リアの願い事  再開した幼馴染三人組

霜月あられ

第1話

俺の名前は立花湊。大学生。普段はゲーム三昧の生活をしている。他にはアニメ、漫画、エロゲー。重度のオタクである。アニメ、漫画、エロゲー、ゲームどれも幅広いジャンルをプレイしている。

そして俺は一人暮らし。大学での講義を終え、家でするゲームのことを考えながらマンションの階段を上がった時、異変に気づいた。

 俺の部屋の前にしらない人がいる。それも女だ。外国人か?銀髪で髪が長く、赤い目をしている。一目惚れだった。

「つ、つき合ってください!」

告白してしまった。人生で初めて告白した。自分でもびっくりだった。こんな衝動に駆られたことすら初めてだった。

ゲームの世界ではこんなに取り乱したことないのに。俺はいつでも冷静沈着で皆から頼られるクールビューティーなキャラを

演じていたのに。

 「エルさんいつも落ち着いていて凄いですねー!憧れます!」なんて言われても落ち着いた声で「そんなことないですよ(キリッ)」と返せてた俺がこんなことをするなんて……。ちなみにエルというのはネット上で使っている俺の名前だ。

「え、誰?って湊?」

「何で俺の名前を……?」

ていうか、俺の部屋の前に居たし、俺に用事がある人だったのか?

「やっぱり、湊だよね。私だよ私!リアだよ。」

リア……?リアってもしかしてあのリアか?小さい時凄く仲良かった女の子だ。俺とリアと春っていう3人組でよく遊んでいたんだ。

確かに銀髪で赤い目をしていた気もする。昔過ぎて詳しくは覚えてないが、仲はよかった。俺とリアと春。

「リアってあのリアなのか?本当か?っていうか何でここに?」

「本当にそのリアだよー。何でって湊に会いに来たんじゃん。」

俺に会いに来ただって?

「急にどうしたんだ?っていうかここの場所良く分かったな?」

「君のお母さんに聞いた。湊の家に行ったら一人暮らししてるって。びっくりしちゃった。」

家か。実家はここから遠くはないし、リアも昔来ていたことがある。覚えていても不思議ではないが、よく覚えていたな。

母親を恐らくリアの事なら覚えてたんだろう。見た目も独特だし、可愛いしな。

「家に来ていたのか……。それは悪いことしたな。会いに来たって急にどうしたんだ。」

正直混乱していた。リアは小さい時家族の都合で引越していってそれ以降会っていなかったし、音沙汰無しだった。何度か会いに行こうとか、連絡を取ってみようとしたけど、当時小さかった俺にはその方法が全然分からなくて、諦めていた。

久々に会えたのは当然嬉しい事なんだけど、驚きが勝っている。まさか、また会えるなんてな。会おうと思ってる時はあえず、意外と何でもない時に出会えたりするもんだ。

「ねえ。私の事助けれくれないかな?私あんまり時間がないの。お願い!」

急に来て助けてだって?!俺は今から何か危ない事をさせられてしまうのか……?

「え、え?!助けてってどういうこと……?勿論俺に出来る事ならしてあげるけど……。」

でも、困ってるなら助けない訳にはいかない。危なかったとしても、困ってる人は放っておけない。目の前に助けられるかもしれない可能性があるんだから。

「ほんと?今助けてくれるって言ったよね?言質とったからね?もう逃げられないよ?やったー!」

もしかして、放っておいた方がよかったか?何だかその言い方は怖いぞ。もう、逃げられなくなってしまったのか。それでも、男に二言はない。出来るだけの事はしてみよう。犯罪以外なら。

「え、うん……。出来る事なら勿論するけど……。助けてって具体的に何をすればいいの……?」

「家を出てきたからしばらく泊めて欲しいの!他に頼るところもないからお願いっ!」

「家に泊める?!それはちょっと問題があるんじゃない……?」

「えー?さっき何でも言う事聞いてくれるって言ったじゃない。湊は嘘つきなの?私嘘つきはあんまり好きじゃないわ。」

「ええ……。」

無茶苦茶言うじゃん。急に家に来た人を泊めるのって凄い勇気いるくない?勇気っていうか本当に泊めても問題とかにならないんだろうか?

しかも女の子だし。リアは逆に平気なのかな?泊まりにきたんなら予め覚悟はあったんだろうけどさ。

「うーん……。」

「お願いっ!このとーり!」

凄く深々と頭を下げている。そこまでしなくても……。そこまでして泊まりたい理由ってなんなんだ……?

「わかった。とりあず今のところは泊めてあげることにするけど……。」

「やったーっ!湊ならそう言ってくれると思ってたわ。よかったよかった。どうなることかと思ったわよ。」

「いや、それ俺のセリフ……。いったいどうなるんだよ……。」

急展開過ぎて付いていけない……。休みたい……。

「と、とりあえずこんな所で居るのもなんだから、家入るか?」

「そうね。家に入れてくれるなら何も言わないわ。」

ガチャ……。部屋とか掃除してたっけな……。片付けとか何もしてなかった気がする。そんな散らかってはないと思うけど、女の子を家に入れるって緊張するな。小さい時だったらまだしも、この年齢になってからだと覚悟がいるよな。相手にそんな気がなくても俺は持ってしまうしな。

相手がもし、そういう気があるなら俺が持たないのも失礼かもしれないし。でも、分からないよ。

部屋に入ると漫画やらアニメ、ゲーム、グッズなどに興味津々だった。こういうのに興味あるのかな。そういうのが好きなのなら、俺は嬉しい。

同じ趣味の話を出来る事は嬉しいし、仲いい人が好きだと尚更嬉しい。こっちからどんどんお勧めしたりするべきなのかな?難しいな。

「はい。これ。とりあえずお茶でいいよね。他にないけど。」

「エッチな本とかゲームとかあるの?」

「ぶっ!!!」

飲んでいたお茶を盛大に吹いてしまった。

「ちょっと湊、お茶を急に吹いたら汚いよ。」

「ごめんごめん。急にびっくりする質問がきたから。聞き間違いだったかな。何て言ったっけ?」

「エッチな本とかゲームとかないの?年頃の男の子ってそういうのに興味があると思ってたんだけど。」

俺も年頃の男だ。あるに決まっている。ただ、こういう場合どう答えるのが適切なんだろう。まだ、大学の女友達とかに聞かれているなら平常心を保てたかもしれない。

上手く対応できていたかもしれない。ただ、懐かしの幼馴染となると戸惑ってしまう。自分の気持ちの中でお互いあの頃で止まっているからだ。

純粋な子供のころで止まっているからだ。それが急にエッチな話なんてどうしたらいいんだろう。ないって言ってもばれないかな……。

普通の人なら「ない。」といっても疑ってくる。それでもリアなら純粋なあの頃のリアのままなら俺を信じてくれるんではないだろうか……。

実際にはそういうグッズ、フィギア、漫画、アニメ、ゲーム、どれもある。ただ、女の子と二人っきりの部屋でそういうもの持っていると発言してしまうと引かれてしまう気がする。

ていうかアニメとか漫画に興味があると思っていたが、そっちが目当てだったのか……? 

「な、ないよ。」

どうだろう。自然に言えただろうか。気づかれてないだろうか。今日もクールにキめれているだろうか。やっぱりこういう所で自然にそういう事に興味がないよって言える男がモテるんだろうか。

それともイケメンの場合逆にそういうことに興味があるアピールをして女をかっぱらっていくのだろうか。難しい。

「男の子ってそういうの皆好きなのかと思ってた。湊は大人だね~。ん?これは何々……。」

「あっ、それは……。」

見られてしまった。俺のエロ本。部屋の片隅に段ボールに入れて置いてたんだが見つかってしまった。恥ずかしい。

「スバルのえっち。やっぱりこういうの持ってるんだね~。隠さなくてもいいのに。でも、よかった。」

「あはは……。ごめん。結構持ってたりする。いや、よかったってどういうこと?」

「ちゃんと男の子で良かったって思って。同性愛者とかだったらどうしようって思ってたの。それならそれで応援はするけどね。」

「それは大丈夫。女の子が好きです。えっちなこともすきです。興味あります。」

この際あらいざらい吐いてっしまった。

「そっかそっかー。それは良かった。健全な男の子って感じがしてその方がいいわよ。」

「まあ、健全な男の子ではあるかな……。」

「うんうん。」

リアはやけに頷いていた。何を考えているんだろう……。

「そういえば、春にも会いたいわね。春がどこにいるか知ってる?」

「春か?春とはしばらく会ってないな。小学校の時俺たち凄く仲良かったじゃん?ただ、リアが居なくったり、学年が上がったりして、中学校も別だったし関わりなくなっちゃんたんだよ。そもそも小学校も別だったからな。仲良かったのが不思議だったぐらいだけど。

偶然出会って偶然仲良くなったんだよな俺たち。」

「そうね。出会ったのは偶然だったと思うわ。でも、仲良くなったのは必然よ。」

「え、どういうこと?」

「その内わかるわよ。ふふ。」

必然……?正直意味がわからん。リアは何か知ってるんだろうか……?小さい時から不思議な女のこではあったが。

「春に会いたいわ。湊、春を探すわよ!」

「お、おう……。急に会いに行っても春はびっくりするんじゃないか?」

「びっくりさせるのよ!驚いてもらわないと驚かせ涯がないわ!それに、春も会いたいと思うわ。湊と私に。」

「驚かせに行くのかよ……。春ごめんな……。それに俺たちに会いたいって?」

「湊も春に会いたいでしょ?」

「まあ、そうだな。リアとも出会えたんだし、どうせなら3人でまた会ってみたい気持ちはある。」

「そういうことよ。私たちが会いたがってるんだもの。春も私たちに会いたがってるに決まってるわ。春を探すわよ!」

凄い強引な考え方だな。リアは相変わらず昔と変わってないな。そういう前向きな考え方に俺たちは引っ張られてきた。憧れてる部分だ。

「わかったわかった。」

こうして春探しが始まった。

さて、どうやって春を探したものか。小中同じ学校だったやつらに連絡を取るのが一番早そうだが、なんにしろ友達が多くない。

仲良くなったりする友達は結構いたんだが、しばらく遊ばなくなるとどう接すればいいかわからなくなってしまう。相手も自分に戸惑ってるように感じる。

しばらくあってない友達に「よっ久しぶり!今何してる?」なんてとても言えない。その後なんて会話を続けたらいいんだ……。

リアとかならそういうの遠慮なしに行けそうだな。自然と話せてそう。何が違うんだろうな。雰囲気か?俺ももっと気楽な雰囲気を作り出したほうがいいんだろうか?……。無理だな。

「どうしようね~湊。そうだ、湊の友達に春の居場所しってそうな人いないの?」

「それが居たら一番手っ取り早いんだが……。思い浮かばないな。そもそも学校が一緒だったことがないからな……。昔知り合いだった全員に声を掛ければどこかで辿り着けるかもしれないけど、正直無理があると思う……。それか、母親とかか?正直可能性は薄いからやるとしたら本当に最後の手段だな……。」

春以外の同じ小中学校一緒だった奴に連絡取ることすら正直難しいしな。それが春ってなるともっと難しくなる。何かいい方法があればな。

\偶然出会えるなんてことがあればラッキーだが、まさかな。

「そう……、わかったわ。地道に探すしかないわね。」

「そうだな。何か手掛かりがあればとっつきやすいけどな……。」

グー……。とんでもない音量で腹の音が鳴っている。リアの。

「あはは……何も食べてないのよね。お腹空いたわ……。」

偶然の出来事でパニック状態になっていたけど、冷静に考えると俺もお腹空いてきたな。そういえば朝からあんまりご飯食べてなかったな。

「時間も時間だしな。何か食べるか。何か食べたい物とかあるか?外食でもいいぞ。」

「喫茶店に行きたいわ。ちょっと洒落てるような。」

洒落てるような喫茶店?!俺にそんなとこ知ってると思ってるのか?!おいおい。ハードル高いぜ。リアなら確かに好きそうだけど、俺にはちょっと難しいな。そもそも近くにあるのかな?多分あるんだろうな。俺が興味なくて行かないだけで……。

「え、喫茶店か……。あんまり行ったことないし詳しくないぞ。」

「それなら近所にある所で良いわよ。来る途中道に迷ってたら見つけたの。あそこに行ってみたいわ。」

近所の喫茶店?あるにはあったのかもしれないけど、俺の頭の中にはなかったな。

「近所に喫茶店なんてあったのか?全然知らなかったわ。喫茶店って何か緊張するな……。」

「なんで?」

「喫茶店っていった事の無い人間からすると凄くハードル高く感じないか?ご飯食べに行くような場所とはちょっと違うじゃん。

所謂ファミレスとかみたいな。軽食?ってイメージだ。俺みたいなやつは行かないからな……。」

「私がいるから大丈夫よ。湊は何も気にしなくていいわ。」

「リアが居たら確かにちょっとましかもな……。一人だと絶対に行かないし、この機会に喫茶店デビューしてみるか。」

「ええ。何事も経験よ湊。」

「確かにそうだな。」

もし、気に入ることあればこれから通えるし、段々興味が出てきた。美味しいところだといいな。

「よし、いくぞ!」

「急に元気になったわね。よし、ゴー!」

二人で勢いよく家を出ていった。二人共腹ペコだったからな。でも、リアはすぐに疲れてダッシュしていたのもつかの間だった。

「こっちよ。そこを曲がって、はい、ここ!」

近所だけど全然来たことのない道だった。こんな所に道が……。それに店なんてあったのか。よくリアは見つけたな。

個人で経営してるような店だった。個人で経営してる喫茶店に通うってなんだか渋いよな。憧れる。

通ってみようかな。マスターとかが凄い渋い人のイメージだ。それでかっこいいんだ……。

通ってマスターと仲良くなったりしちゃってな。それで相談事なんかしてみるんだ。凄い大人っぽい。

喫茶店のマスターと仲いいって凄いかっこいい響きだ。自慢できるかもしれない。

「おぉ~こんな所に喫茶店があったのか。本当に知らなかったな~。店の名前は…chat errant(シャ エラント)

洒落た名前してんな~。どういう意味だ?」

「迷い猫とかそんなとこよ。」

「良く知ってるな。

「昔聞いたことあるわ。あまり記憶には残ってないけれど。」

「これって何語?」

「フランス語よ。多分。」

物知り博士だった。物知りな人が身近にいると凄い便利なんだよな。質問に毎回答えてくれて、知らないことを教えてくれる。凄い楽しい。ワクワクする。

「よし入ってみるか!」

「ええ。そうね。早速はいりましょう!」

「知らない店って初めて入るとき緊張するんだよな。」

入る前に気合を入れていたらリアはさっさとドアを開けて入っていった。大胆だな……。確かにリアは人見知りとかそういうのしなさそうだ。羨ましい。俺が気にしすぎなだけなんだろうか。

「いらっしゃいませ~。」

うぉ……。ウェイターさんのレベル高え~。凄い可愛い。毎日通おうかな。金髪セミロングのウェイターさん。身長は小さく胸はそこそこ。正直タイプだ。リアも相当可愛いが並ぶレベルだな。

「何名様でしょうか~?えっ……。」

ガシャーン。ウェイターの人が持っていたティーカップを落として割ってしまった。え、俺たち何か悪い事してしまったんだろうか。ドキドキしてきた。

何か入るときにルールがあったのだろうか。俺たちはそんなに驚く姿をしていたんだろうか。俺の顔が悪すぎたか?

「リア…?それにもしかして、湊……?」

「え、春じゃない?もしかしなくても春だよね?私の目に狂いはないはず!春を見間違えるはずないもん!」

春……?俺の中の春は男なんだが。どういうことだ?確かに当時から可愛らしい顔つきだったが、俺の記憶では男だ。

「リア。違うぞ。春は男だっただろ。すいません、こいつが勘違いして。」

「湊、春は女の子よ。」

え……?俺は何か勘違いしてるのか?話してる人物を間違えていたのだろうか。いや、でも春の話をしていたしな……。春が女の子……?

「湊が当時勘違いしていただけよ。春は元々女の子だよ。私、昔聞いたもん。私は昔会った時から女の子だと思っていたけど、湊が男扱いしてるから私の勘違いかなって思もって聞いたの。そしたら女の子って教えてくれたよ。」

衝撃の事実だ。可愛いらしい顔つきが女だったからなのか?それに、女の子だとしたら俺色んなことにつき合わせてしまっていたぞ……。

危ない遊びとか色々危険な事とか男がやるような遊びに付き合わせていた気がする。よく俺に合わせてくれてたな……。

「ほ、本当に春なのか?リアの勘違いじゃなくて?」

顔をよく見てたら確かに春の面影がある。段々とそんな気がしてくる。でも……、信じられないぞ。

「久しぶりだね、リアに湊。そうだよ。春だよ。」

マジか……。マジで言ってるのか?俺はとんでもない勘違いをしていたのか……。

「やっぱり~!春~~~。会いたかったよ~!!!」

凄い勢いでリアが春に抱き着いていった。羨ましい。これが、百合なのか。リアルで初めて見た。中々に良いものだ。

「ちょっと近づきすぎだってばリア。」

「そんなこと言わないでよ~。すりすり~。」

「くすぐったいってば。」

「ちゅー!」

「ちょっと!」

春は声はでかいものの、本気で嫌がってるわけではなさそうだった。春もリアと出会えて嬉しいなら本当に良かった。それに越した事はない。

「ねえー春ー!会いたかったわー!まさか、こんなとこで会えるなんてー!今日は運が良い日だわ!」

リアのスキンシップは凄いな……。女の子同士っていいな。二人共可愛いし、ジロジロと見てしまう。そっか……。春は本当に女の子だったんだな……。あまり実感が湧かないけど……。

「それとごめんね、湊。隠してて。実は女だったんだ……。」

「そうだったのか……。」

上手く言葉が出てこない。ど、どう反応すればいいんだ。こういう場合普通どういう反応なんだ。「そうなんだ。」だけではあまりにも軽いというか素っ気なさすぎる。

何か繋げないと……。こういう重そうな話題の時何て言えば……。

「す、す、す……」

「す?」

「凄い可愛くなったな!!!」

勢いで取り合えず褒めてみた。昔見た雑誌で書いてあった気がする。女は取り合えず褒めておけばよいと。物凄くどもってしまった。あまりにも言い慣れてないセリフだった。

「良かったわね~春。願いが叶ったわね!」

「願い……?」

「湊は知らなくていい!」

春がリアの頭を叩いてリアは少し痛がっていた。良く分からなかったが、とりあえず俺の言葉は悪くはなかったみたいだ。良かった。実際に春は可愛かった。

元々男だと思っていたのもあるのかもしれないけど、女の子として本当に可愛いって思えるレベルだ。お世辞じゃない。本心だ。だからこそ、緊張もしてしまうが……。

「それにしても、本当に春なのか……。な、何か勘違いしてたみたいで悪かったな……。」

「昔の事だし、気にしなくていいよ。そんなこと。」

「昔の事っちゃ昔かもしれないけど……それでも……。」

そんなことって言われてもな。俺にとっては結構衝撃的な出来事だぞ。男友達だと思ってた奴が可愛い女の子になってたなんてな。普通あり得ないし、それに昔の事思いだすと申し訳ない気持ちが……。

「僕にだって責任はあるし、湊が誤解してることも知ってたから。一人称も僕だしね。しょうがないと思うよ。」

「そう言ってくれたら少しは気が楽だが。そうだ!せっかく会ったんだし何かさせてくれよ!何かしてほしいこととかないか?!」

「え……してほしい事?と、とりあえず……」

「とりあえず?」

「とりあえず、席に案内するね。マスター、2名様です。」

マスターが奥で「はいよー。」と言っている。女性の声だった。勝手に渋いダンディーなおじさんかと思っていた。

何て言うか美人なマスターだった。これが都会なのか……。マスターは気にしてなさそうだったけど、入り口で話すぎたかな。

リアはなんだか物凄く上機嫌だった。確かにこうして3人で会えた。奇跡だ。

俺は俺で嬉しい。ただ、戸惑ってもいる。頭が追い付いていない。春が実は女だったなんて。

それに、凄く可愛かった。雰囲気は違うものの春って感じが残っていた。喋り方、仕草、昔の春を髣髴とさせるように。

男だと思っていた旧友が実は女でとてつもなく可愛い、これは運が良いといえるのだろうか?可愛い女の子は友達に何人いても困らない。

男だったら男のままで勿論よかったが、再開できたのは本当に良かった。間違いなく運がいい な!

今日一日で昔会えなくなった友達二人に会えるなんて、凄い日だ。

時間的に客数が俺たちしかいなかったため、3人で席に座り話すことになった。

「それにしても、凄い奇遇だわね~。」

リアが改まった場で第一声を発した。

「確かに二人とこうやってまた出会えると思ってなかった。」

「二人?リアと湊も久しぶりだったんだ?」

「ええ~。そうなのよ~。湊に会いに行ったら春とも会えるかなって思ってたんだけど、湊ったら春の居場所知らないって言うからびっくりしちゃった。本当にどうしようかって。」

「あはは……。リアが居なくなったのと、学年が上がったりしていくにつれて自然消滅みたいな感じだったよね。」

「そうだな……。」

ちょっと気まずい空気が流れてる。どうしよう……。何か俺から一言言わないとな……。

「悪い!それと、性別勘違いしてて本当に悪かったな。」

とりあえず最初に潔く謝っておいた。こういうのは勢いで最初の方に謝っておいた方が後々気まずくならなくて済む。気にしすぎて後々ギスギスする方が嫌だった。

「それに関しても、本当に気にしなくていいから。本当は女だったって事にしてくれたらいいから。」

本当にあまり気にしてなさそうだった。さばさばしている。向こうが気にしてないなら俺も必要以上に気を遣うのはやめよう。

気になる事ではあるが、久々の再開だ。色々な話をしたい。気になることはいくらでもある。

「せっかく再開したんだし、まあ明るくいこうか?話したいことはいくらでもある。」

「それは、そうかもしれないわね。私も気になることだらけよ。」

「僕も気になることだらけだよ。」

「じゃあその話しようぜ。」

何とか上手く話題を作れた。

「私、まず春と湊が疎遠になっていたこと自体に驚いてるわよ。二人は何だかんだ恋人になるんだろうなって思ってたし。」

いきなりリアがぶっこんできた。

「いやいや、俺はまず春の事男だと思ってたしな。付き合うとかどうとか以前だったぞ。当時は。」

「そこよ、そこ。私も湊が誤解してることは知っていたわ。」

リアも知っていたのか。俺だけが誤解していたらしい。

「私がいなくなった後、春が何も言わなくても春の成長を見て、最悪湊が気づくのかなって思ってたの。」

まぁ、確かに誤解していても成長していくにつれ身体が発達していく。胸の膨らみとか見ていたら気づいたかもしれない。それにしても、本当に女なんだな。

「湊。視線が胸にいきまくりよ。」

やばい、胸を見すぎていた。これは流石に引かれたかもしれない。童貞オーラ丸出しだ。

「あんまり見られると流石に恥ずかしいよ……。」

「ごめんごめん。つい、気になってしまって。」

引かれてはなかった。

「女の子っぽくなれたかな?」

「めちゃくちゃ女の子っぽいぞ。ていうか女の子だろ。可愛いぞ。」

「えへへ……。嬉しいな。」

こんなに可愛い女の子なんて少ないぞ。少し喜んでくれてたみたいだし、悪くない受け答えだったんじゃないか?

「春が優しくてよかったわねー湊。」

「あぁ。春は昔から優しかったな。いつも俺に合わせてくれて色々してくれてた。そういうのが嫌なわけではなかったのか?」

「それは、うん。嫌じゃなかったよ。全然。僕も楽しくてついていってたし。」

良かった。関わりがなくなったのも自然消滅みたいな感じだったから少しモヤモヤしてたんだ。何か明確な理由があって会わなくなったら、自分の中でけじめを付けることができたんだが、そうではなかったからな。

「当り前じゃない湊。そんなの春を見ていたら嫌がっているかどうかなんて一発だったわ。」

「そうなのか?」

「だって、春は湊の事好きだったじゃない。」

リアが喋っている途中に慌てて春がリアの口を塞ぐ。あまりうまく聞き取れなかった。

「え?なんて言ったんだ?」

「大丈夫大丈夫。大したこと言ってないから。リアの言ったことは気にしないで。」

「気にしないも何も聞き取れなかったが……。」

何だったんだろう。何をそんなに慌てているんだ。

「まあ!それは置いといて!」

急に春が大きな声を出した。

「急に仕切りだしたわ。」

春がリアのほっぺたをつねっていた。

「本当に嫌じゃなかったし、3人で遊んだりするのも凄く楽しかったよ。ずっと遊んでいたかったぐらい。」

「それには、同感ね。いなくなっちゃった私が言うのもなんだけど、楽しかったわ。こうやってまた会いに来ちゃうぐらいには二人の事好きだったし。」

「それについて一つ疑問に思ったんだけど、リアと湊はどうしたの?」

「俺も何て言ったらいいか分かんないが、家に帰ったら家の前にリアが居た。」

「え?!」

「そうよ。二人に会いに来たくて生きたのよ。」

「相変わらずリアは凄い行動力だね……。」

春はリアの行動力にちょっと引いていた。確かにリアはやりたいと思ったことはすぐにするタイプ。そういう部分は憧れる。やりたい事をやってる人ってやっぱり素敵だ。

「ねえ春?やっぱりこの喫茶店に来て間違いなかったわね。春に会えたし!」

「あはは……。確かに会えたのは本当に嬉しいよ。」

「リアはすげえな。ただの気まぐれで喫茶店に来ただけだと思ってたんだが、まさか春の場所に来てしまうとわな。」

なんて豪運の持ち主なんだ。これも、リアが言っていた偶然じゃなく必然だったりするのだろうか?それはないか。ただ、偶然すぎてもしかして三人また出会えたこと自体必然の出来事だったのではないかと思えてしまう。

「湊って大学生だよね?どこの大学行ってるの?」

「夏目大学だよ。その心理学科だ。」

「え?!夏目大学?!一緒じゃん!」

改めて思ったら春も大学生か。それに一緒の大学。2年目で気づく衝撃の事実。

「まじで?学科が違うからかな。見かけた事なかったな。」

「僕も湊を見かけた記憶がないから多分出会わなかったんだろうね。それにしても、同じ大学だったんだ……。えへへ。」

「二人共同じ学校なんて奇跡ね!豪運だわ!」

「そういえば俺たち見てすぐ気づいたのか?」

「すぐ気づいた。リアは見た目が特徴的だし、春も見たらすぐわかったよ。二人一緒にいたら尚更わかったよ。凄いびっくりしちゃったけど。」

確かにリアは見た目が特徴的だ。綺麗だし銀髪だし一度みたら忘れないかもしれない。出会ったとき最初は気づかなかったけど。俺のことも覚えてくれてたんだな。なんだか暖かい気持ちになった。

「大学でも、もしかしたらすれ違ってたかもしれないな!気づかないだけで。」

「それはない!」

春が形相を変えて大きな声を出した。とてもびっくりした……。何の気なしに発した一言だっただけに衝撃が走った。

「僕が湊に気づかないはずはないよ。ほんとに会ってなかっただけだと思う。僕のこの見た目にも見覚えないでしょ?」

確かにこんな可愛い子とすれ違っていたら今日会った時に気づいていた筈だ。言われてみれば納得。

「湊は春を舐め過ぎよ。気づかないはずないわよ。」

俺はそんなに見た目が変わってないのだろうか。成長してないかな……。気づいてもらえると嬉しい反面悲しい想像をしてしまうな。流行りのネガティブ思考なのだろうか。

「確かに春の言ってることが正しいかもしれないな。俺もこんだけ可愛い子見てたら覚えてるはずだ。」

「春っ?!流石にお世辞だとしても照れちゃうよ。」

「いやいや、本当に可愛いぞ。なかなかこんだけ可愛い子いないぞ。」

「えへへ……。ありがとう……。は、春もカッコよくなったね!」

「そ、そうか……?照れるな……。」

女の子にかっこよくなったねって言われるとこんなに嬉しいのか!お世辞でも嬉しい。褒められるってこんなに嬉しい事なんだな。普段褒められないから特別嬉しく感じるな。

「ちょっとちょっと、二人でイチャつかないでよ~。私も混ぜて~。ねえねえ、私は可愛くなった?」

「リアは昔から女って知ってたからあれだが、リアもめちゃくちゃ可愛いぞ。」

「確かにリアは昔っから可愛かったからね~。今は昔と違って大人っぽくなったね~。凄い成長の差を感じる……。」

確かにリアは何というか凄い成長していた。胸が。春も特別小さいわけではないけど、リアは大きい!って感じだ。

「えへへ~ありがと~。それはそうと、胸見過ぎよ湊。」

またやってしまった。とても気になってしまう。

「ごめんごめん。つい……。」

「湊がえっちなのは知ってるから、まぁいいけどね~。」

「湊がえっちってどういうこと?何かされたの?湊っ?!」

春がまた形相を変えてこっちを見ている。何もしていないのに……。冤罪ってこういう気持ちなのか?

