王子へのギフト

茶猫

ギフト

 今年も、その日が迫ってきました、本当に興奮しています、そう王子の誕生日です。


 王国の全ての若い娘達が、待ち望んだ日。


 この日に王子の心に響くギフトを送ることが出来た娘を、王子はお妃様にするというのです。

 もちろん、貴族の娘で無くても、平民の町娘でもギフトを送れ、心に響けばお妃様になれるのです。


 この物語の主人公、花屋のファンシーは王子の誕生日に毎年珍しい花を王子へギフトとして送っています。


 でも今までのギフトでは王子の心には響かなかったみたいです。

「王子様はどのような花が心に響くのか考えてきましたが、今までのような珍しい花をギフトにしても無駄なことに気が付いたのです」


 そして花を花瓶から1本取り上げ。

「そう、珍しい花はお金を出せば手に入るんですね、つまり実は誰にでも出来ることだと気が付いたのです」


 外に出るファンシー、庭には人の背丈ほどもある植物が生えていました。

 そして驚くことに人の顔程もある花をつけていたのです。

「これは私が1年以上掛かって特別に育てた花です、この世界に一つしかありません。これこそ王子様の心に響くギフトになるでしょう」


 しかしファンシーの家の庭に大きな目立つ人ほどもある花があることは近所の皆は知っていた。


 その話を聞いた貴族のアリシラは自分の父親に相談するのだった。

「あの花を王子へのギフトとするつもりよパパ、もちろん私のギフトの黄金の馬車程ではないにしても世界に一つしかない花なんてギフトを出されたら邪魔だわ」


 アリシラの父親は賛同し悪だくみをするのだった。

「もちろんだ、本当ならギフトは貴族だけが王子に渡せるものなのだ、あのような町娘が王子にギフトを渡す権利はない、懲らしめてやるわい」


 翌日ファンシーの家の庭に悪い奴が数名来た。

「なんだ、この気持ち悪い花は、まるで人間のような背丈で人間の顔のような大きさの花じゃないか?気持ち悪いから潰してしまえ!!」


 それを見て必死で止めるファンシー

「やめて、やめてください、これは王子へのギフトなのです」


「馬鹿だな、王子は貴族からしか嫁は取らないんだよ、だからお前らみたいな町娘がギフトを送っても何にもならないんだよ」


「嘘です、王子様は私達、町娘のギフトも受け取ってくれています」


「馬鹿だな、お前達町娘のギフトなど城のゴミ箱に入っているんだよ」

「だいたいだな、王様とか王子様は貴族と付き合う物さ、貴族はな特別なのさ、お前達みたいな平民それもお金も無い者に王子が喜ぶギフトなんか送るなんて不敬罪になるぞ」


「王子は王子は、王子はそんな人ではありません・・・」

 必死に叫ぶファンシー。


 ファンシーの目の前で1年以上一生懸命世話をした花が踏みつけられダメになって行く。


 その後は「やめて!!」そう言いながら泣き続けた、そう言うしかない自分が情けなかった。


 男達が去った後の花の無残な姿に涙が止まらなかった。


「貴族は特別……なの?……でも平民は夢は見てはいけないの?」


 その後も夕方になっても花の残骸と何時までも座っているファンシーが居た。


  ◆    ◆


 王子が妹の王女と話をしていた。


「お兄様、今年はどんなギフトが届くのでしょうね、もしかすると今年はお兄様の心に響くギフトが来るのではないでしょうか?」


「そうだと良いな、本当は心に響くという意味を理解して欲しいのだがな」


「あっ!!風に帽子が……」

 その時一刃の風が吹き抜けて行き、王女の帽子をそのまま何処かへ運んで行った。


  ◆    ◆


 夜、ファンシーはあきらめて家に入った。


 窓からいつも見得ていた大輪の花が見えなくなっていた。

「ごめんなさい、守れなかった、でも、また一から頑張らないと」


 だがそれは空元気だった、また踏みにじられるのではという恐れから、ファンシーに再度花を作り気力は残っていなかった。


 翌朝、庭に出たファンシーは踏み荒らされた庭を整備していた。

 そうしていると、大きな花が咲いていた場所に小さな雑草が生えているのを見つけた。


 その雑草には小さな蕾が幾つも付いていた。

「今まで大きな花ばかり見ていたから気が付かなかったわ」


 そういうとプランターを準備した。

「さあ、貴方達の舞台を準備したわ、存分に咲きそろいなさい」


