ずる賢い妹のおかげで、私は聖女として覚醒できました!大いに感謝しています!

大舟

第1話

「ミラ、こんな事になってしまって、本当にすまないと思っている。」


 ジフォルタが何を言っているのか、わからない。


「でも僕の心は、もうリリーのところにあるんだ」


 ジフォルタが何を言っているのか、本当にわからない。


「この際だから言うんだけど、君との婚約、実は初めからあまり乗り気じゃなかったんだ…」


 つい先日まで、優しくしてくれたのに。一緒にお話をして、一緒にご飯を食べて、一緒にお出かけをしたのに。


「でも安心して欲しい。僕は必ずリリーを幸せにしてみせる。必ずね」


 あの日々は、一体なんだったのだろう。今着ているこの服だって、貴方のために一生懸命考えた。貴方が喜んでくれる姿を想像しながら選んだのに。


「それじゃ、元気で」


 彼はそう言い捨て、出て行った。間違いなく、向かったのはリリーの所だろう。私は文字通り抜け殻のように、その場に膝から倒れ込んだ。

 生まれてから、これまでの日々が頭に蘇る。思い返せばずっとこうだった。私は決して頭が冴える方ではなく、周りからも真面目だ真面目だと言われて育ってきた。一方で妹のリリーは昔から頭が周り、そのずる賢い性格も相まって、欲しいものを全て手に入れるよう立ち回ってきた。私のものを奪うために根回しした事だって、一度や二度ではない。そんなことがこれまでずっと、繰り返されてきた。

 私はずっと我慢してきた。私はリリーと違って頭が回らないから、効果的な反撃など全く思い付かなかったからだ。リリーが描いたように立ち回ってしまい、ずっと彼女の掌の上で踊らされている。私自身それは理解していても、言い返す事ができず、結局言いなりだった。

 そして今日、ついに最愛の婚約者までも奪われた。私は悔しくて涙が止まらない。リリーだけでなく、ここまでされても、反撃の方法が何も思いつかない自分に腹が立ち、無念さが募るからだ。

 これ以上、彼女の言いなりのまま一生を過ごすくらいなら、いっそ死んでしまおうか。そう考えた時、私は一つのことを思い出した。死んだ祖父が、皆に内緒で私に残してくれたものがあった。どうしても辛い事があった時、それを使いなさいと言われて、渡されたものだ。そのことは誰にも言わないよう祖父に言われ、私は律儀に祖父との約束を守り、ついに両親や妹にも内緒にしたまま、この日を迎えていた。そうだ、もうこれ以上辛く苦しい時などない。今が頼る時だ。

 私は、部屋の奥底にしまったそれを取り出した。これまで一度も開けなかったその箱を、今日私は開いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずる賢い妹のおかげで、私は聖女として覚醒できました!大いに感謝しています! 大舟 @Daisen0926

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