「いや、何もしてないぞ!何もしてない!何かできるならしたいぐらいだが何もしてないぞ!」

必死に何もしてないアピール。

「湊の部屋に言ったらえっちな物がいっぱいあってね~。」

「それぐらいは年頃の男の子だし持ってるんじゃない?」

「春ったら考え方が大人ね~。私もそう思って湊にえっちなもの持ってる?って聞いたら最初ないって答えたのにあったのよ。」

「それは仕方ないんじゃない?やっぱ、女の子にそういう事聞かれると「ない!」って答えたくなるのが男心なんじゃないのかな。」

「春は何でも知ってるわね。」

恥ずかしい。恥ずかしい。顔から火が出そうだ。俺が悪いのだがかっこつけて失敗したことをばらされるのは物凄く恥ずかしい。しかも女の子相手に。

「それにしても、まさか同じ大学とはな。驚きだ。でも、学部とかが違うとなかなか会ったりしないもんな~。」

「そうだね~。正直びっくりだよ。まさか、湊と同じ大学に行けるなんて。」

春は何か知らんが、もじもじしていた。どうしたんだろう。

「そういえば、二人共連絡先交換しといたら?」

「そうだな。このLIMEでこのIDに送ってくれ。」

「分かった。」

「科学の進歩ね。電話番号を交換するのかと思っていたらまったく知らないものが出てきたわ。」

リアは物凄く驚いていた。確かに電話しか知らない人からしたらとてつもない進化かもしれない。こっちの世界のことをあまり知らないのだろうか?上手くカバーしてやらんとな。

「リアは?交換してくれないの?」

しまった。リアは異界にいたからこういうのは何ももってないんだろう。今どきスマホを持ってないなんて中々ないからどう言い訳しよう。

「持ってないの。今度買ってみようかしら。」

「持ってないの?!今どき珍しいね~。機会があったら一緒に買いにいこーよ。リアとも連絡とったりしたいしさ。」

「ありがと春~。大好き~。」

「ちょっとくっつきすぎだってば。」

百合っていいな。もっとやってくれ。俺は介入しないから!百合に男が入っていくのは許せん。

「でもリアと連絡とるときどうしたらいいんだろう。」

「それなら、湊に連絡してくれれば一発よ。いつでも春のためなら準備できてるわ。」

「どういうこと……?」

しまった、話題がまずい方向に。ど、どうしよう。

「私これから湊の部屋にお世話になるの。だから湊に連絡してくれたら無問題よ!」

「湊~っ?!どういうこと?え?!二人は今日会ってもうそういう関係になってたの?!」

「違う違う違う。誤解だ。」

「湊ったらっそんなに否定しなくてもいいじゃない。さっき泊めてくれるって言ったじゃない。」

「それはそうなんだが……。そういうことじゃなくてだな。」

「許可したってどういうこと~~~?!」

ヒートアップして収集付かなくなってきた。リアはまったく気にしてないようだし、どう説明したらいいのやら……。上手くリアが家に泊まる言い訳を考えなければ……。

「その~だな……。リ、リアの親御さんに頼まれてだな!ちょっと訳ありなんだ!やましいことはない!」

「親後さんに頼まれたのならしかたないのかもしれないけど……。むぅ~。いいな。」

何となく納得してくれたらしい。最後なんか小声で呟いてたが。

「まぁ、そんなところね。」

何故か自信気なリア。どこからその自信は来るんだ。

「そうだ!春も泊まりにくれば?3人いたら楽しいわよ!きっと!」

「え。」

「行ってみたいけど、湊の迷惑になりそうだしやめとくよ。」

「湊~迷惑なの~?」

正直三人は楽しそうだけど家に女の子二人何て凄い緊張してしまうな。ど、どうしよう……。俺がイケメンなら即答でOKなのだろうか。

「お、俺は迷惑じゃないぞ!春さえよければいつでも来てくれ!春さえよければな!」

 とりあえず、相手に任せる作戦でいこう。こう言っとけば大体向こうが断るだろう。春には少し申し訳ない事をしたが。

「え……ほんと?」

 あ、あれ。思ってた反応と違う。あれ……。

「今日はまだバイトもあるし、今度の休みの日泊まりにいこっかな……。リアとも話したいし。」

「そうしようそうしよう~!私も春と話したいわ~!」

どうやら泊まることで話が進んでしまいそうだ……。一人も二人も変わらないか!ずっしり腰を低く構えてドンと行こう。

「それはそうと、二人共何か頼まないの?」

「そういえばそうだな。話に夢中で忘れてた。腹減ったから喫茶店に来たのに。何にしようかな。」

 完全に目的を忘れてた。ただただ、喫茶店に来て話し込んでただけだった。マスターの方をそっと見てみるとまったく気にしてはなさそうだった。

「私オムライスが食べたいわ。これってケチャップで文字を書いてくれるやつでしょ?何か知ってるわ!」

 あーいうのって普通の喫茶店でもやっているのか?メイド喫茶特有の文化かと思ってたが……。

「本来そーいうのはやってないけど、簡単な文字だったら書いてあげるよ。」

 特別待遇だ。リア様様だ。

「マジ?!じゃあ俺もオムライスにしようかな~。」

「湊が言ってるとちょっと引く。」

「え?!やってくれないのか……。」

「いや、そんなに落ち込まないでよ。書く書く。ごめんごめんってば。僕が悪かったから!書く文字は指定しないでね。難しいことはできないから。」

 よかった。引かれて落ち込んだが一度ぐらい体験してみたかった。本場のやつとは違うだろうが、オムライスを作ってケチャップで字を書いてもらうのってなんだかんだ、男の夢だ。

「飲物は?」

「俺アイスカフェオレで頼む。」

「私も~。」

「かしこまりました~。アイスカフェオレ2個とオムライス2個~。」

 自分で言いながら自分で用意してる。どういうプレイなんだろう。もう一人の自分に言っていたんだろうか。マスターは何もしてねえ。どういう店なんだ……。

「それにしても、この喫茶店に入って正解だったわね!春に会えたんだもの。」

「リアに付いて来て正解だったな。俺一人なら絶対にこんな洒落た所来ねえからな。二度と会うことがなかったかもしれん。」

 春を探すのには時間が掛かると思ってたからな。思いがけない幸運だ。リアは本当に凄い。

「どうどう?春可愛いわよね?」

「ん?確かに可愛いと思うぞ。中々いないレベルだ。」

「えへへ~。嬉しい~。」

「何でお前が喜んでんだ?」

「秘密~。」

 どういうことだ。まぁ、実際可愛い。二人共可愛い。こんな二人と友達って凄い幸せ者なんじゃないか?!

「はい、お待たせ~当店特別のオムライスととっても美味しいカフェオレだよ~。」

 お、来たか。ちょっと楽しみだ。喫茶店のご飯って美味しそうなイメージがある。できる事なら通いたいしな。春にも会えるなら会いたいし。

「そのセリフ皆に言ってるのか?」

ちょっと疑問だった。あれか?可愛い子がああいうセリフを言うのが売りなのだろうか。

「言うわけないじゃん。ノリだよノリ。」

 即答だった。でも一安心。

「っていうか、お前も食べるんだな。」

「いいでしょ別に~。他に客もいないんだから。流石に普段からこんなことはしてないよ。特別なの特別。」

 喫茶店にもやっぱり人が多い時間と少ない時間があるんだろう。他の席には誰もいなかった。

さてさて、オムライスには何て書いてあるんだろう。わくわく。

 何っ……?!これは……。オムライスにケチャップで「オムライス」と書かれている。こいつは自分がオムライスって認めてもらえなかった何かなのか?

 自分で自分の事をオムライスって主張するオムライス何か哀れだ。考え方の問題か?!名札か!名札だと思えばわからなくもない。俺たちだって小さい時していたし。大人だって社員証とか言って書いてあるもんだからな。オムライス、お前は哀れなんかじゃないぞ!立派に自分を持っているんだ。頑張れ!

「このオムライスちょっとユーモアがあるな。」

「でしょでしょ~。オムライスにオムライスって書いてあるのちょっとおもしろくない?」

 春はちょっと自信ありげだった。確かに俺もいろんな突っ込みを頭の中で考えてしまった。ちょっと面白い。スプーン一杯ぐらいの面白さ。

「な、面白いよな。リア。」

 リアのほうは、まじまじとオムライスを見ていた。何か思っていたのと違ってショックを受けていたようだ。お前の気持ち少しだけはわかってやれるぞ!

「私は「大好き!」とか書いてあったらよかったな~。ちょっと期待してたのにオムライスって……。へへへ。」

 なんだかんだ少し笑ってた。よかったよかった。

「流石にそんな事書くの恥ずかしすぎるよ。いくらなんでも。流石にね……。」

 そりゃそうだろうな。普段書いてるならまだしも、特に知り合い相手なんて恥ずかしそうだ。

「それにしても、オムライス美味しいな。なんか食べたことあるやつと全然違うぞ。半熟の具合ととろっとろの感じと、チキンライス!美味しすぎるぞ!」

「確かに美味しい!これは店に出来るレベルだわ!」

「店で出してるもんだからね。」

 春が小声で突っ込んでいた。

 確かにかなりレベルが高かった。あまりオムライスを食べたことがないが通って食べたいなって重されるほどだった。家ではまねできないなこれ。




「毎日これ食べたいわ~。ねえ、湊。毎日着ましょうよここ。お願い~。」

「確かに美味いし通いたい気持ちはあるけどな、これ二人前となると金が……。」

「今日は3人前お願いね。」

「えっ?!お前の分も俺が払うのかよ!まあ……春の分ならしょうがないか。こうして再開できたんだし。」

「嘘だよ嘘。じょーだんだから。今日は全部払わなくていいよ。僕が出しとく。次からはこういうことしないけど。今迄の僕の詫びも含めて今日は僕が出しとくから。」

 ちょっと安心した。正直一人分増えたぐらいじゃそんなに差はないが、これからの生活の事を考えると助かる。

「それはそれで、なんだか申し訳ない。わかった。また来た時注文してお金払うよ。」

 これからまた遊んだりできるだろうか。いつかこの借りは返さなければ。

「うん。お願いね。」

「何とかこれからもオムライス食べれそうね。」

 リアはオムライスを食べる事しか考えてなさそうだった。毎日は無理でもちょくちょくな。物凄い勢いでオムライスを平らげていた。もう無くなっていた。

「食べるの早いな。」

「お腹減ってたんだもん。それに、美味しいし。」

 それにしても、早すぎんだろ……。俺もさっさと食べるか。それにしても美味い。レシピを知ってるとはいえ、春はすげえな。

「春って料理上手なんだな。嫁として理想なんじゃないか?」

「えっ……!?こ、こんなの練習したら誰でもできるよ!急に変な事言わないでよ。びっくりするじゃん。」

「いやいや、相当だと思うぞ。練習してたとしても、センスとか相当あるんじゃないか?」

「もう、褒め過ぎだってば……。まぁ……そんなに言うならご飯作ってあげなくもないけど……?」

「おう。気に入ったからな。またここの店来るぞ。」

「湊のばかっ!!!」

 凄い怒鳴られてしまった。悪い事言ってしまったんだろうか……。普通に会話出来ていたと思っていたんだが。

「な、なんかごめん……。」

「湊は鈍感だからね~。鈍すぎ。まあ、私もここの店に連れてってもらえるならいっか。またオムライス食べたい~。」

 リアは相当気に入っていた。

「もう食べ終わったんなら帰ったら?」

 春は少し不機嫌なままだった。悪いことをしてしまったみたいだ。あまり長居しても店に迷惑だし、そろそろ帰るか。いつか春に何かしてやらんとな。

「悪かったな春。もし、俺にして欲しい事とかあったら何でも言ってくれ。喜んで引き受けるから。何でもいいぞ。迷惑かけっぱなしだしな。」

「何でも~?じゃあ……。また今度会った時にでもお願い聞いてもらおうかな。」

 少し微笑んでいた。どうやらご機嫌をとれたようだ。一安心。

「おう。何でも言ってくれ。そろそろ帰るわ。また暇なとき3人で遊んだりしようぜ。」

「また春と遊びたいわね。今度いつ暇なの~?遊ぼうよ~。」

「じゃあ……今度の土曜日遊ぶ?空いてるけど……。」

「今度の土曜日なら俺も大丈夫だし、そうするか。また連絡するよ。それじゃあな。」

「春ばいばい~。またね~。」

「二人共またね~。ありがとうございましたー。」

 そして店を去っていった。

 「それにしてもオムライス美味しかったね~。」

「ああ、美味しかった。オムライスなんて滅多に食わないからあんなに美味いもんなのかって正直驚いた。それに、カフェオレも俺好みの味だった。美味い。」

 俺は毎日一本ぐらいカフェオレを飲むぐらいにはカフェオレが好きだ。その俺が「これは美味い!」と素直に思えるほどだった。カフェオレって何故か昔から好きなんだよな~。

「美味しかったね~。また食べに行こうね~。」

「あぁ。春もいることだしな。あまり迷惑にならない程度に行こう。」

「そういえば、春の制服姿可愛かったね。もっと見てたかったわ。写真撮ってもらえばよかったかしら。」

「可愛かったな。」

 確かに可愛かった。あれが、春じゃなくても可愛いな~って思っていただろう。それとは別の気持ちもあった。男だと思っていた奴が実は女で、あんなに可愛いなんて。

 正直自分の頭で整理がついていない。っていうか、正直ドタイプだった。身長が低めで胸もそこそこ。髪も似合っていた。リアは、リアで昔と変わらず可愛いままだし、凄い成長してるし、ドキドキしてしまう。昔と同じような感じで接することが出来たらいいんだが。自然にいけるだろうか。

 「惚れた?」こちらをニヤニヤと見ながら質問してくる。こういう時どう答えるべきなんだ……。素直に答えるべきなのか、はぐらかすべきなのか……。ただ、正直な話まだ混乱していてわからないな。もう少し会う回数が増えたりするとそういう気持ちがわかってくるんだろうか。

「わからないな。正直可愛くて驚いたが、混乱の方が上だな。ぱにっくだ。不意打ちを食らった感じだ。」

「そっか~。」

 何故かちょっと残念そうだった。

「でも、これからよね。春ともこれからいっぱい会えるだろうし、又沢山遊んでるうちに色々変わっちゃうかもね。」

「そうだな。これから昔にみたいに三人で遊べるかもな。あいつにはあいつの予定とかあるだろうから、しょっちゅうは難しいかもしれないけどな。」

「それもそっか~。三人で暮らせたらいいのにね。」

「えっ?!どういう意味だ?!」

「そのままの意味よ。3人で暮らせたら楽しそうじゃない。嫌なこともすぐ忘れれそうで。」

 確かに楽しいは楽しいかもしれないが。色々な意味でだめなんじゃないか?俺からするととても嬉しいことではあるんだろうが……。想像してみたら、確かに悪くないが……。

 ただ、昔の状態での3人とは少し違うからな……。やっぱりまずいだろう。いい年した男女が三人で暮らすっていうのはちょっとどうなんだろう。

「それはちょっとだめだろ流石に。楽しそうは楽しそうな事なんだが、だめだ。」

「えぇ~なんでよ~。いいじゃない。ケチ。」

「ケチとかそういうことではなくてだな。ダメなもんはダメだ。」

 リアがしょげている。出来る事ならやってやりたいが、春にも春の人生があるわけだしな……。それに、ちょっと無茶苦茶な考え方だ。いつまでも子供のままじゃないんだぞ俺たち。

 そもそもこいつは俺の事とかどう思ってるんだろう。正直ただの幼馴染ぐらいでしか見てなさそうだが。

 さて、家に帰ってきた物のこれからどうするか。まだ夜の7時だ。普段ならアニメかゲームだ。人が居る場合ってどうしたらいいんだ。

 そんな経験あんまりないからどうしたらいいかわからん。それに相手は女の子だ。緊張する。リアはあんまり気にしてなさそうだが、立場的に俺から何か言った方がいいんだろうが……。

とりあえずあれやこれや考える前に聞いてみるか。

「暇だろ。何かするか?テレビかゲームぐらいしかないが。」

「何言ってるの。湊がいるじゃない。」

「えっ……。」

「湊が居たら私は退屈しないわよ。まあ、せっかくだからゲームでもしようかしら。何かおすすめのゲームある?」

「色々あるがリアがどうゆうやつが好きかにもよるしな。とりあえず面白そうなやつ何個か見せるからどれか選んでくれ。」

 最近流行ってるFPSのゲームからRPG、カードゲーム、色々な動画を見せてみた。

「どれか気になったやつあったか?」

「私これやってみたい!」

今流行りのバトロワか……。初心者でもまぁ何とか始めやすい部類か。味方もいるし最悪なんとかなりそうだな。RPGとかの方が興味あるかなって思ってたから意外だ。

まず、チュートリアルに沿って一通りの操作とかゲームのルールを教える。思いのほか呑み込みが早かった。

こういう時ゲーム歴が長い俺には何がわかって何がわからないのかわからんな……。難しそうな操作とかでも教えたらすぐに理解していた。

これはリアがただ上手いだけなのかこういうものなのかどっちなんだろう……。

「とりあえず、設定とか操作とかは大丈夫そうだな。一通りのルールはわかったな?最後まで生き残ったら勝ちだ。」

「大体わかったわ。あとはキャラクターによる能力とかの差がわからないぐらいね。」

「それはやらないとわからないかもな。マップも実際の場所と違うからやって覚えていけばいい。わからなかったら教えるから、何でも聞いてくれ。」

「わかったわ。このゲームについて詳しいのね。」

「ある程度な。」

結構やりこんでいただけあって、そこそこ知識と技術はある。人に教えたこともあるから教えるのもそんなに下手じゃないとは思うが……。

「後は一応味方もいるから余裕があれば位置だけ確認しておけばいい。とりあえず始めるか。」

マッチングボタンを押した。時間が時間なだけあってすぐに人が集まった。

「キャラクターは見た目好きそうなやつ選んでおけばいいよ。また教えるから。」

「わかったわ。」

ゲームのキャラクターって凄い個性が出るんだよな。女性だから可愛いキャラクターとか選ぶのかな~って思ってたらゴツイキャラクター好きだったり渋いおやじ好きだったりするんだよな。

ほう……。リンか。中々見る目あるのかもしれないな。今結構強いと言われているキャラクターだ。見た目も可愛い。

「そいつは最初から体力が他のキャラクターより多いだけだから、能力とかはあまり気にせずにいいぞ。」

「単純なキャラクターなのね。分かり易くていいわ。」

「それで、今からこのマップのどこかに降りるんだ。とりあえず、何かの建物目指して降りたいところに降りてみろ。」

「わかったわ。それじゃ、ここにしてみるわ。」

渋いな。中々いい場所に降りている。周りには敵がいなく、アイテムもそこそこある。最初に居ては中々いい選択だ。装備をある程度整えて戦う事ができそうだ。

ゲーム始めた時から敵が多すぎる所に降りたり、アイテムがないとことかに降りたりすると正直練習にもならないし、ゲームにもならないからな。

「後はさっき言った感じで敵が居たら銃を撃ったり囲まれないように気をつけてればいい。わからんことがあったら聞いてくれ。」

「わ、分かった……。」

凄い集中してる。あまり喋りかけないほうがいいだろう。後は後方腕組おじさんになって見守ってよう。

おっ、敵が居た。戦闘が起きそうだ。同じレベルの敵と合うようになってるから、めちゃくちゃ強い敵はいなさそうだが。

倒してる……。普通に思ってたより上手だ。初めてとは思えないな。センスを感じる。やってればすぐに上達しそうだな。

「回復したほうがいいぞ。そこのボタンを押せば回復できるから。」

「うん……。」

試合展開を見てる感じ一位取れそうな展開ではある。一位は難しくても上位には入れそうだ。初めてにしてはまずまずの結果残せそうだ。

あと4部隊だ。場所もいい。運が悪くなければこのまま行けそうだな。

おっ。甘えた相手を良いポジションから一方的に倒してる。残り一部隊だ。おっ、勝った。凄い。初めてでこれは凄いな。画面には一位の文字が。

「中々上手いな……。やるじゃん。」

「これ勝ったの……?」

「勝ったぞ。一位だ。初めてでこれは相当上手いぞ。センスあるな。楽しいか?」

「勝ったのね……。集中しすぎてて気づかなかったわ。そうね、正直わからない部分が多いけれど楽しいわ。興味が湧いたわ。」

「楽しいならよかった。ゲームは楽しんでなんぼだからな。もうちょっとやってみていい?」

「ああ。いいぞ。好きなだけやってくれ。それでわからんことがあったら聞いてくれ。」

しばらく後ろでやってる姿を眺めていた。

スマホなどを弄りながらリアのゲームプレイを見ていたら気づけば12時になっていた。リアは結構はまってるみたいだった。

「もう十二時だから俺はそろそろシャワー浴びて寝るけどリアはどうする?」

「もう少しやってていいかしら……?」

 相当はまってるみたいだった。始めたばかりだからやっぱずっとやってたいんだろな。気持ちは痛いほどわかる。楽しそうだし、特に問題ないだろう。

「ああ。いいぞ。気が済むまでやっててくれ。そういえば飲物とか飲みたかったら冷蔵庫から勝手にとってくれ。冷蔵庫とか家にあるものは適当に使ってかまわないから。」

「ありがとう。じゃ、遠慮なく。」

 リアはそう言って冷蔵庫からお茶を取り出してゲームを再開した。

 ふう……。シャワーは気持ちいいな。ぼーっとしながらシャワー浴びている時凄い好きなんだよな。シャワーを浴びてぼーっとしていると30分ぐらいざらに経っていることがよくある。

 それにしても今日は色々あったな。もう会えないって思ってた二人と再会して、なぜか同居が始まって。この感じだったらリアと暮らすのもスムーズに過ごせそうだ。

 ポジティブな感覚だ。これが気まずい感じとか、気を使いすぎる感じになってたら正直しんどかった。あまり想像したくない展開だったからほんとによかった。

 外でそういうことになったら逃げるという選択肢があるが、家だからな……。

 正直これから楽しそうだな……。ていうか、リアのゲーム上達早かったな。みるみるうちに成長していった。横からアドバイスを挟んだりしていたが、吸収が早かったな。

 それと、嗅覚というか感覚が良い。選択が上手というか。ゲーム上達で凄い大事な部分だ。知識がいくらあろうがそれを状況によって選択する能力がなければ正直話にならない。

 その部分は何というか教えたりしても成長できる部分ではあるのだが、教えたからといってどうにかなる部分ではない。正直本人次第な所が大きい。あの分だと相当はまりそうだ。俺は俺で新しい楽しみな事が増えたしよかった。

 あれ、今シャンプーしてたっけな……。考え事しながらシャワー浴びてたりすると忘れてしまうんだよな……。もう一回して出るか。

「じゃあ寝るわ。おやすみ。」

結構眠かった。凄いぼーっとしていた。色々あったからかな。」

「ええ。おやすみ湊。」

 布団に入っても部屋に生活感が残ってるのは少し違和感があるな。普通俺が布団で寝たら部屋から何も音が聞こえないからな。実家を思い出すな。実家では妹がうるさかったからな。すぐに寝てしまった。

 良く寝た。昨日は色々な事があったからな。いつもより良く寝れた気がする。随分ぐっすりだったな。

 ん……?何だ?手に知らない感触がある。やけに柔らかくぷにぷにしている……。気持ち良い。揉み揉み……。

「湊ったら朝からえっちだね……。おはよ。」

「え……?」

 頭が固まった。思考停止状態。どういうことなんだ……?何で同じベッドに女性がいるんだろう……?何も分からん……。

 あ、そうか……昨日リアと一緒に居て……。これはリアか。段々と状況が理解できてきた。

「湊ったらいつまで胸揉むのよ。そんなに触りたいのなら言ってくれればいつでも触らせてあげるのに。」

「えっ!ごめんごめんごめん。」

 手にあった柔らかい感触はリアの胸だった。温かくて柔らかくて気持ちよかった……。あれが女性の胸……。

 ヤバい。ベッドから抜け出したいけどどうしよう。急な展開にパニックになる。不味い事をしてしまった……。

「湊ならいつでもいいわよ。好きなときに触ってくれれば!」

「いやいや、だめだから。女の子は気軽にそんなこと言ったらだめだよ。」

「気軽じゃないわよ。ちゃんと勇気を持って言ってるわよ。湊にしか言わないんだから。」

「それでもだめだから!」

 そんなこと言われたらドキドキしてしまう。年頃の男には刺激が強すぎる。興奮してしまうじゃないか……。

 色々な事を考えている内にリアがベッドから出て行って洗面所に行った。ふう、よかった。これで少し落ち着ける。

 ていうか、何でリアと一緒に寝ているんだっけ?思いだせない……。一緒に寝るはずないんだが。

 そういえば、先にベッドに入って寝てしまったからリアにベッドを譲れなかったのか。それでゲームで疲れたリアがベッドに入ってきたってところか。

 疲れてて何も考えずに悪いことしちゃったな。リアはあんまり気にしなのかもしれないけど、流石にそういう話で済ませられないしな。

 これからはリアにベッドで寝かせるようにしないとな……。流石にラッキースケべが許されるのは今回だけだろう。

 どこからとなくいい匂いがする。ベッドからか?鼻を近づけてクンクンと匂いで見る。リアの匂いだ。良い匂いがする……。

 さっさとベッドから出て気を紛らわそう。腹もすいてきたしご飯でも食べるか。リアも腹が空いてきた頃だろう。

 冷蔵庫の中から朝食に使えそうな物を捜しながら、何にしようか考える。といっても、元々作る料理なんて限られてるし、材料もそれほどないけど。

 リアは普段何食べるんだろう。俺とかだったら朝から重めの物でも平気で食べれたりするけど、女子ってそういうの気にしそうだ。

 小洒落た軽食とか食べてそうなイメージ。俺は正直どっちでもいいし、その時の気分次第だけど他人の分は流石に分からないな。

 何にしようか考えてるところにリアが丁度洗面所から出てきた。

「リア、朝ごはん食べる?」

「ええ。貰おうかしら。」

「食べたいものとかある?材料が多くあるわけではないんだけど。出来るだけ希望には合わせるつもり。」

「何でもいいわよ。湊が作ったのなら何でもいいわ。どれでも美味しく食べるから。」

 何でもいいって、やっぱり一番難しいんだなって改めて思った。お母さんごめんなさい。実家に居るときはいつも何でもいいって言ってたな。

 何か言っても採用された覚えはないけども。それでも何か言っといた方が気持ちとしては楽だな。ある程度何回か食事してたら相手の好みとか気分に合わせて料理できそうだけど、まだ最初だからな。とりあえず、誰でも食べれそうな感じの物でも作ってみるか。

 食パンを取り出してレンジに入れて待ち時間5分に設定。その間に冷蔵庫から取り出した卵をフライパンに乗せ、目玉焼きを作る。目玉焼きは手慣れたもんだ。だいたいの焼き具合に調整できる。

「リアは目玉焼きの焼き加減に好みとかある?」

「半熟がいいわ。」

「おーけー。」

 半熟か。いいチョイスだ。俺に任せておけ。こんなの俺にとってはお茶の子さいさいだ。味付けは塩コショウをしておいて、後から好みに合わせて追加でと。

 せっかくだし、ハムも追加で用意しとくか。普段とは違い少し豪勢な感じで。少しだけな。自分の時だとよっぽどな事がないとしないけど、客がいると少し丁寧に豪華にしようとしてしまうな。少しぐらいいい所を見せようとしても罰はあたらんだろう。

 よし、食パンも焼けて時間的にはピッタリだな。普段だったら目玉焼きとかハムをパンに乗せてその場で立ったまま食べてるけど、流石に今そうするのは何か違う気がするな。行儀悪い。リアにそんなことはさせられないし、お皿に分けて出してみようか。

 育ちの差が出てしまうよな、こういう時って。普段ちゃんと皿に分けて出したりしないからな。でも、一人暮らしってそういうもんだよな?

