六・魔女に抱かれて眠る
「お父さんッ!」
自分の叫ぶ声を聴いて、ミハルは目を覚ます。
不気味な夢だったが、今の気分はすっきりしている。心にかかった靄が取り払われたような清々しさだ。
意識がだんだんと明瞭になっていき、ミハルは自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。隣には自分以外の体温も感じる。もう一人、ミハルと同じベッドに入っている者がいるようだ。
「起きちゃった?」
頭の上からスネーグレイヴの声が聞こえる。
「お姉さん、帰ってきたんだ……」
ミハルはホッと息をつき、スネーグレイヴに身をゆだねるように力を抜く。
「あのね、夢の中でお父さんに会ったの……」
ミハルは夢の中での出来事をスネーグレイヴに語った。しかし、彼女はそれを聴いても驚いた様子はない。
「言ったでしょ、あなたのお父さんがどんなところにいても、必ず会えるって」
「それなら、さっきの夢もお姉さんの魔法なの?」
スネーグレイヴはゆっくりと頷く。
「私はあなたを試したの。自分を捨てた親を赦すことができるかどうか。あなたはお父さんを赦すことができたんだね……」
「うん。お父さんには生きていて欲しいって思った。だって、お父さんだから。それに……」
ミハルはスネーグレイヴの胸に顔を押し付ける。深く息を吸うと、どこか懐かしい安心する匂いを感じた。
「ねぇ、お姉さん……私、ずっとここにいても良い?」
「もちろん。元々、そのつもりであなたをこの家に連れてきたんだから。いつまでも、私の傍にいて良いんだよ……」
「良かった……ありがとう、お姉さん!」
ここが……スネーグレイヴの腕の中が新しい居場所だと思えたからこそ、ミハルは父を赦すことができたのだ。
スネーグレイヴの手がミハルの頭を撫でる。ミハルは今まで溜めこんでいた想いを全て吐き出すように、声を上げて泣いた。
「お姉さん……! ありがとう……ありがとう……ありがとう……」
泣きじゃくるミハルを慰めるように、スネーグレイヴは柔らかい声で歌う。その歌を聴くうちに、ミハルの意識は温かな闇の中へ墜ちていった。
*
冬至の祭りの翌朝、街の通りで一人の女の子が死んでいるのが見つかった。
「可哀想にな……」
「捨て子だろうか……?」
女の子の周りに集まった人々は、白い息を吐きながら口々に言っていた。
すると、一人のお婆さんが良く通る声で話した。
「この子はきっと、スネーグレイヴの魔女に連れて行ってもらったんだね。辛かっただろうけど、これでもう飢えることも凍えることもない。魔女の腕に抱かれて、末永く幸せに暮らしなさい……」
お婆さんの言葉が終わると、人々は安心したように、あるいは女の子への興味を失ったようにその場から去り始めた。
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