ゴール証明書
黒幕横丁
ゴール、おめでとう
【おめでとうございます。貴方様は、この3月31日に無事 ゴールすることを証明することとし、ここにゴール証明書をお送りいたします。ゴール記念の式典については、31日当日10時頃にお迎えにあがります。】
3月29日、こんな変な手紙が俺の家の郵便受けに俺宛で投函されていた。差出人は『ゴール証明書発行協会』というなんとも怪しい団体だ。
二日後に何かサービスが終了するようなものでも契約していたかなぁ? と眉をひそめながらその証明書とにらめっこしつつ、家へと入る。
「おかえり。どうしたの? そんな険しそうな顔をして」
居間に向かうと其処には母さんが俺の顔を見てそう言った。
「いや、俺宛にこんな変な手紙が来てさ」
「変な手紙? どれどれ……」
俺がその手紙を母さんに見せると、母さんが目を見開いて驚く。
「ちょっと、アンタ凄いじゃないの! ゴール証明書を貰えるなんて」
「え? そんなに凄いことなの?」
「アンタなんにも知らないの? もらえる人なんてそうそういないわよ。ちょっと、お父さん! この子ゴール証明書貰ったのよ!」
母さんは凄く嬉しそうに書斎にいる父さんを呼びに向かう。あんなに楽しそうな母さんの顔、久々に見た。そんなに凄い証明書なんだろうか、ゴール証明書。
一つ気になるのが、『無事』と『ゴール』の間に何かもやみたいな汚れがあり、変な空間が開いていることくらいだろうか。
「聞いたぞ、ゴール証明書を貰ったってな。我が家で発行されたのがお前だったなんてな。父さんは誇らしいぞ。明日の晩飯はパーッと豪華に行こうじゃないか。なぁ、母さん」
「そうですねー。この子の好きなものにしましょうか」
父さんも母さんもとても嬉しそうにしていたので、この証明書を貰ったことで、話題にもなれたし、良かったのかな? と考えることにした。
次の日、俺が証明書を貰ったことがどうやら社内に広まったらしく、俺のデスクには凄い数に人だかりが出来てしまった。証明書の効果恐るべし。ついでに、コレが何の証明書かって訊ねると、皆顔をきょとんとさせて、
「え? ゴール証明書はゴール証明書だろ? 何言ってるの?」
と口を揃えていうもんだから、知らないと恥ずかしいことなんだろうと、それ以上の詮索は避けてしまった。
夜も家族と豪華なご飯を堪能した後、他愛も無い雑談をしていたが、明日の式典に向けて早く寝ることにした。式典に行けばきっと何のことだか分かるだろうし、
次の日、黒塗りの高級車が迎えに来た。その車に乗ろうとしたら母さんが、
「ゴールおめでとう。お前は私達の誇りよ」
と涙ながらにいうもんだから、そんな今生の別れとかじゃあるまいしと俺は笑いながら車へと乗り込んだ。
車に乗って数十分で白い真四角な建物へと辿り着く、降りてくださいといわれ、黒服の係員に誘導されるがまま歩くと、何やらカプセルみたいな装置があって其処には既に3人が座っていた。同じように証明書を貰った人たちだろうか。
「どうぞ、この中にお入りください。すぐに式典が始まりますので」
そう言われて、開いていたカプセルに誘導され、俺は着席するとカプセルが閉められガチャと音がした。まさか、鍵を閉められた?
ソレと同時にカプセルに備え付けてあるモニターに一人の男性の姿が映し出された。
「皆様、今日は人生のゴールおめでとうございます。皆様はコレより、この人生をゴール、つまり終えていただきます。これから安らかになれるガスを三秒後に散布いたしますので、少々お待ちください」
ニッコリと微笑む男性。ゴールってそういうことだったのか。ってか、今出ないと俺は死んでしまうのか? と焦り、俺は急いでカプセルから出ようとするが、やはり鍵がかかっていて開かない。
「それでは、よい死を。亡骸は丁重に圧縮処分するのでご安心ください」
その声と共にガスが噴霧される。吸わない様に息を暫く止めていたけれども、だんだん息苦しくなって勢いよく吸ってしまった俺は、だんだん意識が遠くなって、その場へとへたり込み、やがて完全に意識をなくした。
《政府は、○日、人生ゴール証明書が無いものへの【死】を禁止する発表をいたしました。これは、ここ数年の自殺者数の増加を受けてのもので、証明書がない場合の死は、いかなる事情においても蘇生処置をするという主旨を発表。発行された者のみ死が許され、執行日に施設にて丁重に葬られるということです。なお、第一回目のゴール証明書は3月28日に発送され、執行は3月31日に行われます》
これは【死】を渇望しすぎた世界に住む、【生】にしがみつきたかった俺に送られてきたとんでもない証明書のお話。
ゴール証明書 黒幕横丁 @kuromaku125
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