Last Episode 再会。そして先へ

 部屋に入ってきた二人の男女。どちらも若く見える。


 男の方は、黒髪黒目で長身。ほどよく筋肉が付いており、体格が良い。


 女の方は、ダークブラウンの髪をポニーテール束ね、瞳も髪と同じ色。華奢な身体で、伸長はそこまで高くはないが、女性の平均身長といった感じだ。


 そして、どちらもシンのことを知っている。


 シンはそんな二人を見て、目を剥いて固まってしまっている。


 「おいシン、どうした?」


 「まだ気分が良くないのかしら……?」


 その二人は心配そうにシンを見る。


 「父さん……母さん……?」


 シンの喉からそんな言葉が込み上げてくる。そして、自然と目尻から涙が出てきて、頬を伝う。


 「ああ、大きくなったなシン」


 「心配掛けてごめんなさいね、シンちゃん」


 二人はそっとシンの傍まで来ると、ベッドの上に座っているシンを抱き寄せる。


 「父さん、母さんッ!」


 見事家族との再開を果たしたこの光景を、彩葉、風花、柚葉は涙ぐんで見守っていたのだった────



 「えー、俺が寝てる間にもう知ってるだろうが改めて……」


 シンは、自分の右隣に立つ男に注目するよう手で示す。


 「こっちが、俺の父さん──市ヶ谷 悠人はるひと


 紹介されたシンの父──悠人は、前に並ぶ彩葉、風花、柚葉にペコリと頭を下げる。


 続いてシンは、自分の左側に立つ女に注目するよう手で示す。


 「こっちが俺の母さん──市ヶ谷 翔子しょうこ


 シンの母──翔子が「翔子でーす」と言いながら、ペコリとお辞儀する。


 そして、シンは場所を移動。彩葉、風花、柚葉のいるところに立つと、両親の方に向き直る。


 「んで、コイツらが俺のパーティーメンバー。後輩の彩葉に、お嬢──ぐはっ!? まあ……風花、アドバイザーの柚葉だ」


 シンは、横腹を風花に肘で突かれながらも、簡単に紹介する。


 すると、翔子が悪戯っぽく笑みを浮かべながら、シンに尋ねる。


 「で、どの子が本命なのかしら~?」


 翔子の言葉に、女子三人が顔を真っ赤に染め上げる。シンも慌てて首を横に振る。


 「こ、コイツらはそんなんじゃねーよッ!」


 「ふふ、そうかしら?」


 「そうです!」


 シンはそう断言し、無理矢理に話を切る。


 すると、今まで無言で様子を見ていた機械の少女が、皆の前に立つ。


 「【告】マスターの準備が完了。これより拝謁しに参上するため、同行を希望」


 「ん、マスター?」


 シンが少女の言葉に疑問符を浮かべる。すると、彩葉がシンに耳打ちして伝える。


 「国王ウィル様です、先輩が起きたら皆でお話ししに行くことになってたんです」


 「な、なるほど……」


 そう言うわけで、シン達は少女に連れられて国王が待っているという部屋に向かった。


 所々壁に額縁で飾られた絵が吊るされていたり、漫画やアニメでメイドが割って主人に怒られるためにあるような高価そうな花瓶が置かれたりしている長い廊下を進んでいき、やがて大きな扉の前に辿り着く。


 「【告】マスター、探索者らをここに」


 少女は扉の外から声を掛ける。すると、中から野太い男性の声で「入れ」と一言返事が返ってきた。


 「【了】」


 少女が扉を開ける。


 立派で大きな石の長机を囲うように、これまた立派な背もたれが高い椅子が並べられている。


 そして、その机椅子のあるところから段差一つ分上がったところに、豪華な椅子が一つ置かれていて、そこには一人の壮年の男性──マキアリシュタ魔導科学国国王、ウィルが深々と腰を掛けていた。


