第3話
翌日、兄は入院先の病院から自宅に戻った。迎えに行ったのはもちろん俺だ。
「何した」
クルマの後部座席に乗り込むなり兄は不機嫌極まりない声で尋ねた。俺は煙草に火を点けながら、
「話し合い」
「馬鹿やろう」
「でも治りそうでしょ、左手」
「……」
兄は苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向き、クルマの窓を薄く開ける。今日はなかなかに良い日和で、外を少し歩くだけで汗ばむほどに気温も高い。
「●●殺しは……」
「殺さない。交渉成立したから」
「対価は」
「稟ちゃん怒るから言わないよ」
知人とその上司と会社の社長と(6年前まであの部屋をきちんと神社扱いしていた管理会社は許すことになった)あとあのマンション建てる時に首塚掘り返してめちゃくちゃにした連中の情報を差し出したなんてそんな、兄の基準では人でなしの所業だ。でも俺に言わせれば、それまでそこで静かに眠っていた相手を急に叩き起こして踏み付けた連中の方がずっと悪じゃない?
「神殺しは、おまえの負担もでかい」
「だーから殺してないっつってんじゃない! 結構話通じるヒトだったよぉ」
ギプスで固定された左手を撫でながら、兄は小さく首を横に振った。これは俺のやり方。兄とは違う。神殺しなんてマジでやったら俺も死ぬからできるだけやりたくない。俺は俺と兄の命がいちばん大事なので、こうやってちょっとズルに見える方法を使って物事を解決する。誰からも何の報酬も発生しないのが惜しいところだけど、ま、できるだけ長生きして色々やってみたいしね。神様に恩を売っとくのも悪くないんじゃね?
15階角部屋 大塚 @bnnnnnz
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