 そう言うと魔法に掛ったかのように小さな蕾が開き色とりどりの花が咲き始めた。

「まあ奇麗ね、小さいけど色々な色で、不揃いな花の大きさだけど皆でプランターを一面色付けている」


 その花を見ているとあることを思い着いた。


「そうだわ、もっと大きな花にしてあげましょう。

 前に大きな花を作った時のように、残す花の蕾以外の蕾を切ってしまえば大きくなるわね」


 そうしてハサミを取りに行こうとした時、自分のやろうとしていることが分かった。


「貴族は特別…」


 そんな言葉を思い出した。


「ごめんなさい、私も同じだわ、そう同じことをしようとしている」


 瞳が潤むのが分かった。


「どうして私に一つだけなんて選ぶ権利があるというの?

 その上選ばれなかった蕾を犠牲にする権利があるのかしら?

 そうよね『特別な花』なんて無いわ、みんなで咲くからこんなに奇麗なのよ」


 その時、外からその様子を見ていた少女が声を掛けてきました。

「きれいな花ですね、貴方が育てたのですか?」


「違います、名もない雑草です、でも奇麗でしょ」


「本当に奇麗ですね」


「それと、この私にとっても大事なことを教えてくれた花なんです」


「そうですか、大事なことを教えてくれたのですか?、素晴らしい花ですね、王子へもギフトとされてはいかがですか?」


「いえ、雑草です、王子に送れるようなものではありません」


「そうなんですか、でもやっぱり……、そうだ、私がその花を買いましょう、私の家までその花を持って来てください」


「えっ、先ほども言いましたけど雑草ですよ、いいのですか?」


「えぇ、その花が欲しいのです」


「分かりました、でもお金はいただけません、雑草ですもの、ただでいいですよ」


「本当ですか、嬉しいです、ではお願いします、住所はこの紙に書いておきますね」


 少女はなぜか大きな帽子を持って、走って帰って行った。

 なぜか少女の跡から護衛なのだろうか、騎士数名が追いかけていた。


 昼になってファンシーは紙に書いてあった住所にプランターを持って行った。

 そこは不思議なことに王城の裏口であった。


 門番は怪訝そうにファンシーに命令した。

「そんなものは持って帰れ、そんな雑草みたいなものを持ってくるんじゃない」


 その時あの時の少女が現れた。

「何をしておる、その花屋を通さぬか」


「王女様、しかし、いかにも雑草ですよ」


「お前はその花の価値がどれほどか分からぬだろうな、勝手に価値を値踏みして決めるとは何事だ、その花はお前の給金一生分でも買えぬのだぞ」


「えっ?給金一生分でも買えない?」


「そうだ、そのようなものを勝手に持って帰れとは、弁済するとなれば大変なことになっておっただろう」


「花屋よこちらに参れ」


 王女であったことに驚くファンシー、いつも遠くで見ていた王女様とは衣装が違っていたので分からなかったのだ。

「王女様でございましたか、昨日は失礼いたしました、王女様の衣装が町娘だったもので王女様とは分かりませんでした、本当に失礼いたしました」


「そのようなことは良いのだ、それより表に回り王子のギフトの中にそのプランターを置くが良い、兄は驚くだろうな」


「そのようなことは出来ません、雑草をギフトと言い張るなど出来ません、不敬罪で罪になります」


「そんなことは無いぞ、それではこうしよう、この雑草に花言葉を付けるのだ」


 王女はなにやら花言葉を考えてその花言葉を銘板に記入した。


 そして王女自らプランターに差した。


「これで良い、兄へのギフトとして、ファンシーが置いて来るのだ」

 そう言われてファンシーはギフトとしてそのプランターを置いてきた。


 王子の誕生日、王子はそのプランターを見て、ファンシーを呼び寄せた。

 そして「贈り物など王子の身であれば簡単に手に入るのだ、高額とか希少など意味がない。だから心に響くということが重要だったんだ。今日このギフトが私の心に響いたよ」とファンシーに伝えた。


 そうそう、その雑草に付けられた花言葉は『平等な人々』だった。


 王子はファンシーに言いました、

「役割としての王や貴族は存在することが有ったとしても、人としては王も貴族も平民もないすべての者は平等だよ」


 そして、ファンシーは王子と結婚することとなりました。

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