~第六章・靴下で出汁を取る女。~
「だ、ダブルデート…??」
クリスマスも終わり、年も明け
長いようで短かった冬休みも終了。
正月ボケも抜け切れていない中での憂鬱な講義の合間に持ち掛けられた
中吉 悠仁からの突然の誘いに、僕は思わず耳を疑った。
「え、お前 彼女出来たの…!?」
「いやぁ、実は まだ“彼女”とまでは言えないんだけど
ちょっとだけ良い感じ? の子がいるんだよねぇ…」
鼻の下を人差し指で擦るベタな照れ方が若干 鼻につくも
悠仁にも ようやく春が やって来たのかもしれない という事実が、僕は自分の事の様に嬉しく感じていた。
「へぇ! よかったじゃん!
で、どんな子なの?」
「いやぁ、それがさ…
可愛いしスタイルも良いし、俺には もう勿体無いくらいの美少女で…
あ、学部は違うけど、同じ大学の後輩らしい!」
「ほぅ…!
どこで知り合ったん?」
「なんか、どういう訳か分からんけど…
今年に入ってから急に構内で話しかけられるようになってさ
キャンパスも だいぶ離れてるのに わざわざ俺んとこまで やって来て
『中吉先輩ですよね…?
お友達になりたいです!』
って…!」
なぜ その子が悠仁の事を知っていて、わざわざ会いに来たのかは謎であったが…
話を聞く限り、だいぶ“脈アリ”であるように感じた僕は、悠仁に訪れかけた春を素直に応援することに決めた。
「いいじゃん、いいじゃん!
その子 狙っちゃえよ…!」
「あ、それで さっきの話に戻るんだけど…
なんかその子、お前の彼女のこと知っててさ。
まぁ軽子ちゃんが大学でも かなりの有名人だから だと思うけど…
んで、俺が軽子ちゃんと その“冴えない彼氏”と友達だよ!って言ったら
『じゃあ、今度よかったら その4人でドコかへ遊びに行きませんか?』
って言ってきてさ!」
“冴えない”言うな…!
…まぁ悲しいことに否定は出来ないが。
「…なるほど、そんで“ダブルデート”って事か。」
「俺も いきなり二人きりはハードル高いし、軽子ちゃんと有が いてくれた方が たぶん盛り上がりそうだしさ…
頼む…! だから今度の日曜日、無理かな…?」
“ダブルデート” かぁ…
なんか響きが最強に“リア充”って感じがして凄く良い。
実はダブルデートって、正直ちょっと憧れだったんだよなぁ…
遊びという共通の目的を果たしながら、さりげなく相手に見せつけるようにイチャイチャするというのも何だか やらしくて凄く楽しそう…
それに悠仁にはストーカー被害の時にだいぶお世話になったしなぁ…
軽子ちゃんも今週は日曜 暇って言ってたし、まぁ行ってやってもいいか…!
“ダブルデート”という普段聴き慣れない新鮮な単語に思わずテンションが上がってしまっている事がバレぬよう
僕は まんざらでもないくせに
“本当は嫌だけど仕方なく付き合ってあげますよ感”を盛大に出し、十二単レベルの恩を着せ
悠仁からの誘いをOKした。
しかし、僕は“後で後悔”する事となる…
なぜ、この時。
“その女の子”が何者であるのか
しっかりと身元を確認しておかなかったのか という事を…
★
…あ、場面が切り替わる前に
よく考えたら、さっきの“後で後悔”って日本語的に おかしかったですね。
“頭痛が痛い”とか“馬から落馬する”みたいな
“二重表現”になってしまっている…
日本語って本当に難しいですよね。
すみませんでした…今後そういうの言っちゃわないように気を付けますね、はい…
★
デート当日の朝、僕は“自分の自宅”にて“違和感を感じ”目が覚める。
適当に“食事を食べ”終え
郵便ポストに入れられた“今朝の朝刊”を読みながら僕はこの違和感の正体を探っていたが
結局それが何なのか分からないまま 僕は支度を済ませ、集合場所へと向かう為の“電車に乗車”していた。
いやぁ、にしても楽しみだなぁ…
軽子ちゃんに会うのも地味に去年のクリスマス以来だし…
てか ダブルデートなんて生まれて初めてだ…! 超楽しそうなんですけど…!
期待に胸を弾ませながら目的地へと向かうと、既に悠仁と軽子ちゃんは集合場所に到着していた。
「お、きたきた。おはよ、有。
今日は よろしくな~!」
「おう!まかせろ!
…て、あれ?
例の子は…?」
「いや、なんか連絡したら
駅には着いてるっぽいんだけど、ちょっと迷ってるみたいで…
…あ、いたいた!
