ないものねだり

三枝 優

私にはあなたが足りない

「吉良先生。本日は、インタビューさせていただきありがとうございました」


 雑誌の取材を受けていた私。


「いえ、こちらこそありがとうございました」

「ところで、これは取材とは関係ないのですが個人的に聞いてよろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「先生のように成功する秘訣とかはあるのでしょうか?」

 小説家として成功した私。

 ときどき、同じようなことを聞かれることがある。

 それに対して、いつも同じことを答える。

「私はただ、がむしゃらにやってきただけですよ」



 自宅に帰ってきて、部屋着に着替える。

 今日はもう仕事は終わり。

 ウィスキーのグラスを持ち、ソファに腰掛ける。


 金も、名声も得ることが出来た。

 人々は、私を羨ましく思っているだろう。


 だが、色んなものを手に入れたとしても私には足りない物がある。


 隣に・・あの人がいてくれたら。


 

 ないものねだりをしても仕方がないとはわかっている。

 でも、年をとるほど思い出してしまうんだ。


 あのとき、部屋を出ていく彼女を止めていれば・・



 あのとき、あの事故さえなければ・・


 あの人を失うことはなかったのに。



 あれから空虚な私はがむしゃらに生きてきた。

 だから、何を手に入れても満たされることはないのだ。

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ないものねだり 三枝 優 @7487sakuya

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