第4話:食堂
茶色い髪を編み込み頭上でまとめている研究員の格好をした女性が、テーブルで食事をしていた。
その女性の顔立ちは柔らかな幼いイメージがあるけど端麗でもある。笑顔をふりまき優しく接してくれそうだった。静かに食事をしているように見えるので、何も知らない男性は声をかけそうになるが、ここの男性職員は知っている。
彼女は、親しい者以外は結構冷たく当たる性格なのだと。
決して人嫌いというわけではない。
女性同士なら気を許して話すし、男性でも、気心知れた人なら、もっと冷たく当る事もあるが決して嫌う事はない。
でも今は、一人という訳では無かった。
彼女の着いたテーブルの横には移動式端末が設置され充電している。
その様子は、召使いの変わりにお手伝いロボットを側に置いて食事をしている白衣を着た姫のようだった。
「よう、ジョナサン!」
別の白衣に身を纏った男性がその姫に声をかける代わりに端末に声を掛けた。声をかけられた彼、移動式端末は声がかかった方面にカメラ付きモニターを向ける。モニター内には、青年の男性がハンバーガーを手に食事をしていた。どっちかというとイケメン風の短髪で金色の髪が振り向いた時にサラッと流れる。
「あっとー、ヒロム・マキタさん?」
「そうそう、ファーストネームで呼んでくれていいぞ、ジョナサン。」
ヒロムと呼ばれた男性は笑顔を作り、テーブルに身を乗り出してきた。その行動に女性は手に持ったフォークとナイフを止めた。男は自分の体が女性の食べ物の上あることを気にしていない。
「その後、何か思い出す事はあったか?」
モニター内のジョナサンと呼ばれた男性は少し困惑した。
「いえ特には・・・例のシリコンが見つかったと言うから僕の方にも何かあるかな?とは思ったのですが・・・」
「何もないと?」
「そのようです。」
白衣の男は顎に手を置き考え込んだ。
「そっか〜もう少し時間かかりそうだな。じゃぁさ・・・」
「先輩!今、食事中なんです。何かあったらレポート提出しますので、それまで待っててもらえませんか?」
ジョナサンと呼ばれた移動式端末の横で食事をしていた女性がコーヒーを飲み干した後カップを少し手荒に机の上に置いた。
「え〜気になるじゃん。地球人以外の知的生命体がすぐ近くに居たかもしれないんだぜ?」
「その存在が不確定だからこそ、そんなに気楽には話せません!」
「神と言われる存在かもしれないんだぜ?」
「余計に悪いです。」
「少なくとも僕とローリアさんは、厄介事に巻き込まれましたしね。」
「ゲームの中だろ?」
「守秘義務です。少なくとも他の職員に聞かれるこの様な場所では答えられません。」
そう言うとコーヒーカップを口に近ずけてモニターのジョナサンの方に目をやった。
「ジョナサンも気軽に答えちゃだめだよ。」
「あっはい・・・と言うことでヒロムさん。また今度、別の話題で」
「はいはい、お目付役が居ない時にな。」
女性はぎろりとヒロムと呼ばれた男性を睨みつけたが、すぐに顔を緩ませた。
「あれ・・・・」
ジョナサンはヒロムの白衣の背中に茶色いシミが付いていたのに気がついた。
シミは文字になって読めた。
『お子ちゃまハゲ』
ローリアと呼ばれた女性が、ヒロムがテーブルに寄りかかって食事の邪魔をしている間にフォークの先に付けたケチャップで文字を描いていた。
「ローリアさん・・・」
ジョナサンと呼ばれた端末はそのモニター内でしょうがないなぁと言った表情をした。
「いいでしょ。たまには。」
ローリアと呼ばれた女性は少し笑顔をジョナサンに見せる。ジョナサンもその表情に安堵し、食事に戻ろうと思った先で気になる音が聞こえた。
ヒロムの行った先にある壁面のモニターが、今話題にした事と関連するニュースが流れていた。
『先日、月面ヴヴァール渓谷の洞窟内で見つかりました未確認意識体を閉じ込めたシリコン物質の大体の大きさが把握されました。
今だ解明が進んでいない、この物体は我々人類が地球で営みを始める前から存在していた可能性もあり、何かしら地球の全ての生物に影響を与えていたかもしれません。
その実態についてコメンテーターの・・・』
モニターには洞窟に照らされた綺麗な黒光する平面が表示されていた。黙って見ていたこの施設の他の職員もそのニュースに注目している。
「あれが、噂の神か?祭壇でも建ててお供物でもしとくべきか?」
「そんなの資源の無駄だし、そんな余裕は何処にある?」
「でもこの先、下手したら人が犯した過ちに鉄槌を下されるかもしれないんだぜ?」
「ああっ奴・奴らが人に対してどう思っているのか。確かに不安はあるな。」
モニター前の男性職員話の終わりに、モニターから天井に見える赤茶色の惑星に目をやった。
ジョナサンと呼ばれたモニターもカメラを同じ方向に向ける。
あれは地球。
あの赤茶色にくすんだ雲が覆う星が地球。
以前は青い海と白い雲に覆われた綺麗な星だったそうだ。
あの星で戦争が行き着くところまで行き、使ってはいけない兵器を持ち出した結果、人は地表では生活ができなくなった。僕とローリアさんの知り合いもあの茶色い地球の中に今も生活を続けている。
「僕の住んでいた世界も、いずれああなるのかな?」
「それはないよ。絶対に」
女性は力強くそう言うと食事の締めにコーヒーを一気に飲み干した。
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