僕に100%あった人

@purin1997

僕に100%あった人

僕はこの世に、僕に100%あった人がいると信じてやまない。

98%や99%なんてものじゃない、ぴったりぴっちり、完璧に完全に100%、僕にあう人だ。

そう、その人は、例えば僕が、朝起きぬけに、ぐあと欠伸としながらぼんやりと、朝食を食べたいなあ、焦げ目もつかないくらい軽うく焼いた食パンと甘い炒り卵、ジュッと焼いたベーコンがあればなおいいなあなんて思ったとして、僕の顔を一目みただけで、くすりと柔らかい笑顔を残し、僕の望んだ朝食を作りにいくだろう。僕はそれを知っていて、まもなく漂うであろう卵のふんわりとした匂いにあいさつをする為に、まだ温さの残るベッドにさよならをするだろう。僕がリビングルームに赴けば、もう僕の朝食は出来上がっていて、その人は笑顔で僕の向かいに腰掛けているだろう。僕はその顔を見ただけで、その人が僕にできたての朝食を熱いうちに食べて欲しくて、その後一緒に買い物に行きたいと思っていることが分かるのだろう。僕は朝食にむしゃぶりつきながら、どこにだって一緒に行きたいなと思うのだろう。その人は勿論それを既に知っていて、何を買うか思案しながらベーコンを咀嚼する僕を見ているだろう。僕がパンのみみをむしりつつ少し喉が乾くなあと思った頃にはテーブルの上にはその人が持ってきたミルクとコップが置いてあるだろう。僕がミルクを飲む間にその人はもう身だしなみを整えていて、外へと赴く準備をしているだろう。その人は僕が朝食及び出かける準備にどれだけ時間をかけるか分かっているから、また僕の向かいに座って、僕を見ながら僕を待っているだろう。全ての準備が整ったら、僕とその人は揃って街へと出向くだろう。僕はその人が健康的であることを好んでいることを知っているし、その人も当然そうであることを知っているので、必然的に歩きで街へ向かうことになるだろう。その人は野菜を補充するために八百屋にいくことを僕は知っていることを知っているので、八百屋につくと、僕に向けてカゴを広げるだろう。僕は当然彼女が必要としているにんじんとじゃがいもとたまねぎとをその人が望んでいる分カゴに入れるだろう。その人は軽く跳ねるようにして会計へと向かうのだろう。僕はその人が夕飯に何を作るか知っているので、会計を済ませるその人を待つ間、それの香りを想って腹を空かせることだろう。その人は八百屋を出るとすぐにレンタルビデオショップに向かうのだろう。僕が家で映画でもみたいなと思っていたことを当然その人は知っているのだろう。その人は何を借りるかなんて聞きもせずに僕がみたいなと思っていた映画を3本カゴに入れるだろう。僕は満足を伴った目でその人を見るだろう。僕がたとえ後ろからその人を見ていたとしても、その人は僕がその人を見ていたことを知っているだろうし、それを想いその人が喜ぶことを僕は知っているのだろう。僕とその人はゆっくり家へ帰ってくるだろう。その人は夕日が好きで、僕も好きだから、ゆっくりゆっくり歩いて、それを見ようとするだろう。僕が家へ着くなり借りてきた映画を見ることを知っているその人はすぐさま冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出すだろう。僕はそれを受け取りながら、再生ボタンを押すだろう。その人は僕と一緒に映画をみないだろう。その人は映画をみる僕を想いながら夕飯を作るだろう。僕が映画を見ながら泣いたり笑ったりしているので、その人はそれから全てを感じ取るのだろう。その人はそれで充分だと思っていることを僕は知っているのだろう。僕が映画をみ終える頃には、部屋中に美味しい匂いが蔓延しているのだろう。僕は矢も盾もたまらずにリビングルームへと向かうのだろう。その人は朝みたいに、僕の前に座っているだろう。テーブルの上には二つカレーが並んでいるだろう。僕は行儀よくいただきますを言ってからガツガツと食べるだろう。その人は僕を微笑ましく思いながら自分のぶんのカレーにゆっくり口をつけるのだろう。僕は夕飯を食べるとすぐに眠くなる人間であることをその人は知っていて、また、その人もそうであることを僕は知っているので、二人は連れ添ってベッドへ向かうのだろう。僕はベッドへ倒れこみながら隣に僕と同じようにベッドへ倒れこんだその人が幸せだなあと感じているのを知っているのでそのことに幸せを感じながら電気を消すだろう。


全て100%分かっているのだ。その人がやりたいこと、僕に望むこと、すること、するだろうこと、全部、全部、全部、分かっているのだ。分かられているのだ。もはや僕とその人は、ひとつなのだ。

そして僕はそのことを知っている。その人も知っている。僕と同じことを思い、僕を想っている。僕はそれをしっている。その人もしっている。それで充分だ。それで充分なんだ。だから僕とその人は、運命的に必然に、七十三億の人の中からお互いの100%を見つけたとして、僅かに視線をあわせ、ちょっと微笑むだけなのだ。そうして、おわり。当然なのだ。何せ僕ら、全て100%お互いのことを知っているんだから。だから僕は、その一瞬、ほんの一瞬、僕らの人生が交差すれば充分なことを僕が知っていることをその人は知っていることを知っている。だからほら、スクランブル交差点、青になる信号、蠢きだす雑踏の中、立ち止まる僕がふと顔を向けたあの人が、ああ、ほら、一瞬、視線があって、そうして僕は、あの人が微笑むのを知ってるんだ。

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