ライトノベルというもの

@red_saika

第1話

 息子は中学生になったころから小説をよく読んでいる。ライトノベルというやつだ。漫画を読むよりはいいかと思い何も言わないでいたらいつの間にか息子の部屋には百冊を超える小説が並んでいた。勉強嫌いで国語の教科書もまともに読まない、夏休みの宿題の読書感想文には毎年頭をかかえている。そんな息子がこんなにも小説にはまるなんて。


 若い頃は私も小説を読むのが大好きだった。私が主に読む本はミステリー小説。刑事や探偵、一般のサラリーマンが事件に遭遇。犯人を追い詰める場面ではハラハラして読んだものだ。でも四十歳手前になり老眼が進んだ。文字が見えづらくなりすっかり本を読むのが億劫になってしまった。でも息子がどんな内容の本を読んでいるのか興味がある。


 息子の本を手に取ってみる。表紙にはやたらと胸の大きな女の子が男子学生に抱きついているイラストが描かれている。男子学生はどうしたらいいのか分からないといった表情だ。女の子の方が積極的な感じがする。

 中身をパラパラとめくってみる。新しい本から漂うインクの匂い。昔はこの匂いが好きで本を買うたびに吸っていた。挿絵が多くあり、会話文も多そうだ。これならすぐに読み終えそう。


 読んでみる。主人公は平凡な男子学生。異世界に飛ばされてその世界を破壊しようとする魔物から世界を救う為に出会った仲間たちと奮闘し、最後には魔物を倒し英雄になるという物語だ。

 平凡で何も取り柄のない、容姿もいいとは言い難い主人公だが、突然秘めた能力を発揮する。何の努力もしていないのに。そしてこれがやたらともてる。びっくりするくらいもてる。しかも好意を寄せてくる女の子たちはそれぞれ優れた能力を持ち、容姿もかなり良く描かれている。ライバルもイケメン。それなのに主人公はヒロインと結ばれる。

 思わず突っ込みを入れたくなるような内容だった。しかし思い出してみる。昔読んでいた少女漫画の主人公は平凡な女の子。それが校内一のイケメンや優しい生徒会長、ツンデレな幼馴染に好意を寄せられる。または突然戦士となり襲いくる敵を仲間とともに可愛い戦闘服を着て戦う。他には魔法が使えるようになり人々を幸せにしていくといった漫画だった。小さい私はこんな世界に憧れ夢をみていた。 

 もちろん、漫画のような世界が現実に起こるはずがないことは知っている。だがそんな世界に浸れる少女漫画は大好きだった。今この文章を書いていてそのことを思い出した。


 息子も小説の世界が現実ではないことは知っている。でも願望が詰まった世界に憧れる気持ちは私の若い頃と一緒なのだと思うと顔が緩んでしまう。


 これからももっとライトノベル系の小説は増えていくだろうし、ゆくゆくは小説家になりたいとまで言い出した。最近は小説投稿サイトに自分の書いたライトノベルを投稿している。それは構わない。息子は若いし未来に向けていくらでも可能性はある。しかしそれは今ではない。

 明日は期末テストだ。勉強しろ。

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