第6話:カリブヒル

「暇なんだな、この国のお偉さんは・・・」


 西洋の木造建築の中で営業している居酒屋で、ガタイの良い大男が木製のビアマグを口にしようとしたところで、後ろから、身なりのいい男が近づいてきた。

 ガタイの良い大男は、体育会系イケメン風だが体躯は筋肉質で身長もある。寡黙なイメージがある。

 対して身なりのいい男は、大男ほど身長は無いが、歩き姿から物腰は柔らかく、貴族の出身のような出立で、目つきは鋭いが坊ちゃん風イケメンだ。

 ただ、その顔もフードをかぶっているのでよく見えない。


「もう少し敬いってものが欲しいんだが・・・一応お偉さんなんでね」

「俺たち冒険者は、お前達からみて神って設定だろ?」

「不特定多数の冒険者様に媚びへつらうお偉さんを見て、モチベーション下がらないかね?世界観ぶち壊しだと」


 後からきた男は、椅子に座るとウェイトレスにビールを頼んだ。


「だったら、紋章官のウォーレンでも使ってくれりゃいいものを・・・」

「たまに行う自分で外の情報を収集する行為が、国民に取って良いイメージアップにもなるのだよ」

「お忍びじゃなかったか?それじゃぁイメージアップもクソも無い」

「そこは気がつく人が気がつけば良い。んで、今日は無駄話をする為にここに来たわけでは

 無いぞ。聞きたいのはその後どうなっておる?」

「沈黙だな。それこそ、メディアに出ている情報以上は俺のところには来ない。一般のメディアニュースぐらい、アクセスできるんだろう?」

「さてねぇ。それは我の口から言えたものでもない」

「そっちが情報を制限しているのに俺からの情報を引き出そうとか、フェアじゃないな」


 身なりのいい男はウェイトレスから受け取ったビールを一口飲むと笑い出す。


「はっはー!確かにそうだ。だが、我の言動一つで監査官殿から上へ資格無しと言い渡されてもたまらんからな。」

「俺はがここにいるのは、業務外の趣味だ。それに、政府もすでに決定を下しただろう。月で人工冬眠する連中らの意識は、この仮想世界で生活してもらうって。」

「月か・・・月ねぇ・・・想像つかんな・・・」


 そういうと身なりの良い男は窓の外に映る月を遠目で見て呟いた。

 その月は仮想空間の満月だ。

 大男の住む現実世界では一部の人は月で生活をしている。

 大気が汚れた地球ではほぼ地下以外では生活できなくなったからだ。

 だが、人をそのまま生かしておくにはコストがかかる。

 なので月に人を送り込み、そこでハイパースリープ《コールドスリープ》をして貰う事になっている。

 ただ、そのまま眠りに付き人の意識を止めると、復活した際に脳に異常がきたされる。

 なので、その対策として、この二人がいる仮想空間の世界、ロールプレイングゲームの世界に人の意識を移して、いつの日か肉体が目覚めるまで、生活をして貰う事になっていた。

 もちろん普通に遊びに来る人もいる。

 一時期複数のゲームの世界が選定されていたが、つい最近その選定にこの二人がいる世界がいくつものトラブルを乗り越えて『特定医療行為』の対象として選ばれた。


「俺から運営に聞きたい事はまだ継続して調査しているのかどうかだ。」


 ガタイの良い男はあえて『王』という言葉を外していった。


「『運営』?ってのはなんの事だね?」

「ちっ!!」


 身なりの良い男は惚けた事にガタイの良い大男は舌打ちした。

 今回もボロを出さなかった。この身なりの良い大男は『AIのNPC』なのか『中に人間が入っているNPC』なのか、分からない中途半端な存在。ガタイの良い男はそれによって出す情報を選ぶつもりなのだが、未だに判断がつかないでいる。

 身なりの良い男は、狙った通りの舌打ちをしてくれた反応を見て話を続けた。


「世界選定の監査官としては気になるだろう?こちらとしても本当の魔王の痕跡を今も継続して調べているが、今の所一切情報は無いんだ。

まぁ今言える事といったら、今回の魔王イベントに関しては思ったより参加者率が高い。正直順調すぎて驚いてる。この世界も安定しているし、もう少し冒険者が増加してもなんとか対応はできるだろうな。」

「だが、本当の魔王を引き寄せる釣りにもなってない。」


ガタイの良い大男の言葉に身なりの良い男が肩をすくめた。


「少しは何らかの反応があっても良いかと思ったんだけどな。あったらあったで大事になりそうで面倒だ。かといって、魔王に関するイベントを無下にすると冒険者からも色々と言われるしな。」

「イチ冒険者として『安心安全』にサービスを受けられるに越したことはない。良かった良かった。」


ガタイの良い男はそういうが、全く安心安全を感じてはいなかった。なんの情報も出てこない。それは裏で大きな不幸の準備がされている可能性がある。それが1番の不安だからだ。


「不満そうだな。お詫びのメールは個別に送っただろう?」

「一般冒険者ユーザーがお詫びメールだけで納得するとでも思ってるのか!」

「特別イベントに参加出来たというお名目で満足して欲しいところなんだが。」

「半端な対応だと、不満が爆発して一般冒険者から報酬か課金額全額返済を求めてくるだろうな。そこら辺解っているよな?」

「んん〜報酬はともかくもう一つの方は何の事かね・・・おっとそろそろ公務に戻らなきゃな」

「酒飲んだ後に公務かよ!」

「んじゃそう言うことで」


 身なりの良い男はテーブルに小銭を置くとそそくさと店の外に向かった。


「あっおい!」


 ガタイの良い男が引き止めるも男はそそくさと店の外に出て行った。

 サービス利用料金の事をNPCが言うと、世界感が壊れる現実世界に戻どされる事もあるから基本的には一切喋らない。

 このファンタジーロールプレイングゲームの世界では一般のNPCは話せる事と話せない事の境界線がはっきりとありを踏まないようにしているが、身なりの良い男はそこら辺しっかりとわきまえて攻めた話をしていた。


「金は置いていったが、今回もボロを出さなかったか・・・」


 店の入り口を恨めしそうに見ていたが、そこから入れ違いに初老の男と背の小さい少年が入ってきた。

 先に背の小さな冒険者風少年が声を掛けてきた。


「やぁドゥベル。」

「今のはお忍び中の国王かの?」

「お忍びってよりか不安を撒き散らして帰っていった。」

「そりゃ不安でしょう。よく分からない知的生命体に世界を荒らされちゃ。」


背の小さな少年がそういうと、魔法使いの初老の男が足を止め改まって言葉を開いた


「全世界、全人類が恐れた。その存在に・・・」

「いつの世代の映画の文句?」

「ミランにツッコミを入れられると言う事はまだまだ使えるのぉ。」


 初老の男性は少年に向かって笑って見せた。


「あ〜あ・・・年寄りを調子に乗せちゃった・・・」

「それはどういう事かノォ?」

「キャッチコピーはともかく、冗談抜きで恐れなきゃいけないのは人類に害を成すかどうかって事だけだ。」

「人がハイパースリープしている間にこの世界に人の意識を移住させるのにバグってたら不安だよね。デジタル的にも物理的にも。」

「でもわしらに今やれることは酒を飲む以外無いと。」

「そうだな。という事で、おいソコのNPC二人!」


 ガタイの良い大男ドゥベルが、隣の席に座っていた労働者風NPCに声をかけた。


「王様に行っておけ、本当に何も情報はないって。」


二人は驚いた。


「王宮の情報収集業務官だろう?王から依頼されているのは知ってる。」


 労働者風NPCの2人は、一度ドゥベルと目を合わせると、そそくさと店を出て行った。


「何客を追い払ってるんだい!あんたらがここで時間を潰してくれた分だけお金を落としてくれただろうに。」


 恰幅の良い店の女性店主のNPCがドゥベルの席に出てきた。


「おや、ジア店長」

「奴らに無駄に時間外勤務をさせても可哀想だからな。」

「今時の冒険者さんはNPCにもお優しい事。でもこっちのNPCにももっと優しくしてくれなきゃね。」


 ジア店長はNPC2人に出す予定だった酒と料理をこっちのテーブルに置いた。


「頼んでないんですけど・・・」

「奴らに出す予定だった料理、しっかりと払ってもらわなきゃね。」


 ジア店長はそういうとニンマリとした笑顔を作り、拒否をさせなかった。

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