第5話 死者との再会
2011年1月中旬 熊本病院2階の病室内
主人公は1週間の入院を待たず退院できたのは、時間遡行によるものかは定かではないが、
人体の蘇生能力にも影響があることは証明された形となった。
熊本医院長がその事実に気付き、主人公の治療で得られた組織のサンプルを保管していたことが、
のちに役に立つことは大分先の話しになる。
熊本医院長「いつでもいらっしゃい、見てあげるから」
主人公「いろいろありがとうございました、院長先生(笑)ホント感謝してます」
寺田「私もそろそろ健康診断の時期なんで、また来ます。ではっ」
寺田辰巳(たつみ)と主人公は、宮古駅前のバス乗り場へ向かう。
摂待行きのバスに乗ると、宮古水産高校の女子生徒が数人乗っていた。
女子生徒たちは談笑中なのだが、中の一人がバスの中で胡坐をかいて座っている。
男を意識していないときの女はこんなもんだ。
そんな行儀の悪い女子生徒を見て、主人公は中華そば店「まんぷく」で会った「マユ」のことを思い出していた。
向こうは高校1年生、主人公は中身が25歳の中学3年生である。
明らかにマユは年下としてみていたであろう、主人公を25歳の成人男性とは見ていない。
他の女子生徒とは違って、少し大人びた雰囲気を持った「マユ」と呼ばれていた女子高生。
本来なら年の離れた子には興味がない主人公なのだが、何か因縁めいたものを感じていた。
また会う気がしてならなかった。
2011年1月中旬 宮古市接待地区 主人公:自宅前
主人公の自宅は、45号線のバス停を下りて、海側を30分くらい歩いた山林に囲まれた住宅地から少し離れたところにある。
もっと海側に行くと防潮堤の手前に、接待公民館が。
震災直後に、主人公はクマ除けのスズの音で山桜に引っ掛かっていた『おばあちゃん』を見つけた場所がそこである。
見るも無残な姿からは想像できない笑顔の『おばあちゃん』の最期は、いつまでも主人公の脳裏から消えることは無い。
二人は、主人公自宅前にいる。
寺田が玄関のチャイムを押すも出てくるものはいない。
寺田「ごめんください、誰かいませんか~?」
主人公「ばあちゃん、耳遠いからチャイムじゃわかんないかも・・・」
寺田「そうなの、早く言って(微笑)」
しばらくすると、中からおばあちゃんらしき人影が玄関に写った。ドアがあく。
おばあちゃん「どちらさま?」
寺田「私、宮古商業高校の教諭、寺田といいます。実は、こちらのお子さんが高校生とちょっとしたトラブルに合いまして、
私の方で、数日保護させていただいていたのですが、ご自宅が判明いたしましたので連れてきた次第です」
主人公「ばあちゃん・・・」
主人公の両目から涙があふれてくる、ぬぐうこともせず、ただ、ただ、流れるがまま泣く主人公。
それを見た寺田も少し泣きそうになる。亡くなった様子は主人公から聞いていた。
実年齢は25歳なのだろうが、やはり泣く様子は子供のそれにしか寺田には見えない。
故人に再開なんてマズありえない体験なのだが、誰にも主人公の気持ちを推し量れるものではないとは思うが、ウレシイことは間違いないだろう。
それに気づいたおばあちゃんが、主人公をまじまじと見る。
おばあちゃん「どちらのお子さんかは、わからんが、何か辛い思いをして泣いてるのかの、
うちにも孫と息子夫婦がいるが、今は、岩泉に引っ越してここにはおらん」
主人公は、耳を疑った。
目の前のおばあちゃんは、震災前まで毎日のように会っていたおばあちゃんのはずなのに、
開口一番『どちらのお子さんか、わからんが・・・』という。
まさか、アルツハイマーとかじゃないよな。
主人公「ばあちゃん、僕だよ!忘れたの?ゲーム一緒に遊んだ孫だよ!!」
寺田「すいません、私もよく状況がわからないんですが、ここにいる少年がお孫さんとは違う、
ということでしょうか・・・」
おばあちゃん「ええ、うちの孫は岩泉の両親と一緒のはずです。顔は似てますがね・・・」
主人公「ばあちゃんは・・・ばあちゃんじゃないって、意味わかんないよっ!!」
主人公は咄嗟に、今来た道を走って戻り始めた。
慌てて後を追う寺田。おばあちゃんは、その二人を不思議そうに見送っていた。
嬉し涙のはずだったものが、想いを断ち切られた悔し涙へと変わる。
走っていればこの理不尽な現実から逃れられるかもしれないと必死に走る主人公。
