新・おねがい神社~1000段目指して頑張ります~

肥前ロンズ

旧はただの寝物語なので、色々(著作権的に)アウトです

 この世に願いを叶えてくれるものは数あれど、その中でも特に有名な場所がありました。


 その場所の名前は、『おねがい神社』。


 しかしパワースポットのレビュー評価は☆2.8と厳しめです。

 なぜならこの神社はーー。



 1000段登らないと、願いを叶えてくれる本社にたどり着けないのです。



一 先行きが不安


 本社の階段の傍には、おねがい神社の社務所があります。参拝者は、まずそこに行くことが義務付けられていました。


「ご存知の通りこのおねがい神社は、1000段の階段を登らなければなりません。しかし登りきるには、数々の困難が待ち受けています」


 第一に、と禰宜さんは言いました。


「おねがい神社の階段は、とても滑ります。とても普通の靴では太刀打ち出来ません。そこでこのーー」


 禰宜さんが棚から取り出したのは、靴でした。


「『絶対に滑らない靴』を履くことをオススメします。雪道・雨に濡れた道・登山、そして『絶対にスべらない』合格祈願の靴としても使用可能。今ならたったの5,831円(税抜き)です」


 妙にリアルなお値段です。まるで、Am〇zonで「登山シューズ お値段」と調べたような。


「次に、大体100段ごとに過酷な試練が待ち受けています。

 そこで社務所では、『お助け』サービスを提供しています。基本価格は三十万円です」


 本当に、こんな場所に来ても良かったのかーー今回の参拝者、おきて真理子まりこさんは、この怪しい商法に疑念を抱きました。

 しかし、確実な方法があるのなら、どんな手段でも使ってやる。そう思いました。


「わかりました。では、一番よいサービスをお願いします」


「では、好きな方をお選びください。まず一人目はーー『えんのぎょうじゃ』」

「『役行者えんのぎょうじゃ』!?」


 真理子さんはぎょっと目を見開きました。

『役行者』は、伊豆大島から毎晩海上を歩いて富士山へと登っていったりなど、とにかく凄い法力の持ち主なのです。まさかそんな人が、今も生きているのでしょうか?


「ぜ、是非その『役行者』さまに!」


 その時、巫女様が入ってきました。


「『えんのぎょうじゃ』様は先程、スリジャヤワルダナプラコッテに向かわれました」

「それでは、暫くは帰ってきませんね」

「どこって???」


「申し訳ございません」と、禰宜さんは真理子さんに頭を下げました。


「しかし他の『お助け』人も優秀な人達ばかりです。

『ドルのぎょうじゃ』、『元のぎょうじゃ』、『ユーロのぎょうじゃ』……「ちょっと待ってください」


 真理子さんは頭が痛くなってきました。どう聞いても通貨の名前です。

 ーーひょっとして、『役行者』じゃなくて、『円のぎょうじゃ』?


「他にいないんですか、通貨シリーズ以外に」

「でしたら、『けもののそうじゃ』をオススメします。狼の身体に鷲の翼を持った孤高の獣を操る女性なのですがーー」


「運営さんに怒られます!!」


 そんなわけで真理子さんは、『ドルのぎょうじゃ』を連れて、『おねがい神社』に向かうことになったのです。



二 ぎょうじゃのことば

「なぜあなたは、『おねがい神社』に?」


 600段目の休憩所で、『ドルのぎょうじゃ』が真理子さんに尋ねました。

 ここまで色々ありました。字数制限があるので全ては書けませんが、例えば100段目では東大出身のクイズ王が待ち伏せて次々と難問を突きつけ、300段では怪しい壺を売りつける自称鶴が現れました。500段目でカラテ王なるものがマッチョ対決を挑んできた時は、もうダメかと思ったぐらいです。

 しかし、『ドルのぎょうじゃ』はとても優秀でした。

 クイズ王が出した『閼伽』という漢字もすぐに答え、怪しい壺を売りつけてきた鶴の正体を『サギ』だと看破し、自らの服を脱いで見事マッチョ対決に勝利したのです。

 他にも、様々なヤクザや悪霊をドル札で殴り飛ばしたり、除霊したりしました。その上、こうやって真理子さんの体調も慮って休むなど、紳士的な人間でもありました。


「ドナーが、必要なんです」


 真理子さんの息子さんは、現在八歳。心臓に大きな問題を抱えていました。


「うちは決して裕福ではありませんが、お金で解決できるならいくらでも借金します。ーーもう時間が無いんです」

「……なるほど、そうでしたか」


『ドルのぎょうじゃ』の静かな言葉に、真理子さんは思わず口にしました。


「……酷いですよね。私は自分の息子がかわいくて、他のお子さんの命が助からないことを祈っている。親御さんに、その命を諦めろと呪っている」

「願いとは、時にそういうものでしょう。他者を蹴落すことで成り立つこともあります」


 しかし、と『ドルのぎょうじゃ』は言いました。


「大事なのは、その願いを、いかに次に繋げるか」

「次に繋げる……」

「『世界全体が幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない』。これもまた真実であり、人が目指したいと願うゴールなのでは無いでしょうか」


 真理子さんは、『ドルのぎょうじゃ』の言葉を胸に刻みました。



三 怪盗あらわれる?

