第3話:施設

 まだ暗い中でその女性は目が覚めた。


 ほぼ密室で窓は無い。


 この場所は日の出が24時間に16回あり、人の体に染み付いた内臓時計と噛み合わなくなるので密室になっている。

 少し体を起こすと、部屋の四隅にある暖色系の室内灯が自動でゆっくりと明るくなる。

 壁にある窓に模したモニターにも、地球上のどこかの景色が写り日の出を映し出す。


 小鳥の鳴き声と木々の葉の音の聞こえてくる。


 全部、寝ていた人の行動に合わせて自動で流れるその演出は、この世界で生きていく人にとって、体に染み付いたバイオリズムを整える為に必要な演出だった。


 女性はハッキリとしない意識でモニターに映る景色を見る。

 その景色は、もう誰も見る事はできない過去の映像。

 女性は、その見慣れた景色を横目に、ため息をして腕を上げて体を伸ばした。


『ローリアさん、起きてますか?』


 反対側の壁に写った玄関モニターから声がした。

 その女性は少し間を置いてから答えた


「ん・・・ジョナサン?」

『ハイ・・・起こしちゃいましたか?』

「ううん。今起きたところ」


 ローリアと呼ばれた女性はベッドから身を起こして、自分の部屋にある端末を除いた。改めて、そこから声がしていないのを確認する。

 部屋の中の端末は電源は落としているので、部屋の外にいる事を再確認した。


「でも待って。今、身支度するから30分後にお願い」

『分かりました』


 女性は玄関モニターに手を伸ばして電源を落とすと、パジャマを脱いで、シャワー室へ入っていった。


廊下ではキャタピラ付きのモップのような棒の先に四角いモニター付いた移動式端末が車輪を回して扉から少し離れて壁際で待機していた。


 「よう!ジョナサン!」

 「ジョナサン!おはよう!」


 通りかかった、白衣を着た職員達がそのモニター付きデバイスに声をかける。


 「おはようございます」


 デバイスのモニターが職員の方に向くと職員は手を振り通り過ぎる。デバイスは手を振る代わりにモニターを少し傾けて返事をする。

 このやり取りもずいぶんと板についた。

 全てこの扉の向こう側にいる女性のおかげで、今はこの施設で過ごす事にも慣れた。


「お待たせ。いつも時間をかけてごめんね」

「いえ、僕も他にすることないですし」

「行きましょう」


 そう言うと二人は食堂に向かって移動をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る