望む眺む群青

 「暗闇に放り出された僕はずっと苦しんできた。その原因はずっとわからなかった。だけど今はっきりしたよ。君だよ、海琴。ずっと君が僕を苦しめてたんだ。」

夏の足音がすぐそこまで聞こえる。夜が開け始める。僕はずっと忘れようと思ってきたのに僕の心にこびりついた闇は僕を侵食した。僕は自分で自分を何度呪ったことか。でも違う。

「僕は悪くないじゃないか。全て君だよ、僕の中の闇は。」全身に力が入る。息を吐くこともしない。海琴の顔はみるみる翳りを増す。「僕はずっと苦しめられてきた。心の中から狂ってしまったんだ。」海琴はそれでも黒い塊を見ていた。どうして僕が黒に飲み込まれるんだ。どうして僕が内側から緩やかに崩れていくのか。どうして、どうして、どうして、どうしてなんだ。

      「さよなら。」

香る夏風に誘われて、ずっと見たかった青空を探して、僕の中の闇を取り除きたくて、

自分の中の強い衝動に駆られながら君の体を

強く強く優しく押した。

  僕は君を黒さを深めた海に突き落とした。


  僕はあの夜、君を殺してしまったんだ。



夜が明ける。それからどうやってここに来たかは覚えていない。京都駅構内から雑踏を見下ろす。長い長い階段を夕日は赤く染め上げた。

いつからだろうか、他人の心を卑下して見るようになったのは。いつからだろうか、澱んだ僕の体躯は闇を増殖し、僕の心を抉るようになったのは。長い長い階段の上から雑踏を見下ろす。全て終わりにしようか。「ごめん、海琴。僕は君を救いたかった。同時に僕は僕を救いたかった。こんな僕が君を救いたいだなんて、本当に本当に勝手な願いだよな...。僕は罪を贖えない。だから、君を殺した罪は僕の死で終わりを告げる。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめ...」



 これは黒い海の物語であり、僕の心の物語。

    また、青空を眺めたいな。

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独白 ヤグーツク・ゴセ @yagu3114

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