第一章 解説・あとがき

・執筆経緯

 本作を執筆する前、私と兄でお互いにお題を提示し、普段書かないようなジャンルを書くという話をしていました。その結果兄は「空戦モノ」を書き、私は「ファンタジー」を書くことになりました。


 ファンタジーを書くにあたって、兄から「見たことのない世界観にすること」「食事の描写をすること」「平和な話にすること」という三つの条件が提示されました。こうして、本作はその条件に沿う形で世界観・キャラクター・ストーリーが創作していきました。


・世界観

 先述の条件から、作者は兄にとって馴染みの薄い地域をモチーフに世界観を構築することになりました。兄は中国、中東、古代ローマの歴史や文化に精通していたため、それらの地域を除外した地域をミックスしてみました。最終的に、北欧風の文化とアイヌ民族風の文化が接続され、ハイイログマやヘラジカといったアラスカの大型哺乳類が闊歩する世界観が出来上がったのです。


 年代的には、17~18世紀を想定しています。執筆前の段階では、狩人たちが松前藩に当たる政治体と交易を行っていたり、討幕運動が盛り上がっていたりというところまで考えていたました。しかし、「平和な話にすること」という条件に従って、政治的な動きは劇中では描くことはありませんでした。


・クラリスのおばあちゃん

 本作の主人公・クラリスとそのお婆ちゃんが「おそろしの森」で暮らしている理由について、公開後にコメントで質問が来ました。当初、クラリスとそのお婆ちゃんは黒船来航以前に流れ着いた西洋人をイメージしていました。


 また、森の奥に暮らしているという設定は、『赤ずきん』のお婆さんや『ヘンゼルとグレーテル』に登場する魔女に由来しています。他にも、山姥が西洋人だったという説も取り込んでいて、漠然と魔女狩りや口減らしによって山奥に暮らすことになったお婆さんという設定が出来上がっていきました。ですが、この設定も「平和な話にすること」という条件のために破棄しました。あんまり悲しい話にはしたくなかったので。


・キャラクターの名前

 実は、本作の一人目の主人公・クラリスは、執筆中に名前が変わっています。最初は「ハトリ」という西洋人とも東洋人ともつかない名前でした。しかし、描き終わった後に読み返してみて、アテルと語感が似ていると感じ、変更することなりました。様々なおとぎ話のヒロインの名前を調べましたが、しっくりくる名前は見つかりませんでした。最終的に、某怪盗ルパンの孫に心を盗まれた少女から名前をもらうことになりました(笑)


 クラリスに対して、アテルの名前はすんなりと決まりました。由来となっているのは、平安時代に坂上田村麻呂と戦った蝦夷えみしの英雄・阿弖流為アテルイです。また、弓を使うと言うことで、狩猟の女神・アルテミスのイメージも入っています。しかし、昔の日本人は何ともいい加減なもので、北方の異民族はひとくくりに「蝦夷えみし」ないし「蝦夷えぞ」と呼んでいました。そのため、阿弖流為が現在のアイヌ民族の出身なのかどうかは解りません。まぁ、異世界なのでそこまで史実に忠実になる必要はないと判断し、本作では阿弖流為はアイヌ民族の英雄という説を採用しました。


・続編の構想

 本作は独特な世界観にもかかわらず、劇中で提示された情報はあまりにも少ないです。疑問を持った読者も多かったと思います。まだ漠然としていますが、それらの疑問に答えるための続編を少しずつ構想し始めています。私の中でもクラリスとアテルの物語はまだ続いており、彼女たちの生活をもっと描きたいと思っています。読者の皆様には、どうか気長に待っていてもらいたいです。


 それでは、またの機会にお会いしましょう!

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