おーい!こっち、こっち~!」
遠くの方から斜め掛けの小さなカバンを両手で押さえ、パイスラにより強調された大きな胸をポワンポワンと揺らしながら小走りで登場した女性。
僕はその“彼女”の姿に驚愕を通り越して、思わず悪寒がシャトルランを始めてしまった。
「ごめんなさい!皆さんお待たせしてしまって…
駅の出口を間違えてしまったみたいで…」
…ほよ?
…ふぇ?
………………………はぁ!?!?
なんと そこには
化粧を完璧に決め、大人可愛いコーディネートに身を包んだ いつもとは少し違った雰囲気の
軽子ちゃんにも引けを取らない超絶美少女モードの“須藤 華彩”と思われる女性の姿があった。
「いやいや、全然 待ってないよ!
大丈夫、大丈夫!
…オホンッ、じゃあ軽子ちゃんと有にも紹介するね!
この子が最近 仲良くなった
情報学部一年の須藤さんです…!」
おいおいおい、ちょっと待て。
ま、マジか…
“近くの大学”と聞いてはいたが、まさか同じ大学の後輩だったとは…!
「軽子さん、有ちゃ…さん
はじめまして!
私、須藤 華彩と言います!
今日は よろしくお願いしますね♪」
あぁ、悪夢だ…
なんてこった…
今朝の“違和感”の正体…コイツだったのか…!
朝 姿が見えなかったのは、この“完璧な支度”の為
204号室に戻っていたから…
はぁ…どうして俺は当日まで気づけなかったのだろう…
まさか、悠仁が狙っているという女子の正体がコイツだったなんて…
…でも、そんな偶然あるのだろうか?
コイツ、もしかして悠仁が俺の親友だという事を知っていて近づいて来たんじゃ…?
そしてこの“ダブルデート”を通じて
俺と軽子ちゃんとの仲を壊そうと企てているのでは…?
…でも「はじめまして!」って事は
一応、俺達の“特殊な関係”の事は内緒にしてくれているって事だよな…?
しかも今日は いつもの変態っぷりも一切無く、猫を被った“外面良し子”ちゃんを演じているし…
…あぁ、もうダメだ!
コイツの考えが よく分からん!
考えれば考えるほど頭がパニックになってくる…!
とりあえず 何とか二人きりの時間を作って、コイツから全てを聞き出す必要がありそうだ。
そう思った僕は咄嗟に財布を開き、大根が過ぎる演技力で金欠アピールを始めた。
「あ、あれ~?し、しまった…
お金おろしてくるの忘れちゃったみたい…
あ、あのさ、出発前にちょっとコンビニ寄らない…?
みんなも お茶とか買いたいよね?
ね…?」
僕は なんとか三人を近くのコンビニへと誘導する事に成功。
そして悠仁と軽子ちゃんが飲み物を選んでいる隙に
お菓子の陳列棚の死角を利用して須藤 華彩を問い詰めた。
「おい! お前、これはいったい
どういう事なのか説明しろ…!!」
「え? 何がですか?」
「“何がですか?”じゃねぇよ!
こんな偶然あるわけねぇだろ!
お前さては…悠仁が俺の友達って知ってて近づいてきたな…?」
「あ、バレちゃいました…?
いや~大学内で有ちゃんと一番仲が良いと思われる“中吉 悠仁”さんに近づけば
私の知らない有ちゃんの意外な一面とか、マル秘情報を たくさん聞き出せると思って…!」
くぅ、やっぱりか…
ったく、ストーカーの件といい、クリスマスのアルバイトの件といい
コイツの行動力には本当に いつも驚かされる…
「で、このダブルデート?の目的は何だ…?
お前が企画したって聞いたけど…」
「え…? そんなの、軽子さんの前でバレないように
隠れて有ちゃんとイチャイチャする為に決まってるじゃないですか。
…スリル満点で絶対に楽しいですよ♪」
「ば、バカ…!そんなのダメに決まってんだろ…!」
「えぇ~?いいじゃないですかぁ~
別に軽子さん達には見えない所でコッソリ“あんな事”や“こんな事”をするだけですから…♪
ハァ、ハァ…////
実の彼女さんの前でコッソリだなんて…
私、想像しただけでも興奮してきちゃいました…////」
くそ、今日も須藤 華彩は相変わらずの絶好調だな…(※悪い意味で)
てかヤバ、いつにも増して目がマジなんですけど。こりゃ完璧に興奮モードに突入してしまっている…
どうやらコイツは今日、これまで溜まっていた欲求を満たす為、そして自分の性癖を爆発させる為に この場をセッティングしたようだ…
軽子ちゃんの前で 暴走したコイツと一日行動を共にするなんて危険が過ぎる。
何とか抑制する良い手段は無いものか…
その時、時間も無く 判断能力も鈍っていた僕の脳内に、一つの自意識過剰な交換条件が思い浮かんだ。
「…わ、分かった。それなら一つ、俺から提案がある。
もし今日一日、変な事をしないと約束してくれるのなら、今夜は特別に
“俺の脱ぎたての靴下を食べていい”…!