 皆手を省けそうなところって省くよな?しょうがないよな?面倒くさいんだもん。

 今思ったら、俺ってそういう所結構あるかもしれないな。リアが居る間ぐらいはせめて気を付けて行動しないとな。あんまり品の無い人間だと思われたくもないし。出来るだけ意識しよう。

 こんなにお皿使ったことなかったな。一枚以上テーブルに出したことないかもしれない。ぐちゃぐちゃになろうと、一枚に何とか乗せようとしてるからな。

 洗い物増えると面倒だし。こうやって何枚かの皿に別々に食べ物を乗せてるとちゃんとした食事って感じがするな。気分としては悪くない。

 朝食をリアの前に持っていく。気に入るといいんだが。最悪不味くなければいい。苦手とかじゃなければ。

「リア、飲物いるか?お茶が珈琲ぐらいしかないけどな。もし、他にほしければ自販機で買ってくるけどどうする?」

「お茶を頂くわ。」

「わかった。」

 冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いで渡す。コップにお茶も普段ならしないな。ペットボトルのまま飲む。皆家ならそうだよな?

 でも、友達の家とか行ったら大体コップで出てくるんだよな。人が来たらやっぱそうなるよな?普段からしてるわけじゃないよな?俺に品がないだけかな?

「湊の家のお茶美味しいわね。何だか落ち着くわ。」

「市販の安いお茶だよ。お茶なんてどこのでも大して変わらなくない?」

「いいえ。そんなことないわ。湊が入れてくれたから美味しいのよ。」

「そ、そう……。ありがとう。」

 何だか照れてしまう。そこまでストレートに言われてしまうと悪い気はしない。嬉しいけど、でも本当に大したことないお茶だからわるい気もしてしまう。

「目玉焼きとかハムとか食パンに何か調味料かける?醤油とかソースとかマヨネーズとかあるけど、何か好きなのあれば……。」

「うーん。それは難しい話ね湊。」

「難しい話?」

 俺は知らない間に難しい話をしていたのか?リアの好みを聞いてただけだった気がしたんだけどな。

「目玉焼きに何をかけるかで喧嘩をするってよく聞く話だわ。目玉焼き以外でも、卵焼きに砂糖を入れるか醤油を入れるかとか。湊がした質問は一歩間違えば、私と湊の間に亀裂が入る話よ。」

 どういう所で暮らしてきたんだ?よく聞くような話ではあるけど、本気で喧嘩したりまではしないだろ……。でも、調味料って好みで凄い差が出るよな。

 たまーにとんでもない物かけたりする人もいるからな。あと、量。とんでもない量をかけたりしてる人を見たりすると引いてしまう時がある。

 ご飯なんて好みだから、文句があるとかではないんだけど、それはちょっと……ってのはあるからな。リアはそういうのなかった気がするんだけど、会わない内に変わったりしてしまったんだろうか?大体の事なら受け入れられる自信があるけど、大体の事で頼む。

 いや、考え方が間違っていたのかもしれない。俺は今、俺がそういうのを気にしてると思われてるんじゃないか?って考えてたけど、そうじゃないのかもリアに凄い好みがあって、リアと俺の好みに差があったらリアが耐えられないのかもしれない。段々不安になってきた。

 試されてるのはリアじゃなくて、俺の方だったのか……?リアは俺が作ったご飯なら何でもいいとか言うぐらいだったら勝手に味にそこまでうるさくないタイプかと思ってたんだが……。

「大袈裟じゃないか……?俺はどれも好きだぞ……。」

「それじゃだめよ。」

「え……。何か不味い事言ったか?」

「ええ。大不味よ。」

 大不味って何だ……。初耳だよ。

「湊は分かってないわね……。女心って物を。湊なら私の意図を汲んでくれると思ったのだけれど。」

 女心……?!そんな難しい話をしていたのか……!通りで俺には理解できなかったみたいだ……。女心はやっぱり難しいんだ……。

 俺は味の好みの話をしていたの思っていたのに、いつのまにそんな話に……。

「悪い!お、俺はどうしたらよかったんだ?!女心ってやつを教えてくれ!」

 困った時は謝って教えを乞う。これが俺のやり方だ。

「そうね……。湊には私が女心って奴を教えないといけないみたいね……。それじゃ女心って奴を教えてあげるわ。」

「おおっ!先生!お願いします!」

「先生……?良い響きね。悪くないわ。」

 リアは髪の毛を手で掻き揚げ、教師の気分になっている様だった。

「じゃあ、湊君。君は目玉焼きに醤油派の人間になってみて。」

「は、はい……。醤油派ですか……。」

「ええ。そうよ。貴方は醤油派の人間。それ以外の派閥の人間とは戦わいといけないの。」

「戦う?!」

「ええ。貴方はソースやそれ以外の調味料を目玉焼きにかける人間に醤油の良さを伝え、醤油の派閥に入れる使命があるのよ。」

「そうだったのか……。」

「それで私はソースの派の人間。目玉焼きにソースをかけることを使命として生きているわ。」

「リアは俺の敵なのかっ?!」

「ええ。そうよ。来なさい湊。私に醤油の良さを伝えてみなさい。」

「ははは……。愚かだなリア。」

「えっ?!」

「リアともあろう者が醤油の良さに気づけないとはな……。」

「ふふ。私はソースを愛しているわ。ソースこそ大正義よ。湊こそ醤油を信じていいのかしら?」

「醤油を信じてていいのかだと?ソース何てものを信じている奴に言われたくはないな……。醤油の良さをリアに伝えてやろうか?」

「やってみるといいわ。私の気持ちはその程度の事で揺るがないもの。来なさい。」

「醤油の良さはな!醤油の良さは……。」

「ほら。早く言ってみなさい。貴方の醤油への思いはその程度ではないはずよ。」

「醤油の良さは……。日本人と言えばソースより醤油だろうがっ!」

「ぐっ……。やるわね湊……。今のは効いたわ……。私としたことが……。まさか敗れるなんてね……。」

 リアは自分の胸に手を当てながら息切れした感じで苦しんでいた。

「なあ……。」

「ええ。」

「何これ?」

 何これ以外の感想が出なかった。俺は何をしていたんだろう。醤油の良さも何も思いつかなかった。別に美味しければ調味料は何でもいいよ……。

「何となく味の好みで言い合いみたいなのをしてみたかったのよ。皆しているらしいわ。何となく憧れていたのよ。一度ぐらいやってみたいじゃない?」

「そうかな……?あんまり喧嘩とかはしたくないけど。」

「兄弟喧嘩とか友達との口喧嘩とかってやっぱり憧れるわ。友達!って感じがしていいじゃない。喧嘩別れとかは嫌だけど、仲良いからこそできる事って

あるじゃない。そういうのを真似てみたかったのよ。」

「そんなもんかな。喧嘩とかあんまりしてこなかったのか?」

「そうね。無かったわ。」

「それはそれでいいんじゃないか?喧嘩っばかりも結構辛いと思うぞ。」

「それはそうかもしれないわね。」

「ま、まあ!リアの言ってることが分からない訳じゃないけどな!」

「湊は優しいわね。」

「そうか?」

「ええ。私は満足したわ。たまにするから良いものなのかもしれないわね。それに、仲直りできてこそ良い物って思えるのかもしれないわ。そんな感じがした。」

「まー。そういうもんかもな。」

 そういえばリアって兄弟とかいなかったもんな。今まで友達とかと喧嘩とかもなかったのだろうか?良い人の周りには良い人が集まりやすいしな。

 そういう所で過ごしたら自分が体験したことのない事に憧れるの少しわかる。俺も喧嘩なんてあんまりしたことなかったな。

「それで本題だが、調味料は何かかけるか?」

「そうねー。醤油貰えるかしら。今日は湊のせいで醤油派の人間になってしまったから。」

「さっきのまだ続いてるのかよ……。別に自分の好きな奴でいいんだぞ?」

「大丈夫よ。調味料何てその時の気分だもの。どれでも美味しく食べれる自信があるわ。」

 料理はどれでも美味しく食べれるように育ててもらいましたってたまに聞くけど本当なのかな。不味い物なんて不味い気がするんだけどな。

 良いところの子供とかそういうイメージがある。色々な物を食べる機会が多いからだろうか?訓練次第で好き嫌いってどうにかなるのかな。

「それなら良いけど。はい、これ醤油。」

「ありがとー。湊は普段何かけるの?」

「俺もその時の気分だな。醤油か塩コショウとかが多いかな。今日は醤油派の人間だから醤油かけるけどな。」

「お揃いね。」

「そうだな。」

 調味料お揃いで一緒のご飯食べたりするのって不思議な気分になるな。普段してるなんて事のない事が素敵な事に感じれる。

 何も言わなければ、何も気づかなければ素敵な事にすら感じなかったのかもしれないけど、リアの一言でそうなんだなって思えてしまう。実感するんだ。

 一度お揃いって思ってしまうと自分の頭の中をお揃いなんだ……って気持ちで巡りまわる。普段しない俺には少し刺激的だな。

 お揃いとかペアルックとかしてるカップルとか友達を見ててなんであんなことしてるだろうって思ってたけど、少し気持ちが分かった気がする。

 なんて事の無い事を共有することで一緒の気持ちになれるというか、一緒なんだなあって思えることが幸せなのかもしれないな。

「目玉焼きとパンも美味しいわ。毎日これでもいいぐらい!これからも作ってくれる?」

「それぐらいだったら簡単に作れるからいいよ。お気に召したならよかった。」

「当り前じゃない。湊が作ったの物なら何でも美味しく食べれるわ。任せて。」

「いや、不味い物は食べちゃダメだよ……。ちゃんと味見して美味しいか確認しないとな……。」

 喜んでくれるのは嬉しいし、食べてもらえるのも純粋に嬉しいけど、ここまでくると少し心配になってしまう。味とかわかってるんだろうか……。しっかりしないとな。

「あ!そうだ!」

「どうした?」

「オムライス作ってもらえば良かったわ!忘れてた……。私としたことが……。」

「オムライスか……。確かに喫茶店で食べたのは美味しかったもんな。春があれを作れるなんて純粋に凄いと思ったな。」

「ええ。とても美味しかったわ。だから湊が作ったのも食べてみたいの。いいかしら?」

「考えておくよ……。」

「前向きな検討をお願いするわ。」

 喫茶店で美味しいのを食べてから自分で作って食べると絶望しそうだ。その差に。当たり前だけど店と素人が適当に作ったのでは差がある。

 練習したり調整したらある程度自分の好みのやつを作れるようになるかもしれないけど、時間掛かりそうだな……。リアの頼みだし無碍にはできないしな。

 考えてみるか……。オムライスってあんまり食べた事すらなかったなー。自分の中で珍しい料理って感じだ。

 オムライスを作るなら他の料理を作ろうってなってしまう。昔からあんまりオムライスと出会わなかったせいかな。

 馴染み無い物って切っ掛けがないと食べようと思ったり作ろうと思わないよな。思わないというか、思えないよね。そもそもの頭の中にないんだから。

 そういう意味では今回は良い切っ掛けになったのかもしれない。オムライスを知るための切っ掛けに。そう思うと前向きに捉えられてきたな。

 いつか頑張って作ってみよう。リアが美味しいって言ってくれるようなオムライスを。

 それにしても今日の朝食は何だか美味しい気がする。誰かと一緒に食べてるからだろうか。それともリアと一緒に食べてるからだろうか。

 朝食を人と食べるのは随分と久しぶりな気がする。誰かと付き合ったり結婚したりしたらこんな感じなんだろうか?

 家に人がいるだけでやっぱ随分と色々な事が変わる気がする。実家に居た時を思い出すな。家族は元気にしてるだろうか。

 一緒に住んでいたら住んでたで鬱陶しく感じてしまう時があるが、一緒に住んでなかったらたまには会いたいなという気持ちになるときがある。何だかんだで家族の事が好きなのだろうか。あまり実感はないけど。

「湊、ボーっとしてどうしたの?何か考え事かしら?」

「え、あ……そうそう。昨日ゲームどうだった?ていうか、いつまでやってたの?」

「ゲームは凄く楽しかったわ。何もかも忘れて疲れ果てるまでやってたわ。気づいたらベッドで寝てたわ……。ゲームって恐ろしい……。」

「楽しかったんならよかった。眠いならもう少し寝てれば?僕はそろそろ支度して大学に行ってくるけど。」

「そうね……。とりあえずそうさせてもらうわ。起きて時間があったらゲームしててもいい?」

「大丈夫だよ。壊したりさえしなければ。」

「ありがとう湊。じゃあ、お言葉に甘えてもうひと眠りさせてもらおうかしら。」

 リアはベッドに着いた瞬間眠っていた。よっぽど眠かったんだろうか?寝るまでが早すぎる……。朝までゲームしてたんならしょうがないかな。

 気持ちは凄くわかる。朝方までゲームやってると次の日凄く眠たいからね。

 でも、ご飯食べてすぐ寝たら体に悪くないのかな……。次から気を付けないとな……俺が。

 リアもゲームのしすぎて体調とか崩さないといいけどな……。リアが体調崩しでもしたら俺の責任だからな。

 さて、そろそろ着替えたりして学校に向かわないと間に合わなくなってしまうな。さっさと支度しよう。

 家を出て駅まで歩ていく。何だか今日は気分が清々しい。テンションがいつもより高くなっている気がする。

 いつもはどんよりした気分で大学に向かっているが、今日はちょっと楽しめそうな気分だ。嬉しい事があったら他の事にも影響を及ぼしてくれるんだな。

 自分の中でプラスのスパイラルが生まれてるきがする。こんなこともあるんだな。人生で初めてかもしれない。

 今なら何をされても許せるような気分だ。余裕のある男というのは常にこんな感じなのだろうか。羨ましいぜ。そんなことも今の俺なら許せる。寛大な気分で許す。

 一つ気づいた事がある。人生を良くするための秘訣。いつまでも奥手になっていないで、自分から何か一つだけでいいから成功させる。

 その成功させた事が次の成功を呼ぶ。そして、成功した生きた方がまた成功を呼ぶ。そんなスパイラルがあるような気がする。

 羨ましいな。お金持ちの人とか最初から成功しているようなもんだから予め良いスパイラルを作れてそうだ。

 俺も何か一つぐらい成し遂げたいな。特にしたい事も無いけれど……。

 やっぱり目標とかある人は良いなって思う。憧れる。何か一つの目標まで突っ走ってる人は素晴らしい。色々な困難もあるんだろうけれど、俺みたいな何もできてない人生からすると凄く羨ましい。かっこいいって思う。俺には何があるんだろうな……。何なら出来るんだろう……。

 ああ……。またネガティブな思考になってきてしまった。さっきまでの良いスパイラルはどこへ行ってしまったんだ……。一瞬でいつもの俺に戻ってきてしまった……。

 ま、所詮俺はこの程度の人間か……。仕方ない。人には人の生き方やり方があるからな。俺はこのまま生かさしてもらうか。

 そもそも、色々な事考えすぎなのかもな。勿論考える事は大事なのだろうけど、頭で一々考えないで体に素直になった方が良いのかもしれない。

 上手く言ってる時はいつだってそうだった気がする。考えれば考えるほど色々な事を考えてしまい、足踏みする。

 考えないことが前に進む一歩なのかも。ま、急に言われても無理だけど……。


「おーい。湊ー?朝からそんな顔してどうしたの?」

 駅の片隅で考え事しながら立ち尽くしていたら後ろから肩をトントンと叩きながら声を掛けられた。

 なんか、アニメとかで良く見る光景だ……。ただ、実際になってみるとちょっと怖い。こんな経験初めてだから。陰キャコミュ症の俺にはちょっと向いてないみたいだ。

 急に声を掛けられるだけで体がビクっとしてしまう。恐る恐る声を掛けられた方を確認すると見知った顔つきの人物だった。

「あ、あれ。春じゃん。おはよう。」

「うん。おはよう。僕で残念だったね。」

「え?いや、全然残念じゃないけど……。」

「え……。そう……?なら良いけど……。」

 春は何故か少し顔を赤くしていた……。

 ていうか、何だこの空気……。凍ってるのか?氷結か?どうなってるんだ……。絶妙に気まずいぞ……。昨日三人で話してた時は全然何とも思わなかったのに二人だと絶妙な空気だ……。

 リアと二人で話してる時は上手く話せてたから、俺成長したか?って思ってたんだけどそんなこと全然なかった。どうしよう……。

 な、何か少しでも話さないと気まずい……。こういう時は何を話せば……。

 巷で流行っている噂のあれを使用するしかないか?こうなったら、使うしかない!いっぞ!

「今日天気良いっすね……。」

「え?ああ、そうだね……。」

 ……。全然だめだったみたい。流行ってるっていう噂の会話デッキを使ってみたが、俺には向いてなかったようだ。会話って難しい。

 春とは久々だし話したいことも沢山あるし、聞きたいことだっていっぱいあるはずなのにな。

それにしても、春は随分と女らしくなった。元々の印象が男だったから尚更。髪型も似合ってるし、色も似合ってる。

「んん?どうしたの?ジロジロ見て。何か変だったかな……?」

 ジロジロ見てたのがあまりにも不自然だったみたいで気づかれてしまった。確かにジロジロ見られるのは気分が良くないかもしれないし、申し訳ない事した。

「やっぱり、春なんだなって思ってさ。ジロジロ見てごめん。あんまジロジロ見たりされるの気分良くないでしょ?」

「まあね……。でも、春なら別にいいよ。気にしてないから。」

「そうか?ならよかったけど。じゃ、今からずっとジロジロ見てても構わないってことか?」

「えっ……。」

「今、春そう言ったよな?俺ならいいって。」

「う……。……。」

 春は凄く後悔してるような表情をしている。自分の発言の愚かさを恨んでいるんかもしれない。

 ジーっと顔を見つめてみる。春は照れながら顔を真っ赤にしている。最初はそっぽ向いていたが、春は春で対抗してきた。

「じゃ、僕も湊の顔見ててもいいよね?」

「え、あ……。あぁ、いいぞ。」

「……。」

 凄い照れる。俺まで顔真っ赤になってる気がする。こんな美少女と見つめ合ってるなんて人生初めてかもしれないし、何か他の理由があるついでに見ているとかではない。

 見るために見ているとかいう謎の状態だ。心臓がドキドキしてきた。脈拍が凄く早くなってるのが感じる。

 でも、仕掛けだしたのは俺だし男には退くに退けない戦いがある。いくら春でもこの勝負は譲れない。

 そうだ、これは勝負なんだ。勝負ってなると話は変わる。相手を負けさせるために何か仕掛けなければならない。

 恥ずかしくて降参させる状態を作らなければならない。

 ただ、何も思いつかん!誰かの顔をまじまじと見つめた事なんてないし、女性とのコミュニケーションなんて俺の人生とはかけ離れてたからな……。春もまったく退いてくれる様子がないしな……。

 一つだけ思い浮かんだ策がある。至ってシンプルな作戦。俺も恥ずかしいけど、相手も間違いなくダメージがあるはず……。やるしかない。

 俺は春に一歩足を近づけた。そして、もう一歩。そして、顔を近づける。どうだ?俺も相当恥ずかしいけど、春も相当恥ずかしいだろ。頼むから降参してくれ。

 春ははにかみながら目線を反らさず、ずっとこちらを見てる。至近距離で顔を近づけ合って見つめ合ってる。

 なんでこいつはこんなに耐えれるんだ?もう、俺にはこれ以上の策がない……。敗北を認めるしかないのか?これで最後なのか……。どうしたらいいんだ……。男には負けを認めない時があるのかもしれない。

 負けを認めようとしたとき、電車が到着した。これは、流石に引きわけじゃないか?春も流石に遅れたくはないだろう。大人しく、退いてくれるんじゃないか?

「な、なあ。」

「なに?」

「電車来たし、流石に引きわけってことにしないか?大学遅刻しちゃうぞ。俺が悪かったしさ……。」

「じゃ、春の負けってことでいい?」

「え?」

「僕は遅刻してもいいよ。」

 まさかの返答だった。春はニコニコしながら強気な発言。春はこんなにも負けず嫌いだったのか。それとも退くに退けなくなっているだけなのだろうか。

 流石に俺はまだいいけど、春を遅刻させるわけにはいかない。リアにばれたら怒られそうだし、俺も流石にそんな事させたくない。悔しいけど、負けを認めるしかないのか……。

「悪かった!俺の負けだ!さ、早く電車に乗ろう!置いて行かれる!」

 春の手を引っ張って電車に入ってった。

「ちょ、危ないから!力強いってば……。」

「ごめんごめん。俺が本当に悪かったから。こんな事で遅刻させるわけにもいかんしな。車掌さんも乗るの待ってたみたいだし、何か申し訳なくてさ……。」

「ま、僕の勝ちってことだね。」

「悔しいけど、そうだな。」

「何であんなことしたの?」

「春をちょっとからかってみたくてさ。どういう反応するかなって。それに、春可愛いしさ。ちょっと気になっちゃったんだよ。」

「ふーん。」

「悪かったって。そんな怒んないでくれよ。もうしないからさ。」

「怒ってないし、別に又してもいいよ?」

「え……?」

 そんな事言われたらドキドキするじゃないか。心臓がバクバクする。美少女を眺めていいなんて滅多にない事だぞ。

 いや、これは冗談か?普通こんな事ありえないしな。俺としたことが、安い挑発に乗ってしまうとこだった。乗りたいけど……。欲望に忠実になるなら乗っかるべきなのか?

だめだ。上目使いの春可愛すぎるだろ。反則じゃんそんなの。ここで、素直にまたするよって言えない俺が悔しい。

「ま、僕はこの電車乗り過ごしても遅刻しないけどね。一限目からじゃないし。ちょっと用事があるから早く家を出てただけだから。」

「え……?!そうだったのか……。」

「だから遅刻する可能性があったのは湊だけってこと。僕に有利な勝負だったって訳。どう?怒った?」

「いや、別に怒らないけどさ。元々俺が始めた事だし。それなら、もうちょっと見ててもよかったな。」

「えっ?!えへへ……。だめだよ。ちゃんと遅刻せずに行かないと。僕が怒っちゃうから。」

「理不尽な……。」

 男は素直に負けを認めることが時には大事みたいだな。怒られたくないし……。

「よくよく考えると、駅で春見かけたことなかったしな。授業の始まり時間が同じだったら多分出会ってただろうな。」

「そうだねー。」

「家この辺だったんだな。そういえば、昨日聞いてなかったな。考えもしてなかったわ。」

「駅からめちゃくちゃ近いわけじゃないんだけどね。春は駅から近め?」

「そうだな。結構近いぞ。」

「そっかー。ふふ。」

「どうしたんだ?」

「別に、どうもしないよ。」

 どうもしないと言いながらもニヤニヤしていた。何か企んでいるんだろうか?

 それにしても、家が近いなら3人で集まりやすいな。リアも喜ぶだろう。駅がいくつか離れてたりすると、やっぱり手間がちょっとかかっていくからな。

 今日の朝出会えてよかった。出会わなかったら中々知れない情報だったかもしれないし。朝から春の顔も見られたし。

 友人と出会ったりすると元気がでて良いな。それが春だと尚更。毎日こうやって朝出合って駅とか電車の中とか大学までの道とか話したり出来たら凄く楽しいんだろうな。ただ、実際には時間が合わないからあんまり出会う機会がないんだろうな。溜息が出てしまう。

「溜息なんかついてどうしたの?もしかして、さっきの事怒った?」

「そんなので怒るはずないだろ。何かさ、こうやって毎日春と喋りながら大学行けたりしたら幸せなんだろうなって思ってたんだけど、

そういう機会はあんまりないんだろうなって思ったら落ち込んできてさ。」

「え……。僕と毎日会いたいの?」

「な、何かちょっと違う感じがするけど、そうだな。そうできたら楽しいだろうなってだけだよ。」

「えへへ……。そっか。」

 春はどことなく喜んでいた。春は笑顔が似合うな。ずっと笑わせていてやりたいな。

「春がどうしても僕と会いたいっていうなら考えてあげないこともないけど?」

 ガシャン。電車のドアが開いた。目的地の駅まで着いた。さっさと降りないとな。

「何か言ったか?アナウンスの声が大きくて何も聞こえんかった。もう一回言ってくれるか?」

「ふんっ。もういい!」

「え、何を怒ってるんだよ。聞き逃したのは悪かったって。もう一回言ってくれよ。」

 春はなんでこんな怒ってるんだ?女心は難しい……。

「春はこれから大学でしょ?僕はちょっと行く所あるから、じゃあね!」

 春はそそくさと歩いて行った。怒らせてしまった……。電車のアナウンスで聞こえなかったんだから許してくれよ……。次会った時謝らないとな……。許してるくれるといいが。

 大学に着いて中を歩いていると見知った顔の人物を見つける。

「よう。夏目。」

「ん?何だ、湊か。おはよう。」

 俺の数少ない友達の夏目。こいつには大分世話になってる。正直こいつが居なかった事を想像すると恐ろしい。

 こんなに頼りになるやつは中々いない。少なくとも俺と友達をやってくれてるだけ有難い。

気を使わなくていい知り合いの一人だ。

「どうした?浮かない顔して。」

「いや、朝から友達怒らせちゃってさ。原因もあんまりわかってなくて。」

「友達……?」

「おいおい、そう疑うなよ。幼馴染ってやつと奇跡的な再開をしたんだよ。しかも、二人。そんでその一人と朝たまたま会ったんだけど、怒らせちまったんだよ。どうしような。」

「ほーん。何で怒らせたわけ?」

「会話の途中でさ、電車のアナウンスがなって相手が話してたこと聞こえなくてさ。聞き直したら不機嫌になってた。」

「なるほど。ま、運が悪かったな。お前らしいけど。」

「うるせえな。運が悪いのは自覚があるけどさ。」

 夏目と話してると気分が落ち着いてきた。持つべきものは友だな。特になんて事のない話を聞いてくれる友人が居ると助かる。話をするってやっぱり大事な事なんだろうな。

「その幼馴染って女か?」

「なんでわかった?!」

「お前の顔見てたらそんな感じがした。話してる時の表情がそれっぽかった。」

「すげえなお前……。何か特殊能力持ってんの?」

「顔に出過ぎだって。伊達にお前と友達やってねーよ。」

 こいつ凄すぎるだろ。それとも本当に顔に出過ぎてるんだろうか?あんまり言われたことないけどな……。

「そういえば、夏目は小鳥遊春ってしってるか?ここの大学に在籍してるんだけど。」

「小鳥遊春?なんか聞いたことある気がするな。風の噂でだけどな。」

「噂って何だ?」

「ただ単に可愛いってだけだよ。同じ学年に可愛い奴がいるぞ!みたいなさ。金髪で身長が低めの子だろ?すれ違い様に見たことがある。」

「多分それだ。」

「何、その子がお前の幼馴染ってわけ?」

「そんなとこだ。」

「まじかよ。ちょー羨ましいぜ。紹介してくれよ。」

「おいおい、人の幼馴染に手を出す気か?」

「そんな気はないって。特にお前の幼馴染ならなおさらな。単純にお前の幼馴染ってどんな奴かなって興味があるだけだよ。」

 本当かよ。でも、こいつからあんまり女の話聞いたことないんだよな。流石に春とこいつがくっついたとこは想像したくないけど、純粋に彼女ぐらい作って欲しい気持ちはる。夏目は本当にいい奴だからな。男としても嫉妬するぐらいし。

「機会があればな。春も良い奴なんだ。困ってたりしたら助けてやって欲しい。」

「お前の幼馴染なら任せとけって。そんな所見かけたら猛ダッシュで助けてやるよ。」

 こいつは何だかんだ俺の事を良き友達って思ってくれてるみたいなんだよな。何でか知らないけど良く助けてくれるし、一緒に居る時間も長い。俺はこいつに対して何もしてやれてないのにな。いつか恩返さないと。やっと午前の授業が終わった。

「夏目、飯食いに行こうぜ。」

「おう、いいぞ。今日は何食べるかな。迷うなー。やっぱカツ丼か?」

「お、いいなカツ丼。俺も久々にここのカツ丼食べたくなってきたな。でも、ラーメンも食べたい。」

「わかるぜ、その気持ち。ここの学食何でも美味いからな。どれも食いたくなる。しかも安い。」

 大抵の物が単品二百円から三百円ぐらいで食べれる。量もそこそこあって学生には大助かりだ。

 今日の気分としてカツ丼もラーメンも食べたい。でも、流石に二つ共食うのはきついんだよな。量がそこそこあるからな……。

「なあ夏目、カツ丼とラーメン半分ずつしないか?両方食いたいんだよ。」

「ふむ。お前の考え分からない訳でもない。今日はお前の案に乗ってやろう。」

「話がわかるね。そうと決まればさっさと行くぞ。席が空いてるうちにな。」

「そうだな!」

 食堂まで夏目と二人ダッシュで向かった。

「今日も人多いな~。時間帯的に当たり前か。」

「昼間つったら食堂のピークだろうなそりゃ。人は多くて当然。でも、席は取れそうだな。一安心一安心。」

「夏目席取っといてくれ、俺が注文してくる。他に何か食べるか?」

「ん~。そうだな。ついでに唐揚げも注文してくれるか?」

「そんなに腹入るのか?凄いな。それとも特別腹減ってんのか?」

「朝食べてないから腹減ってんだよ。それと、二人でつまんでたら意外とすぐなくなると思うぞ。」

「確かにな。じゃ、注文してくるわ。」

「おう、任せたぞ。」

 早めに食堂着いたおかげでそんなに列は長くない。遅れて到着したら結構またないといけないからな。

 腹が減ってたらとんでもなく辛い状況だ。食堂は良い匂いもするしな。食欲が湧いてくる。

「はい。次の人何にしますか?」

「ラーメンと唐揚げとカツ丼お願いします。」

「はいよー。ちょっと待っててね~。」

 三十秒ぐらい待ってるとすぐに出来てきた。いつも思うけど、注文してから来るまで早いよな。普通のご飯屋さんならもっと掛かるよな。学食はスピードも大事なんだろうな。人が多いし。

「はい、お待ち。」

「どうもー。」

 ペコリと頭を下げ席の方へ歩いていく。

 夏目はどこだ……?なんか、席にいる友人とか探すの苦手なんだよな……。誰も何とも思ってないんだろうけど、変な人に思われてないかな?って感じる。自意識過剰もいい所だが。

人込みの中歩いていると声が聞こえてきた。夏目の声だ。やっと見つけれた……。

「おーい。こっちだぞー湊ー。」

「おー。わかったわかった。今行くー。」

 あれ?夏目の隣に俺の知ってる人物がいる。どういうことだ……?

