きみの物語になりたい

@chauchau


「聞いても良いか」


「答えられる範囲なら」


 笑う。

 笑う僕を見るきみは困っていて、怒っていて、泣きそうだった。


「どうすれば良かった」


 きみの髪を撫でる。

 染めてしまったきみの髪。光を飲み込む美しい黒髪は、つまらない金髪になってしまった。


「きみは最善策を取ったはずだけど?」


「これがか」


「そうだとも。考え得る限りのなかで最善の策だ」


「最悪の間違いだろう」


 髪から頬へ。

 指先からきみの熱が伝わる。望み続けたモノを手に入れることが出来た僕は世界中の誰よりも幸福だ。


「語り継がれるきみの傍で僕は生き続ける」


「物語のなかで生きて何になる」


「さて。やってみたことがないのでそれは答えられないな」


 きみの瞳に映る僕。

 ざまあみろと彼女を笑う。


 きみが選んだ彼女を笑う。


 悔しがれ。

 憎め。

 怨め。


 幸せになると良い。

 魔王を殺し、世界を救い、愛すべき人と共に生きる幸せを噛みしめると良い。


 優しいきみに。

 誠実なきみに。


 死んでいく僕を抱きしめるきみに。


 僕への男女の愛などありはしないことは分かっているさ。

 だから、


 僕はきみと彼女の幸せを永久に祈ろう。

 僕の命を代償に噛みしめる幸せを祈りに祈ろう。


 きみが、

 彼女が、

 その幸せを噛みしめる度に僕はきみの傍に居る。


 最後まできみと一緒に居るのは彼女ではなくこの僕だ。

 きみの死後、語り継がれるきみの傍に居るのはこの僕だ。


 彼女お前じゃない。


 この僕だ。


 振りほどかせやしない。

 この命の限りきみを祝おう。彼女を祝おう。世界を呪おう。


「すまない」


 美しく、潔く、妬ましく。

 僕の最期をきみに刻もう。


「    」


 もう声が出ない。

 必要ない。


「ありがとう」


 きみの物語に

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