食べていいから、今日のところは ひとまず言う事を聞いてくれ…!」
僕の事を好き過ぎる ド変態な彼女との同棲生活が始まって早 二ヵ月。
僕は彼女を丸め込む為の手段として当たり前の様に
自分の私物を犠牲にする癖がついていた。
傍から聞いたら相当気持ちの悪い取引内容だが…
「え…!?
ほ、本当ですか…?!
いつも私が有ちゃんの脱ぎたて食べようとすると あんなに怒るのに…!?」
「あ、あぁ…!今回は緊急事態だから仕方ない…! 俺も腹をくくる!
でも、一回だけだからな…!」
「や、やったぁ…!
有ちゃんの靴下を合法的に食べられる日が来るなんて…!
グ、グヘ、グヘへへ…////」
“グ、グヘ、グヘへへ”じゃないんだよ、本当 気持ち悪いなぁ…
まったく…せっかくビジュアルは良いのに、この“キモさ”のお陰で全部 台無しだよ… マジ 勿体無い奴だな…
「あ、あの…! せっかくなら…靴下
片方じゃなくて、両足の貰っても よいですか…?
片方はしゃぶり尽くす用に したいのですが
もう片方は出汁(だし)を取る用にしたくて…」
だ、出汁…?
…出汁?
…出汁?
ちょっと意味が分からな過ぎて3回復唱してしまったのですが、靴下って お料理に使用する物なのでしょうか…?
「…あ、あぁ! よく分からないから もう何でもいい!
とりあえず今日、おとなしくして くれていれば それでいいから…!」
「はい、分っかりました…!
任せてください!
今日は一日、有ちゃんに くっ付くの我慢します…!
その代わり…靴下、絶対ですからね…♪」
彼女と悪魔の契約を結び、彼女を“とある興奮”から“別の興奮”へと移行させることで なんとか抑制に成功した僕は
飲み物を買い終えた二人と合流し、ついに地獄のダブルデート?をスタートさせる決意を固める。
しかし 須藤 華彩の事で頭が一杯になってしまっていた僕は
この時、全く気付くことが出来ないでいた。
今朝から軽子ちゃんの表情が いつになく暗く、どこか寂しそうで
僕に会ってから まだ一度も目を合わせてくれて いなかった事に…
★
「はぁ…………………………」
須藤 華彩の言動に目を見張りつつ、決して動揺を見せぬよう平常心を保ち続けるという
楽しさの欠片も感じられないストレスフルなデートも中盤へと差し掛かり
昼下がりの遊園地、悠仁の提案により2:2で分かれて乗ることになった観覧車のゴンドラの中
薄っすらと汚れた窓ガラスから見える そこまで綺麗でもない景色を眺めながら
久々に二人っきりになれた軽子ちゃんの前で、僕は思わず
古代ローマ人の彫りの様に深い溜め息をついてしまっていた。
「…有くん、どしたの?
なんか顔 疲れてない?」
「え…?!
そ、そうかな…!?
俺は全然 元気だけど…!?」
どうやら、僕の精神的疲労は溜め息だけに留まらず、無意識のうちに顔面にも溢れ出てしまっていたらしい…
…まぁ それも無理もない。
デート中、ここまで 須藤 華彩は約束通り、僕に くっ付いてくる などといった直接的なアタックは無いものの
ボーリング場にて、とんでもなく いやらしい顔をしながら、ボールの穴に小指を何度も抜き差し している所を僕にだけ見えるように見せてきたり…
映画館にて、泣ける感動モノの映画を みんなで見ていた際、零れ落ちる涙をハンカチではなく、持参した僕のパンツで拭ったりと…
あの手この手で 事あるごとに僕の動揺を誘い続けていたのだ…
「い、いやいや…!
そんなことないよ…!
全然 平気、平気!
はははは…(笑)」
無理に喉から絞り出した乾いた笑い声が、余計に彼女の表情を曇らせる。
そして少しの沈黙の後、彼女は急に真剣な眼差しで僕を見つめながら言った。
「…ところでさ、有くん。
あの須藤さんって子…
正直、すっごく可愛いと思わない?」
「え…?」
唇の左下半分を軽く噛みしめながら、若干 悔しそうな表情を浮かべる彼女…
あれ…?軽子ちゃん、急にどうしたんだ…?