「春、さっきぶり。」

「さっきぶり……。」

 春も困惑している様だった。あはは…と困り顔の様子。なんで春がいるんだ?大形予想はつくけど。

「ど、どういう状況?」

「いや、お前の見たままの状況だけど。」

「そうか……。」

 確かにそうだな。質問の仕方が悪かったか。

「俺の予定だと夏目一人だけが居るはずだったんだけど、なんで春もいるの?」

「そこに居たから。」

「そうか……。」

「あはは……。何かごめんね?」

「いや、春が悪いわけじゃないし全然居てくれてもいいんだけどさ。夏目が何か強引に誘ったりしたんじゃないのか?迷惑かけなかったか?」

「え、別に迷惑は掛けられてないよ。急に話しかけられてびっくりはしたけど……。」

「俺も話しかけて断られたらすぐ下がるつもりだったてば。お前の知り合いって知ってんだから流石に強引な事はしないって。信用してくれよ。」

「夏目の事は大分信用してる方だぞ。お前でも春に迷惑かけたら許さんけどな。」

「わかったわかった。まあまあ、説明するからとりあえず座れって。ささ、小鳥遊さんもどうぞどうぞ。」

 四人用の対面式のテーブルに座ることになった。そして、何故か夏目の指示で隣に春が座ることになった。

 こいつは何か誤解してないか……?

「で、どういうことだよ夏目。」

「今日の朝偶然小鳥遊さんの話してただろ?でさ、食堂で席を取ろうとして見渡してたら偶然その小鳥遊さんが居たわけよ。で、一人みたいだったからちょっと声掛けたってわけ。俺も小鳥遊さんがどんな人か興味あったしさ、湊が居るっていったら即OKだったぞ。」

「春、本当か?」

 俺がいるから即答だなんて本当か?春って知らない人間とかあんまり好きじゃなさそうなイメージなんだけどな。

「そうだね……。どうせ一人で食べる予定だったから。流石に知らない人とご飯は食べないけど、湊が一緒ならいいかなって。」

「だそうだ。な、特別悪い事はしてないって。そう険しい顔をするなってば。」

「そんな険しい顔してたか?」

「見たことないぐらい険しい顔だったぞ。」

 そんなに険しい顔だったのか……。自分がそんな表情出来る事に驚きだ。あんまり怒ったりしない方だと思ったんだけどな。

「そっか、春に迷惑かけてないんなら別にいいんだ。疑って悪かった。」

「おう、良いって事よ。お前がそんな顔するなんてよっぽど小鳥遊さんの事が大事ってことだろ。それぐらい伝わってくるって。」

「そりゃ大事だろ。しばらく会ってなかったとはいえ幼馴染なんだから。」

「本当に幼馴染ってだけか?」

「どういうこと?」

「おっと、喋りすぎたな。そろそろ食べようぜ。せっかく美味い飯が冷めてしまう。小鳥遊さんも話し込んでて悪かった。是非食べてくれ。」

「う、うん……。分かった。」

「先カツ丼半分もらうぞ。」

「わかった。じゃ、ラーメン貰うわ。」

「おう、小鳥遊さんも唐揚げよかったら食べてもいいっすよ。こいつの友達なら是非是非。」

「じゃあ、食べ終わった後お腹に空きがあったら少し貰おうかな。」

 春はカツカレーを食べてるようだった。女子にしては珍しいメニューなような気もする。でも、俺は沢山食べる子は好きだ。サンドイッチ一個しか食べてないような人を見ると心配になってしまうからな。三人沈黙のまま時が流れる。何か喋った方がいいんじゃないのか……?

 知り合いと知り合いが知らない同士の時って結構苦手なんだよな……。夏目と関わってる時の俺と、春と関わってる時の俺ってまたちょっと違うし少し恥ずかしいんだよな。共感してくれる人は世界に一人ぐらいいてくれてもよさそうだけどな……。

「春、カツ丼半分食べたからラーメンそろそろくれ。」

「わかった。」

「二人共随分仲良さそうだね……?」

「そうっすね。こいつ、いや、春とは結構仲いいんすよ。春って結構珍しいタイプで中々こん    

 なに良い奴いないっすよ。親友っす。マブダチ?大分世話になってるっすよね。」

「夏目……急にどうした?」

 何か夏目の態度がおかしい。テンションが高いのか……?何かが違う。何かをアピールしようとしてるのか……?

「いやいや、普段から思ってること言っただけだって。お前みたいな良い奴そうそういないぞ?」

「世話になってるのはどちからというと俺の方な気がするけど……。俺って夏目がいなかったらどうなってたかって想像したくない程

だぞ……。」

「お、嬉しい事言ってくれるねえ親友!お前のそういう所が気にいったんだよな。これでも大分信用してるぞ。

「確かに、それは何となく伝わってくるときがあるけどな。特別何かしてあげた記憶がないんだけど……。」

「親友ってもんはそうゆうもんだってば。自然な事が大事だろ?」

「まあ、確かに。」

 自然な事か。良いこと言うじゃん。親友とか友達ってもんは何かしてあげたからなるもんではないもんな。

 自然とそういう空気が出来上がって自然と一緒に居る。それが親友な気がする。損得勘定以上の存在。

「二人ってもしかして、できてたりする?」

「ぶっ!!」

 春が目を光らせながらとんでもない事を言ってきたから、食べてたカツ丼を口から吹き出してしまった。

「おい、汚いぞ春。」

「悪かった……。てか、何でお前はそんな平気な顔してんだよ。俺らできてるの?って疑われてんだぞ。」

「いや、何回か他の人にも聞かれたことあるし……。」

「マジ?!」

「マジマジ。一つだけ言っとくと俺は異性が好きだし、そっちの気はないから安心しろ。」

「そうか……。それは良かった……。」

 まじかよ?知らない間にそんな噂があったのか?初耳だ……。友達が夏目しかいないからそんな噂をたてられてしまったのか?

「そっか……。ちょっと残念。」

 春は言葉以上に残念そうな顔をしていた。いやいや、残念がるのはおかしいって。俺と夏目ができてるはずないだろ。

「春ってばそういうの好きなの?いわゆるBLってやつ?」

「いや、あんまり。知らない人の見てもおもしろくないし。でも、湊がそうなのかなって思ったらワクワクしちゃった。えへへ。」

「えへへ、じゃないよ。普通にゾワってしちゃったよ。夏目とは単純に仲がいいだけ。」

「ふーん?イチャイチャしたりしないの?」

「いや、男同士でイチャイチャしないでしょ……。なあ?夏目。」

「湊は顔が可愛いからな。イチャイチャぐらいなら全然してもいいぞ。肉体関係までは想像できないけど。」

「えっ?!?!」

「きゃーーー!!!」

 春は物凄くテンションが上がっていた……。春は腐女子の素質があるんじゃないのか?普通は引くでしょ。

「冗談冗談。小鳥遊さんが喜ぶかなって思って言っただけだって。俺にそっちの気はないし、湊もないだろ?安心しろって。」

「良かった……。」

 本当に良かった。大切な友人が減りそうな危機が訪れていた。

「そっか……。」

 春は相変わらず残念そうだった。

「まあまあ、こういうは異性のやつは良く見えたりするんだって。湊も百合好きだろ?例えば小鳥遊さんが可愛い女の子とイチャイチャしてるの想像してみろよ。どうだ?」

「それは凄く良い!」

「えー……。」

 春は物凄く引いていた……。女の事イチャイチャする事に対してじゃなく、俺に。俺のテンションの上がり方に……。だってしょうがないだろ。テンション上がるでしょ。

 春がリアとイチャイチャしてるの想像したら、そりゃテンション上がるよ。是非してくれって感じだよ。傍から見てるだけで満足だよ。

「だろ?そういうもんなんだって。女性は男同士がイチャイチャしてたりしたら俺らが百合を見るのと同じ感じに見えるんだって。感覚的にはな。」

「なるほど……。夏目は賢いな。俺もまた一つ成長できたよ。」

「そうだな。感謝してくれ。」

「春は女の子とイチャイチャするの嫌か?」

「んー……。嫌かすらわかんないな。友達あんまり居ないし、したことないから想像もできない。唯一ボディタッチとかがあるとすればリアぐらいじゃない?イチャイチャとは違う気がするけど……。」

「確かに。喫茶店で会った時も抱き着いたりしてたよな。あれは良かった。」

「リアって子が湊の幼馴染のもう一人か?」

「ああ、そうだ。」

「その子も良い子か?」

「良い奴だな。少なくとも俺の知り合いは良い奴しかいないと思うぞ。夏目含めて、リアも春も。」

「そっか……。それは、大変だな!春さん。でも、とりあえず応援してるよ!」

「夏目君……?勝手な気遣いはいらないよ?それと、湊に余計な事言ったら怒るからね?」

 気づいたら春が険しい顔をしていた……。っていうか、二人知らない間に仲良くなったのかな?俺の親友同士が仲良くなってくれるなら、それに越したことはないが。

「でも、そっか。お前の友達ならいつかそのリアって子にもあってみたいな。きっと良い人なんだろう。お前だけじゃなく、小鳥遊さんの友達でもあるんだろ?間違いなくいい人だろう。」

「そうだな。」

「そうだねー。リアは純粋っていうか、子供っていうか。中々あんなに良い子いないよねって感じだよねー。見た目も可愛いし、羨ましい……。」

「リアって子を知らないから比べたりするのは出来ないけど、小鳥遊さんはよっぽど可愛い方じゃないか?春もそう思うだろ?」

「そうだな。リアが可愛いのは事実だが、春も凄く可愛い女の子だと思う。」

「ちょっと……照れるってば。そういうのいいから!」

「良かったな小鳥遊さん!応援してるぞ!」

「夏目君……?それ以上言ったら殴るよ?」

「ど、どうした……?何で春は怒ってるんだ……?」

「こいつが本当に鈍感で申し訳ないっす。」

「昔から知ってる。」

 怒ったと思ったらいつのまにか二人共呆れた顔をしている。どういうこと……?何があったんだ……。全然二人の会話についていけない。

「さて、食べ終わったしこの辺にしとくか。春も急に誘って悪かったな。」

「気にしなくていいよ。楽しかったし、気使い過ぎだよ。嫌だったら断ってるし。」

「そうそう、お前は気使い過ぎなんだって。俺たちはお前の友達なんだからいらない気を使う必要はないぞ。もっとずけずけ来てくれた方が友達涯があるってもんよ。ね!小鳥遊さん!」

「はぁ……。そうだね。湊はちょっと気を使い過ぎかもね。僕は湊なら大抵の事気にしてないから。朝、あんな変な事してきたのに今更何に気を使ってんの?」

「朝?」

「いや、ははは……。あれはごめん。気の迷いだ。忘れてくれ。」

「おいおい、朝何やったんだよ。気になるじゃねーか。教えてくれよ。」

「夏目は知らなくていいよ。そろそろ行こうぜ。春もじゃあな。」

「うん。またねー。バイバイ。」

「あ、小鳥遊さんバイバイー。また3人でご飯食べたりしようねー!」

 何だかんだあって今日の講義も終わった。

「じゃあな、夏目。また明日。」

「おう。また明日~。」

 今日は何かいつもより沢山話した気がするから、一人になった途端急激に寂しくなってきた……。家に帰ったらリアがいるだろうし、気合入れて家に帰るか!家に人がいるっていうのもいいもんだな。

「ただいまー。」

「おかえり湊。楽しかった?」

「そこそこだな。今日は初めて大学で春と会った。元気そうだったよ。」

「昨日の今日じゃそんな急に変わることなんてないんじゃない?」

「それもそうか。」

 家に帰って話し相手がいるってやっぱりいいな。実家のような安心感。

「そっかー春に会えたのね。それはよかったわ。春も湊も一緒に居て欲しいもの。その方が私は安心するわ。」

 友達同士仲良くしてて嬉しいみたいなことだろうか?

「そうだな。3人一緒にいれたらそんな嬉しい事はないぞ。」

「そうだね。私二人共大好きだもの。二人には幸せになって欲しいわ。」

「リアもだろ。俺と春とリアが幸せになるべきだ。」

「ふふ。そうね。私も今幸せよ。」

 言葉とは裏腹にその目は少し遠くを見ているような気がした。

「どうした?」

「何でもないわよ。今幸せだなって幸せを噛みしめていたのよ。湊、今を大事にする事はとても大切なことよ。」

「そうかもな。でも急にどうしたんだ……?」

 「柄にもない事言ってしまったかしら。それはそうと、お腹空いたわ湊。」

「そうか……。飯……そろそろ飯にするか。何か食いたいもんあるか?」

さっきのリアの表情何だったんだろう……。しばらく会ってない内にリアにも色々な人生があったんだろうな。

 気軽に触れられない空気だった。気にはなるんだけど、他人のプライベートってどれくらい踏み込んでいい物かわからないし、地雷を踏んでしまったらどうしようもない。リアはリアで謎が深いからな……。いつか知りたいことはいくつもあるけれど、今じゃないだろうな。

「そうね。今日は湊のオムライスが食べたいわ。作ってくれる?」

「リアはオムライス好きだな……。簡単になら作れるとは思うけど、喫茶店のと比べないでくれよ?間違いなく負けてるから。」

「比べたりしないわ。味なんて気にしないわ。湊が作ったオムライスが食べたいのよ。」

「そうか……。それでも味は大事だろ。出来るだけ美味しくなるように作ってみるよ。」

 なんか期待されてるのかな……。喫茶店のオムライスを食べた事もあって正直あんまり乗り気ではない。確実に勝てない相手に勝負を挑んでるような物だ。味は気にしてないって言われても俺が気にするしな……。そもそも料理って味大事だよな?

 オムライスをいつか作るんだろうなとは予想していたけど、思ったより早かったな。昨日美味しいの食べたばかりなんだから、もうちょっと待ってくれてもいいとは思ったんだけどな。神様はいけずだな。

 ネットで作り方調べながら作るか……。作ったことないから今の状態で作るとケチャップライスに卵焼き乗せただけみたいな感じになってしまう。

 自分で食べる分にはそれでもいいんだけど、リアに食べさせるってなるとそれでは流石に申し訳ない。俺もちょっとは良いところをみせたいしな。

 オムライスってふわふわのとろとろのやつがやっぱり美味しいのかな?喫茶店のはそんな感じだった。

 それとも変わったやつのほうがいいのか?アボカドオムライス……。なんだこれ。初めて見たぞ。本当に美味いのか……?

 迷ったときはド定番のシンプルなオムライスにしよう。簡単なやつのほうが俺でも作れそうだしな。

 ケチャップライスってこんなに調味料いれんの?!初めて知ったんだけど……。まじかよ。ケチャップライスって言ってるのにケチャップ以外の物入れ過ぎじゃない?俺の想像してたケチャップライスはご飯にケチャップかけただけなんだけど。

 これじゃケチャップ以外の調味料可哀そうじゃないか……?もっと特別な名前付けてあげたほうがいいんじゃないか?

 なるほどなー。料理って愛情が大事ってのがちょっとわかった気がする。自分のために作る料理ならご飯にケチャップかけただけで終わるもんな。

 リアのためならこんないっぱいの調味料を入れたケチャップライスを作ってあげたくなる。

 いくつかレシピを見たけどこれが作り易そうだな。これにしよう。そうと決まればスーパーに材料買いに行くか。

「スーパーで材料買ってくるけど、何か他に欲しい物とかある?」

「アイス食べたい。」

「アイスか。味とかどれが良いとかはないの?」

「湊に任せるわ。湊と一緒のやつがいい。」

「そうか……。分かった。自分が好きじゃない奴だったとしても文句言わないでくれよ。任せるって言ったのはリアなんだからな。」

「言わないわよ。ありがとう。」

「じゃ、行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

 何だろう。帰ってきてからのリアはちょっと元気なさそうに見える。ゲームで疲れすぎちゃったんだろうか?

 昨日結構元気そうだったから心配になってしまう。すぐに元気になったら良いんだけどな。リアを元気にするためにもはりきってオムライスを作ろう!段々気合入ってきた。そうと決まればスーパーまでダッシュだ!うおーーー。

 ふう。疲れた。スーパーに来るだけで疲れた。帰りはゆっくり歩いて帰るか……。普段買わない調味料とか材料買うのって時間掛かってしまうな。

 どこに何があるかわからん。普段使うものしか知らないからな。リアのおかげで新しい事に挑戦できている。感謝しないとな。

 忘れてた……。アイスも買うんだっけな。どれ買おうかな……。俺のセンスが試されている。出来るだけリアの好きなやつを買ってあげたいけどどれがすきかわからん……。

これいいじゃん。抹茶のアイスあるじゃん。久々に食べたいな。抹茶ならリアも嫌いではないだろう。そうと決まればこれに決定だ。後は帰るだけだ。帰りはゆっくり帰ろ。

「ただいまー。」

「おかえり、湊。材料まで買いに行かせて悪かったわね。ありがとう。」

「気にしないで良いって。じゃ、さっそく作るからちょっと待っててくれ。今までも待たせたけど。」

「期待して待ってるわ。」

「期待に応えれるよう頑張るよ。レシピ見て作るから不味くはならないと思う。」

「湊の事は信頼してるから大丈夫よ。」

 信頼を失わないように頑張らねば……。信頼されるって凄く有難い事なんだけど、必然と責任が増していくよな。この責任を取れる力量は俺にあるだろうか。

 レシピ道理作って不味かったらこのレシピが悪いだろ。よし、そう思ったら気が楽になってきた。さっさと作ろう!リアもお腹空かせてるだろう。

 なるほどな~。先にケチャップライスを作るわけね。そりゃそうか。後から卵を載せてぱかっと割ってるのをよく見るもんな。

 こんなところか?ケチャップライスは美味く作れたんじゃないか?レシピ道理問題なく作れてそうだ。味見しないとな。

 味見は料理の基本って誰かが言ってた気がする。うん。悪くない。これならリアに食べさせても問題ないだろう。

 後はオムライスの醍醐味、卵だ……。オムライスと言えば卵だろう。卵が主役だろう。多分……。

 ん?これ俺が思ってたオムライスと違うな。この方が簡単そうだけど。俺が知ってるのと言えばケチャップライスの上に卵を乗せてたけど、これはどちらかと言うと巻いてる感じだ。薄い卵焼きを作ってそこにケチャップライスを載せて丸く包み込むような感じ。俺でもできそうだな。

 卵が半熟状になったらケチャップライスを乗せると……。なるほど。

 おっ、これは上手にできたんじゃないか?これを丸めるようにして……。おおっ。自分でもびっくりだ。レシピ道理作れてるっぽいぞ。

 思ったり料理のセンスあるのかな。自惚れすぎか。レシピ見て作っただけだしな……。

「リアっ!できたぞ!多分そこそこ上手に出来てるぞ。自信作だ。喫茶店のやつほどじゃないけど十分に美味しいと思う。」

「ありがとう、湊。本当に感謝してるわ。」

「え……?そこまで感謝しなくてもいいんだけど。もっと気楽でいいんだぞ?ほら!冷めない内に食べてくれ。きっと美味しいから。」

 なんか本当にちょっとおかしい。こういう時の対応がわからない……。とりあえず様子を見るしかないのかな……。

 リアが一口食べた!どうだ?美味しくできてたか?不味くないか?大丈夫かな?もう一口か?感想はいつだ?どうくる?!

「美味しいわ。本当に美味しい……。うっ……ぐず。」

「えっ……?リア?どうした?不味かったか?」

 食べて美味しいって言ってくれたと思ったら急に泣き始めたんだけど?!不味いのに無理して食べてたのか?

 やばい。女の子泣かせてしまった……。どうしたらいいんだ。どうやったらリアは泣き止むんだ?!

「ごめん。ごめんなさい。とっても美味しいわ……。本当に美味しいわ。私の為にこんなに美味しいオムライス作ってくれてありがとう。」

「そ、そうか?なんで泣いてるんだ?何か悪い事しちゃったか?」

「湊は何も悪くないわ。私が勝手に泣いちゃっただけよ。気にしないで……。本当にオムライス美味しいんだから。」

「わかった……。」

 美味しいのならよかったんだけど、困惑してる。言葉をかけるより黙ってみてる方がいいんだろうか。

 とりあえず、食べ終わるのを待つか……。

 リアはパクパクとオムライスを食べていく。味が悪くないのは本当に良かった。

 リアが食べてるのを横からずっと眺めている。何で泣いちゃったのかはわかんないけど、こうやって美味しく食べてくれてるのを横から見てるのって何だか幸せだな。こういった時間が永遠だったらいいのに。

 色々考えながらリアを見てたらいつの間にか食べ終わってたみたいだ。

「ご馳走様。美味しかったわ湊。」

「良かった良かった。アイスはどうする?抹茶のアイスにしたんだけど、今食べるか?」

「食べようと思ってたけど、思ったよりお腹膨れちゃったわ。また後で貰うわ。それと、抹茶のアイスは大好きよ。」

「良かった。」

「ねえ、一緒に散歩しない?ちょっと外の空気吸いたいわ。」

「いいぞ。」

 散歩なんて久々にするな。一人でしてると飽きちゃうんだよな。何か目的がないと続かない。たまにするのは気分転換になるけど。

 夜は外の風が心地よい。夜って何だか好きだな。明るい時より暗い方が好きだしな。夜の散歩って何だか落ち着くな。

 沈黙のまま二人でずっと目的地もないまま歩いてる。この空気感を味わってるって感じだろうか。

 周りを見てると色々な人達がいる。学生から、カップル、夫婦、子供まで。俺たちは他所から見たらどんな風に見えてるんだろうか。

 恋人同士に見えてたりするかな。自意識過剰か。女性経験がないと想像だけが捗ってしまうな。

「ねえ、湊。」

「んん?どうした?」

 突然話しかけられてビクってしてしまった。こちらを見てるリアはニコニコしててとても可愛らしかった。

「ふふ。呼んでみただけよ。」

「なんだそれ。」

 こんな何ともないやり取りが俺の心を熱くした。心地よい。漫画とかでよく見るシーン。実際に体験してみると悪くないな。

「湊。」

 しばらく歩いてたらまた名前を呼ばれた。また名前を呼んでみたってだけかな?分かっててもちゃんと反応しないとな。

「どうした?」

「手繋いでくれない?」

「えっ?!」

 思いがけないセリフだった。女の子と手を繋ぐなんてしてみたいぞ。物凄く。でも、これって即答したら下心ありありの男に見えないかな?ちょっと時間を空けて言うのが礼儀か?

「別にそこまで嫌ならいいわよ。」

「是非!手を繋ごうリア!」

 自分の考えが裏目ってしまった……。今度からは下心ありありで即答しよう。女の子に恥をかかせてはいけない。絶対に。

「えへへ。」

 リアは笑っていた。リアの手は暖かい。気持ちいい。女の子の手って皆こんな感じなのかな?ずっと手を繋いていたくなる。

 女の子と手を繋ぎながら散歩っていつまででもできるぞ、これ。毎日散歩してもいいぐらいだ。

 そのまま無言のまま自然と家の方に向かっていく。何も会話をしないまま一歩、また一歩。

家についてしまった。ずっとこのまま歩いてたかったのに、こういう時に限ってすぐ家についてしまう。まだ歩いていたかったな。

「着いたわね。」

「そうだな。」

 最後の抵抗としてゆっくりドアを開けてやる。何に対して抵抗してるんだ俺は……。

「湊、アイス食べたいわ。」

「わかった。冷蔵庫から出してくるよ。」

 冷蔵庫からアイスを取り出してテーブルに持ってって腰を下ろした。

「ほれ。冷たいからゆっくり食べなよ。」

「アイスは冷たい物よ。」

「確かにそうだな。」

そして抹茶アイスを一口食べる。久々にアイスを食べたけど美味しいな。実家に居た時はよく母親に買ってきてもらったりしてたんだけど、一人暮らしだとできるだけ必要のない物は買わないようにしてるから食べなくなったんだよな。

「私としたことが何も考えていなかったわ……。」

「んん?どうした?何も考えていないのはいつもじゃなくて?」

「湊?」

「ごめんごめん。で、どうしたんだ?」

「せっかくなら違う味のにしといてもらえばよかったなって。二種類の味食べれるじゃない。」

「え?!」

 それって所謂食べさせあいみたいな事か?本当か?俺の妄想か?なんでリアは当たり前のように言ってるんだ?どういう常識してるんだこいつ。

 俺の考えすぎか?普通に考えて食べさせ合いではないな。俺がおかしかったな。

「ま、確かに二種類のアイスがあったら二種類の味を楽しめるもんな。」

 当たり前の事を当たり前のように返してみた。俺だけが勝手に食べさせ合いとか考えてたら恥ずかしいしな。相手の反応を見るための俺の策だ。どうだ?!

「そうね。分かってるじゃない湊。」

 これはどうなんだ?!リアはどういう意味で言ってたんだ?!あえて核心に触れてないのか?!気になるぞ!凄く!

