Arthur13 新たなる犠牲者

 七月一日、七時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。帰りのホームルームが終わったレイン達は、教室で荷物をまとめて、帰る準備をする。

「ふぅー! 今日も頑張ったぁー! ダーリンもレイン君もカリーヌっちもお疲れ様」

「はい。また、明日も頑張りましょう。エリーさん」

「今日って、部活は休みだっけ?」

「あぁ、補修工事だ。とはいっても、数日で済むけどな」

 カバンを肩に掛け、自宅に帰ろうとするレイン達。その時、教室の扉が激しく開く。

「ちょっとぉ! 扉のガラスが割れます!」

 カリーヌは、声を荒げた。彼女の視線の先には、三階の教室にいる二年生の男子生徒だ。彼の息は、過呼吸にならないか、心配になるほどを激しい息をしている。

「すまん! そんなことよりも、聞いてくれ! あんたらのクラスメイトが西校舎の裏で、死んでいるぞ!」

 藪からの棒の情報に、周りには、大きなどよめきが起きた。レインは、男子生徒からの情報が耳に入った瞬間、猛スピードで教室を出た。


「はぁ、はぁ! ここか」

 乱れた呼吸をしながら、現場に到着するレイン。そこには、十人の騎士シュバリエと大勢の生徒がいた。

「どうせ、お前ら、貴族様がやっただろ!」

「はぁ!? 濡れ衣を着せるとは。これだから、下民は」

「なんだと!?」

「こら、止めんか!」

 一部の下流ブロンズ財閥プラチナの生徒が喧嘩しており、四人のガタイの良い騎士シュバリエが仲裁に入る。

 視線の先に映るものを見ながら、会話をする生徒の間を掻い潜るレイン。ある程度、前に進むと、男子生徒の亡骸があった。

「そ、そそ、そんな」

 唇を震わせながら、呟くレイン。彼の死体は、雑貨店の裏路地の死体と同じだった。

 息を引き取った彼の両目から、大粒の涙を流しており、年が若いともあって、より無念さが際立つ。

「レイン!」

 後ろから、カリーヌの声が聞こえている。振り返ると、彼女の姿があり、ジュードとエリーもいた。

「カリーヌ、ごめん。急に走って」

「それは良いって。それで、彼は?」

 レインは、クラスメイトの死体がある方向を手で示した。

「噓でしょ……! 室田っちが」

「彼は、室田というのか?」

「うん、そうだよ。レイン君とは、あんまり話していないから、分からないよね。あたしは、彼と時々、話すけどね。ドがつくほどのアニメオタクで、古いアニメもよく見るほどだよ」

「これで二人目か」

「すみません。レインさん。犠牲者はのです」

「え? 他に犠牲者がいるのか?」

 レインは、目を見開きながら、ジュードを振り向いた。

「えぇ。カリーヌさんと雑貨店での死体以降、数人が犠牲者が出ているのです。老若男女問わず、皆、同じ死に方をしています。騎士庁の警戒心がより高まったらしいですよ」

「そういや、雑貨店の死体を見てから、三日後に騎士シュバリエが一層増えていたな。だからか」

 レインは、右手の人差し指と親指で顎に添えた。

「でも、多くの犠牲者が増えたなんて知らないわ。あたし、初耳よ」

「私もカリーヌっちと一緒。生徒を安全に守る為の大事な情報なのに。階級関係なく、そんな話は無かったよ」

「レインさん。となると、考えられるのは」

 ジュードは、目を細め、眉を少し上げながら、レインを見た。

「あぁ……学園長だな」

「……最低ね。教育者として失格だわ」

 危険に晒されるずに安心して、学びを受けさせるという仕事を放棄するジェイ。危機感が皆無うえに怠慢な姿勢。レインは、右手で皮膚が赤くなるほど、強く握った。

 カリーヌとエリーは、スカートを裾を強く握りしめ、ジュードは、ため息を吐いた。

 すると、レインは、辺りを見渡すと、カリーヌ達に囁く。

「みんな、ちょっと来てくれ」

「ん? どこいくのよ?」

 彼は、カリーヌらに手招きして、現場から離れた。



「よし、ここなら大丈夫だな」

 レインが、彼女らを連れて来た場所は、東校舎の裏側にある空き地だ。金網で囲まれた聖石レリックの一種、火属性のリュビの力で動いている焼却炉。管理を疎かにしていたのか、雑草が生い茂っている。