もしかして何か怒ってる…?
俺、なんかしちゃったっけ…?
急な情緒の変化に心当たりを見つけられず困惑する僕に彼女は続ける。
「いや、なんかさ
ふと思っちゃったんだよね。
有くんが もし、須藤さん みたいな可愛い女の子に言い寄られたら
私と その子、実際どっちを取るのかな~?
な~んて…」
彼女から突然 投げかけられた予想外の愚問に僕は食い気味に即答した。
「いや! そんなの軽子ちゃんに決まってるじゃん…! 何言ってんの?!」
「…本当?
あんなに可愛いのに?」
「もちろん!
だって僕は 軽子ちゃんの彼氏なんだよ…?」
本心で そう返したものの、彼女の しかめ顔が直る気配は無い。
…あ、もしかして
これは俗に言う“ジェラシー”ってヤツですか…?
突如 目の前に現れた 自分とは異なるベクトルの可愛さを持つ
“須藤 華彩”という新キャラに
僕が心揺らいでしまうのではないかと不安になっている…?
うおおおお、なんか超可愛い。
まさか軽子ちゃんほどの美貌とスタイルを兼ね備えた女性が嫉妬するなんて…新しい意外な一面だ…!
ただでさえ好きなのに、好感度が さらに上がってしまう…!
その後、僕はゴンドラが地上に戻るまでの間、彼女に精一杯の愛を伝え続けた。
しかし、彼女は一度も笑顔を見せることの無いまま、僕より先に無言でゴンドラを降りていく。
その背中は まるで冷気が目に見えそうなほどに冷たく、背後から付いてくる僕を寄せ付けまいとする純黒なオーラを放っているようにも感じられた…
★
軽子ちゃんの心境がイマイチ掴みきれていないまま、その後もダブルデートは悠仁が組んできたプラン通りに進み、小腹も空き始める良い感じの時間帯に突入。
僕達は公園の広場に停まっていた移動販売のクレープ屋にて、各々の好きな味を購入し、ベンチに ゆったりと腰掛けていた。
“クレープ×美少女”
あぁ、なんて絵になる組み合わせなのだろう…
小さな口で精一杯 大きなクレープを頬張る軽子ちゃんの姿は
どの瞬間を切り取ってもベストショット、まさに最高の被写体。
食べることを忘れ、ひたすら彼女に見惚れてしまっていた僕は
公園のベンチで ただクレープを手に持っただけの原寸大 人型オブジェと化していた。
…あ、軽子ちゃん、頬っぺたにクリーム付いてる。
小頬骨筋の起始部辺りにキラリと光る直径二ミリメートル程の純白の生クリームは、もはや彼女の一部として馴染み、アクセサリーか何かに見えなくもなかったが
僕は 今日、初めて彼氏らしい行動をとろうと、軽子ちゃんの頬に付着した生クリームを指で取り、パクっと自分の口の中へと運んだ。
う、美味い…!!
こ、これは、生クリーム自体が美味いのか!?
それとも軽子ちゃんの頬に元々付着していた皮脂か何かの旨味成分により味が増強した…!?
すみません、おかわり頂いてもよろしいでしょうか…!!
…って、軽子ちゃんの事になると俺も相当気持ち悪いな。
須藤 華彩の事を言えたもんじゃない…
しかし軽子ちゃんは僕の その“イケメン過ぎる”行動に対し
照れるどころか、どこか迷惑そうな表情を浮かべ そっぽを向いてしまった。
う~ん、先程から感じてはいたが
やはり今日の軽子ちゃん、なんだか少し様子が変だな…
嫉妬を通り越して、何か苛立ちのようなものを感じる…
いったいどうしたのだろう…何か今日の事で不満でもあるのかな…?
そんな一方で、先程の光景を見ていた須藤 華彩は謎に闘争心を燃やしたのか、突然 持っていたクレープを半分にブッちぎり、自分の両頬にブッ刺して
“hshs…今のを私にも やってくれまいか…////”
と言わんばかりの強烈な視線をぶつけてくる。
あぁ、もうコッチは それどころじゃないってのに…!
ツッコんだら負け、ツッコんだら負け…!