 その後しばらく反応を伺ってたけど何もなかった……。俺の妄想だっただけみたいだ……。

「ちょっとシャワー浴びてくるわ。リアはゆっくりしててくれ。」

「わかったわ。」

 今日も色々あったな……。シャワーを浴びながら今日一日の事を思い出す。リアと出会ってからなんだか充実してるな。

「湊ー?今開けたら怒るー?」

「えっ?!なんでだ?!何かあったか?」

「湊のお風呂姿覗こうかと思ってー!」

「そんなことしたら怒るにきまってるだろ!」

「あはは。わかったわ。」

 なんなんだほんとに。お風呂覗かれるって凄く恥ずかしいな。何でなんだろう。裸を見られる以上の恥ずかしさがある気がする。

 相手が服を着ていてこちらが裸だからなんだろうか?相手も裸だったらどうだろう。それはそれで恥ずかしいな……。

 ふー。今日のシャワーも気持ちよかったな。満足満足。

「やっと出てきたわね。なんでお風呂覗いちゃダメなの?」

「恥ずかしいからに決まってるだろ。リアだって覗かれたら嫌でしょ?」

「湊なら構わないわよ。」

「えっ?!」

「湊ったらえっちだね。そんなに私の裸見たいんだ?可愛いわね。」

「なんだ。からかってるだけかよ。男なら見たいに決まってるだろ。あんまり男をからかうなよ。」

「わかったわ。えへへ。」

 女ってやつは怖いな。すぐ自分の武器を使ってからかってくる。見たくない男なんているはずないのにな?!俺間違ってないよな?!

「私もシャワー借りていい?」

「おっ。そうだな……。」

「そう。ありがとう。それと服も借りたいんだけど……。あと、洗濯機も貸して欲しいのだけど。」

「そうか……。良く考えたらそうだな。確かにそうだ。そりゃお風呂入って服洗ったら着替えが居るよな?!」

「そうね。」

 そういえばリアの服とか何も考えてなかった。俺の家に泊まってるんだから、リアが持ってきてない限りないよな。普通に考えて。

 服とかズボンとかパジャマとかはあるとして下着とかどうしたらいいんだ?何もなくてもいいもんか?俺のパンツでもあったほうがいいのかな。わからん……。

「パジャマとか服とかは貸せそうなのあるんだけど、下着とかどうしたらいい?」

「なくてもいいわよ。直で着るわ。」

「まじかよ。」

「だってないんだもの。そうするしかないわ。」

 それってどうなんだ。俺はいいけど。女の子としてどうなんだ?大丈夫かな……。リアが着た服俺どんな顔して着たらいいんだろう。そもそも着たらだめか?

「分かった……。とりあえず着心地よさそうな服用意しとくよ。タオルも風呂の前に置いとくわ。」

「ありがとう。じゃ、お風呂場有難く借りるわね。」

「うん……。」

 家の中で女の子がシャワー浴びてる。凄くドキドキしてる……。何なんだこの感じ。

 これって覗いたりしたら死ぬかな?やばい。やばい思考が頭を駆け巡る。だめだな。精神統一しないと。

 ふう。深呼吸だな。いや、ネットで適当な動画でも見とくか。そうでもしとかないとリアの事が気になって仕方ない。

 ただ、動画を見てる最中もずっとリアの風呂の事が気になって頭から離れなかった……。

「ありがと、湊。お風呂頂戴したわ。」

「うん……。」

 お風呂上がりの女性って何て色っぽいんだ。出来るだけ露出の少なそうなパジャマにしといたけど、えろいな。

「お風呂覗きに来なかったわね?」

「するわけないでしょ……。」

「するわけないって、そんなに私の裸って興味ない?」

「興味ない訳ないでしょ。興味はあるけど、そんなことしたらリアに嫌われちゃうからだよ。」

「そんなことで嫌わないわよ。」

 いやいや、そんなことって。そんなことで済ませられないだろ?!とっても大事な事だろ!なあ!

「お風呂で裸になっているところを覗かれて文句言える立場じゃないもの。それぐらい自覚してるわ。それで文句言ってたら当り屋も良いところだわ。」

「いやいやいや……。そうはならないでしょ……。流石に飛躍しすぎだって。そういうのは暗黙の了解っていうのかな、覗かないもんなの。」

「湊ったら頭が固いわね……。」

「リアは自分が可愛いのをもっと自覚した方が良いと思うよ……。」

「私は自分が可愛い事ぐらいは知ってるわよ。」

「それもそうだったかも。」

 リアは結構な自信家だ。自信に伴うだけの実力もあると思ってるけど。何でもやるし、色々な事に挑戦してたイメージ。行動力がある人ってやっぱり自信があるのかな?

「お風呂の件は一旦今は保留にしといてあげるわ。」

 良かった。良かったって言うのも可笑しい事なのかもしれないけど、俺が理性を保てている間に空いてから引いてくれて助かった。

 欲望に負けて見る!なんて言ってしまったらお終いだ。それだけはしたくない。事件は起こしたくないからな。

「それはそうとお願いがあるんだけど。」

「なんだ?」

「一緒にゲームしましょうよ。一人でやってるのも楽しかったのだけれど、湊と一緒にゲームやりたいわ。」

「そか。よし!じゃあ一緒にゲームするか!」

「やった!やるわよー!」

 確かにゲームって誰かとすると、より楽しいんだよな。一人でするのも悪いわけじゃないんだけど、人数が多いとそれはそれで楽しいんだ。

 夏目とかともよく一緒にゲームしてるけど、楽しいんだ。ゲームにもよるだろうけど、春とリアと三人でできたりしたらいいな。

 この三人ならきっとゲームを楽しめるだろう。楽しくない訳がない。

「でも、二人でするゲームなら限られるな。何にしようか?」

「そうなの?」

「そうだな。昨日リアがやってたやつは無理だな。あれに関してはパソコンがもう一台ないとできないな。二人でできそうなゲームって何かあったかな。パソコンじゃなくて、ゲーム機でする奴の方がよさそうだな……。これの中から面白そうなやつあるか?」

ゲーム機のカセットをいくつか見せて、説明していく。

「これはどう?キャラクターが可愛くて興味あるわ。」

「それか……。いいんじゃないか?とりあえずやってみよう。俺も久しくやってなくて操作とかストーリー覚えてないな。」

 謎解きゲーだ。最大二人まででプレイでき、協力してゴールを目指すゲーム。案外謎を解けるときはスムーズに解けていくんだが、一回分からなくなるとそこで止まったりしてしまうんだよな。このゲームはワープが醍醐味なんだよな。出来るだけリアに謎解きの部分はやらせてみよう。

 チュートリアル部分が終わり、本題へ進んでいく。

「大体わかったか?」

「多分ね。進んでみないと分からないわ。」

「それもそうだな。とりあえず進もう。分からなかったら聞いてくれ。」

「ええ。」

 そうして、道なりに進んでいく。そうすると最初の難関部分まで到達した。ここは少し頭を捻らないとクリアできない。今までの応用が必要となる。

「わかったか?」

「うーん。そうね。多分分かったわ。湊そこまで行ってくれる?」

「ああ、分かった。」

「で、私がこっちに行ってと。これで行けるんじゃないかしら?」

 画面に一面クリアの文字が。リアは賢いな。俺はやってる時もう少しかかったな……。俺がバカなのかな……。

「凄いな。何にも引っかからずにクリアまで行けたな。簡単だったか?」

「そうね。手こずる場面はなかったわ。」

 嫌味ゼロだな。確かにどこにも手こずってなかったし、理解してなさそうな場面も無かった。最初だしな……。

 それからも手こずったりクリアできない所が一切なくエンド画面まで行ってしまった。

「リアは凄いな……。初見プレイで最後まで手こずらずに行けるって中々いないんじゃないか?」

「そうなの?中々面白かったわ。湊はどうだった?」

「俺か?俺は素直にリアに感心して面白かったな。なんかスゲーって感じだった。」

「ならよかったわ。私だけ楽しんでてもしょうがないものね。」

「そんなことはないと思うが。まあ、俺もリアが楽しかったんならよかったよ。」

「ええ。」

「そろそろ寝るか?」

「そうしましょうか。湊も明日学校なのでしょう?私も少し眠たくなってきたわ。」

「そうだな。」

「じゃあ一緒に寝ましょう。こっちこっち。」

「だめだ。一人で寝てくれ。流石に二人で一緒の布団に入るのはだめだ。」

「嫌なの?朝起きた時だって私の体触ってたじゃない。減るもんじゃないし、私はいいのよ?」

「それでもだめだ。嫌じゃないけど、だめなもんはだめだ。俺はこっちで寝るからリアがベッドで寝てくれ。」

「湊はいけずね。分かったわ。もしそっちが辛くなったらいつでも来ていいのよ。」

「行かないよ。ほら、さっさと寝るぞ。」

「ええ。おやすみなと~。」

「おやすみなとって……。おやすみ、リア。」

 おやすみなと……。何だそれって思ったけど、意外と気に入ってしまっている自分がいるのが悔しい。リアには内緒だけどな……。

 朝だ……。早いな……。ぐっすり寝れてるからか、寝てから朝になってるのが早いな。

 気づけば朝だ。いつもは寝てる途中に何度か起きたりして、体感時間だと朝になってるのもうちょっと遅いんだよな。

 何の気なしにベッドの方を見てみると、リアはスヤスヤと寝ていた。なんかこうして見てると安心するな。

 人の寝ているところって見てると安心するんだよな。俺だけかな。気持ちよさそうで穏やかな気分になる。

 朝の準備をし始めるまで、しばらくボーっとしながらリアの寝姿を眺めていた。そろそろご飯とか身支度しないといけない時間だな……。今日も頑張るか。

 リアはどうしよう。寝ているし無理に起こさなくてもいいんだけどな。昨日とか起こしてたのに今日起こさなかったら変な感じになったりしないかな?うーん。とりあえず、一度起こしておこうか。

 スヤスヤの途中申し訳ないけど、これも俺の仕事だ。悪く思うなよ、リア。

「リア。起きて。朝だぞ。」

……。微動だにしない。リアって朝凄い弱いよな。

「リーアー?朝だぞー!起きろー!」

 体をゆさゆさと動かしながら大きい声で名前を読んでみる。ダメだ……。昨日とか朝すんなり起きていたような気がしたけど、タイミングが良かっただけなのかな……。埒が明かないし、先に軽く身支度だけ済ませて置こう。リアを起こすのは後でもいいだろう。

 よし。終わったな。後は飯とリアを起こすぐらいだ。リアはまだスヤスヤ寝ている。どんだけ気持ちよく寝てられるんだ……。

 先に飯作るか。今日は白米食べたいな……。白米と味噌汁と冷蔵庫の何かでいいか。

 リアは普段どんなご飯食べてたんだろうな。食生活とかって家庭とか人とかによって全然違うから見たり聞いたりしないと全然分かんないんだよな。

 今のところ俺の好みに合わせてくれてるっぽいから大丈夫そうではあるけどな。苦手な物とかだけでもあるなら聞いておかないとな。

 大抵の物食べられたとしても苦手な物の一つや二つぐらいはあるかもしれない。大体の人あるからな。別にそれを咎めるつもりもないし。

 俺にだって苦手な食べ物ぐらい沢山あるしな……。一人暮らしとかしてると、逆に自分の好きな物しか絶対に食べないしな。わざわざ苦手な物をお金払って買わない。そんな奴いたらそれはもう……何て言うか、凄い奴だ。

 おっ、冷蔵庫の中にウインナーあるじゃん。そういえば残ってたな。今日の朝食は白米と味噌汁とウインナーにしよう。美味しそうだ。

 味噌汁の具は無しでいいかな……。リアはがっかりしちゃうかな。俺は味噌汁の具無しって結構好きなんだけど、普通の人はあるほうが好きだからな……。

 具無しを好む人の方が明らかに少なそうだけど。まあ、残念ながら入れる具がない。具無しの味噌汁で今日の所は我慢しておいてくれ。

 入れたとしても俺が作ったら具沢山にならないだろうが……。木綿豆腐と油揚げぐらいか?あとワカメとかかな……。リアの好みの物があったらせっかくだしそれを入れてもいいかな。 俺も別に嫌いなわけじゃない。具無しが色々考えたら一番効率的で味も悪くないからそうしてるだけでな。

 あっという間に白米も炊けたし、味噌汁もウインナーも、もうできそうだな。流石にそろそろリアに一度声を掛けとかないと。

「おーい。リアー!起きてくれー!朝だぞー!ご飯出来たぞー!起きろー!」

「んん……。誰……?何……?」

「何……じゃなくてだな……。朝だぞ。」

 リアは目を擦りながらこっち睨んでいる。これは、やってしまったか?朝苦手な人って起こされたりするの凄い嫌がるよな。俺も気持ちは凄い分かる。

「ん……。あれ……。湊じゃない。どうしたの?誰かと思ったわ……。危なく不機嫌になるところだったわ。」

「おう。俺しかいないだろ。リアが不機嫌にならなくて良かったよ。リアが不機嫌になって怒ってきたら泣いちゃうかもしれない。」

「大袈裟ね。悪かったわ。夢のせいかしら。湊が一瞬知らない人に見えて、記憶がこんがらがっていたのよ。」

「そうかそうか。そういう事もあるよな。」

 良かった良かった。ちょっとタイミングが悪かったのかもしれないな。嫌な夢とか見てる時って凄い精神的に不安定な状態だよな。

 嫌な夢ってなんであんなに精神的にダメージを受けるんだろうな……。

 半日、下手したら一日中体が重くなるぐらいダメージを食らう時がある。現実世界より食らうダメージでかいぞ。

「朝飯作ったけど食べるか?もう少し寝てるならラップして置いとくけど?」

「せっかく起こしてもらったんだし、食べようかしら。今日の朝ごはんは何?」

「白米と味噌汁とウインナーだ。どうだ?」

「食べやすそうでいいんじゃない?どれも好きよ。」

「それは良かった。出来立てだから十分美味しいと思うぞ。」

「湊の作ってくれたものは何でも美味しいわ。変に心配しなくていいわよ。」

「気持ちは有難く受け取っておくよ。それでも、出来立ての方が美味しいと思うから。」

 リアは目を擦りながらゆっくり洗面所に歩いていき、顔を洗ってきて、戻ってきた。

「今日の朝は最悪だったわ……。いえ、最悪ではなかったのかもしれないけど……。」

「そんなに嫌な夢だったのか?」

「そうね……。憂鬱な気分だわ。」

「大丈夫か?今日は大学休んで一緒に居ようか?」

「そこまでしてもらわなくても大丈夫よ。気を使い過ぎ。時間が経てば忘れてしまうし大丈夫よ。それに最悪の事態にはならなかったわ。」

「最悪の事態?」

「あのまま湊に気づかなかったら私凄く不機嫌な状態になって、湊に八つ当たりしてかもしれないもの。気づけて良かったわ。」

 それはあんまり想像したくない状態だな……。運が良くて良かった。助かったぜ……。リアが不機嫌な状態で俺に当たってきたりしたら泣いちゃうかも。冗談抜きで。

「朝は苦手か?」

「間違いなく得意ではないわね。朝は不機嫌な方が多いかしら。不機嫌といっても、基本的にはそこまでではないんだけど。少しテンションが低いぐらいの。今日のは特例と言ってもいいぐらいだわ。ごめんね、湊。」

「いや、俺の事は別に良いんだけどさ。何かあったわけでもないし。不機嫌なときぐらい誰にでもある。常にそうだったりしたら流石に困るっちゃ困るけどな。リアは普段がテンション高めだから少しびっくりするかもしれないけど、そこは多分慣れだろう。そうじゃなくて、朝起こしてたけどさ、朝起こすのやめとこうか?正直迷ったんだよ。ぐっすり寝てたからな。でも、いろいろ考えた結果起こしておいた方がいいかなって思ったんだけど、どうだ?」

「そういうこと……。そうね、起こしてくれた方が嬉しいかな。湊には申し訳ない事かもしれないけど、朝起きて一度顔を見ておきたいわ。」

「そうか?じゃ、遠慮なく起こすぞ?」

「ええ。お願いするわ。もし、私が不機嫌でも許して欲しいわ。償いはするし、その後何でもするわ。気にしないでくれると嬉しいかな。」

「なるべく不機嫌にはならないで欲しいが、了解した。これから朝はご飯前ぐらいに一度起こすからな。」

「わかったわ。」

 とりあえず、朝起こす起こさない問題は解決したな。正直、朝起こされて不機嫌になるぐらいだったら、まだいい。その後に繋がらなければ。

 それにリアが頼んできてることだからな。俺としても起こさない訳にはいかない。後は早く起きてくれることを祈るだけだな。

「それなら朝飯そろそろ食べようか。」

「ええ。私のせいで朝から申し訳ないわ。」

「気にするな。人が二人も居れば色々と起きる。その一つに過ぎないから。」

「湊は優しいわね。良かったわ。」

「それはリアとか他の奴らのおかげだよ。ご飯の味はどうだ?」

 リアがご飯を一口ずつ食べたところに聞いてみる。ウインナーはともかく、ご飯の硬さとか味噌汁とかは味の好みがでそうだからな。

「美味しいわよ。良い味だわ。」

「良かった。ご飯の硬さとか希望あるか?希望があれば次からそうするけど?」

「びっくりするぐらい柔らかくなければ特に大丈夫よ。粥ぐらい水っぽくなければ。」

「それは俺も嫌だな。分かった。味噌汁は好きな具とかあるか?希望の具があれば次から入れるようにするぞ。後は濃さとか。」

「味噌汁……。普通何の具が入ってるかあんまり分からないわ。豆腐とかかしら?他に思いつかないから何でもいいわよ。湊のチョイスに

任せるわ。」

「そうか。分かった。」

 リアも俺と同じぐらいこだわりが無いタイプなんだろうか?それなら楽っちゃ楽だが少し寂しいな。こだわりが強すぎるのも問題かもしれないけど、多少はあった方が人間味があるという感じがして安心するんだけどな。俺が言える事でもないけどな。

「あ!そうだ。一つ聞こうと思ってたんだ。」

「なにかしら?」

「苦手な食べ物とかってあるか?流石にリアの苦手な食べ物を食卓に出したくないからな……。」

「特にないわ。」

「本当か?!凄いな……。」

「もしかしたら、無い事はないのかもしれないけれど。何も思いつかないし多分無いと思うわ。」

「そうか。なら、もしあったら教えてくれ。」

「分かったわ。」

これで、疑問は減ったな。ご飯に関する問題も当分起きなさそうだな。安心した。

「それにしてもご飯美味しいわ。湊の家に来てからご飯が楽しみになったわ。」

「今まではそうでもなかったのか?」

「そうねー。何と言うか味気がない食事だったわ。それに、食べたりする場所もね。」

 場所……?今もそんな特別な場所で食べてるわけではないが……。味に関しては好みとかがあるからな……。分からないけど、楽しみが増えたんなら良かったか。

「じゃあ良かったよ。俺もリアと食べるご飯は美味しいぞ。」

「本当かしら?」

 リアは俺を疑いつつも少し嬉しそうに微笑んでいる。リアはこうでないと。笑顔が一番似合っている。不機嫌なリアは正直見たくないな。

 慣れの問題もあるかもしれないけれど、リアには笑っていて欲しい。本当にそう思ったな。辛いところとか悲しいところとか、リアにはそういうのをあまり感じてほしくない。無理な事だとは分かっているけれど、出来る限りそうしてやりたいなって思ってしまう。俺の我儘なんだろうか。

「ああ。本当だ。俺も一人寂しく作業のようにご飯を食べてたからな。リアと二人で食べてるのと今までのとを比べると全然違うぞ。俺も楽しみが増えたってもんだ。」

「ふふ、大袈裟ね。でも、それが本当なら嬉しいわ。」

「本当に決まってるだろ。」

「迷惑になってないなら、一番だわ。」

「迷惑な訳ないだろ。考えすぎだ。リアはもっと自信を持って、俺を導いてっていくれよ。」

「湊がそういうならしょうがないわね。頑張れるところまで頑張ってみようかしら。」

 少し元気になってきてくれただろうか?リアは元気でいてくれないとな。

「湊は今日何時ごろ帰ってくるのかしら?」

「今日か?そうだな、今日は十六時ぐらいだな。」

「十六時ね。分かったわ。」

「何か用事でもあったか?」

「単純に何時ごろ帰ってくるのかなって思っただけよ。ある程度何時頃帰ってくるのか分かってた方が気持ち的に良いのよ。あまりにも遅かったりすると変に心配したりするからね。」

「あー、そういうことか。確かにそうかもな。必要以上に遅くはならないと思うが……。まあ、特別遅くなる理由は今のとこないな。」

「そう、分かったわ。」

 確かに家で待ってるだけだもんな。待ってるのかは分からないけど、ある程度こっちの予定を知ってる方がやりやすいだろう。

「今日は春と会うの?」

「春?会う予定はないぞ。」

「そうなの?」

「昨日は偶然出会ったけど、今までも出会ってこなかったんだ。出会った方が運が良かったって感じだよ。」

「確かに、それはそうね。春と再会してから連続で出会ってたみたいだから、てっきり会うものなのかと思ってたわ。」

「気持ちは分からなくないが、約束とかはしてないからな。出会う可能性が全く無いとは言えないけど、無いだろうな。」

「そっかー……。」

「ああ……。」

 何でかリアが残念そうだ。そんなに俺に春と会って欲しいんだろうか?それとも春と自分が会いたいのか?

「まあまあ、今度三人で会う約束してるんだからそれまで我慢しててくれよ。」

「それもそうなのだけれど……。仕方ないわね……。どうしようもない事もあるもの。もしあったら春と仲良くしておいてね。」

「仲良く?まあ、喋ったりはするだろうけどな。」

「ええ。それでいいのよ。関わることが大切なのよ。」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ。」

 リアがそう言うならそうなんだろう。リアは基本的に正しい事を言うからな。

「まあ、会えたらそれとなく話はしとくよ。そろそろ時間だから行ってくるな。」

「ええ。行ってらっしゃい。気を付けね。」

「ああ。」

 リアは玄関まで出て手を振ってくれてた。悪くないな、こういうの。こういうさりげない一つの行動で元気が出るってもんだ。今日も気合入れて大学行こう。春と出会えたら話をしよう!

「よう。」

「おっす。」

「そう上手くはいかないよな。」

「何の事だ?」

「気にするな。こっちの話だ。」

 そう都合よく会えるはずもなく、今朝は出会えなかった。後は昼に食堂で出会うかどうかぐらいか。

「今日学校終わったら遊ばねーか?」

「ん?珍しいな。どうしたんだ?」

「最近遊んでなかったなーって思ってな、どうだ?」

「学校終わりかー……。」

 タイミング悪いな。今日は十六時頃に帰るって予め伝えてたしな……。遅くなっても怒ったりはしないんだろうけど、少し気が引けるよな。

「何か用事あったか?」

「小鳥遊さんか?」

「いや、違うよ。それならそう言うしな。」

「じゃあ何なんだ?」

「用事があるわけではないんだけどさ、家に人待たせてるんだよな。今日十六時ごろに帰るって伝えてたからどうしようかなって。」

「誰だそれ?!お前、小鳥遊さんと言うものがありながら……。」

 何か勘違いしてるなこいつ……。

「そもそも性別も言ってないだろ。色々と勘違いするなよ。」

「ああ。そうか……。女かと思ってたけど、そうじゃない可能性もあったもんな。すまん。男だよな。」

「まあ、女の子ではあるんだけどさ……。」

「おい!」

「聞けって。夏目が言ってる小鳥遊さんの知り合いでもあるんだよ。」

「前言ってた幼馴染のもう一人か?」

「そうだ。」

「ふーん。小鳥遊さんと言うものがありながらお前はなんて奴なんだ……。」

「春とはそもそも何もないってば。それにその幼馴染とも何もないって。」

「本当かよ?」

「悲しい事に本当なんだよ。で、帰るって言っちゃってたからなー。どうしようかなって感じだ。」

「どんな子だ?」

「そうだな。銀髪で胸は大きめで身長は普通って感じだな。元気な子だ。」

「おいおい。めちゃくちゃいいじゃねえか。小鳥遊さんも運が悪いな……。」

「何がだ?」

「気にするな。どうせだったら今日会わせてくれよ。三人で遊びにでもどうだ?」

「俺はいいけど……。一回に家に帰ってリアに聞いてみないと分からんな。」

「リアっていうのか。なら、それでいいぞ。別に急いでるわけじゃないしな。一回帰ってその子に聞いてから、LIMEか何かで俺に伝えてくれ。」

「おう、分かった。」

 一番丸く収まったかな……。

 ん?どうせなら春も誘ってみたらいいんじゃないか?リアもその方が喜ぶかもしれないし、春もリアが入るなら来てくれるかもしれないしな。

「おい。夏目。ちょっといいか?」

「ん?どうしたどうした。何か問題ありそうだったか?」

「問題があったわけじゃない。夏目にはもしかしたら朗報かも知れない。」

「なんだ?」

「三人で遊ぶかもしれないなら春も呼んでみようと思ったんだけどいいか?」

「ああ。お前の知り合いなら誰でも行ける覚悟あるぞ。」

「それはありがたいな。先に春に連絡してみる。繋がるといいけど。」

 プルル、プルル、お、繋がったか?

