第5話
デカイによってシェルターから連れ出されてから、サンずっと自問していた。
『自分は一体、何者かのか』
と。
礼拝堂でのシスターとデカイの会話の内容は分からなかった筈だが、その分からないという事自体から違和感が拭えない。
デカイは自分を実験体と呼び、姿を戻す事は出来るのかとシスターに聞いていた。そして、シスターが崇めていた神様は人を部品にしていて、シスターは同じことをしていると言っていた。
そのことについてのおかしさは感じない。私たちは神さまの部品になる事を当たり前だ。だが、私たちは四人で一つのチームで、全員がシスターの求める神さまの体の部品になったはず。
なら、ここでこうしている私は、一体誰なのか。
又、他にも疑問は尽きない。
先程デカイが潰したセブンの頭部から、どうして緑色の液体が流れているように見え、潰れている頭から花が覗いている様に見えているのかも分からない。
生身の人間の血は赤色で、頭の中が花な事など無い。なのに、自分にはそう見えている。これも違和感がある。
それに、自分には血が緑色で体内が花に見えるというのならば、シェルターの中で見えていた蔓はなんなのか。今、あそこで巨大な緑色の塊に見えているシスターは本当は何の塊なのか。
考えれば考える程に違和感が増え、答えが見つからないまま自問の時間は続く。
「痛っ!?」
突如走った頭の痛みに声を出すサン。
これ以上考えてはいけないと頭の中で誰かが言っていて、その警告として痛みを与えられたように感じる。
これ以上考えるのは危険なのかもしてない。
でも、この違和感の正体は掴まないといけない気がする。
シスターがデカイと戦っていて、自分への支配力が減っている、今こそ。
ジャキン
サンは自分の手を握り、
もっと慎重に行動するべきかもしれない。もっと安全な方法を選ぶべきかもしれない。どうしてこんな事をしようとしているのか。どうして私はいつもこうして後手に回ってしまうのか。
そんな事を考えながら止まぬ頭痛を我慢して手探りでヘルメットの接合部を探し、ようやくロック部分だろう場所を発見する。
そして、これで失敗して意識を失ったとしてもいい。後はデカイさんが何とかしてくれるだろうと信じ、意を決してそこへクローを突き刺す。
パキンッ ゴトッ
「あ………あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」
装着者の認識を狂わせ視界や思想にフォルターをかけるヘルメットが外れ、サンは今まで自分がおかしく感じていた事や見えていた物の違いを理解する。
自分が何を見て緑だと言っていたのか。
自分が何を見て花だと思っていたのか。
先程まで大事に抱えていた”お勤め”に使う花はなんだったのか。
そして、
「わ、わた…違っ、シーマ、違う、ナデュー、チキ、イヌヤ、違う、違う違う。私じゃない。私は、私は……どれ!?」
シスターが作り上げたヴィータ用の肉体は
そして、使用済みになった部品や余りが出た物から、シスターはシェルターを村と言う建前の為の受付の者と、外に出て
その前者が隣で倒れている者であり、後者が自分である。
サン達は体の一部を義体化している
サンが真っすぐ歩けないのも
「みんな…みんなが…わたしが、みんな……」
サンは頭を抱え、『自分は一体、何者かのか』という問いが解決されなかった事と、解決できないという事に気付いてしまったのを後悔する。
自分は一体何者なのかが分からない。シスターの支配から逃れたとして、一体どうやって生きて行けばいいのか。
それこそ神に問い質したかった。いくつもの人間の脳や体や機械を繋ぎ合わせて作られた自分は人間なのか。機械なのか。それとも動いているだけの死体なのか。
しかし、この世界にはもう神は居ない。
サンの問いに応えてくれる神は死んだのだ。
「あー、めっちゃ痛かったし死ぬかと思ったわ。死ねないけど」
ムクッ
「ひっ! ……え、セ、セブン…さん?」
「はいはいそうよ、あのクソバカに頭を潰されたけどようやく再生したわ。いくら洗脳を解く為とはいえ物理的すぎでしょ。脳みそは痛覚無いっていっても頭のそれ以外の部分は普通に痛いっての」
「え、頭…え?」
確かに頭部をヘルメットごと潰され、中の物が溢れ出ていたセブンが傷一つない姿で立ち上がったのを見て驚くサン。
無理も無い。シェルターから脱出するまでに中身をいくつか零してきている上に、首は取れかけでぶらぶらしていたのだ。そんな状態の人間が生きているだけで驚いて当然だろう。
「あ、私不死身なのよ。色々試したし試されたけど、何をしても死なないの」
「あ、は、はぁ?」
「死なないだけで力が強いとかそういうのは無いからあんまり期待したらダメよ? あんなのと戦えるのはあいつだけだから」
「えー……はい」
セブンは再生したばかりの頭が気になるのか首を大きくひねって調子を確かめつつ、空へと跳躍してシスターの合神体と戦っているデカイを指差す。
サンは自分の事だけでも理解が追い付かないのに、セブンが不死身という事やデカイが巨大なシスター相手に押しているのを見て、更に訳が分からなくなってきている。
「で、サンちゃんが誰かですっけ? いや、消失した
「そ、それは…」
セブンはサンの自分自身が何者か分からないという問いについて、手を腰に当てながらため息を吐きつつ答える。
「どれでもいいじゃない。好きなのを選んだら?」
「え?」
その答えはまるでテーブルの上の物を何から食べようか迷っている子供に向けるような軽い言葉で、サンの悩みなんて取るに足らない物だという意味に聞こえた。
「で、でも、私は四人の肉体の破片から作られていて…」
「私は丁寧にすり下ろされてミンチになった事があるわね」
「脳もツギハギで…」
「生きたまま脳みそをスライスされた事あるわよ。ミキサーを突っ込まれたり、男根をぶっ挿されて脳内に出された事もあるわね。……これはそういうプレイがしたいって私がお願いしたんけど」
「記憶も混ざっていて…」
「ぶっちゃけ私って一回目の文明滅亡以前から生きてるけど、その時の事ほとんど忘れてるわよ。生きてりゃ記憶があいまいになる事なんていくらでもあるわ」
「……体はこんな姿で」
「ん? 元義体ユーザーでしょ? 全身義体化と思えばいいじゃないそれぐらい。企業子飼いの傭兵とかだと死亡後に脳だけ取り出して全身義体化させて生き返らせて借金漬けにするってよくあるわよ?」
「………」
「それに、
「あ、はい…そう、ですね……」
自分が悩んでいた事をどうでもいいという感じで応えるセブンを見て、サンは言葉に詰まってしまった。
段々と悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきたのと、確かにセブンの言う通り
「でも、サンちゃんの外見はチグハグな骸骨って感じなのに、あのシスターの外見は爆乳大元帥って感じなのはムカつくわよね。それについてはお話ししに行きましょ」
「爆乳大げ…えっ?」
「ほら、さっさとしないとあのバカが倒しちゃうから。サンちゃんのその姿を見ても『可愛らしいお嬢さん』とか言っちゃうバカよ? ツッコミ役が居ないとずっと一人で暴走しちゃうからあいつ」
「あっ…」
サンはセブンに差し出された手を掴み、丁度デカイが地上へと降りてきた場所へと向かい始める。
セブンと話をした事で先程までの頭痛や悩みはすっぱりと消え失せていて、今は寧ろ清々しいほど気持ちがさっぱりしていた。
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