七・守る手

 本を閉じた後、クラリスはしばらく無言だった。


 沈黙に耐えられなくなって、アテルは率直な感想を口にする。


「なんか、良い話っぽいけど、後味悪いおとぎ話だったね……無関心を装って女の子助けなかった人たちが、それを正当化するために考えたみたい……」


 アテルの言葉にクラリスも頷く。


「私もね、このお話はあんまり好きじゃないんだ……」

「あ、もしかして、無理して読んでくれたの?」


 ドキリとして、アテルはクラリスの顔を見る。しかし、彼女は否定も肯定もせず、翡翠色の瞳でこちらを見上げるだけだった。


「あのね、アテルさん。私……怖かったの……」

「怖かった?」


 聞き返すと、クラリスはアテルの腰に腕を回して抱き着いてきた。彼女の細い身体が震えている。


「お祖母ちゃんが帰ってこなかったあの日、スネーグレイヴが私を迎えに来るんじゃないかって、ずっと怖かった……」


 湿っぽいクラリスの声を聴いて、アテルの胸に鋭い痛みが走る。雪深い森の奥でただ一人、祖母の帰りを待っていたクラリスは、きっとおとぎ話の中の女の子に自分を重ねていたのだろう。


「でも、魔女が来る前にアテルさんが私を見つけてくれた。ありがとう、アテルさん……」


 クラリスの腕の力が強くなる。アテルはそれに応えるように右手で彼女を抱きしめ、ゆっくりと語りかけた。


「大丈夫。クラリスを魔女の手に渡したりなんかしない。私が、私の弓がキミを守るから……」


 胸にクラリスの温もりを感じながら、アテルは左手――弓を持つ方の手を握りしめた。

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