「もしもし、春か?」

「うん。そうだよー。どうしたんだい急に。」

「確かに急だったな、電話なんて大体急だけどな。」

「それもそうだね。でも、急だったな……。」

「ん……?一回切ってからもっかい電話掛けるからな。今度は急じゃないぞ。」

 ぷつっと電話を一度切ってからもう一度最速で掛けなおす。そうすると即座に春が出てきた。

「もしもし。」

「うん。もしもし。今回はちゃんと前もって言われてたからね、無事出れたよ。何も問題ないね。」

 流れで謎のやり取りをしてしまっているな。制御しないと。

「春ー?」

「何ー?」

「今日夕方ごろ暇か?」

「特に用事はないよ。どうかしたの?」

「今日遊ばないか?」

「えっ?!春と二人!?本当に?!」

「いや、ごめん。俺の知り合いの夏目と春と来るか分からないリアって感じだな。今の所。」

「あ……。そうなんだ……。そのメンバーならまだいいけど、リアは分かってないの?」

「ああ。一度家に帰ってから様子を見ようと思ってる。」

「あー。なるほどねー。どこに行くか次第にもよるだろうけど来そうだよね?」

「俺もそう思う。万が一はあるかもしれないけど、ないだろうと思ってる。」

「最悪湊と、その知り合いがいたら大丈夫かなって思ってるぐらいだから私は行ってみようかな。」

「何時ぐらいに授業終わったりする?俺らは予定では十六時過ぎには動き出しそうだ。」

「どこ行くの?」

「決まってない。集まってから考えようかと……。今日はいつまで講義とってんだ?」

「四講義目までとってるから普通に皆と合流できるよ。」

「場所だけ決まってなくて家に帰って一度リアに聞いてみるって言う作業が残ってるからさ、それ待っててもらっていいか?」

「そんな遠くいかないでしょ?まあ、それでいいんじゃない。湊も大変そうだし……。」

「ああ、色々汲んでくれると助かる。じゃあそういうことで、帰ってから連絡するな。」

「分かったよ。」

 ふう。何とか春確保。意外と誘ったら断らないタイプの人間だったのかもしれない。

「夏目、春は釣れたぞ。だからリアがもし来なくても三人で遊ぶこと自体は決まった。後はリアだけだな。」

「おう。この場合お前は一度家に帰るけど、俺と小鳥遊さんってもしかして一緒に待機したりする?」

「考えても無かった。それでも全然いいけどな。もし、リアが来なかったことを考えるとそうなる可能性はある。」

「まじか……。」

「夏目って小鳥遊さん苦手か……?」

「っそういうわけではない。応援もしてるし良い人だとも思ってる。純粋に二人っきりの時間は恐ろしいな。」

「夏目でもそういうの苦手だったりするんだな。意外だわ。」

「おう。俺は女性がそもそも得意じゃない。他の人でも話すのあんまり得意じゃない。」

「そうだったっけ……?結構いろんな人と話してない?」

「できないことはない。やろうと思えば出来る。理由があったりすればな。出来ても基本的にはしたくないんだよ。」

「そういうもんか。」

「そういうもんなんだよ。」

 夏目でもそういう事ってあったんだな。意外な弱点だ。その割に友達多いからな、夏目って。

「まあちょっとだけだろうし、我慢しててくれや。」

「まー、そうするしかないわな。運に任せるか。小鳥遊さんとなら俺も普通に話せる気がするわ。」

「だろ?」

 何だかんだあって16時付近になってた。今日も早かったな。

「夏目、春と話し合って行きたい所とかあったら決めておいてくれ。」

「わかった。」

「俺は家に帰って様子を見てくるよ。」

 できるだけ急いで帰宅した。

「おーい。ただいまー。リア起きてるかー?」

「んんー?どうしたの湊ー?」

 リアは寝そうになりながらパソコンで動画を見ていたみたいだった。

「眠いか?」

「そこそこね。」

「そうか……。」

「どうかしたの?」

「俺の知り合いがリアと遊びたいって言いだしてさ、リアにどうする?って聞きに来たんだけど、どうする?」

「んー。どうしようかしら……。湊の友達ねぇ……。」

「ああ。いい奴なのは保証する。後……。」

「後?」

「春もいるぞ。」

「行くわ。」

 春が居ると分かったら即答だった。最初から春の名前を出しておくべきだったな。

「そうか。じゃあ出れるように普段着に着替えておいてくれ。俺はちょっと連絡しとく。」

「分かったわ。」

 連絡しようと思ったけど、どうしよう。どっちに連絡すべきかな。どっちに連絡しても同じことなんだけど、少し違うよな……。

 俺の考えすぎかな。春には一回電話掛けてるから今度は夏目しとこう。

「夏目?」

「おう。どうした?こっちは一応小鳥遊さんと合流してるぞー。」

「もう一人の幼馴染が来るってさ。で、どこに行けばいい?」

「そうだなー。一度こっちまで来れるか?」

「分かった。じゃ、もう少し待っててくれ。」

「おう。」

 とりあえず向こう組も問題なさそうだな。後は少しリアを待って行くだけだな。

「湊ー。準備終わったわよ。」

「お、じゃーそろそろ行くか。春も待ってるぞ。」

「春が待ってるならしょうがないわね。行きましょう。」


「おーい。」

「来たな。待ちくたびれたぞ。」

「そんなに時間掛かってないだろ。これがもう一人の幼馴染のリアだ。よろしく頼む。」

「ああ。よろしく。リアさん?」

「ええ。よろしく。」

 リアは夏目と挨拶した後、春のもとへと近づいて行った。

「春~!会いたかったわよ~!すりすり~。」

「もー、ちょっとちょっと。他の人もいるんだから少し控えてよー。」

「えー?!これでも控えてるわよ~。春の事大好きなんだから~!」

「分かった分かった。僕が悪かったから。」

 春はリアのスキンシップを諦めて受けていた。百合っていいな。

「あの二人っていつもあんな感じなの?」

 夏目が興味深そうに俺に尋ねてくる。

「ああ、そうだ。いいだろ?」

「ああ……。最高だ。」

 やっぱ、こいつもよく分かってるな。考えてることは同じだ。二人で頷いていた。

「そういえば、どこ行くか決まったか?」

「近くの店とかぶらぶらするだけでもいいかなって思ってたんだけどどうだ?」

「リアは大丈夫か?」

「ええ。私はなんでもいいわよ。任せるわ。」

「じゃ、それでいいかな。移動しようか。」

「ああ。

 それから四人でゲーセンとかデパートとか色々と回りながら時間は過ぎていった。

「そろそろ良い時間だな。解散するか?」

「もうこんな時間か。俺はどっちでもいいから任せるよ。」

「僕も大丈夫だけど……。リアはちょっと疲れちゃってるみたい。」

「あはは……ごめんね。」

 確かにリアは少し疲れ気味の表情だった。あまり体力がないのか?知らなかったな。今度から気を付けないと。

「全然大丈夫っすよ。楽しかったんで。また遊びましょう!じゃ!」

 夏目は一人で去って行った。

「さて、俺らも帰るか。春は大丈夫か?送っていこうか?」

「ううん。大丈夫だよ流石に。それより、リアを心配してあげて。」

「ああ。」

「私の事なんてそんなに気にしなくていいのよ。これくらい平気よ。心配のしすぎ。」

「そんなこと言ってもう。僕もこの辺で去るよ。じゃあねー!」

「おう。またな。」

「ばいばいー!」

 何とか何もなく家に着いた。リアは思いのほか疲れてるみたいだ。ちょっと心配だな。

「リア、大丈夫か?」

「大丈夫よ。ちょっとお腹空いたわ……。」

「確かにな。今日は悪いが残ってる材料で適当に作ったもので我慢してくれ。また明日色々買ってくるよ。」

「ええ。何でもいいからお願い。」

 冷蔵庫に残ってるものを適当に作り、食べた。

「思ったより疲れたわ……。」

「飯食ったら今日の所はもう休んどこう。ちゃんと寝るんだぞ。シャワー浴びれそうか?」

「うーん……。湊が体を洗ってくれるなら。」

「するわけないだろ。疲れてるならそのまま寝てもいいぞ。」

「ケチねー……。仕方ない。一人でシャワー浴びてくるわ。」

「おう。」

 俺も今のうちに色々準備しておこうっと。

「湊ー。上がったわよー。」

「その服で大丈夫そうか?」

「全然問題ないわ。」

 リアの服とか買わないとな。俺の服をいつまでも着てるより自分の服が合った方が色々と楽だろう。

「俺もシャワー浴びてくるわ。先に寝ててもいいぞ。」

「うん……。」

 ふー。あれ?シャワーを浴びて出てきたらリアがテーブルの前に座っていた。てっきり疲れて寝てるかと思ってた。

「眠くなくなったのか?」

「そんなことないわ。」

 じゃあなんで寝てないんだ……。

「お願いがあるんだけど。」

「ん?」

「今日は一緒に寝て欲しいの。だめかな?」

 それは反則だろ。そんな上目遣いでお願いされて断る男がどこにいる。俺もそろそろ我慢の限界が近づいて来てるのかもしれない。

 一緒に寝たくないわけがないし。一緒に寝るだけだ。それだけだ。そう思えば行ける気がしてきた。

「わかった!一緒に寝よう!」

「びっくり。断られるかと思ってた。優しいわね、湊。それじゃあ、さっそく布団に入ろ。」

「うん……。」

 リアは抵抗っていうのかな、戸惑いが一切ないな。凄い。リアが男だったら凄くモテモテなんだろうな。憧れる。女の子のままでもモテモテだろうけど。

 考えてなかったけど、これってどういう姿勢が正解なんだ?流石にリアの方向くのは気が引けるし、背中を向けるのは相手に失礼が気がするし。

 間の上を見る状態が正解か……?普段横になってしか寝てないから今日は寝れないかもしれないな……。

 しかも、今日は横にリアが居る状態。そもそも緊張して寝れんかも。とりあえず布団に入って天井を見てよう。

「湊。湊は人生最後にしたいことってある?」

「人生最後?考えたこともなかったな……。人生最後かー。何だろうな。想像もつかん。」

「じゃあ、もし後一か月。もしくは一週間後に死ぬって決まってたらどうする?」

「え……。そうだな……。どうするんだろ。最後ってなるとやっぱり仲良かった友達とか家族とかと一緒に過ごすってなるのかな……?それか美味しい食べ物食べるとかか?それかゲームかな……。これといった事がないな。もしかしたら今とあんまり変わんないかもしれないな。」

「湊らしい意見ね。最後だからといって特別な事をしないといけないなんて事はないもの。私は湊の意見を尊重するわ。その考え方好きよ。」

「そういうリアは?最後に何かしたいことってあるの?」

「私の最後は秘密よ。」

「え、それはずるくない?」

「ふふ。乙女の秘密は気軽に聞いちゃだめよ。その内気が向いたら教えてあげるわ。」

 乙女の秘密か……。ずるい言葉だ。これ以上聞いちゃダメってことなんだろうな。気になるけど、またの機会に期待しておこう。

「湊、手を貸して。」

「ん?どうした?」

 手を差し出す。そうすると手を物色するように触った後、握られた。ぎゅっと。

「これは……どういったつもり?」

「そのままよ。」

 そのままってどういう事だ。そのまま……。手を握ることにそのままって一体どういうことだ……。

「湊、好きよ。」

「……。え?」

 今好きよって言ったか?俺の聞き間違いか?急に愛してるなんて普通に考えたらないよな。俺の耳がおかしかっただけか。

「今さ、何て言ったんだ?」

「……。」

「あれ?」

 寝息が聞こえてきた。寝るの早すぎだろ。リアが言った寝言を俺が聞き間違えただけだったみたいだな。明日も大学だしさっさと寝ないとな……。寝よ。

 アラームが鳴ってる。もう朝か……。凄く寝るのに疲れちゃったな。朝起きても手を握ったままだった。リアはまだスヤスヤと寝てる。

 可愛い寝顔だ。あんまり寝れなかった代わりに寝顔を拝ませてもらおう。リアの可愛い寝顔を見てたら元気が出てきた。

 起きてトイレとか行ったりとかもしたいんだけど、この手を放したくないな……。どうしたらいいんだ。自分の欲望に忠実になるべきか否か。

 それとも寝たふりをして抱き着いたりするか。それは流石にできないな。俺の理性がそれは許さない。俺には度胸がないな……。

 ひよった俺は結局手を握ってるだけにした。欲望と理性を天秤にかけた結果こうなった。もうしばらくだけこの感覚を味わっておこう。

 それにしてもリアの手は柔らかいな。ぷにぷにだ。ぎゅっ。強めの力で握ったり弱くしたりを繰り返したりしてみた。

「どうしたの?私の手で遊んで。」

「えっ?!リア起きてたの……?」

 欲望に中途半端に従った結果がこれか……。何もしないが正解だったか。どう弁解したらいいんだ……。正直に言った方がいいのかな……。

「今起きたところよ。起きたら湊が私の手で遊んでたみたいだったからどうしたのかなって。」

「……。リアの手って柔らかいなって思ってさ。何か気持ちよくてつい……。」

「そう。そんな顔をしなくても私は怒らないわよ。これで湊の罪悪感も和らぐかしら?」

 そう言いながらリアは手をぎゅっとしてきた。

「これでお相子よ。」

「ははは……。」

 手を強く握ってくれたと思ったら、その後すぐに手を放してトイレに向かっていった。俺も楽しみはこの辺にしておいて朝の準備にかからないとな。適当にご飯とか作らないとな。今日の朝はチャーハンだ。

「湊ー。今日の朝ごはんは何?」

「チャーハンでもどうかなって。」

「いいわね。湊はご飯を作る才能があるわ。」

「言いすぎだよ。もうちょっとで出来るから待ってて。」

 さっさと作っちゃおう。チャーハンだからそれほど時間もかからない。調味料も適当に入れてっと。味見も一応しておこう。

うん。悪くない。これぐらいだったらリアの口に合わないことは多分ないだろう。

 「リア出来たよー。お茶いる?」

「お願い。」

「おっけー。」

 自分の分とリアの分のお茶を入れて持ってった。

「よし、食べてくれ。」

「頂くわ。」

 どうだ?頼むから不味い以外の感想を求む。せめて普通ぐらいからがいい……!

「美味しいわ。」

「よかったー。ドキドキした。」

「何度も言ってるけど湊の料理を不味いなんて思うはずないわ。心配しなくていいわよ。もっと自信を持って料理を作ったら?」

「そんな事言われても簡単な料理しかしてこなかったからな……。自分好みならまだしもリアの口に合うかってなると心配になるよ。」

「だから心配しなくていいわ。湊の料理なら何でも食べれるわ。」

「どういう舌してんのさ……。」

「それはそうと湊、今日も大学?」

「そうだよ。今日は昼からだけど。聞いて驚くな。今日は今週最後の大学だから俺は気合が入ってるぞ。」

「それは凄いわね……!それより、昼から少し出かけてきていいかしら?」

「え?ああ。勿論構わないけど……。何か必要な物とかあれば俺が買ってくるけど?」

「少し行きたいところがあるのよ。それほど遅くはならないと思うから大丈夫よ。」

「そうか……?わかった。」

 それから昼間ではリアとゆっくりテレビを見ながら過ごした。

「じゃ、リアも気をつけてな?俺もそんなに遅くならないと思うけど……。」

「ええ。湊も気を付けて。じゃ。」

 リアはとことこと歩いて行った。確かにずっと家に居たりするだけじゃしんどいよな。どこかへ行ったりするのも普通だ。

 俺がちょっと過保護になりすぎてただけかもしれない。リアは何となく子供っぽいから心配になってしまうけど、同じ年齢だしな……。俺もちゃっちゃと今週最後の学校終わらせよ。

 「よう夏目。」

「おっす。」

 気づいたら大学に辿り着いていた。今日も駅で春と会わなかったな。偶然がそんな続くわけもないか……。ちょっとだけ期待してたんだけどな。

「どうした?そんな残念そうな顔をして。」

「俺の心を察する天才かよ。」

「お前が顔に出過ぎなだけだって。」

 またもや顔に心情が出てたみたい。恥ずかし。気を付けないとな……。

「春と今日は会えるかなって思ってたんだけどさ、会えなかったなって思ってさ。」

「ほー?単刀直入に聞くけどお前って小鳥遊さんの事好きなの?」

「好きってLOVEの方か?」

「ああ。」

「うーん。それはどうだろうな……。単純にさ昔仲良かったんだよ。本当に。男女のそういうの関係なしにさ。それでしばらく会ってなくてついこないだ再開したばっかりだから話したい事とかもあるわけよ。」

「なるほどなー。それで昔みたいにまた仲良くなりたいって訳だ?」

「そんな所だな。」

 春の事は勿論友達として好きだ。仲良くしてたい。これはリアに対しても同じ。同じ感情だ。

「そっから先に進みたいって思わないわけ?」

「随分とグイグイ来るな……。そりゃまったく思わないわけでもないけどさ。再開して本当に間もないんだぜ?」

「それはそうかもしれないけど、あんなに可愛い子だったらそういう気持ちが芽生えたりするもんだろ?」

「ないわけじゃないけどさ……。夏目は俺と春にひっついてほしいのか?」

「ぶっちゃけそうだな。小鳥遊さんとでなくてもいいんだけど、俺としてはお前には幸せになって欲しいわけよ。で、小鳥遊さんも良い子そうだしさ。お似合いだなって正直思うから。」

 俺と春がお似合いか……。勿論有難い評価だけどな。こういうのってどこまで信用てしていい ものか……。あんまり信じすぎて春に嫌われたりもしたくないしな。

「夏目の意見は有難く受け取っておくけど、今はまだ実感わかないな。恋人とかってもうちょっと時間かけたりするもんじゃないのか?」

「その場の勢いでひっついたりするのも俺はありだと思うぞ。それに、お前ら幼馴染なんだろ?時間かけたりすると、そのままダラダラといきそうじゃね?俺からしたら逆に今がチャンスなんじゃないのって思うけど。」

「逆にチャンス?」

「そうだ。今は場の状況的に言うと温まってる状況なわけだ。それがダラダラってなってると段々冷えていくわけよ。冷えていったら、またその場を温める所から始めないといけない訳なんだよ。それって結構難しいと思うぜ?中途半端なタイミングでもし告白でもしてみろよ。向こうからしたら今迄置いておいて、今告白するんだ?って思う可能性があるって訳よ。」

「なるほど……。夏目は何でも知ってるな。俺の先生にしてやる。」

「そうか。生徒。じゃあ、俺から生徒に言えることは行動出来るときにしておけ。日々落ちてるチャンスを逃すな。

いつまでもあると思うな今の関係。ってところだな。」

「先生勉強になります!」

「ははは。よきにはからえ。」

 夏目の言ってくることはどれも納得いくものだった。勿論当たり前の事なのかもしれないけど、胸に突き刺さるというか俺にピッタリの言葉って感じがした。

「夏目の言ってることはよく理解してるつもりだけど、実際に行動に移すとなると今じゃない気がしてくるんだけど。」

「そういうもんだろ。自分の事だと必要の無い物まで考えてしまうから段々とずれていくんだよ。俺からみたら必要な物しか見えなくて、

お前はそれを満たしてる。」

「そんなものか?」

「そんなもんさ。皆他人の事は冷静に見れても自分事だとそうじゃいられなくなるのさ。良くも悪くもな。」

「でもさ、俺幼馴染二人と出合っちゃったんだよ。両方女の子なわけ。どうすればいいと思う?」

「あれ、そうだっけ?そういえば二人いるみたいな事言ってたっけ?しかも、もう一人も小鳥遊さんの仲の良い人なんだよな。お前結構面倒くさい事になってんな……。」

「面倒くさいって言うな。二人共俺の大事な幼馴染だよ。どっちか選べって言われてもどうしたらいいかわからん。」

「そういうことか。俺がいらないこと言いすぎたかもな。ただ、お前はいつか選ばないといけない時が来ると思うぞ。遠かれ早かれな。今からちゃんと考えとけよ。」

「おう……。」

 本当にそんな時が来るんだろうか……?そもそも二人のどちらかとそういう関係になるのかすらわからないし……。

「参考にしとくよ。」

「ああ。俺から言えることは頑張れって事と、もし困ったことがあったら言ってこい。助けてやるよ。」

「頼りになるぜ親友。」

「お前の親友だからな。任せとけ。」

お互いの手を交わし、去っていった。

「じゃあな。」

「おう。」

 ガチャ。リアは家に居るかな?

「ただいまー。」

 返事がない……。まだ帰ってきてないみたいだ。そんな遅くにならないといいがな。

 家で一人で居る時間の方が長かったのに、今一人で居るのはなんか寂しいな。二日だけだけど、帰ったらリアが居たからかな。リアが居ないと寂しいな。何して時間を過ごそう。

 溜息ついてると電話が掛かってきた。珍しい事もあるもんだ。誰だろ?春だ。何かあったんだろうか?

「あ。もしもし、湊?」

「どうしたー?」

「明日の事なんだけど、僕さ明日の土曜日、湊の家に行くってことであってるよね?」

「そういえばそうだったな。」

「え?!こっちは楽しみに待ってたのに湊は忘れてたの?」

「違う違う。今のは違うぞ。そういう意味じゃない。リアも楽しみにしてたし忘れるわけないだろ。そうじゃなくて、どこで待ち合わせとか何時に来るとか連絡取ってなかったなって思ってさ。」

「そうそう。その事。どうしたらいいかなって思ってさ。」

「家に泊まるって事以外何も決めてなかったな。どうせならどこか出かけたりしてもいいかもしれないけど、どうする?」

「どうするって言われても……。どうしようね。今はリアいないの?」

「ああ、今ちょっと出かけてるんだ。」

「そっか……。」

 ずっと俺の家に居てもつまんないだろうしな。どこか楽しめそうな場所があったらいいんだけど。三人で適当に買い物に行くだけでも十分か?

 それとも、どこか遊園地みたいなところにいったほうがいいのかな……。リアが居たらすぐ決まりそうだけどな。どうしよ。

「リアが帰ってきたらまた電話掛けていいかな?その方がスムーズに決まり易そうだし。」

「うん。わかった。お風呂とか入ってない限りは出れると思うから。」

「そうか。リアもそんな遅くにならないと思うから、すぐ掛けることになると思うけど、じゃあそれで頼む。」

「待って待って。」

「どうした?」

「折角だしちょっと話しようよ。」

「いいぞ。」

 用事意外で電話で話すなんて人生初めてかもしれない。友達とかでしてる人は見たことあるけど、自分がそんな事をする日が来るとはな。

「湊ってさ、リアの事好きなの?」

「皆そういう話好きだな……。リアの事は勿論大事な友達だって思ってるし、友達として好きだぞ。」

「友達じゃなくてそれ以上の関係になりたいって思わないの?」

「そりゃリアは可愛いしさ、まったく思わないわけでもないけど大事な幼馴染だしさ。」

「ふーん。じゃあこのままがいいの?」

「そう言われると返答に困るけどさ、そういう経験がないから実感がわかないんだよ。付き合うとかさ。」

「経験ないんだ?」

「悪かったな。そういう春はあるのかよ?」

「……ない。」

「なんだよお互い様じゃん。」

「ふふ。そうだね。」

 春に恋人がいなかったって聞いて一安心してる俺がいる。この安心はどこから来てるんだろうか。俺の知ってる幼馴染のままだったから安心してるのだろうか。

「春は恋人が欲しいなって思ったりしないのか?」

「そりゃー、そういう人見てたらどんな感じなんだろうなって興味はあるよ。」

「春なら可愛いしさ、男も黙っちゃいないだろ?」

「そんなことないよ。全然モテなかったし。」

「まじかよ?!そんなに可愛いのにか?!」

「大袈裟だって。僕の事をそういう風な目で見てる人なんていないって。」

「いやいや、それはないだろ。夏目ですら可愛い子だなって言ってたぞ。夏目がそんなの言ってるのあんまり聞いたことないから世間の人から見ても可愛いんだと思うけど……。」

「恥ずかしいからやめてよ。実際にモテなかったんだしさ……。」

 何でモテなかったんだろう?あんだけ可愛ければモテモテだろ。普通に考えたらな。何か理由があったんじゃないのか?

「不思議な事もあるもんだな。」

「全然不思議じゃないよ。モテないもんはモテないの。そんな湊こそモテなかったの?優しいし顔も悪くないしモテてもおかしくなさそう。」

「冗談はよせよ。俺がモテてたら世の中モテてない人いないって。そういうのとは縁がまったくなかった。悲しい事にな。」

「僕からしたらその方が不思議。」

 不思議った何だ?俺は本当にモテなかったし、モテる要素をもってないと思う。見た目が良いわけでもないし、友達も多くないし、性格が特別いい訳でもない。悲しいけど本当にモテそうな要素をもってないな……。

「俺だってさ、彼女とか作ってみたいけどどうしたら出来るかわからないんだよ。そもそも女の子の知り合いって春とリアぐらいだぞ。」

「僕はリアと湊がお似合いだと思ってたんだけどな。」

「まじで?」

「まじまじ。僕がそう思うんだから間違いないと思うんだけどな。二人は相性いいしさ。」

「そう言われると悪い気はしないけどな……。リアはリアでわからない所があるし難しいぞ。」

「まーそれはあるかもね。リアに振り回されてそう。それも楽しそうだけど。」

 リアは行動力の塊だからな。常に色々な事に付き合わされそうだ。毎日色々な事が起きてそう。

「リアの事は好きだけどさ、やっぱ付き合うとかそういうの想像できないな。」

「そういう経験がないから、想像できないだけじゃない?体験してない事って想像するの難しいし。」

「ぐっ……。それはそうかもしれないけど……。」

「告白してみたら?」

「告白って……。した後どうするんだよ。振られたりしたら最悪だし、つき合ったとしてもその後どうするのかわからんし……。」

「だめだね湊。男は度胸だよ。何事も挑戦が必要なんだよ。湊が告白したら付き合ってくれる人なんていっぱいいると思うよ。」

「じゃあさ、春。俺と付き合ってくれよ。春の事好きだしさ。」

「それはダメ。僕をからかっちゃだめだよ。僕は湊とリアを応援してるんだから。二人の事を応援してるんだから、湊はリアの事だけ見てたらいいんだよ。」

「ほら。やっぱ俺って魅力ないだろ。」

「そんな事ないって。僕が応援してあげるし、手伝ってあげるからさ。」

「まじで?」

「うん。僕に任せてよ。」

 ガチャ。玄関が開いた。リアが帰ってきたのかな。

「ただいまー。」

「おかえりー。大丈夫だったかリア?」

「ちょっと子ども扱いし過ぎよ。これぐらい何ともないわ。誰と電話してるの?」

「春だよ。春が明日どうするのー?って聞いて来ててさ。泊まるって言ってただろ?それ以外どうしようかって。」

「あー。そういう事ね。春は何て言ってるの?」

「特にリクエストはないみたいだけど。」

「じゃあ、朝とりあえず家に来てもらおうよ。荷物とかもあるかもしれないし、その時考えたらいいんじゃない?家でゆっくりするのも悪くないと思うわ。」

「そう伝えとくよ。」

 リアが発言したらやっぱりすぐ決まったな。リア様様だ。リアのリーダーシップ力というかそういうの力は凄い。

「ってことで、聞こえてたかもしれないが朝の9時頃に春がバイトしてた喫茶店辺りに来てもらえるか?家から近いからさ。向かいに行くよ。」

「わかった。リアのことなら任せてね僕に。」

 ガチャ。言うだけ言って切っていきやがった……。こういうのって応援されてなるものなのかな……。

 何でか知らないけど春にリアとの関係を応援される事になってしまった。

「それはそうと、その荷物何だ?何買ってきたんだ?」

「服とか生活に必要な物よ。下着も何個かないと不便だしね。他にもあった方が良い物っていくつかあるから。」

「あー。そっか。確かに俺にはリアの下着買ってくるなんて無理だな……。」

「それもそうかもしれないけど、いくつか欲しい物があったら自分で行ったほうが手っ取り早そうだからね。湊には随分世話になってるから。」

「何もしてないよ。」

「そんなことないわ。私こんだけ幸せにしてもらってるもの。今度は私が湊を幸せにする番よ。」

「考えすぎだから。今日の晩御飯何か食いたいものある?」

「今日は湊に任せるわ。」

「一番困るやつきたな……。」

 何でもいいみたいな返答って困るってよく聞くけど、本当に困るな。俺もこれからは何か聞かれたら何でもいい以外を答えるよう気をつけよ。そうしていつもと同じようにリアと夜を過ごした。

 うう……。もう朝か。アラームの音量下げようかな……。前々から思ってたけどちょっと音でかいな。起きれなかったら困るけど、起きた時にこんだけうるさい音が鳴ってると頭が痛い。

やべ。そろそろ準備して春を迎いに行かないとな……。リアはまだスヤスヤと寝てる。あんだけでかい音のアラームなってても気づかないんだな……。

 時間より早いけど向こうで待ってよう。さっさと行って待ってる分には困らないだろう。それでも十分前だし、遅くもなく早くもなくっていう所か。

 角を曲がって喫茶店の方を見たら既に春が居た。着くの早くない?俺が時計見間違えてたか?

「春、おはよ。」

「おはよ。」

「もしかして、結構待ってた?」

「いや、今来たところだよ。」

 アニメでよく見るやつだ……!これは多分俺が言わないとダメなんだろうな。言わないとダメっていうのはおかしいか。先に居て言うべきセリフ

なんだろうな……。次待ち合わせとかあったらもっと早めに待つようにしておこう……!

「そか。じゃあ家こっちだから。」

「うん。」

 特に言葉を交わさないまま家まですぐに着いてしまった。何かちょっとぐらい話するべきだったかな。

 ドアを開けて玄関に入っていく。春は黙々と俺に付いて来てる。

「さ、どうぞ上がってくれ。特に何もないけれど……。」

「うん。ありがと。」

「飲み物いる?お茶ぐらいしかないけど。」

「じゃ、お茶もらおうかな。」

「わかった。」

 春は部屋の方まで歩いて行ってびっくりしていた。まだリアが寝ていることに。それに、ちょっとだらしない格好をしてることに。

 俺はリアがだらしない格好になってても慣れてしまったせいで、何も言わなくなっていた。

「リアー?もう朝だよ。起きなよ。僕が来たよー。」

リアを起こすのは春に任せよう。俺は俺で朝食でも作るか。流石にお腹が減ってきたな。

「春。朝食作るけど、春は何か食べてきたか?」

「あー。どうしよう。何作るの?」

「本当に簡単な物だよ。目玉焼きとハムと焼いた食パン。あとウインナーも食べたくなってきたらついでに乗せようかな。」

「それぐらいだったら食べれそう。僕も貰おうかな。」

「わかった。」

ちゃちゃっと用意しよ。今日は豪華目にウィンナーも乗せてやるからな。

「ほれ。出来たぞ。味はあんま期待するな。不味くはないけど、特別美味しくもないと思う。」

「ああ。ありがとう。リアは起こしといたよ。」

「助かる。」

 リアはとても眠そうに目をこすっている。何か寝ぼけてるみたいだ。

「おい、リア。春が来たぞ。そろそろ目を覚ませよ。」

「んん……。春?これは夢かしら……。朝から湊と春が居るわ。どういう状況かしら。それとも、遂に私の夢は叶っちゃったのかしら……。」

「おーい。夢じゃないぞ。現実だぞー。今日は土曜日だから春が泊まりに来たんだぞ。」

「え……?そうだったかしら。そういえば……そんな事を言っていた気もしてきたわ……。ねむ。」

 リアは朝が苦手なんだろうな。起こした時大体眠そうだ。いつも辛そうにしてる。

「はは。リアは相変わらずだね。安心したよ。」

「あれ?春が居る……。うぅ……。おはよ。」

「おはよ。」

「リア。春も来てることだし頑張って顔でも洗ってこい。朝食も作ってるし頑張れ。」

「わかったわ……。」

 滅茶苦茶ゆっくりなスピードで洗面所まで歩いて行った。

「リアっていつもあんな感じなの?」

「そうだな。朝は苦手みたいだ。普段のスピードの倍ぐらい動きが遅いぞ。気づいたらいつも通りになってる。」

「なるほど。」

 春とリアについて話してたらリアはパッパッパと素早く戻ってきた。目がちゃんと覚めたのかな?