「で、どうしたのよ? ヤバい犯罪を起こしそうな顔をして」

「カリーヌさん。言葉の選択が悪いですよ」

「……指名手配犯を見つけよう。僕達で」

「「「えぇ!?」」」

 カリーヌ達は、レインの意外過ぎるの言葉に一秒の狂いもなく、驚きの声を上げた。

「レイン君、騎士シュバリエに任せようよ! 私達は、ひよっこだよ。指名手配犯に殺されるリスクがあるよ。勝手な行動をすれば、最悪の場合、退学」

「被害者が増えているのに、騎士シュバリエは、捕まえていない。つまり、犯罪者は、相手の考えを読み切っている可能性が高い」

「だと、してもよ。あたしらが――」

、大丈夫だ」

「ど、どういう意味よ?」

 カリーヌが首を傾げていると、ジュードが、口を開く。

「注意がと言いたいのですね」

「あぁ。奴は、彼らの動きしか、見ていない。だが、僕達のような人間に首を絞められるようなことをされたら、どうなる? 目を食らうし、騎士庁への警戒心も疎かになるはずだ」

「だ、だけど、騎士庁にとっては大迷惑よ。あたしらが――」

「ぼ、ぼぼ、僕の兄さんと協力すれば、可能性が高いです」

 四人の背後から、幼さが残る男子の声が聞こえた。思わず、レイン達は肩をビクッと縦に動かす。

「だ、誰なの?」

「君は、校舎の入口で」

「また、会いましたね。レインさん、カリーヌさん、ジュードさん、エリーさん」

 現れたのは、レインに、いじめから助けてくれた桐田誠だ。

「尾行していたのか? そんな事よりも、ジュードとエリーを知っているのか? 自己紹介はしていないと思うが」

「み、皆さんは、よ、四大騎士家のご子息とご令嬢で有名ですから。で、ぜ、前者の質問に答えますが、せ、正確には、兄さんので、会いに来たですけど。レインさん、兄さんと会ってくれませんか? カリーヌさんらも」

「なぜだ?」

「学園都市、アーサーで起きている、首裂かれ死体の殺人事件。兄さんが興味を持ちまして、ぜひ、レインさんらの聡明な頭脳をお借りしたいらしいです」

「とはいえ、君の兄も同じ階級だろ。騎士庁が通行を制限しているし――」

「そ、そそ、その点は、ごごご、ご安心してください。今日中に解除されます」

「なぜ、そう言い切れるのよ?」

 カリーヌが怪訝そうな顔つきで誠に尋ねた。

「に、にに、兄さんは、じょ、じょ、情報収集能力が騎士シュバリエよりも長けていますから」

「だったら、君の兄は、自分が得た重要な情報を騎士庁に提供すればいいだろ。事件の解決に近づくし」

「き、騎士庁の立場になって、か、考えてください。い、いち、一人前でもない生徒が事件の捜査に、は、入ったら、どう思いますか? じゃ、じゃ、邪魔と、思われます」

「……確かに」

「ちなみに、誠さん。貴方の兄は、どちらにいますか?」

「ぼ、僕と兄は、が、学園都市の東にあります、【トロント】という家族経営をしている喫茶店があります。そ、そこで住んでいます」

「寮以外で住むのはいいのか?」

「大丈夫だよ。別に強制ではないから。学園都市の外でもオッケーだからね」

「それは、知らなかったな」

「ど、どうしますか?」

 誠は、胸の前で両手を組み、前かがみになりながら、レインに尋ねた。

「そうだな……」

 レインは、腕を組んで、十秒ぐらい考える。結論が出て、口を開く。

「分かった。君の兄さんに会わせてくれ」

「いいの? レイン」

 カリーヌがレインの袖を引っ張った。

「あぁ、彼の兄が得た情報を知れるなら、行くさ。僕達が家柄で甘えていないことを証明する機会になるチャンスだ。特に、雑貨店で会った僕とカリーヌみたいな人間に嫌悪を抱いている騎士にね」

 カリーヌは、「あっ……」と口を少し開きながら、声を出した。その後、彼女は、眉を下げて、頭を地面に向けた。

 あの騎士が目を細めながら、汚物を見るような目と敵視していると分かる怒りの言葉。恐らく、彼だけではない。レインらは、カーストのトップに君臨する存在。表では、尊敬しているが、本心では、見下しているか、敵視する者は大勢いるかもしれない。

 さらに、雑貨店でレインとカリーヌをした騎士シュバリエは、媚びたら、甘い汁でも吸える道具だと考えているかもしれない。

 特に、後者が厄介。四大騎士家の後継者という肩書が失えば、豹変し、罵詈雑言を浴びせてくるだろう。

「あ、あのジュードさんとエリーさんは?」

「僕達も行きます」

「ダーリンと一緒の意見。赤ちゃん扱いされている自分から卒業するチャンスだね」

 ジュードは、右手を握りしめながら、右胸の前に上げた。エリーは、両手を握りながら、胸の前に上げると、首を縦に振った。

「か、カリーヌさんは?」

「……分かったわ! さぁ、君の兄の場所まで案内しなさい!」

 カリーヌは、胸を張りながら、誠に人差し指を向けた。

「は、はい。では、皆さん。ご案内しますね」

 レイン達は、誠の兄に会う為、彼についていった。










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アーサーオブナイト 学園都市に眠る生命の泉 サファイア @blue0103

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