六・魔女に抱かれて眠る

「お父さんッ!」


 自分の叫ぶ声を聴いて、ミハルは目を覚ます。


 不気味な夢だったが、今の気分はすっきりしている。心にかかった靄が取り払われたような清々しさだ。


 意識がだんだんと明瞭になっていき、ミハルは自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。隣には自分以外の体温も感じる。もう一人、ミハルと同じベッドに入っている者がいるようだ。


「起きちゃった?」


 頭の上からスネーグレイヴの声が聞こえる。


「お姉さん、帰ってきたんだ……」


 ミハルはホッと息をつき、スネーグレイヴに身をゆだねるように力を抜く。


「あのね、夢の中でお父さんに会ったの……」


 ミハルは夢の中での出来事をスネーグレイヴに語った。しかし、彼女はそれを聴いても驚いた様子はない。


「言ったでしょ、あなたのお父さんが、必ず会えるって」

「それなら、さっきの夢もお姉さんの魔法なの?」


 スネーグレイヴはゆっくりと頷く。


「私はあなたを試したの。自分を捨てた親を赦すことができるかどうか。あなたはお父さんを赦すことができたんだね……」

「うん。お父さんには生きていて欲しいって思った。だって、お父さんだから。それに……」


 ミハルはスネーグレイヴの胸に顔を押し付ける。深く息を吸うと、どこか懐かしい安心する匂いを感じた。


「ねぇ、お姉さん……私、ずっとここにいても良い?」

「もちろん。元々、そのつもりであなたをこの家に連れてきたんだから。いつまでも、私の傍にいて良いんだよ……」

「良かった……ありがとう、お姉さん!」


 ここが……スネーグレイヴの腕の中が新しい居場所だと思えたからこそ、ミハルは父を赦すことができたのだ。


 スネーグレイヴの手がミハルの頭を撫でる。ミハルは今まで溜めこんでいた想いを全て吐き出すように、声を上げて泣いた。


「お姉さん……! ありがとう……ありがとう……ありがとう……」


 泣きじゃくるミハルを慰めるように、スネーグレイヴは柔らかい声で歌う。その歌を聴くうちに、ミハルの意識は温かな闇の中へ墜ちていった。



 冬至の祭りの翌朝、街の通りで一人の女の子が死んでいるのが見つかった。


「可哀想にな……」

「捨て子だろうか……?」


 女の子の周りに集まった人々は、白い息を吐きながら口々に言っていた。


 すると、一人のお婆さんが良く通る声で話した。


「この子はきっと、スネーグレイヴの魔女に連れて行ってもらったんだね。辛かっただろうけど、これでもう飢えることも凍えることもない。魔女の腕に抱かれて、末永く幸せに暮らしなさい……」


 お婆さんの言葉が終わると、人々は安心したように、あるいは女の子への興味を失ったようにその場から去り始めた。

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