「春ー!会いたかったわ。湊も、もっと早く起こしてくれたらよかったのに!」

「行く時に起こしててもどうせすぐ寝ちゃってたでしょ。そういう事言う前に起こされる前に起きれるようになりな。」

「湊はいけずね。」

「まあまあ。ご飯食べようよ。僕もお腹段々空いてきたし。」

「それもそうね。春は相変わらず良い事を言ってくれるわ。」


「んー。これ美味しいわね。」

「うん。僕もこれ好きだな。特別な食材は使ってなさそうなのにそれ以上の美味しさを感じる。」

「そうかな……。ちょっと照れるぞ。特別な事はしてないから誰でも作れるけどな。」

「やっぱり、湊が私たちのために作ってくれたから美味しいのよ。そう思わない?」

「それはあるかもね。料理は人への気持ちが大事だからね。料理屋のご飯は味は美味しいかもしれないけど、また違う美味しさがあるよね。」

「そんなもんかな。自分の作ったもんだと分からないけど、確かに誰かが自分のために作ってくれたら美味しく感じるかもな。」

「じゃあ今度私が二人のために料理を作ってあげるわ。きっと美味しいわね。愛情しかないもの!」

「え……。」

「ちょっとリアの料理は不安だな……。」

「え?!二人共さっきと言ってることが全然違う!」

「ははは。」

 三人になると会話が増える。リアがいるからなのかな。リアと二人でも静かなときはあるしな……。やっぱり3人いると空気感が変わる。

 春と二人の時とも全然違うしな。リアと春が二人の時はどうなんだろう。そういう所は分からないからな……。

 この3人で居るのが好きだな。三人共色々変わったことがあるのかもしれないけど、こんなに仲がいい。中々こんな関係ないと思う。

 「ねえ春。春は明日も一緒に居てくれるの?」

「考えてなかったけど、二人さえよければそうさてもらうけど?」

「俺は別に大丈夫だぞ。」

「私も春と一緒に居たいわ。春がいてくれてダメな理由なんて何一つないわ。湊もこういってるし一緒にいましょ。」

「じゃ、お言葉に甘えさせてもらってそうしようかな。」

「やったーっ!春ーっ!」

 リアは春に抱き着きに行った。やっぱ女の子同士って良いな。横からこの景色を眺めてるだけで満足だ。絶対に邪魔はしない。

「ちょ、ちょっとリアくっつきすぎだってば。変な所触らないで!ちょっとーっ!」

「あはは。春~~っ。春は相変わらず可愛いわね~。そんな遠慮しなくていいのに~。」

「別に遠慮してるわけじゃないってばっ。急にひっつかれたらびっくりするでしょーが。」

「春ったら我儘ね~。じゃあ春から私にぎゅーってしにきてよ~。」

「ええっ?!」

「ほらっ!」

 リアは両手を突き出して早く早くとしてる。可愛い。春は凄くためらいつつも近づいて行ってる……。

「春ー。もうちょっと!ほらっ!来てっ!」

「はぁー。リアはもう、しょうがないな……。」

 春もためらってるものの嫌ではなさそうだ。素直に飛び込んでいくのが気恥ずかしいだけなのかもしれない。もしくは俺が横から眺めてるからかも。

 でも、この景色はどうしても見てたい。逃すわけにはいかない。

「はいっ。ぎゅーっ。」

「んーっ。ぎゅ。」

 女の子が抱きしめ合ってる光景って本当にいいな。この光景を良くないって言う人間は世界に一人でも居るのだろうか?

 こんな素晴らしい物全世界の全員が肯定するだろう。

「えへへ。」

「リアは温かいね。」

「春も凄く温かいわ。ねえ、春。私は今すごく幸せよ。春は?」

「僕も幸せだよ。」

「えへへ。良かった。春は良い匂いだね。」

「えっ?!恥ずかしいから匂いは嗅がないでよ……。匂い嗅ぐのはちょっと流石に抵抗が……。」

 確かに女の子って良い匂いするよな。体からそういう成分が出てるらしいが、凄いよな。

「減るもんじゃないし良い匂いなのだから大丈夫よ。ずっと嗅いでたいぐらいなんだから気にしなくて大丈夫よ。」

「リアが気にしなくても僕が気になる……。」

「ところで春。」

「どうしたの?」

「私と春は今とってもとっても幸せだけど、この場に一人そうじゃない人が居ると思わない?」

 リアが俺の方を見ながらとてつもない事を言いだした。俺の事を言ってるのか?俺はこんなに幸せなのにか?

 リアル百合を見ていて幸せじゃない男はいないぞ!

「私ね、三人で幸せになりたいのよ。春とリアと湊私達で幸せになりたいのよ。」

「うん?」

 春もきょとんとしてる。リアの発言の意図がわからないのだろう。

「私と春だけじゃなくて湊もこっちにきてぎゅーっってするべきだと思うの。」

「えっ?!いや、それは流石に……。」

「湊は嫌なの?」

「嫌とかじゃなくてさ……女の子二人に抱き着くって……。恥ずかしいし、何か違う気がするんだけど。」

「恥ずかしいのなら春もさっき恥ずかしがってたけどしてくれたわ。湊はしてくれないの?」

「それはそうかもしれないけど……。春は嫌だろ?!な!俺がそこに入っていくのは違うと思うよな?!」

 最後の救い手の春に懇願する。どうにか助けてくれ、と。必死に目で訴える。

 春はアイコンタクトで俺の気持ちを察してくれたみたいだ。

 良かった……。一安心。俺があそこに入っていっては俺が一番嫌いな百合の中に男性が入っていくの図が出来上がってしまう。それだけは守れたみたいだ。

「僕は良いよ!さあ、春!どんと来い!」

 あれ……?俺と春はアイコンタクト失敗してたみたい。もしくは、春は空気を読んだつもりだったのか?俺の送信ミスだったか?

 そこに入れてくれって伝わってしまってたのか?それとも春の意地悪なのか?

「マジで?」

「マジマジ。早く!」

「早く!」

 マジか……。そりゃ男冥利に尽きるけど、これは相当勇気がいるな。人生の中で一番かもしれない。こんなに勇気が要るシチュエーションに出会ったことないぞ。

「早く早く早く。」

 リアが急かしてくる。俺もそろそろ覚悟を決めないとだめらしい。百合の間に入る男を軽蔑してて悪かった。俺もそうなってしまうみたい。

「分かった分かった。急かさないでくれ。俺にも覚悟と勇気が要る。ちょっとづつ近づくから待っててくれ。」

「湊ー?往生際が悪いわよ。ほらっ!」

 最後の抵抗としてゆっくり近づいて言ってたら手を思いっきり引っ張られてしまった。

 ヤバい。女の子二人の体の柔らかさ。これは、ダメかもしれない……。俺はもう限界なのか……。

「ぎゅっ!」

「ははは……。」

 リアは喜んでいたが俺は渇いた笑いしか出ない。どういう表情をしてどういう声を出すのが正解なのか分からない。

 こんな素晴らしい状況は中々無いのだろうけど、素直になれない。素直になっていいのかすらわからない。

 正直、手もどの辺に当ててたらいいのか分からない。変なところに当たってしまったら流石に気持ち悪がられるかもしれないし、一生懸命大丈夫そうなところを探す。

 春の顔を見たら春は春で恥ずかしそうだった。そりゃそうだ。女の子二人で引っ付いてるのとは訳が違う。すまんな。

「湊?力が足りないわよ。もっと強くぎゅーっってしないと!」

「ええ……。これでも頑張ってる方なんだけどな……。あんまり強くすると流石に……な?」

「だめよ。もっと強く!」

「春、もうちょっと強くしても大丈夫か……?」

「うん……。いいよ。」

 本当に全力でやったら流石に痛いだろうから痛くならない程度に強い力で抱きしめてみる。

「あはは。いいわよ湊!私も力を入れるわ!春も!」

「うん……。」

 三人でしばらく抱きしめ合ってた。どういう状況?

「私は今とても幸せよ。二人は?」

「俺も幸せだ。これが幸せじゃないはずがない……。」

「僕も幸せだよ。とっても。」

「そう……。それは本当に良かったわ。私の幸せな事が二人の幸せならこんなに嬉しい事はないもの……。」

「リア?」

 リアはさっきまで笑顔だったのに、その笑顔はどこかへ消えていた。凄く真面目な顔をしている。

「どうした……?」

 俺も春も困惑してる。ずっとかもしれないけど。

「聞いてくれる?凄く真面目な話があるの……。」

 リアの表情から伝わってくる。今から言う事は冗談じゃないと。本当に信頼してる人にしか話さない真面目な事なのだろう。

 俺と春は勿論それを茶化したりしない。それが親友ってものだからな。

「リア、どうしたの。僕と湊ならちゃんと話を聞いてあげるよ。」

「そうだ。大丈夫だぞ。」

「うん……。二人事とは信じてるし大好きだわ。だから、私の願い事に付き合って欲しいの。」

「願い事?俺たちに出来る事なら何だってしてやりたいけど……。」

「僕もリアのためなら勿論協力するよ?」

「驚かないで欲しいのだけれど、私もうすぐ死ぬのよ。」

「「ええっ?!」」

 俺も春も口を開けたまま固まってる。お互いの表情を見ながら「え……?」って戸惑っている。

「もう……。驚かないでって言ったのに。」

「それは流石に驚くだろ……。驚かないとおかしいだろ。死ぬって、死んじまうって事か?この世からいなくなるって意味なのか?」

「そうよ。」

「それは……何でなの?僕も湊も、もうちょっと説明してくれないと理解できないかも。」

「そうね。急に死んじゃうって言われても分かんないわよね。私ね、昔から体が弱くて。正直    

 今まで生きてこれたのが奇跡なぐらいなのよ。

 本当ならもう死んでしまってるのよ。それが奇跡的に生きてこれたのだけれど、もうそろそろダメみたい。昔この辺に住んでいたのに引っ越ししたのも、遠くにある病院じゃないと診れないって理由があったからなの。その病院に行ったからって助かる保証は無かったし、私はそんなことより二人と一緒に居れたほうが幸せだったのになってずっと思っていたんだけど、奇跡的に本当の自分より長生きしてる事には感謝してるわ。勿論長生きしてるのは良い事なのかもしれないけど、私は"生きてる"だけにはあんまり意味がないと思ってるのよ。自分のしたい事をしてこそ自分の人生だと思っているわ。自分の魂、欲望に素直になってこその人生。だから、したい事はできるだけしてきたし思ったことはやるようにしてた。病院内でも、できるだけ無茶をしてた。怒られながらもしたいことは率先してやってきてた。でも、病院に居たら私の中の本当にしたかった事はずっと叶えられなかった。そんな私にチャンスが来たのよ。もう助かる見込みはないだろうって。体がどんどん弱ってきていて、奇跡が起ころうが何が起ころうがもう長くない。家族はショックを受けていたわ。私も家族の気持ちを考えると素直に喜べないけど、私はチャンスに感じた。だって、もうあの病院に居る必要はないんだもの。大好きな二人に会いに来れるのだから。」

 何を笑顔で言っているんだ……?どうしてそんなに堂々としていられるんだ……。死ぬって居なくなってしまうって事じゃないのか?

「それで、私の人生最後の願い事は湊と春、二人と居る事なのよ。ずっと会いたかったわ。会えてよかった。本当に。」

 俺は今どんな顔をしてるんだろう。頭の中が真っ白だ。何も考えられない……。俺は今、どういう姿勢をしてるのだろうか。どうなってるんだろうか。

 暗闇に吸い込まれてくような絶望感。俺と春はただただ、リアの言っていることを聞いてることしかできなかった……。

 先に口を開いたのは春だった。

「僕はどうしたらいいんだろう……。」

 春はショックを隠し切れず泣いていた。だらしないな、春は。俺を見習えよ。あれ……。おかしいな。男なのにな、俺。涙が止まらねえわ。一度出た涙は中々止まらなかった。

 リアは俺たち二人が泣き止むまで慰めながら待っていた。本当は逆の立場な気がするんだけどな……。なんで一番辛い筈の人に慰められてるんだろう。

 男なのに本当にだらしないな俺って。泣けてくる。泣いてるけど。

「ねぇリア。本当に死んじゃうの……?」

「ええ。本当よ。今度は万が一にも助からないみたいだわ。」

「それは前みたいに奇跡的にも何が起きてもだめなのか?本当にか?!」

「そうね。もう、そういう話じゃないみたい。治るとか、治らないとかそういう事じゃないみたい。」

「リアぁぁ……。なんで……。もっと一緒に居たかったよ……。もっと一緒に遊んだり過ごしたかったよ。もっと幸せになって欲しかったよ。

やっと再開できたのに、こんなのってないよ……。」

「よしよし……。」

 こういう時ってどんな言葉を掛けるべきなのだろうか。何も言葉が出てこない。リアの事を考えたら悲しがってるより、リアの願い事を叶えるために全力を尽くすのが礼儀ってものなのかもしれない。でも、そんなすぐに切り替えれないよ。機械じゃないんだ俺達って。ゼロか百で動いてる

 生き物じゃないんだもんな。仕方ないよな。なんでこんな事になってしまうんだろうな……。

「二人共少し落ち着いてきたみたいね。」

「ごめん……。」

「私だって驚かれない方がびっくりするわ。だから、多少取り乱してくれた方が嬉しいわ。二人を試したわけじゃないけど、私の事で本当に悲しんでくれてるんだって。良き友人を持てたなって自分が誇らしいわ。」

「当り前だろ……。リアはいつだって凄かったよ。リアの生き方は憧れる。リアほど凄い人物を俺は見た事ねえよ。」

「ありがと。最高の友人にそう言ってもらえて良かったわ。でね、さっきの事なのだけれど。」

「ああ。」

「これから最後まで私と一緒に居てくれないかしら。」

「「もちろん!」」

 これが俺たち二人に出来る唯一の事だろう。リアを思うのであれば、これしかないのだろう。 俺と春は強く決意した。

 「それでさ、聞きにくい事なんだけどいくつか質問していいか?」

「ええ。絶賛質問受付中よ。何でも聞いて。」

「さっきはもうすぐ死んでしまうって言ってたけど、後どれくらい生きれるんだ?」

「んー。そうねー。後一週間か二週間ぐらいかしら。」

「まじか……。」

 思いの他長くない。長くないとは言ってたものの、本当に長くない。人の命ってそんなに短いのかよ……。

「僕、自分の事しか考えてなかったけど、リアの親御さんは大丈夫なの……?認めてくれてるの?湊の家に泊まることを許してくれてるみたいな

話を聞いた気はするけど……。」

「悪い。あれは俺が付いた嘘だ。リアが突然きて泊めて欲しいって言ったのをどう説明したら春が納得してくれるかなって思ってさ。」

「え~~~?!」

「私の親は私が今してる事は許してくれてるわよ。説得したわ。散々迷惑かけてきたのは承知の上で、最後ぐらい全部私の好きなように生きさせてって。本当なら最後ぐらい家族と過ごすべきなのかもしれないけど、家族とは今までもずっと一緒に居たもの。それなら私は大好きだった友達と最後に過ごしたいって思ったのよ。親不孝な娘でごめんって謝っておいたからきっと大丈夫だわ。」

 大丈夫ではないだろう……。きっと親御さんも心配してるだろうな。それでも娘の気持ちを優先させてあげたんだ。なんて立派なんだろう。

「それでもこっちから連絡ぐらいしといた方がよくないか……?」

「そうそう、言い忘れてたことがあったわ。もし、私の様子がおかしくなって倒れたりしたらこの番号に掛けてくれる?」

「これは何の番号?」

「私の親よ。来る前に一応私がしようとしてたことは伝えてあるのよ。その上で私がいつ倒れたりしてもいいように私に何かあったら連絡させるって言っておいたの。だから連絡して私が倒れたって言ったら大体の状況を把握してくれるはずだわ。」

「準備いいな……。じゃあ、今変に連絡したら逆に心配かけてしまうか……?もし会ったら謝罪しないとな……。」

「謝る必要はないわ。私がしてることだもの。それと本当に大丈夫かしら。二週間ほど私に時間を使って欲しいという意味でさっきは行ったのだけれど、学校とか親とかそっちは大丈夫なの?その、無理はしないでいいのよ?学校とか行かなくちゃいけないってなってたら全然言ってくれていいのだけれど……。

暇な時間私と居てくれたら構わないわ。」

「春は大丈夫か?」

「大丈夫だよ。ちょっと家族にだけ連絡しないと。僕の解釈が間違ってたら申し訳ないんだけど、三人でこれからずっと一緒にいるっていうのはここで三人でしばらく暮らして過ごすっていう意味であってる?」

「私はそれが出来たら一番嬉しいわ。」

「分かった。ちょっと連絡だけしてくるね。」

 確かに、リアのために色々したいからって他の事が疎かになりすぎてたらどうしようもないからな。連絡とはしないといけない所にはしておかないと。

「湊も大丈夫かしら?」

「当り前だろ……。後悔したくないんだ。出来る事はしておきたい。それも、リアが望んでいることなら尚更。」

「ありがとう。二人共。本当に大好きだわ。」

「ちょっと俺も知り合いにだけ連絡しとくわ。急に休みだしたら心配するかもしれないし。」

「わかったわ。」

 とりあえず夏目には連絡しておこう。普段から世話になってたからな……。それに何かあったら助けてくれるかもしれないし、俺の頼みならきっと来てくれる。

 プルルル。

「夏目か?」

「おう。俺の携帯にかけてきてるんだからそりゃそうだろ。どうした?」

「ちょっとしばらくの間大学休むわ。二週間程度。もしくはそれ以上。」

「何かあったのか?」

「そういうとこだな。今詳しく事情を伝える事は難しいけど、いつか聞いて欲しいとは思ってる。」

「なんだそれ?まあ、お前がそうやって言うってことは何かしらの大事な事情があるってことは理解した。わかったよ。

もしなにかあったら言ってくれ。俺に出来る事なら協力しよう。」

「助かるぜ親友。」

「おう。頑張れよ。」

「ありがとう。じゃあな。」

 夏目はいいやつだな。あまり話をしなくてもこちらの事情を察してくれる。後は春の方がどうかだが……。

「春、どうだった?」

「大丈夫だよ。一応事情を伝えといた。一度帰ってちゃんと説明しに行くよ。ついでに荷物とかも持ってきたいし。」

「それなら春に頼みごとがあるのだけれど。」

「何?」

「春の服いくつか貸してくれないかしら?着替えをそんなに用意してないの。いくつかあった方が便利かなって。」

「任せて。今日の分はあるの?ないなら今行ってくるけど。」

「今日の分は大丈夫だわ。ちょっと買ってきたもの。」

「そっか。じゃあ明日一度帰るからそんとき持ってくるね。」

「助かるわ。」

 服とか下着とかは春がいると助かるな。俺じゃちょっとどうしようもないし……。

「これで私も一安心して二人と過ごせるわね。」

「まあ、そうか?」

「リアは僕と湊にしてほしい事とかない?出来ることなら全部してあげるけど……。」

「おう、何でも言ってくれ。何でもしてやるぞ。」

「そうねー。私は最後の二人と過ごせれば満足と言えば満足なのだけれど……。」

「例えばどこか行きたいところとかないのか?それとも体調的に厳しいか?」

「あんまり遠くへは行きたくないわね。体力がそもそもないもの。それでも二人と昔遊んだ場所とかは行ってみたいわね。」

 こないだ少し出かけた時もこれで疲れていたのか。あれでも少し無理してたんだろう。あんまり無理するなよな……。

「明日様子見ながら行ってみようか?」

「そうね。私も具体的な案が何かないか考えておくわ。」

 リアのために俺が出来る事って何なんだろう……。何をしたらリアのためになるんだろう。出来るだけ精いっぱい楽しませてやりたい。満足させたい。俺には何ができるんだろう……。

「湊には一度聞いたことがあったけれど、二人は人生最後にしたい事とかってあるかしら?どうせならそれもしてみたいわ。」

 そういえば寝るときに一度聞いて来てたことがあったな……。あの時は軽い気持ちで言ってたけど、今は違う。軽い気持ちで言えない。だって、本当に最後なんだから。責任重大だ。

「僕は何だろうな……。想像もつかないな……。やっぱり美味しい物でも食べるのかな?」

「やっぱり皆そんなところなのね。実際死が近い私でもあまり思い浮かばないもの。意外とできることって決まってるのかも。」

 リアの発言に気軽に触れて良いのかわからず、俺と春の口が止まる。

「二人の気持ちが分からない訳じゃないけれど、私の事を思うのなら必要ない心配はしなくていいわ。私は皆が思ってるほど自分の死を重く感じてないのよ。辺に空気を読もうとか、いつもと違う感じに接しなくていいわ。いつも通りが私の希望よ。」

 リアは強いな。俺は自分の死が近づいてきたとき、こんな風に振舞えるのだろうか?こんな堂々と立ち向かえるのだろうか?

 それともそもそもこんな考え方じゃないのだろうか?実際に死が近い人間とそれを見守る人ではどうしても分かり合えない部分があるのだろうか?

実は頑張って強気な風に振舞ってるだけなのだろうか?俺にはわからないんだろうな……。

 俺はいつかリアの様な生き方を出来る日が来るのだろうか。

「流石に自然にするのは無理があるかもしれないけど、いつも通り接するよう努力するよ。」

「頼んだわ。」

「さっそくだけど、今日はどうしようか?もう15時だけど……。」

 気づいたら時間が結構経っていた。それもしょうがない。色々あったんだ。他に何も考えられないほどに。

「お腹が空いたわ。」

「そろそろご飯にしよっか?そろそろっていうのもおかしいかもしれないけど、お昼の時間は過ぎてるし。僕が何か作ろうか?」

「春が作ったら味は間違いないだろうな。喫茶店のオムライスは美味しかったし、喫茶店で色々な物作ってるなら尚更な。」

「湊のオムライスも十分美味しかったわよ。」

「え?湊もリアにオムライス作ってあげたの?いいなー。僕も湊のオムライス食べてみたい。」

「いやいや、比べ物にならないって。ネットで適当にレシピ見て作っただけなんだから。」

「それを言ったら僕だって店のレシピ見ながら作っただけだしねー。そんなに変わんないんじゃない?」

「そうか……?」

「そこまで言うなら私が決めてあげるわ!今日は皆でオムライスを作るわよ!それで皆で皆のオムライスを食べてくのよ!凄く友達っぽいわ!」

「マジで……?」

「湊は春のオムライス食べたくないの?」

「俺が心配してるのは俺が作ることでもなく、春のオムライスの事でもなくリアが言った皆って言葉が気になってるんだけど?」

「ええ。私も作りたいわ!それで二人に食べてもらうの!」

春の顔を見ながら訴えかける。どうする?って。春も苦い顔をしている。小さい時のリアの料理にトラウマを覚えているんだ俺たち二人。

「リアがやりたいんならいいんじゃない?!」

春は吹っ切れていたようだった。俺と春がいたらそんなに不味い物はできないかな……。だといいけど。

「わかった。皆で作ろう。ただしリアはちゃんと俺と春の言う事を聞けよ?」

「ええ。お願いするわ。作り方なんて知らないもの。教えてくれないと困るわ。」

本当にただの思い付きだったみたいだ。

「材料ならこの前作った時の残りがあると思うんだけど、春的には大丈夫そうか?」

「んー。どれどれ?」

 春は冷蔵庫の材料と調味料を物色していく。

「まー、これだけあったら十分じゃないかな?特に問題は怒らないと思うよ。」

「そうか。それは良かった。三人でオムライス作るのはわかったんだけど、同じようなやつ作ってもあれだよな。」

「そうね。春は喫茶店の時のような感じのオムライスで、湊はこの前の時のオムライスで、私は二人が適当に教えてくれた奴で良いわ。」

「そうするか。これ順番とかどうする?」

「あー。それもそうだね。とりあえず下地的な物は皆同じのにしようか?それで卵の部分と卵にかけるケチャップの部分を工夫したらいいんじゃない?それが三人で作るうえで一番纏まりそう。」

「じゃあそうしたほうが良さそうだな。」

一人づつ作るのを待ってたら時間も掛かるし、冷めたりもするし色々不便な事が起きてしまうかもしれないしな。

 リアにやらせるのにもこの方が向いてるかもしれない。卵が多少上手く行かなかったとしても食べれないことはないだろうしな。一安心だ。

「先にケチャップライスを作ろっか。せっかくだしリアに作ってもらおうよ。そんなに難しい工程ないしさ。」

「いいの?!」

 リアは目をキラキラ輝かせていた。料理やってみたかったのかな……?どうせならやらせてあげたいしな。

 何かさっきまでやらせたくないって思ってた自分が憎い。これぐらいさせてやらないでどうするんだ。例え腐った料理を出されても食べればいいじゃないか。それが友情ってやつだ!

「うんうん。リア、こっち来て。僕が言う通りにやってね。」

「ええ。」

 春が教えてるだけあって上手だ。特別問題もなさそうで安心した。

 圧倒いうまにケチャップライスは出来ていた。

「春、問題なさそうか?」

「うん。上手に出来たと思うよ。味見もしたけど問題ないと思う。リアはもしかしたら料理の才能あるかもね。」

「えへへ~。ほんと~?照れるわ。」

 リアは何時になく上機嫌だった。

「とりあえず三人分のケチャップライスは用意したからここからは卵の部分を作ろうと思うんだけど、誰からやる?」

「はいっ!」

リアが真っ先に手を挙げてた。滅茶苦茶やりたそうだ。

「これは僕が教えたほうがいいかな?湊が教える?」

「いや、春に任せるよ。俺は教えるほど上手くないし作った事も無いからな。自分のやつで精いっぱいだ。」

「そう?じゃあ僕が教えるよ。」

「ありがと春~。」

 おー。中々様になってるな。本当に普通のオムライスだ。滅茶苦茶美味しそうだ。

「リア上手だねー。僕でも初めてやった時は失敗したりしたけど、全然そんなことなかったし危なげなくできたね。」

「春のおかげだわ。教え方が上手なのよ。将来料理教室でも開いたら?」

「あはは。リアってば言いすぎ。僕はそういうの苦手だから難しいかな。」

「え~。それは残念。春なら向いてると思うのにな~。」

「まあまあ。後はリアの好きなようにケチャップで文字書くといいよ。」

「何て書こうかしら。」

 リアはしばらく悩んだ末何か思い浮かんだらしい。

「これは後で書くわ。皆で同時に書くのよ。同時は難しいかしら。一人づつ書いて行って、最 後に皆で何て書いたか見せ合いっこしましょう!」

「それはひとつのお楽しみポイントだね。わかった。じゃあそうしよっか。次は湊が作る?」

「ああ。そうさせて貰おうか。」

 前の時のレシピ通り作っていく。一度作ったこともありスムーズに出来た。まあまあ悪くない。俺的には十分だ。

「おー。上手じゃん湊。十分じゃない?」

「そうか?春に言われると嬉しいな。」

「えー?!私に言われたのは嬉しくなかったの?!湊ったらひどい!」

「いやいやいやいや。そういう事じゃなくてだな。料理経験ある人に褒められたら嬉しいだろ。リアに言われたのも勿論嬉しいから。」

「ふーん?ならいいけど。」

 いかん。リアの機嫌を損ねるような事を言ってしまった。本当にそんなつもりはなかったのだがな……。

「まあまあ。湊もそんな気はなかったと思うよ?許してあげなよリア。 

「えへへ。別に怒ってないわよ。こういうやり取りをちょっとしてみたかっただけよ。」

「もー意地悪だなーリアは。湊ったらちょっと傷ついちゃってるよ?」

「湊ごめんね?」

「いや、リアが気にしてないなら全然俺としては困らないからいいぞ!よかったよかった。」

「湊らしいわね。」

「さて、僕もさっさと作っちゃわないとね。」

 春は慣れた手つきでオムライスを完成させていた。俺と春じゃ格が違うな。自分がちょっとでも料理できるんじゃないかって思ってたのが恥ずかしい。

「それじゃあ、各自自分のオムライスをちょっと離した所に持って行ってケチャップで文字を書いていこう。で、文字を書いたら次の人にケチャップを渡しに行く。これで最後まで他の人の文字を見ずにできるんじゃないかな?」

「春は賢いな。そうしようか。」

「これも私から書いていいかしら?」

「おう。いいぞ。」

「うん。書き終わったら湊の所へ持って行ってあげて。最後の僕が書くよ。」

 リアが書き終わった。何て書いたんだろうな。他人の事ばっか考えてて自分のやつ何て書くか考えてなかったな。

 何て書こう。あれにしようかな?うん。あれにしよう!