 そして、ウィルの傍らには、シン達を連れてきた少女と同じような存在──機械だと思われる、外見性別様々な者達が計五名並んでいる。


 ウィルは白髪の混じった黒髪で、瞳は赤、左手は義手だ。そして、全身から無意識の内に滲み出ているのは、王の貫禄。


 「よくぞ参った。さあ、腰を掛けなさい」


 ウィルにそう言われ、シン達は椅子に腰掛ける。それと同時に、シン達を連れてきた少女は、他の者らと同じように、ウィルの傍らに並んだ。


 「うむ、そなたが悠人と翔子の息子か」


 「あ、はい。市ヶ谷 シンと申します」


 シンはウィルにペコリと頭を下げながら名乗る。


 ウィルは「そうかそうか」と、市ヶ谷一家が再会出来たことを嬉しく思うように頷く。そして、一つ咳払いして体裁を整えると、真剣な眼差しに戻る。


 「さて、皆揃ったことだし本題に入るとしよう。なぜそなたらをここに連れてきたかについてである」


 そう言うとウィルは、「この話はそなたらにはしたな?」と確認を取るように悠人と翔子に視線を向ける。二人はそれに応えてコクリと頷く。


 「それを話すためには、まずそなたらの言う迷宮ダンジョンとは何かについて話さねばならんな」


 ウィルはそう言うと、迷宮ダンジョンについて話し始めた────



 ────迷宮ダンジョンとは、一言で言えば異世界の一部の空間が切り離され、地球に現れたもの。


 なぜそんなことが起きたのか、原因は不明だが、異世界の各地で今まであったものが突如消えてしまったという出来事が多発している。そして、その消えたものが地球に迷宮ダンジョンとして出現している。


 異世界の各国が全力でその原因を究明しているが、未だ謎のまま。このマキアリシュタ魔導科学国もその一つで、まず自国の消えた箇所の捜索に、『マキナス』──高度な知能を保有した人形機械を向かわせることになった。


 そして四年前、くだんの未知迷宮で瀕死の悠人と翔子を保護し、連れ帰った。


 それから四年間、地球に現れた迷宮ダンジョンの詳しい情報、探索者についてなど、悠人と翔子はこの事件の原因究明の手伝いをすることとなった────



 「なるほど、それで父さんと母さんは行方不明になってたわけか。って、連絡くらいよこせよな……」


 シンが机越しの対面に座る悠人と翔子に呆れたような視線を向ける。


 「あはは……そうしたかったのは山々なんだが、こっちの世界から迷宮ダンジョンに行くには、なかなか問題が多くてな。つい最近、安定して行き来できるようになったばかりなんだ」


 悠人がシンに申し訳なさそうに説明する。


 「で、本題だ──」


 ウィルが椅子から腰を上げて立ち上がる。


 「皆に、地球側から迷宮ダンジョンの謎を解き明かしてはくれぬか?」


 その言葉に、シンはデジャブのようなものを覚える。去年ギルド長からも同じようなことを言われたからだ。


 「我らはこちらから、そなたらは地球から……両面からこの謎を解いていきたいのだ」


 シンは戸惑いの色を浮かべながら、皆の方に視線を向ける。


 「先輩が決めてください。私は先輩に付いていきます!」


 「貴方の好きなようにしなさいよ」


 「私は市ヶ谷さんのアドバイザーですから!」


 その言葉を聞き、シンは悠人と翔子の方に顔を向ける。


 「シン、やってみよう」


 「迷宮統括協会ギルドにも協力を仰がなくちゃね」


 二人ともやる気のようだ。シンはそんな二人にコクリと首を縦に振ると、ウィルの方に視線を向ける。


 「わかりました、俺達にどんなことが出来るかはわかりませんが、出来る限りお手伝いします」


 「そうか、感謝する!」


 ウィルはシンの方へ歩いてくると、手を差し伸べてきた。シンはその手を取ると握手を交わす。


 「あ、でも報告とかはどうするんですか? わざわざこっちの世界に来るっていうのも非効率だし……」


 シンがうーんと唸り、頭を捻りながら尋ねる。すると、ウィルが「心配ない」と言って、視線を後ろに向ける。


 「このマキナスを連れていくがいい。マキナス同士はいつでも連絡が取れる、報告などはコイツを頼れ」


 すると、シン達を連れてきたマキナスの少女が前に出る。


 「わかりました」


 「まあ、帰るまではこの国でゆっくりしていくと良い。その間の世話もコイツを頼ると良い」


 そう言うわけで、シン達は目的である悠人と翔子との再会を果たし、今日から二日後、地球へと帰還した。


 紆余曲折あって、迷宮ダンジョンの謎を解明するための手助けをすることになったシン達。これからもシン達の探索は続いていく────

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非戦闘系職業の成り上がり ~生産職【魔法具製作師】の俺が、革新的な自作魔法具使って力を底上げ。そのまま最強目指して探索、無双する! 水瓶シロン @Ryokusen

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