楽園

一糸木 よん

楽園

 いつかは立ち去らねばならぬと知りながら、人々はそこへ向かう。そこでは人々は平等で、貧富はなく、誰もが望むものを手にし、満たされ、愛情に包まれる。


 渇いた旅人は楽園に足を踏み入れた。自分の名も生まれた地も年も知らぬ。人々は旅人を歓迎した。旅人は腹を満たし、快適な寝床で眠った。

 旅人は楽園で花天酒地の日々を送った。楽園では全ての欲が叶う。自分が何者であるかを知らぬ旅人は、楽園の人々が何かを求める様子を見てはすぐに同じ物を求めた。そして、それだけでは満たされぬと悟った旅人は望んだ。湧き上がる欲そのものを。

 旅人は自分が何者であるかも知らぬ。自らの欲すらわからぬ。旅人は、それすらも楽園に委ねた。楽園は、それを与えてくれると言う。旅人は言われるがまま、身支度をし、楽園の門を出た。


 楽園を出た旅人の前には道なき道。振り返るも楽園は遥か上空。旅人は花天酒地の日々を失い、再び流浪の旅人となった。

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楽園 一糸木 よん @itoki_yong

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