この物語は、山路美知留という一人の女性の一生を描いたものです。
物心ついたころから父親はおらず、ホステスをしている母は家事もせず、一切構ってくれない。
高校の途中で不登校になった美知留は家を出て、知り合いの家を転々とする。
18歳になった彼女は、銀座の一流ホステスになるという夢を叶えるため、東京で一人暮らし始める。
――というのが冒頭部分のあらすじです。
ホステス時代のきらびやかな描写、ほかのホステスとのヒリヒリするような人間関係、癒しを求めてやってくるお客さん、成功への階段を上ってゆく一方で、必要とされたい美知留……。
非常に読みごたえがあります。
しかしうまく行っていた生活は、たったひとつの出来事で失われてしまう。
その後、派手な転落が待っているわけではありません。
美知留は地に足のついた実直な人物で、ドラマのような失敗をする女性ではない――それが現実的で、安心して読めます。
華々しいホステス時代が終わったあとも、彼女の人生は続きます。
物語の半分あたりで彼女が娘を産んだとき、この物語のテーマがやはり、母と娘の関係にスポットライトを当てているのだと気付きました。
美知留の娘『祝子(ときこ)』が生まれたあとは3話程度、平和な時間が続きますが、事件が起きないからと言って読むのをやめないでください!
このあと、年老いていく母と美知留との本当のクライマックスが待っています。
なんでもない一人の女性の淡々とした日常を、夢中で読ませる筆力が素晴らしいです。
泣ける部分だけではなく、意外とクスッと笑える部分もありますよ。
美知留が幼いころから求め続けた「青い鳥」が結局なに(誰)だったのか、どこにあったのか、頭の片隅で予想しながら読んでみて下さい。
感動すること請け合いです。
そして読み終えたあとは、毎日を大切に、身の回りの人との時間を大切に、すべてのめぐり逢いに感謝しながら過ごしたいと思っていることでしょう。
主人公美知留の人生がたんたんと進んでいきます。
少し大変な人生です。しかし、美知留は生きてゆく。
静かな物語ですが、わたしは泣けました。
子どもを産み、幼子を育てるシーン、思春期の子供が荒れるシーン。
そして、母と子の絆。
しみじみとした感動があります。
人生って、派手な出来事はないけれど、小さな出来事の積み重ねなんだな
と思ったりもしました。
そして、幸せはいつも一番近くにあるのです。
「どっちも良いニュースだよ。そんな男なら居ない方が良い」
「そう、そんなに悪い母親でも、恥ずかしい母親でも、迷惑な母親でもなかったんだ」
「そうだ、これからは私の人生は私が決めよう」
「誰にどう思われるかなんて、そんな事どうだって良かったのだ」
「私は大きくなったら、お母さんを助ける人になります」
「みちる、うまれてくれてありがとう。ときこ、うんでくれて、もっとありがとう」
誰もが誰かの、一番大事な存在なのです。