 自分のやつを終えて満足気に春の所へケチャップを持っていく。

「湊は随分と満足気だね?なんて書いたの?」

「それはお楽しみだ。」

「え~?僕も何て書こうか迷ってるから参考にしたかったのにな~。何て書こうかな。」

 春は春で結構悩んでいた。悩むよな。気持ちは凄くわかる。他人に見せるってなるとまたハードルがちょっと上がっちゃうしな。

「皆準備はいい?!」

「うん。」

「いいぞ。」

「それじゃあ、どーん!」

 リアの掛け声と同時に皆のオムライスを見せ合いっこした。

「「「ははははははは。」」」

 三人とも大爆笑だった。薄々そうなんじゃないかと思っていたけど、本当にそうなるなんてな。

三人ともお互いの顔を見ながら笑ってる。皆もそう思っていたんだろう。同じ事を書いてるかもしれないって。

 俺たちは皆、オムライスにケチャップでオムライスって書いていた。やっぱ俺たちって考えてること同じなのかな。

「僕は春の反応を見て、こう書いてる気がしたからこう書いたんだよね。」

「え?!良く分かったな……。そんな俺もリアがこう書いてる気がしたからこう書いたんだけどな。」

「二人共凄いわね。私はこれ以外思い浮かばなかったわ。」

「でね?二人には言ってなかったけどこれからが本番よ。」

「え?本番ってどういうこと?ご飯を食べるんだから今からが本番かもしれないけど……。」

「そういう事じゃないわ。このオムライスは自分で食べちゃだめ。お互いに食べさせ合うのよ。」

「そういう予定じゃなかったっけ?全然俺は二人のオムライス食べる気でいたけど。」

「僕も。」

「そういう意味じゃないわ。食べさせ合うっていうのはこうやって食べさせるって事よ。」

 リアは自分のスプーンでオムライスを一口分救い、春の口へと運んでいた。

「マジで言ってるのそれ?」

「ええ。大マジよ。」

「えぇ……。」

 春はドン引きしていた。これはかなり恥ずかしい。食べさせる方はまだいいんだが、食べる方は凄く恥ずかしいぞ。耐えれるかな、俺。

 春も相当恥ずかしそうだし、俺だけじゃないならいいか……。

「次は春が私に食べさせて。」

「はい。あーん。」

「あーん。」

うん。ここまでは問題ない。女の子二人が食べさせ合うのって素晴らしい。だけど、何で俺が?!

「美味しいわ。次は湊に私が食べさせてあげるわ。」

「ああ……。」

こういうのって憧れてる反面恥ずかしい。凄い抵抗がある。勇気が要る。それに第三者の目がある。恥ずかし。

「はい。あーん。」

「あーん……。」

美味しいのかどうかわからない……。緊張で味がしなかった。

「どう湊?」

「美味しいぞ。」

「それは良かった。じゃあ次は湊が食べさせて。あーん。」

「ほい。あーん。」

「うん。とても美味しいわ。やっと湊にご飯を食べさせてもらえたわ。」

「やっとって、初めて聞いたけどな……。」

「あら?そうだったかしら。次は湊と春よ。」

 遂に来た。まだ、リアとは恥ずかしい気持ちはあれど出来た。リアってば純粋だしこっちのことも真っすぐ見てる感じがするから余計な事を想像しなくて済むからな。

ただ、春はそうじゃない。所謂普通の考え方と持ってる。それは、お互い多分わかってる。だからこそ恥ずかしい。

 自分の考えてることが見透かされてるようで。

「ほらっ!早く!時間掛かり過ぎよ!私だってまだ食べたいんだから!」

「おう……。じゃあ、春いくぞ?」

「うん……。」

 春は滅茶苦茶顔を赤くしていた。本当に恥ずかしそうだ。俺も恥ずかしい。

「あーん。」

「……あーん。」

 何だこれ?恥ずかしそうにしながらあーんしてる女の子めっちゃ可愛いんだけど。これは新しい発見をした。リアに感謝だな。

「はいっ!次は湊の番だからね?!あーん!」

 春はやけくそになっていた。

「あーん。」

「えええ?!なんでそんなに恥ずかしそうじゃないの?!」

「何か春を見てたらどうでもよくなってきた。」

「えええ……。」

なんだか凄く落ち込んでいた。俺は春の動揺の具合に助けられたな。あそこまで春が動揺してるとかえって冷静になる。恥ずかしさがとんだ。

助かったぜ春。

その後はそのままお互いのオムライスがなくなるまで繰り返した。

「美味しかったわー。毎食これしたいわ。」

「いや、それは却下。たまになら、まだ!いいけど。毎食これはちょっとカロリーが高すぎる。僕にはちょっとハードだな……。」

春は凄く疲れている様だった。終始恥ずかしそうにしてたからな。俺もちょっと可哀そうな気持ちもあったけど、からかいがいがあって楽しかった。

リアは逆に満足している様子だった。

それからもなんて事のない話をしてたら夜になってた。

「もう夜ね。時間の進みが早いわ。どうなってるのかしら。」

「きっと楽しいからだよ。僕も楽しかったり……したから時間の進み早く感じるよ。」

春はさっきのご飯の食べさせあいをまだ根に持ってるらしい。

「ねえ、お願いがあるんだけど。」

「何だ?」

「どうしたの?」

「三人でお風呂に入らない?」

「やだ!」

 今まであまり否定してこなかった春が大声を出して否定していた。これには流石に俺も賛成だ。

「流石にそれはちょっとどうかと思うぞ?」

「えー?何でよ。三人で入りましょうよ。慣れたら恥ずかしさもすぐ飛ぶわ。きっと楽しいわ。」

「楽しいからとかじゃなくてさ……、春とリアが二人で入ってきたらいいんじゃないか?男女で入るのが問題だろ。」

「だめ。三人で入りたいのよ。」

「だめって言われたってなあ?」

「これは流石にね……。」

「えー?!お願い!お願い!一生のお願いよ?!」

リアの一生のお願いは流石に強すぎるだろ。そんな事言われて否定できないぞ……。

「んん~~……。春はどうしたらいいと思う?」

「僕に聞かないでよ……。」

「私の言う事聞いてくれたらいいと思うわ。」

「リアはちょっと黙ってて。」

リアは怒られてしょんぼりしていた。凄く残念そうにしていた。

「あー!もう!わかった!リアの言う通りにしてあげる!本当に仕方ないなぁ!でも!湊もジロジロ体を見てきたりしないでね!頼むよ!」

「いいのかよ……。」

「だって仕方ないでしょ!リアの願いだしあそこまでお願いされたら断れないよ……。」

「それはそうだな……。悪いな春に任せてしまって。」

「やったー!ほらほら、そうと決まれば入るわよ!」

「待て待て。まだお湯張ってないから!流石に何も無いところに三人で入るのはおかしいだろ。」

「っていうか、この家のお風呂ってそんなに広いの?」

「まあ、そこそこ広いな。三人ぐらいなら入ろうと思えば入れる。」

「それはちょっと凄いね。思ってたより広いみたい……。」

お湯を入れてからしばらく立ったみたいだ。機械が教えてくれてる。これって本当に便利だよな。昔は自分で蛇口を捻って時間が経ったら止めに行ってたからな。

「よし!今度こそ入るわよ!二人共準備はいい?!」

「ああ……。」

「うん……。」

「なあ、これって俺が先入ってるか後から入った方がいいんじゃないか?流石に洗面所から一緒ってのは違うよな?」

「だめよ。もうお風呂は始まってるのよ。」

「何だその遠足は帰るまでが遠足的なノリは……。悪いな春。我慢してくれ。気が向いたら殴ってくれて構わん。」

「そうさせてもらおうかな……。」

 いつの日かボコボコにされてしまうだろうな。こればっかりはしょうがない。出来るだけ平常心を保つように意識しないとな……。

 流石に俺にだって避けたい事はある。こんな状況で勃たせてしまっては不味い。でも、そうならない自信もない。見ちゃだめだ……。

 後ろを向きながら服を脱いでいく。そして、後ろからは服を脱いでいく音が聞こえる。今頃後ろで二人共裸になっていってるんだ……。

 想像すればするほど興奮してくる……。ごめんなさい!


 服を脱ぎ終わった。どうしよう。振り向いていいのかな……。もうちょっと待ってた方がいいか?

冷静に考えられなくなってきた。そうすると、ドアを開ける音が聞こえてきた。

「一番のりーっ!」

リアがざばーんと音を立てながらお風呂に入っていった。

「二人共早く早く~。ほら~。」

「わかったよぅ……。」

春も恥ずかしながら歩いて行った音が聞こえた。ちょっと湯船につかるまでは待たせてもらおう。流石にな。

「湊もはやくー。」

「ああ……。」

流石にタオルで隠しといたほうがいいよな。これは怒られないよな。礼儀だよな。

お風呂の方へ歩いていくと二人は湯船に浸かってた。普通に丸見えだ。二人の裸。初めて見た。

「湊ったら何を隠してるのよ。こんなものいらないわ!」

リアは何をとちくるったのか、俺が隠すのに使ってたタオルを取ってぽいっと手の届かないところに投げてしまった。丸見えだ。

「ちょちょちょ。何するんだよ。」

「私も春も裸なのに湊が隠してたらおかしいでしょう。私たち三人に隠し事はなしだわ!だからそれもなし!」

「ええ……。」

春は顔をずっとそっぽ向けてた。リアは興味津々でまじまじと人の裸を見ている。ちょっとは恥じらいというか遠慮というものをだな……。

「湊も大人になったのね~。」

「うるさい!あんまり見るな!」

「だめよー。三人でお風呂に入ってる意味がないじゃない。」

「見るために入ってるのか?」

「それも一つの理由ね。」

「まじかよ……。春も何か言ってくれよ……。俺じゃリアをどうにかできないぞ……。」

「僕はもうどうしたらいいかわかんない……。」

「春もこんな事いいながら湊の体に興味あるのよ。恥ずかしがり屋だから上手に見れてないだけで。」

「いや、リアが恥ずかしがらな過ぎなだけだって……。俺も相当恥ずかしい。」

「うぅ……。あんまり見ないで……。」

「すまん……。」

 混浴ってこんなに緊張するもんなんだな……。

「二人共緊張しすぎよ。本当にだめね。決めたわ。私が元気な内は毎日これをさせるから。これは命令だから逆らったら許さない。」

「なんでっ?!」

「どういう命令……?」

「まあまあ。私の為だと思って付き合ってよ。」

「ずるい……。」

リアはとことんパワープレイで付き合わせてくるな……。そんなこと言われたら俺たち二人断れるはずもない。

「段々と二人も慣れるわよ。そうなってもらわないと私も困るわ。」

「何を困ることがあるんだ?」

「ふふ。それはまだ内緒よ。」

まだ内緒って何だ……?まだってさっさと言ってくれなきゃ聞き逃すことになるかもしれないのにさ。

「さて!これからはお互いの体を洗いっこよ!」

「えー?!」

結局そのままリアの言う事に付き合わされることになり三人で体を洗いっこした。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「大丈夫か春?」

「もうだめかも……。お家に帰りたい……。」

「もー春はそんなんだからだめなのよ。もっと自分に自信もって勝負しないと!」

「勝負って何だ?」

「湊にはまだ内緒ね。」

俺に対して内緒ごとが多くないか……?

「僕はなんだかリアが企んでること少しだけわかったかもしれない……。」

「流石は春ね!鋭いわ!」

「もう、僕は何も知らない……。なるようになれ……。逆のはずだったのにな……。」

 春は全てを諦めたようだった。どういうことだ……?

「それでは今から一緒に寝ます!」

「僕はそう言われる気がしてたよ……。」

「俺もなんかそんな気がしてた……。」

「二人共凄いわね!段々と私の考えてることを読めるようになってきたみたいね!それでこそ二人だわ!やっぱ三人仲よくしないとね!」

ここで俺の予想外の事が起きる。俺は少なくとも端っこだと思ったんだけど、なぜか真ん中に配置させられた。

「なんで俺が真ん中なんだ?」

「私がその方がいいと思ったからよ。両手に花でいいじゃない。」

「良いとか悪いとかじゃなくてな……。」

「まだまだこれは序の口よ。湊が驚くのはこれからだわ。」

 何っ?!まだ何かあるのか……。先が思いやられてしまう。これ以上どうなるってんだよ。

 その矢先、リアが左側から抱き着いてきて、手を伸ばしている。反対側に。これってもしかして……。

「ほらっ。春!手を貸してよ。はやくはやくー。」

「恥ずかしい……。」

 凄い状態になってしまった。俺の予想以上だった。両側から女の子に抱き着かれる構図になった。どうしてこうなった……。

「幸せだわ。こんな事を夢見て今まで生きてきたのだもの。三人幸せになれて私は言うことないわ。」

「こんな事を夢見てたのかよ……。」

「ええ。私は二人の事が大好きだもの。二人に幸せになって欲しいのよ。勿論私は幸せよ。」

「俺も幸せじゃない筈はないけどな。男の夢だろ。両手に花ってやつだ。この状況が幸せじゃないはずがないけど。」

「ね?春も恥ずかしそうにしてるけど、きっと幸せなのよ。春はちょっとしゃいだからね。自分の気持ち通りに動けないのよ。」

「恥ずかしいにきまってるでしょ……。」

「春は私たちの事好きかしら?」

「好きに決まってるでしょ。二人共大事だよ。大好きだから……。これで許して。」

「後は湊だけよ。湊は?」

「ああ。俺も二人共好きだぞ。とっても大事な友達だ。」

「えへへ。それを二人から聞きたかったのよ。もう私の人生に悔いはないわ。」

「ちょっと待て!それは早いって!まだまだ限界まで生きてくれよ。まだ三人で幸せにならないとだめだろ!」

「僕も今のはちょっとどうかと思うな。僕と湊はリアのことをとっても心配して、大事に思ってるんだから。こんなことしてるんだから、限界まで

生きてもらわないと僕もリアを許せないよ。」

「えへへ。そう言ってもらえて幸せ者だわ。本当に。二人に出会えてよかった……。二人を好きになって良かったわ……。」

リアは少し泣いてるようだった。そんなの見せられたらこっちまで泣いてしまうよな。春。

春はリアとは比べ物にならないぐらい泣いていた。俺も涙で何も見えない。

もっと一緒に長く生きたかったよな……。なんでこんな事に……。感情がぐちゃぐちゃになる。ただ、泣き疲れていつの間にか寝ていた。

もう朝か……。いつ寝たんだろうな……。両腕がなんか重いぞ。どうしちゃったんだ俺。

左右を見ると俺の腕にくっついてるのが二人いた。そういえばこの姿勢で結局寝てたのか……。

「おい。二人共朝だぞ。起きてくれ。俺が動けないからさっさと起きてくれ!」

 頑張って声を出したり腕を動かしたりしてようやく二人共起きてくれた。

「ん……。あら、おはよう……。」

「おはよう。」

「あれ……?ここどこだ……。僕は何してるんだ……。」

 春も朝苦手なタイプか?まだ寝ぼけてるみたいだった。

「おい。朝だぞ。起きろ起きろ!」

「あっ……!そういえば湊の家に泊まってたんだった……。あっ!リアは……?」

 春はリアの事を相当心配してるんだろうな。起きて第一にリアの事を考えてるんだなって伝わってくる動きだった。

「春、おはよ。私ならここにいるから安心して。大丈夫よ。」

「よかった……。おはよ。リアは元気?」

「ええ。元気よ!朝だからいつもよりは元気が少ないけど、全然平気よ。任せてちょうだい。」

「何を任せたらいいのか分かんないけど、元気ならよかった……。ちょっと洗面所借りるね。」

「ああ。好きに使ってくれ。」

「私も~。」

二人で洗面所に眠そうな姿で歩いて行った。似た者同士だな……。

 俺はどうすっかな。喉渇いたな……。お茶でも飲みながらいったん落ち着くか。

「ふー。おはよー。さっきはボーっとしてて正直何が何だか分かんなかったよ……。」

「おはようさん。春も案外朝弱いんだな。」

「そうだねー……。あんまり得意ではないかも。朝は……辛い。」

「俺も好きではないけどな。」

 昨日の出来事もあったから精神的にも疲れがあったのかもな。

「春ー!春ったら移動が速いわね……。顔を洗ってたら知らない間に一人になってたわ。」

「リアが遅いだけじゃない……?僕は多分普通だよ……。」

「もう、いけずね。」

「それより、朝飯でも食わないか?」

 思ったよりお腹が減ってる。腹ペコだ……。何でもいいから食いたい。

「僕も少し減ってきたな……。」

「私も食べたいわ。」

「じゃ、朝飯にするか。朝飯にするのは決まったけど、何にしようか……。材料が思ったよりないな。」

「それなら喫茶店借りようか?多分今マスター居るから、ちょっと借りて使わしてもらうぐらいなら出来ると思うよ。」

「本当か?っていうかバイトの方は大丈夫だったか?急に休むなんて言って。」

「大丈夫だよ。元々マスター一人でしてる店だったしね。何て言うか物分かりが良い人っていうか。凄い人なんだよね……。」

「そうなのか?俺たちが行ったときは特に何もしてなかったから謎の人だなって思ってたんだよな。」

「謎の人って言うのは間違ってないかも。不思議な人って感じ。ちょっと電話してみるよ。」

「任せた。」

 どういう関係か分からないけど、喫茶店でご飯作ったりしてもらえるなら凄い楽だ。味の保証もされてるし、問題は金だけだな。

「リアはあの喫茶店好きだっただろ?」

「そうね。独特の雰囲気をしているから気にいってるわ。味も良かったし、文句ないわね。」

「なら、後は借りれるかどうかだな。」

 今思ったら喫茶店って朝は普通やってるよな。電話して聞いてみるってことは普段朝はやってないって事なんだろうか?不思議な店だな……。

「大丈夫だってー。今仕込みとかしてるから勝手に使ってくれて構わないってさ。」

「無理言って悪いな。借りれるなら感謝しかない。良かった。」

「それじゃあ、準備して行きましょうか。」

「そうだな。」

 それから、着替えて喫茶店まで歩いて行ったらclosedの看板が掛かってあった。普段はこの時間やってないってことなんだろう。

 closedって書いてあるのに入っていくって特別感があっていいな。

「マスター。どうもー。ありがとうございますー。」

 春は入ったと同時にマスターの方へ歩いていき何やら話している様だった。

「すいません。無理入って使わしてもらって。ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

 俺とリアはマスターに一言感謝を。マスターも「全然問題ないよ。」ってな感じだった。

「二人共メニューは何にする?何でもいいよ。」

「リアは何か食べたいものあるか?」

「オムライス!」

「オムライス?!昨日食べたよな……。いいのか?そんなに好きだったっけ?」

「そういう気分なのよ。別に私は同じご飯が何回続こうと気にしないのよ。好きな物であればね。二人は違うメニューで良いのよ。」

 そんな事言われてもな……。俺としては何か同じメニューを食べたい気分だ。普段ならしなかっただろうけど、今はな。

「俺もオムライス頼む。」

「あいよー。分かったよ。じゃ、僕もオムライスにしようかなー。飲み物は?」

 春もオムライスにするのか。三人ともオムライスだ。

「俺はカフェオレで。」

「私はお茶がいいかな。」

「はいよ。」

 春は凄い手際でオムライス三つを完成させていた。改めて思うけど凄いな……。綺麗で速いんだよな。

「お待ち。」

「腹ペコだ。待ってたぞ。」

「ありがとう。」

 ケチャップでオムライスって書いてあった。何か安心するな。

「これってさ、いつもはなんて書いてるんだ?」

「何にも書かないよ。適当に線をぐにゃぐにゃ~って感じにするだけだよ。」

「そうなのか。春なら何か適当に書いてあげるだけで客は喜ぶんじゃないのか?」

「やだよ恥ずかしい。」

 やっぱ普通は恥ずかしかったりするんだな。

「相変わらず美味しいわね~。」

「えへへ。ありがとう。リアが喜んでくれて僕は嬉しいよ。」

 何だかんだあって、有難くオムライスを頂いて喫茶店を出て家に戻ってきた。

「美味しかったねー。」

「ああ。」

「良かった。今からどうしよっか?リアは体力的に大丈夫そう?」

「大丈夫よー。」

 まったりムードで何にも決めてなかったな。

「映画とかアニメとかゲームとかにするか?」

「今日は家より外に出てたい気分だわ。軽い散歩とかでもいいのだけれど。」

「じゃ、そうしよっか。」

「いいぞ。疲れてきたりしたらすぐ言えよ。」

「ええ。二人の事は信頼してるから大丈夫よ。」

 三人で近くの景色の良いところまで歩いて行って、特に何をするでもなく、他愛もない話をして過ごした。昔を思い出すように。

それからは毎日三人で色々な事に挑戦した。やったことのない事、少しやってみたかったこと、テレビで見た事。普段だと絶対にしないこと。三人でやると何でも楽しかった。本当に色々な事をやりつくした。

 これも、リアのおかげだ。リアの生き方の見習うべき点だ。リアがいなかったら行動に映せなかっただろう。俺も、春も。

 リアに引っ張ってってもらってる。俺たちが引っ張るべき存在なのにな。リアは何て力強いんだ。

 なんでこんなに強く生きてるんだ。何がリアをそうさせてるんだろう。俺なら挫けてる。人生を諦めていただろう。

 でも、これからは諦めない。何事にも挑戦する。これはリアから教わったことだ。これを守らなければ、リアに与えてもらったものを捨ててしまってるようなもんだ。これだけは大切にしないといけない。

 そして、一週間程立った日リアは言った。「最後のお願いがあるの。」と。

 それは三人で布団に入ってる時の事だった。

「ねえ。二人に最後のお願いがあるんだけど。」

「最後のお願い?」

「ええ。私が二人に最初から望んでいたことよ。」

「なになに?ここまで聞いて来てあげたんだから早くいいなよ。どんなお願いでも僕と湊なら付き合ってあげるからさ。」

「ふふ。そうね。今までもそうだったわね。二人には結婚して欲しいのよ。それが私からの最後のお願いよ。」

「「結婚?!」」

 結婚って言ったか?俺と春が?!何でそれがリアの願いなんだ?

「ええ。そうよ。私は最初からそのつもりだったの。でも、久々に会いに来た時はびっくりしたわ。居場所すら怪しいって。私は大好きな二人に囲まれて過ごしたかったのに思ってたのと違ったんだもの。」

「結婚てな……。」

「僕は何となくリアがそう言ってきそうなのわかってたけどね……。」

「そうなのか?」

「まあね……。」

「えへへ。二人はお似合いだもの。二人にはこれ以上に無いほどに幸せになって欲しいの。私が保証するわ。二人が結婚したら

絶対に今以上に幸せになるって。」

「結婚ばかりはリアに言われたからするってわけにはいかないんじゃないか……?」

「それはそうよ。二人の気持ちが繋がってなかったら成立しないわ。湊は鈍感だから気づいてないかもしれないけど、春は湊の事好きよ。男性として。」

「え?!」

「やめて!こっち見ないで!恥ずかしい!」

 そうだったのか……。知らなかった。友達としては好意をお互いに持ってるとは思っていたが……。

「それも昔からだわ。昔三人で遊んでいた時から。」

「本当か春?」

「うん……。湊の事好きだった。でも、リアの事も好きだった。それに、僕からしたらリアも湊の事好きだろうなって思ってたしさ。だから、このまま三人で過ごせたらいいなって思ってた。」

「ええ。私は好きよ。二人とも。湊の事は男性として好きだし、春の事も同じぐらい好きだわ。私が居なくなったらそれはそれで自然に二人がくっつくかと思ってたんだけれど。」

「そうだったのか……。」

「それも、私が居なくなってしまったせいもあって関わりがなくなっちゃったのかもしれないわね。」

「それは。しょうがいないだろ。」

「ええ。だから責任取って二人をくっつけるために頑張ったわよ。色々命令させて。強引にしないとお互いが前に進めないみたいだったし。」

そんな企みがあったのか……。

「で、二人共お互いが好きでしょ?結婚してくれる?」

「俺はいいぞ。」

 俺も前へ進もう。リアみたいに。いつまでも進めないままじゃだめだ。勇気を出そう。現状維持じゃなくて、前に進むことが俺には必要なんだ。

「僕も……。」

「良かった……。これで本当に思い過すことはないわ。したいこともいっぱいしてきたし、叶えたいことも全部叶えた。

私には贅沢すぎた人生だったわ。」

「贅沢すぎるなんてことないだろ。もっと贅沢するべきだ。リアはな……。」

「僕もそう思うよ。リアは誰より贅沢な人生を過ごすべきだと思うもん。」

「ありがと。二人共。そうだ。結婚するなら今キスしてよ。見たいわ。」

「ええ……。」

「キス……。」

「遅かれ早かれするんだからいいじゃない。私が見逃したらどうするのよ。」

「仕方ないな。いいか?春。」

「うん……。」

 そっと顔を春の方へ近づけ唇を重ねた。キスってこんな感じなのか。心地よい……。

「どうだ?」

「いい物見させてもらったわ。ねえ、春ちょっとこっち来て。」

「どうしたの?」

 おおっ!春とリアがキスしてる!これは良いものを見させてもらった。

「えへへ。これで三人でキスしたような物ね。」

「恥ずかしいよ。リアは湊とはキスしなくていいの?」

「それは、やめておくわ。湊はリアの夫だもの。間接キスで我慢しておくわ。」

「そっか。リアなら僕は怒らないよ。湊がいやらしい目でリアを見てても文句は言わないから。」

「……。」

 俺はどういったリアクションをすればいいんだ?頷いたら下心丸出しに思われそうだし、そうは思われたくないし。でも、否定もできない。

 黙っているのが正解か?

「ふふ。春がそういうなら気が向いたら一度くらいお願いしてみようかしら。」

「別にいいよ。」

「明日はどこへ行こうかしら。二人に新婚さんごっこしてもらいたいわ。私はそれを横から眺めるの。」

「リアは気早すぎ。」

「新婚さんごっこてな。まだ俺たち付き合ってすらなかったんだから。」

「それはそうね。これからに期待かしら。」

「明日も楽しむためにそろそろ寝ようか。」

「うん。」

「おやすみ。」

 三人で楽しい朝を迎えるはずだった。ただ、そうは行かなかった。昨日まで元気だったのに。いや、本当は薄々感じてはいた。

 リアの体力が落ちてきてるのを。体調を崩してきてるのを。

 それをもっと頑張ってくれって思ってただけなのかもしれない。リアならまだ、何とか生きてくれるんじゃないかって。期待していただけなのかもしれない。

 翌朝あわてて救急車を呼んでから、リアに教えてもらっていた番号に掛けた。リアの親御さんも素早い対応で察してくれたけど、だめだった。

 リアは亡くなってしまった。そうなることを事前に聞かされていても、俺と春には泣くことしかできなかった。本当に悲しかった。

 何でリアなんだろうな。リアは……。幸せだっただろうか。一緒にまだ色々な所に行きたかったのに。早すぎるよ。本当に。

 俺たちはリアの望みを叶えられたのかな……。リアを楽しませられたかな……。リア……。

俺と春はリアの親御さんに謝ることしかできなかった。向こうは事情を知ってたし、逆にこちらに「娘が迷惑かけたね。娘は本当に良き友人を持って幸せ者だと思う。もし、罪悪感を感じたりしているなら忘れてくれ。私の責任でもある。罪悪感を感じるべきなのはこちら側なのだから。」と。

 俺たちはリアを幸せに出来たかな。リアの良き友人でいれたかな。

 月日が経って俺と春は結婚して、子供も生まれた。そして、俺と春は子供たちにリアの生き様を英雄のように語り継げていった。

「あんなに凄い奴はいない。」と。

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リアの願い事  再開した幼馴染三人組 霜月あられ @karenvy3

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