二・ペンフレンド

 夕食後、手紙を読むために書斎机に就いたエミリーは、膝の上にソフィーを座らせる。最近、書斎で仕事をする時はいつもソフィーと一緒だ。


 ソフィーがクラリスと書いた暗号の手紙には、ソフィーが今まで抱えていた様々な感情が綴られていた。せっかく家族になれたのに一緒に眠れない寂しさ、母親となったエミリーをどう呼ぶべきかという迷い……


 一番近くにいながら、彼女の気持ちに気づけかった自分が悔しかった。だからこそ、エミリーは少しでも一緒にいる時間を増やそうと、こうしてソフィーを膝に乗せて作業をするようにしている。


 ソフィーは決して湯たんぽ替わりではない。温かくて良い匂いがするが、ただ暖をとるためだけに抱いている訳ではないのだ。


「どっちから読む?」


 机の上に二通の手紙を置き、エミリーはソフィーに尋ねる。ソフィーは少し迷った後、クラリスからの手紙を示して。


 エミリーは少し手を伸ばしてペーパーナイフを取り、手紙の封を切る。


 三つ折りになった手紙を広げると、封筒の宛名と同じ筆跡の文字が並んでいた。所々書体が古いのは、クラリスが今は滅んだ「西の国」の王族であるお婆さんから字を教わったからだろう。


『ソフィーちゃんにエミリーさん、お久しぶりです。寒さが厳しくなってきましたが、お元気ですか?』


 クラリスの手紙はそんな時候の挨拶から始まっていた。



 初めてお手紙をお送りします。今までお祖母ちゃん以外の人とあまり関わってこなかったので、何を書いたらいいのか迷います。でも、こうやってお手紙を送る相手がいるだけで私は嬉しいです。


 ソフィーちゃんが私の家に来た時、私が淹れたハーブティーをとても気に入っていましたね。よろしければ、お二人の好きなハーブを教えてもらっていいですか? 去年収穫したハーブの中のから選んで、今度アテルさんに届けてもらいますね。


 もう一つ、お二人に話しておきたいことがあります。実は、アテルさんが私の家にあった本のことで、エミリーさんに聞きたいことがあるそうなんです。詳しい事はもう一通に書いてありますので、そちらをご確認ください。


 それでは、またお会いしましょう。お返事お待ちしております。



 手紙を読み終えたエミリーは、膝の上のソフィーに尋ねる。


「ハーブかぁ……ソフィーはクラリスちゃんが淹れてくれたお茶の中で何が一番美味しかった?」


 ソフィーは小さな声で「カモミール」と答える。


「私はミントが美味しかったなぁ……じゃあ、アテルさんにはカモミールとミントを届けてもらおうか」


 エミリーの言葉にソフィーは笑顔で応える。だが、直後には真顔に戻って、アテルからの手紙を早く開けるように促してきた。


「そう言えば、クラリスちゃんはアテルさんが本について気になることがあるって書いてたね……」


 エミリーはソフィーから手紙を受け取り、中身を確かめる。クラリスからの手紙より字数が多い。筆跡はクラリスと同じだが、文体が少し異なる。


 手紙の始めには『初めて送る手紙がこのような内容になってしまい、申し訳ありません』と謝罪の言葉が記されている。


 一体、アテルは何のことで謝っているのか? エミリーは先を読み進めた。

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