第三話

朝の先生の話が終わり、ホームルームの時間となった。

「そうそう、今週は読書週間だから記録用紙配るぞー」

列の前の方からプリントが配られる。

「はいどうぞ」

前の席の美緒ちゃんが、私の方を見ながらプリントを配る。

「あっ、ありがと」

プリントを受け取ろうとした時、ピッとプリントの端が、人差し指の腹を切った。

「いたっ......」

小さく鋭い痛みが指先に走った。

ああ、どうしよ......!

切れた所を見ると、赤い線が走り、そこから血がにじみ出しているのが見えた。

どうしようかなと少し慌てていると。

「あのさ......絆創膏あるけど、使う?」

「あ......」

隣の席の佑哉くんが、どこからか取り出した絆創膏を私に突き出した。

「う、うん、ありがと......」

私はちょっと焦っていたものの、佑哉くんにそう返して絆創膏を取り、切れたところに貼った。

「君って、ちょっとおっちょこちょいな部分があるんだね」

「へっ?」

さっきプリントで切ったところを見たのか、佑哉くんはちょっと笑いながらそう言う。

「ははっ......意外と、かわいい所もあるんだな......」

佑哉くんは小さくそう呟くと、窓の方を眺めた。

「え、えっと......絆創膏ありがとね」

私はもう一度佑哉くんにお礼をすると。

「いやいいって。......誰かが困っているときは、助けるのが普通だろ?」

そしてもう一度私の方を見て一言。

「そうだね。佑哉くんって、すごく優しいんだね」

「いや違う。今言ったように、困っている人を助けたくなっちゃうだよなこれが......なんでだろうな......」

それが優しいっていうものなんじゃないのかな?

私には、本当の優しさと言うのは分からない。

そういうのに出会ったことが無いから。

でも一つ言えるのは......佑哉くんは、ただ純粋に、面倒見がいいってこと。あと、すごく優しい。

私は今まで、こんな風に優しい男子に出会ったことが無かった。

「あ、そうだ。君の名前は?」

「私は、須藤沙希。ねぇ、佑哉が良ければ、友達になってくれる?」

私はそう言うと、佑哉くんは少し考えて。

「......いいよ」

と、小さくそう言いながら頷いてくれた。


「佑哉くんってどこに住んでたの?」

「え......あの、京都だよ」

「京都弁喋れる?」

「いやぁ、無理かな......」

私の隣の席では、そんな会話が続いている。

なんか、微妙に曖昧なような答えを返してるような感じ。

佑哉くんの机の周りには、ぐるりと女子が囲っている状況。

なぜかっていうと、こんなイケメンな男子と話したいからだろうね。

クラスの中でも目立つグループのリーダ的な存在である佐々木さんが、特に積極的に話しかけている。

佐々木さんの下の名前が......結奈ゆいなちゃんだったかな。

名前がうろ覚えなのは、小学校と中学校は違うし、あんまり仲がいい訳ではないから。

だから、あまり名前を呼ぶ機会がない。

佐々木さんは、ショートボブヘアーで、ちょっと茶色がかった髪。

恋の話と食べ歩きが好きで、私とはちょっと違う世界にいっているような感じ。特に、恋の話はね。

美緒ちゃんは、

「沙希ちゃんは、もうちょっとおしゃれとかに興味を持ったらいいのに。髪型もいつも同じだから、もうちょっと髪型とか変えてもいいと思うんだけどなー」

って言ってくれるんだけど、正直な所私もちょっとそうしたいとは思ってる。

でも、不器用だから出来ない。

それだったら誰かにやってもらえばいいと思ったこともあるけど、そんな友達はいないんだ。

普通に寝癖を直したら、肩までの髪をおろしてるだけであって。

「まあ、私はこれでいいんだよ」

私はそう言いながら肩をすくめた。

「ま、おろしてるだけでかわいいし、沙希ちゃんにはその髪型が似合ってるしね。なんか、神秘的な美少女って感じで」

美緒ちゃんの言葉に、私はちょっと嬉しくなったものの、ついぷはっとふきだしちゃった。

私は全然神秘的でもないし、さらに美少女っていうガラでもない。

他人から見れば美少女っていう風に捉えられるのかもしれないけど、私は全然美少女っていう感じじゃないと思ってる。

私から見た美緒ちゃんは、目もぱっちりとしていてまつ毛が長くて、美少女っていう表現があってるような気がする。

でも、自分としてはそう思ってないんだろうなぁ......。






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転校生はちょっと普通とは違う気がする らかん @dipper36

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