頬にクリームが少し付着しているどころか、もはやクレープ本体が頬を貫通しているようにも見える彼女を何とか視界から外し
僕は軽子ちゃんの本心を探るべく、やんわりと質問を投げかけようとした。
(※クレープは この後、スタッフが美味しく頂きました。)
しかし軽子ちゃんは僕の言葉を遮ぎるように、今日一番の冷酷な表情で ゆっくりと のびをしながら喋り出した。
「あ~なんか私、甘い物 食べたらコーヒー飲みたくなっちゃったなぁ~
ちょっと、有くんと悠仁くんの二人で買ってきてくんない?」
感情の全く こもっていない棒読みのセリフが さらに僕の不安を煽る。
「それなら俺と須藤さんの二人で行ってくるよ!
カップルの お二人は仲良く ここで待ってt…」
「いや、いいから そういうの。
早く男子二人で買ってきてよ。
…ちょっと 女子同士で話したいこともあるし。」
す、凄い圧だ…
こんな怖い顔をした軽子ちゃん、今まで見た事がない…
それに“女子同士で話したいこと”って何…?!
この二人を残して行くのは非常に心配なのですが…!?
「お、おう…
じゃ、ちょっと歩くけど駅前のコンビニでいっか。
いくぞ、有。」
「う、うん…」
僕は去り際、須藤 華彩に“余計な事だけは言うなよ”と無言の念を送り、コンビニへと歩き出す。
しかし、やはり今 この組み合わせは危険だ…何が起こるか分からない…
今日の軽子ちゃん、後半にかけて だいぶ様子が おかしくなっていたし…
僕は左手にスマホを握り締めながら「あ、スマホ忘れた…!」という なかなか大胆な嘘をつき
悠仁を一人先にコンビニへと向かわせ、女子二人が座っているベンチ裏の茂みに身を隠し、コッソリと耳をそばだてた。
「ねぇ、須藤さん。ちょっと聞きたいんだけど…
有くんと私が付き合ってるって事は知ってるわよね?」
「え?
あ、はい… それは聞いていますけど…」
「アナタ…
”私の”有くんの事、正直どう思ってる…?」
「え…?
ど、どうって…
軽子さんの事を誰よりも大切にしている素敵な彼氏さんだと思いますけど…?」
ほっ…よかった…
今 “私の”ってとこに食い付くかと思ったけど、何とか耐えてくれたか…
いやぁ、靴下効果は絶大だな…!
「ふぅ~ん、そっか。
…本当にそれだけ?」
「…え?」
「いやぁ~今日のデート、なんか ちょっと おかしくってさ~
ぶっちゃけ ネタバラシしちゃうと
“悠仁くんと須藤さんをくっつけよう”
っていう裏の目的があったのに
アナタ、ずっと有くんの事ばっかり見てるし、な~んか裏でコソコソやってるし
有くんも、ずっとアナタの事ばっかり見てるっぽくて上の空だし…
なんか二人、怪しくない…?」
「い、いや、気のせいじゃないですか…?
有さんは今日知り合ったばかりの方ですし、別に変な関係などでは…」
「…いつまで しらばっくれてれば気が済むのかしら。」
「…え?」
軽子ちゃんの表情、そして口調が より一層鋭くなる。
そして彼女の口から飛び出した驚愕の一言に、僕は思わず血の気が引いてしまった…
「私、見ちゃったんだよね。
先週、アンタにソックリな人が
有くんの家から出てくるところ…」
……!?
け、軽子ちゃん、俺に内緒でウチに来てたの…!?
行く前は必ず連絡してくれるって言っていたのに…!
「私の事が大大大好きな有くんに限って、浮気なんて絶対に無いと思って安心しきってた。
アンタ、何者かしらないけど、たぶらかすのは止めてくれない?
いったいアンタ、有くんの何なワケ…?」
や、ヤバい…これは窮地…
頼むぞ、ここは上手く ごまかしてくれよ…!
すると須藤 華彩は何もかも吹っ切れたかのように、今日これまで被ってきたマンチカンを振り払い、軽子ちゃんに勢いよく言い返した。
「私の方が…
私の方が、アナタなんか よりもずっと…
有ちゃんの事、大好きだもん…!!」
お゛お゛お゛おお゛おおおい!
急に何言っちゃってんの!?
ねぇ、何言っちゃってんの!?
靴下あげないよ!?
いいの?ねぇ、いいの…!?
お、終わった…
これはもう完全に終了のお知らせですわ…
突然 迎えてしまった逃げ場のない圧倒的修羅場展開…
予想外の返しに困惑する軽子ちゃんと、してやったり顔の須藤華彩、そして茂みの中で小さく真っ白に燃え尽きてしまっている僕の
バッチバチの泥沼三角関係の開幕か…?
僕達はこの先、いったい どうなってしまうのだろうか…!?
彼女が出掛ける度、僕は親指がもげる。 毎日ヨーグルト @mainitiyougurut
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