第27話 くちづけ(⭐︎)
頬に触れていた両手がフッ、と脱力し、セリーナの身体が胸の中に倒れ込む。
カイルの腕がドクンと脈打った。
——まただ、この感覚!
ドク、ドク、ドク……!!
身体が触れ合う部分にぞわぞわと鳥肌が立ち、感覚が研ぎ澄まされて……聴覚を奪われてしまったような静けさに、宙を睨んで呆ける———。
ぎゅうっ。
カイルの着衣の胸元をセリーナが強く掴んだ。
そのことが、彼の呆けた意識を立て直させた。
そうする間にも呼吸は微弱になってゆく。
彼女は
「はぁ……っ」
吐息と苦悶に歪んだその表情がひどく艶かしく、思わず息をのむ。
「治、して……?」
すがるように
「———、ッ」
驚いて目を見開く。
まばたきを一つするうちに、長い間忘れていたくちづけの感覚が沸き立つように呼び覚まされて——自分でも驚いてしまうほどに、自然にそれを受け入れていた。
求めたい欲求に激しく駆られ、舌で唇を押し開き、相手の舌に絡ませてゆく。
「んぅ、……っ」
不意に唇を離したセリーナの身体が、カイルの腕にがくんと崩れ堕ちる。
青ざめていた頬がみるみる色を取り戻し、呼吸は随分と穏やかになり……安らかな顔で、すうっと眠り始めた——。
「……冗、談」
あがった呼吸を整え、腕の中で寝息を立てるセリーナを見遣る。
生々しく唇に残るキスの感触、そして身体が痺れるあの感じ……!
その先に進みたいという欲求に、身体の芯が
こんな感覚……もう何年も忘れていた。
日頃は侍女を抱いていても心は醒めていて、とにかくその日の責務を終わらせる事しか頭になかった。
なのに今は……。
彼女が気を失わなければ、場所もわきまえずにこの身体を組み敷いていただろう。
「…………!」
悶々とした気持ちのまま、カイルはセリーナを抱き上げ、立ち上がった。
薔薇宮殿を出たカイルは、庭園の木々の間をぬって皇宮へと進む。
腕の中では、横抱きにした侍女が穏やかな寝顔で、すやすやと寝息を立てて眠っている。
——そもそも俺のキス。侍女には解禁していないのだが?!
白々とかがやく月の光に目を細めた。
『治して』
彼女はそう言って
理由はわからないが、あのくちづけはこの侍女を、少なからず楽にさせたようだ。
——本当に。
この変な侍女は、俺を惑わせる。
セリーナの寝顔を見れば無邪気な幼子のように愛らしく、そんな彼女に少し呆れながらも笑みがこぼれた。
穏やかな月明かりが、侍女を腕に抱いて歩く皇太子の背中を静かに照らしている。
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