 さて、階段も800段目と佳境を迎えました。


「ゴールが近づいてきましたね」

「油断は禁物です。そろそろ、私でも勝てるかわからない難敵が待ち伏せています」


『ドルのぎょうじゃ』がそういった時です。



「はーっははは! よくぞここまで来たなと言いたいところだが! 貴様らはここでおしまいだー!」



 そう言いながら、現れたのは!


「私は怪人n面相! 貴様の願いを盗みに来た!」


 顔にはnと書かれ、全身タイツの男だったのです!

 怪人n面相は「予告状だ!」と言ってカードを投げつけます。

 石畳の階段のコケに見事にささったカードを、真理子さんが恐る恐る拾い上げると……。



『予告状

 Q1.



 四角形ABCDがあります。

 点Pは毎秒2cmの速さでAを出発し、Bを通ってーー』



「いやぁぁぁぁぁ!」


 真理子さんは恐怖のあまりカードを投げ出しました!


「はーはっはは! 私の異能力は『全ての学生が疎む数学問題トラマティック・マセマティックス』だ! その予告状を見た途端、当時トラウマになった数学問題によって恐怖を思い出させ、どんな気高い願い事すら萎縮させる!」

「それは『怪盗』というより『強盗』だろう! しかも破壊しているし!」


「なんで動くのよぉぉぉぉ! 止まりなさいよぉぉぉ!」


「真理子さん、心をしっかり持つのです!」

「なんでPぃぃぃ!」

「『point』だからだろう」

「じゃあ『点』付けるな! そもそもnって何よ数字はっきりさせなさいよぉぉぉ!」

「既存の数字に囚われない生き方をしたい」

「うがぁぁぁ!」


 真理子さんの心がいよいよ発狂しそうになったその時!



ちょっきんシーザー


 突如現れたのは、ハサミを持った修道女。

 そのハサミで、予告状をバッサリ切りました。



「所詮はペーパー。ハサミには勝てません」



 予告状がばっさり切られて、真理子さんは途端に正気に戻りました。


「真理子さん、大丈夫ですか!」

「私 は 正気 に もどった」

「まだバグっているようですな!」


 暫くしたら元に戻ります。


「すみません、マドレ・イグナシア。助かりました。何せ私の武器はドル札ペーパーなので」

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」

「お、お前はマドレ・イグナシア! フィリピンの尊者ベアタが何故ここに!」


 マドレ・イグナシアは、いえ実は、と説明しました。


「スリジャヤワルダナプラコッテに向かおうとしていた『えんのぎょうじゃ』様が、方向をうっかり間違えてマニラまで来てしまって」

「スリランカに向かえなかったんですね、あの人……」


 スリジャヤワルダナプラコッテってスリランカなんだ、と真理子さんは一つ勉強になりました。


「そんなわけで、『えんのぎょうじゃ』様に代打を頼まれたのです。動くな去れ点Pサタンよ」

「どっちかにしてくれぇぇぇ!」


 マドレ・イグナシアの手によって、怪人n面相は灰になって消えました。



『こうしてサタンは去った。

 しかし数学に苦しむ学生がいる限り、第n番目の怪人が現れるだろう……!!』


 どこからもなく、天の声が聞こえました。



四 マドレの言葉

 折角ですから私もご一緒いたします、と、マドレ・イグナシアは言いました。


「これも神の思し召しです」


 神は神でも違う神様だと思うのですが、そんなことは偉大なマドレは気にしないのです。

 そうこうして歩いてるうちに900段目。


 何故か、埋蔵金が設置されてました。


「埋蔵されてない!!」


 真理子さんのツッコミは、そろそろ限界です。


「え、えええ……? どうしましょうこれ?」

「真理子さんがお使いください」


『ドルのぎょうじゃ』が、サラリと言いました。


「マドレ、この方はかくかくしかじか」

「まあ、そうでしたか。では、全部お持ちください」


 マドレもサラリと言いました。

 本当に自分一人が貰っていいのか、と悩んでいた時に、マドレは続けました。


「私は生前、神に仕えることを決めました。当時私のような肌の浅黒い女は、修道女にはなれませんでしたがーー病気や飢えで苦しむ人々に寄り添うことで、私は神の愛を感じたのです」


 そのマドレの言葉によって、真理子さんの脳裏には、ある考えが浮かんだのです。




 こうして彼女たちは、無事に本社に着く事が出来ました。

 早速願い事を伝えると、彼女のスマホには一通の電話が。

 それは、ドナーが見つかった知らせでした。



最後に



 埋蔵金を無事に換金した彼女が、そのお金をどうしたかというと。

 無事息子さんの手術が成功した彼女は、治療費として当て、余ったお金で「病気に苦しむ子供たち」を救うNPO法人を立ち上げました。

 それは国境も民族も人種も関係ない組織へと発展します。


 後に彼女はこう残します。


「一つの願い事が叶ったら、また、次の願い事に繋げようと思います」





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新・おねがい神社~1000段目指して頑張ります~ 肥前ロンズ @misora2222

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