HeLLo
弱腰ペンギン
HeLLo
自分の世界が、とても小さいことは知っている。
両手で救えるだけの人間を、なんて言ってた主人公がいるのも知っている。
だからってそれを僕に求められても困る。
いじめられっ子を救うヒーローにもなれない。
交通事故から猫を助けることも、川に飛び込んで溺れる犬を救うことも出来ない。
だから考える。
教室の、小さな窓から見える外の景色を眺めながら。
光と、空と、鳥の声が聞こえてくる。
『もっと現実を見なさい』
わかっている。
『お前が少し我慢すればよかったんだ』
知ってる。
『なんでこんなことも出来ないんだ!』
あんたじゃないからさ。
『お前なんて……』
自由なんて、最初からないのに。
小説の主人公にあこがれる。
夢を追い、友と笑い、高校生活を満喫し、どんなことをやっても、最終的には肯定される人たち。
『助けてなんて言ってない』
そうは思わなかった。
『お前から手を出したって聞いてるぞ』
先に足を出したのは向こうだ。
『推薦、取り消しだぞ』
いらない。それよりもっと大事なものがあったから。あったはずだったから。
守りたかった大事なものは手の間からするりと落ちていった。
床に落ちて音もたてずに消えていった。水でも空気でもない、何かになった。
だからもう、僕は何かに期待しない。
風の音が聞こえる。耳に、とてもうるさい。
今日は風が強い。見渡す限りの地平線。
学校以上に背の高い建物が一つもない田舎の風景。
左、畑。右、農家。前と後ろは道路だけ。まるで監獄。
だからここから。ここならきっと聞こえる。
屋上から、飛び立てる。
「お前の思い通りになると思うなよ、運命!」
死なない。
折れない。
倒れない。
どれだけ障害が立ちふさがっても、一つ一つ超えていってやる。
心を折りに来ても、受け流してやる。
暴風雪が襲ってきても倒れてやらない。それだけが、僕の意地。
ハロー。世界。
君が敵でよかった。
HeLLo 弱腰ペンギン @kuwentorow
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