と言いたいけど。あたしはナンパされません~っ。あたしとマユの何が違うの~っ!!なんて」
マユ「深雪ちゃん、可愛いよ。モテても変な男ばかりじゃ全然良くないし、モテるのも考えモノです・・・」
美春「あ~あ~誰かいい男がさらってくれないかな~・・・」
店主「お姉ちゃんたち、呼んだ?」
美春、マユ、深雪「おじさ~ん、おもしろいっ!!」
あれだけあったテーブルの料理をすべて三人で食べつくし、
店主「まいど~お会計は3億5千600万円になります」
マユ「神社のほうにお願いします」
店主「あいよっ、大谷地(おおやじ)さんによろしくねっ」
最後まで冗談で通す店主、あれだけ(10品)沢山食べて3560円、儲けよりお客さんの満足を考える店主の心意気が見て取れる。
愛宕(あいとう)食堂をあとにした三人は、談笑しながら【MIYAKO385】方面へ歩く。
マユは、バスで帰る二人を見送って神社に帰ろうとしていた。その途中、和見のコンビニ前で、堂々とタバコをふかしている少年を見る。
いつもなら素通りするのだが、見覚えのあるその少年に近づくマユ。
マユ「(笑いながら)あ~っ、不良中学生発見!!!」
ビックリした少年が振り返り、あわててタバコを消す。
マユ「ダメじゃない、未成年がタバコなんか吸っちゃ補導されちゃうよ、ボク?」
主人公「こないだのおねえちゃん、マユ・・・さん?だった?」
マユ「ボク、うちが近いの?あまり見かけないよね」
主人公「えっ・・・、あ~実は・・・」
主人公は、マユに今までのことを話し出すのだが、それを聞いたマユは主人公を制して、真顔で
マユ「その話、お寺で聞かせて欲しいんだけど、もしかすると高野山から来たお客さんの目的のことに関係するかもしれないから」
主人公は、そうマユに告げられ、マユの案内で白森山にある白森神社へと同行することとなる。
2011年1月中旬 宮古市白森神社 本殿
本殿に案内されて、待つこと数分、主人公の前に賢正と火箸のように細い老人。隣には、マユが座った。
賢正(けんせい)「はじめまして、マユの父親で、白森神社の住職をしている東雲賢正(しののめけんせい)と申します。以後お見知りおきを・・・」
老人「わしは、高野山から参った老僧じゃ。わしも名乗るとこか?」
賢正「ハイ(微笑)」
老人「わしは、高野山の汚い裏仕事専門の破戒僧じゃ。ま~表立って言えぬ仕事ゆえ子細は語らぬが、まだ、刑務所にはいっとらん(微笑)
わしの名は、阿刀大(あとまさる)じゃ。アト爺さん、アト爺でもよい」
マユ「わたしは、佐伯舞裕(さえきまゆう)です。一応、神楽の後継予定者ね」
主人公「ぼ、ぼくは、名前おぼえてません。自分が誰かわからない・・・です(照れ)」
賢正「記憶喪失とは違うのかな」
主人公「いえ、自分の存在した記録自体ないんです。見知った親戚でさえも忘れている。ありえない人間だって寺田先生からは言われました」
マユ「寺田先生って、宮古商業の先生じゃなかった?確か地震に詳しいとか」
賢正「マユ、よくそんなこと知ってるな。誰か友達がいるのか?お父さんの知らない友達か?」
マユ「はい(微笑)秘密です」
アト爺「ありえない人間ならわしもそうなんじゃが、その様子じゃと市役所いっても戸籍もなさそうじゃな」
主人公「おそらくは・・・、寺田先生に会っていなかったら今ここにもいなかったと思います」
主人公は、2022年からタイムスリップした後の出来事をかいつまんで説明した。
原発のない未来から原発のある過去になってしまった理由はわからないのだが、少なくともこのまま時間がたつと2022年の未来の岩手よりは、
酷い結果になるのは明らかだと三人に告げる主人公。
アト爺「月弓(つきゆみ)が見た禍々しい影は、その巨大地震と津浪じゃな。じゃが、わしにはどうこうできるものではなさそうじゃ。
せめて犠牲者をなるべく出さなくてもいいように皆に知らせるくらいになるじゃろうの」
主人公「寺田先生に会えたのが、僕には幸運でした。まったく素性の知れない人を信じられるなんてまずそんな人はいませんから」
賢正「運・・・、だけではないような気もします。今はまだわかりませんけどね。多分何かを成すためにかかわっていると私は感じますよ」
マユ「・・・・・・」
その日は寺田のアパートには帰らず、神社の敷地内にある別邸に泊まることにした主人公。
小さいが温泉があるので入っていくといいと賢正に薦められ、主人公は冬の夜空を見ながら温泉を満喫していた。
しばらくすると、露天風呂に人の気配を感じた主人公。アト爺さんだろうか・・・湯気のせいで視界が悪く誰が入ってきたのかわからない。
謎の声「きゃっ」
声と同時に風呂桶が、主人公めがけて飛んできた。すんでのとこでかわすも、二つ目の桶はよけきれず、思いっきり頭に当たる。
意識が少し遠くなり、やがて眠くなる・・・。
謎の声「ごめん、痛かった。いると思わなかったから。大丈夫、ボク?どうしよ~・・・」
温泉にのぼせたのもあって意識がもうろうとしていて起き上がろうとするも力が抜けてしまって立てない。
聞き覚えのある声なのだが返答もできない主人公を謎の声の主がおんぶをする。
主人公はまた気を失って、気付いたときには別邸の寝室に横になっていた。
知らない間に浴衣を着ていた。その間の記憶はない。
マユ「も~お父さんったら!!私があの時間に入るの知ってたでしょっ!!(顔真っ赤)」
翌朝、本殿で賢正を責めるマユを見た。
こちらを見て顔を赤らめて気まずそうな表情をするマユ。
主人公は夕べ、温泉で何があったのかわからないのだが、あまり深く考えてはいけないような気がしたので黙っていた。
マユの後ろでちょっと喜んでいる賢正に気付くものは誰もいなかったようである。
【 マユとの再会:END 】
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