寺田が追いつく。
寺田「ちょっ、ちょっと待った。早いな~走るの・・・(汗)」
主人公「はあ、はあ、はあ、はあ」
寺田「本当におばあちゃんだったのかい?あそこのうちが君の家、だった?」
主人公「うん、自分ち忘れないよ、2021年の家もあそこと同じ場所だけど、おばあちゃんがオレを知らない子って・・・」
10年ぶりの再会は、果たせたのだろうか。
主人公はおぼえてるのに親戚のおばあちゃんが知らないとは一体どういうことだろう・・・。
寺田「私のアパートにくるといい。今日はいったん帰って、もう一度来よう。」
主人公「うん」
摂待での主人公とおばあちゃんの再会のあと、寺田と主人公は宮古市内にある寺田のアパートに帰りついた。
体は15歳、ニコチンが抜けきってタバコはいらないはずなのだが、主人公はイライラしていた。
おばあちゃんが自分を忘れてるとは思っていなかっただけにショックは大きい・・・。
寺田は冷蔵庫のあり合わせでチャーハンを作り、買い置きのカップラーメン『ごつ盛り醤油チャーシュー麺』を
二人分作って、主人公にも食べさせた。(もちろん、カップ麺に生卵を一つ入れて食す)
寺田「ごめんな、こんなもんしか作れないけど、良かったらどうぞ」
主人公「いただきます、オレも2021年じゃこんな感じです、独り者はこんなもんです」
寺田「おばあちゃん、気の毒だったね・・・君を疑うわけじゃないが、やっぱりおばあちゃんだった?」
主人公「はい、忘れもしないおばあちゃん本人でした」
寺田「う~ん、時間遡行の影響なのかな?スズのことが何かわかるといいんだが」
主人公「先生、すいません。タバコありますか?やっぱり吸わないとダメですねオレ・・・」
寺田「あ~そうか、心は成人男子、だったね。先生5年前にタバコやめてもう吸わないんだよ。困ったな~、あれ、確かタスポは残ってたんじゃないかな?」
クローゼットの引き出しを探している寺田。主人公は、チャーハンとラーメンを食べ終えていた。
寺田「あった、あった、はい。これ渡しておくよ、使って。」
主人公「先生ありがと~」
寺田「未成年にタバコを勧める悪い教師って新聞沙汰にならないようにしないとね(微笑)、
それとしばらくまた別行動になるからお金、少ないけど渡しておくよ」
サイフを渡す寺田。主人公は気まずそうにそれを受け取る。
寺田「そうそう、2011年の原発が無いときの地震のこと、君のわかる範囲でいいからもう少し詳しく教えて欲しいんだ。」
主人公「はい、岩手・宮城・福島の三県を中心に津波が襲ったんです。沿岸はほとんど津波の浸水域になってしまい・・・」
主人公は、当時見た宮古の状況とテレビや新聞で知った被害規模を寺田に伝えた。
寺田「300年分のプレートの力か・・・。規模の割には被害は少ないね。ただ、原発有りの今の岩手なら、沿岸一帯は人が住めなくなるのは確実だ」
主人公「ですね、福島の放射能汚染はしばらく影響があったので、岩手も免れないです」
寺田「今は、まだ誰も地震のことを知らないが、政府が発表すれば、疎開が始まると思う。それで、ほとんどの人が助かるといいんだが・・・」
主人公「先生、何から何までお世話になりっぱなしですみません・・・」
寺田「気にしない(微笑)困ったときはお互い様、それに君の情報のおかげで命が助かる人が沢山いる。それを忘れないでほしい。
明日は、先生、重茂原発に視察見学に行くんだ。その間、留守番お願いするよ。
子供の君にできないことをおとなの私がやる。子供は【こども】らしく、大人はより【おとな】らしく、ってね(微笑)」
次の日、主人公が目覚めたとき、寺田はもう出かけていなくなっていた。
主人公は、外に出て、タバコの自販機を探し、無事タバコを購入。近くのコンビニの外で一服を始めた。
タイムスリップ後の初のタバコは、むせた。むせながらも、また、もう一本に火をつける。
二本目のタバコを吸うと、むせが無くなった。やっと、一息つける。と思っていたら、後ろから声をかけられた。
慌てて、タバコを消す主人公。
宮古高校の女子生徒「(笑いながら)あ~っ、不良中学生発見!!!」
【 死者との再会:END 】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます