第5話:研究室とローリア
食事を終えたローリアとジョナサンと呼ばれた端末は、施設内にあるラボへ来た。
「おっ来たか。ジョナサン君と瑞樹君・・・ローリア君と行ったほうがいいか?」
白衣を纏った細身だが身長がある初老の男性が部屋に入るなり声をかけてきた。顎髭があり、貫禄を醸し出している。
「教授!そのハンドルネームは、ここでは使っていないので辞めてください。それに下の名前は両親と親しい中だけです。あっジョナサンはどっちでもいいよ。」
「寂しいのぉ。もう少し親しくなりたいのに。」
「アレハンドロ・シュタイナー教授。公私の分別はお願いします。」
ローリアさんはにっこりと笑顔を教授に返しす。
「それよりもさっき、ニュースで流れていましたよ。例の月の中に埋まっていたシリコンについて」
「うむ、私の方にも朝一で連絡が来たわい。今のところ何の反応も示してはいなようじゃ。ジョナサンの方は何か変わった事はあったのかの?」
端末はくつろいだ様子をモニターに移していたが、少し考えている様子を見せた。
「いえ特には・・・」
自分には確かにニュースで流れていた月のシリコンについて、関わりがあった。それも、3ヶ月前にその事実を知ったばかりだった。
『月に存在する意識』
そして意識を格納する物質がこの月にある。それが、さっきニュースで流れていた月のシリコン物質。
太陽の電磁波の中で生まれた意識が自ら繁殖するべく月の中に自分の複製体をコピーした存在。
と、あいつは言っていた。
元々僕はファンタジーロールプレイングゲームの中のしがない武器屋。
『月に存在する意識』が僕達のゲームの世界に干渉して、平穏を乱した事から始まり、最後は追い払ったけど、僕はその時、奴との戦闘中で仕方ない事だとはいえ、バグを利用して月面の機密情報を全て知ってしまった。
だから、僕はここで厳重管理されている。
「もう、ここの生活に馴染んだ見たいだね。ジョナサン!」
教授は部屋に入るなりソファー横の端末の電源端子に接続して、お茶を飲んでいる僕にそう話しかけた。
「おかげさまで、流石に・・・ですね。」
本当は落ち着きたい為に毎回この部屋に入るとルーチンワークとして、お茶を飲んでいる。僕にとって、ゲームの外の世界は想像するしかなかったのに・・・
ホームシックにかかっているところもあると思う。
僕の世界の大事に経営してきた武器屋・・・今は営業も手入れもされていない。その事も気にしなきゃいけないけど、こちらの世界で罰せられる可能性もある事を優先して気にしなければいけない。
教授は、
「情報不正アクセスの可能性?単純なバグを放置して置いてそれはないな。君も存在する事に必死だったんじゃろ?」
そう前に、言ってくれた。
気休めに聞こえたけど、事実、今現在も自分が罰せられる様子もない。
「ゲームの中とは言え、私を助けたという行為と、『月に存在する意識」の何かのトリガーになるんじゃないか、という理由もあるかもよ。ジョナサンは私たちの切り札カード、期待しているんだから」
とローリアさんも不安を和らげてくれるように言ってくれた。
元いたゲームの世界に戻れない事もあってここで保護してもらっている。
「どのタイミングになるかわからんが、直接の接触はこちらから伺う事になるかもしれんの。」
と、教授の白衣の下からベルが鳴った。教授は携帯電話を取り出すと、2・3回頷き携帯電話を閉じた。
「今から、ジョナサンに聞きたい事があるそうじゃ。問題ないな?」
「はい。今日もここでですか?」
「ああ、向こうから来てくれるそうじゃ。」
教授はそういうと奥の自分のデスクに座ってPCのキーを叩き始めた。
これから僕に会いに来る人は教授は好きではないらしい。
「それじゃ、お客さんが来る前に調子チェックをしましょうか」
そう、ローリアさんは楽しそうにいうと、僕の端末の下の方にある端子にケーブルを繋げた。
「おふぅ。」
その電位的ショックで僕はモニターの中でお茶をこぼしそうになった。
毎度、この『調子チェック』をやっているけど全然慣れない。
「ローリアさんもう少し優しくしてください。それに無線接続でもできる事だと思いますしぃ。」
「ん〜」
ローリアさんは少し考えるようにうなると、意地悪そうな目をして僕を見た。
「やだっ。そのジョナサンの顔をみるのも私の楽しい仕事だもん。」
そういうローリアさんは子供の悪戯をするときのような笑顔を見せた。
僕は僕で、彼女のその笑顔が好きだった。
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