第7話:移動
「不規則な電磁波は、出ていますが放射能はないですね」
「ふむ」
教授とローリアさん、それに総勢10名のスタッフが宇宙用ローバーに乗って月面の洞窟の入り口まで来た。
スタッフの殆どが、厚みのある宇宙服を着て表で作業に取り掛かっている。
僕とローリアさんと教授はローバーの中で待機。
側から見ると宇宙服は動きずらそうでだけど、重力が1/6なので思ったより苦労がないらしい。
ここに居る人達の宇宙服には、それぞれが判るように色やデザインが個別にあり、ローリアさんの物は桜と空色のグラデーションがかかっていた。ほんの少しだけ体型に合うようにくびれがある。他の人の宇宙服より強度はなさそうだけどスタイリッシュだ。なので彼女の体のラインも少し綺麗に出ていた。
「ローリアさんのそのスーツデザイン、素敵ですね」
見惚れて、つい口に出して言ってしまった。
「ん?ンフッ〜いいでしょう?」
そう言って、その場で綺麗にくるっと回ってポーズをとった。
スカートが付いていたら重力と相まって、ふわっといい感じに舞ってるんだろうなと思っていたら、彼女のマスクの中から少し真面目な顔して僕を見た。
「ねぇ、ジョナサン!」
「はい?」
「いつまでも、『さん』付けで呼ばれるの嫌だなぁ・・・」
「えっでも、僕NPCですし・・・」
「関係ないよ、ここはゲームの世界じゃなくて、私たちの現実世界だよ。いつまでも私たちと馴染めてない感じがして、嫌だなぁ〜」
「え〜・・・じゃぁ・・・」
いきなり言われて呼び捨てってハードル高い。
「ローリア・・・・・・・さん」
つい恥ずかしくて、つけてしまった。
「いきなりは無理かぁ」
彼女はしょうがないなぁといいたげに笑顔で答えた。
「あっでもジョナサンの事は『サン』抜くとジョナとか変だから今まで通り呼ぶね!」
「ふむ〜ジョナサンのAIには、上下関係と照れの概念はあるようじゃの」
「ひやぁ!」
教授が後ろから急に話しかけてきたのでおどろいた。
「もうっ!教授!急に話しかけないでください!」
「いやぁ、少しは待ったのだよ?でも話長そうだったから」
教授はヘルメットの上から顎髭を触るしぐさをした。
「それで、あっちの世界はみんな照れや上下関係などはあるのかね?」
「ええ、もちろんあります。王様もいますし、お客様にはなるべく」
「遊びに行けばわかりますよ」
「年寄りは新しい事は苦手じゃわい」
「ぼけ防止に丁度良いのでお勧めします」
「ジョナサンくんが来てから瑞樹君のツッコミがキツくなって来たのぉ」
「教授が新しい事・研究対象が来てはっちゃけてるからですよ。程々にしてください」
「チェー」
シュタイナー教授がお年の割に子供っぽくふて腐れて見せた。
「教授、ジョナサン、準備ができました」
スタッフの一人が無線で連絡をしてきた。
向こうでこっちに向いている人がいるのであの人が話してきたのだろう。
「それじゃぁ、始めましょうか。」
「はい!」
そういうと僕達は、ローバーの出口に向かった。
電磁波を遮断した月面ローバーのドアがゆっくりと開く。
まずはここに降りて、なにかしら僕に影響があるのか調査をする。
僕は左右についた三角形のキャタピラを回し開いたドアに近づき表の段差から降りた。
手足が無いのでバランスが取り辛い。
他のスタッフさんが、心配でボディーの軸に手を添えてくれる。
ローリアさんも少し距離を置いて不安そうに見守ってくれる。
「どうじゃ、何か聞こえたりしないかの?」
教授はモニターに映る僕の顔を覗き込んだ。
「いえ、今のところは全く」
「体調変化は?」
他のスタッフさんが声をかける。
「ん〜と、少しスッキリした感じがあるかもしれません。」
「ふむ、気圧と空気が抜けて電圧が安定したようじゃの。想定の範囲内じゃ。」
月面の大地に降りたのは2回目。と言っても1回目は仮想空間に作られたモックの世界。
あの時は天井ドームがあり基地の下地があったから少し視界に空気の厚みがあるような気がした。
今回は完全な宇宙空間。
多少月面の重力に引かれて空気が残っているにしても、太陽光が月面に反射した光が空気の抵抗は無くダイレクトに僕たちに届いている気がする。
そしてこの先の洞窟に、例のシリコンがある。
どの程度の距離で、例の意識を持った者が僕に接触していくるかわからない。
それこそ、僕の世界を引っ掻き回してくれた冒険者Aかもしれない。
でも今の所、そんな気配はなさそうだった。
「何も反応無いかな。現地はどう?」
「これと言って変化なしです」
「だそうです」
ローリアさんも自分の端末と周囲のセンサーを見比べ無線で職員に確認をとった。
仕事の出来るキャリアウーマンな感じで頼もしい。
月面に平坦に整備されたコンクリートと呼ばれる道があり、その道の端っこに設置された電磁波測定装置が等間隔に並んでいる。
ここから例のシリコンが埋まっている所までの道は整備され、各装置に何かしらの影響が出てきたらすぐに各職員に連絡が飛ぶようになっていると説明を受けた。
「太陽側からの電磁波も安定しています」
「じゃぁゆっくり移動するかの。瑞樹君は距離を置いて付いてきてくれ。その宇宙服じゃ何か飛び出た時に、当たって怪我するかもしれん。」
「この道、一度は調べたんですよね?」
「学者は常に警戒するもんじゃ。それに瑞樹君だけは、臨機応変に動けるようにシンプルな装備にしておる。距離をしっかりとるんじゃよ」
「わかってますよ」
「でも、危ない事があるなら僕が必ず守ります」
そう言った後、ローリアさんの方に振り返ると、嬉しそうにしていた。
この事は僕の中では何故か絶対的な観念として存在していた。
NPCが魔王を倒して何が悪い! Out of Circle : Stage2 unu @silverstrings
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