魔王が食事中に戦い挑むってどんな神経?

ちびまるフォイ

間 VS 魔

大陸の中央にそびえる悪しき魔王城。

ついに勇者は魔王城の最奥にある玉座へとたどり着いた!


「魔王、かくごーー!!」


勇者が剣を抜いたとき、魔王はお箸を袋から抜いた瞬間だった。


「えーー……?」


魔王の反応はめんどくさい新聞勧誘が来た、くらいのテンションだった。

勇者は相変わらずだった。


「人々をさんざん苦しめた悪行もここまでだ! やっつけてやる!」


「うん、うん。わかる。わかるけど……見てわからない?」


「なにがだ!!」


「今、私食事中なんだわ」


魔王は手元にはお皿にもられた食いかけの料理が並んでいた。


少しだけ手をつけたのなら一旦片付けて戦うこともできるが、

もう半分というところまで食べ進めているので引くに引けない状況。


「食事だろうが関係あるか!」


「あるよ! 私とお前とで逆の立場だったらどう思うのよ!?」


「すっげーー迷惑! 今度にしてほしい!」


「ほらぁ!」


「だがお前は魔王で俺は勇者だ! 相手がどんな状況であろうと、お前を倒すことに変わりない!」


「ああもう、ちっとも折れてくれない!!」


いったんはお皿をおいてバトルスイッチを入れようとも思った魔王だったが、

せっかく温かい状態で作ってもらった料理を覚ますのはもったいないとチラチラ見てしまう。


それに後で再加熱してもこのできたての風味は出ないだろう。


「勇者よ、提案がある」


「世界の半分なんていらない! 俺は世界を全部救うために来たんだ!」


「そうではない。食べ終わるまで待ってほしいという提案だ」


「なんだと?」


「仮にここで戦ったとするじゃん。私やっぱりご飯見ちゃうのよ。

 ああ冷めちゃうなって思うし。そんな不意打ちで勝ってお前はそれでいいのか?」


「勝利に方法など関係ない!」

「それ勇者が言っていいの?」


「俺は昔から間が悪いことで有名だったんだ!

 着替え中に意図せず入ることもザラだ。もう慣れっこさ!」


「お前の鋼メンタルはそこから来てたのか……」


「それに、俺も今日このときに魔王を征伐するため魔法をかけてきたんだ。

 お前ができたての食事を逃したくないように、俺だって自分にかけた強化魔法を失いたくない!」


勇者の抜いた剣先は口をもぐもぐしている魔王に向けたまま動かない。

一歩も譲らない勇者に魔王は困り果てた。


「仮に百歩譲って、私がご飯を諦めて戦ったとするじゃん?」


「うん」


「で、私が負けたとするじゃん」


「当然だ。勇者の俺が勝つに決まってる」


「そしたら、この食べ物残らない?」



「……し、しまった!」


魔王がさっきチンして温めたご飯はあくまで魔族専用の食事。


道中で魔王城にいる魔物を狩り尽くしたあとで魔王も倒してしまえば

もはやこの食べ物を食べられる生物はいなくなってしまう。


食事を残すということは絶対正義を掲げる勇者に取って耐え難いものだった。


「くそ……! 俺は世界を救うために食品ロスを生んでしまうのか……!!」


「そうだ。ちょっと時間を改めるだけで、お互いちゃんとした状態で戦えるんだぞ」


「おのれ魔王……こしゃくな手を!!」

「いや私はなにもやってないけども」


誰かひとりを犠牲にして世界を救う方法があったとしても、勇者は全員が助かる道を探す。

食べ物を捨てさせるという犠牲を強いるのは認めたくなかった。


「……わかった、時間を改めよう」


勇者はあれだけ迷いのなかった剣をサヤに収めた。


「勇者よ、わかってくれたか」


「だが、けしてお前を許したわけでもないからな。

 時間こそ改めるが必ず食事を終えたお前を倒しに行く!!」


「ククク、望むところだ。食事を終えて万全な私がお前を粉砕してやろう」


勇者が部屋を出ると、やっと魔王はちゃんと食事を進められた。

幸いにもまだご飯は冷めていなかったので美味しかった。


「ふう、食べた食べた。お腹いっぱいだ」


魔王は自分のお腹をさすりながら落ち着くのを待った。

お腹が落ち着いたとき、玉座を離れて別室へと向かった。


「よっこらしょっと」


魔王がこしかけてひと息ついたその瞬間だった。

扉の外から聞き覚えのある声が聞こえた。


「魔王、かくごーー!!」


扉をやぶって勇者が入ってくると、魔王はふたたびブチ切れた。




「今トイレ中だよ!! なんでそんなに間が悪いんだ!!」

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