肛門は入り口ではありません。出口です

下垣

この小説には汚い要素しかありません

 ここに一人の男がいた。彼は今ピンチに陥っている。


 今日は意中の相手とデート中だ。しかし、屁が出そうなのだ


 なんとかデートにかこつけた彼である。だが、ここで屁をしては嫌われること必至だ。彼は括約筋に力を入れて必死に屁を堪えた。


 ここで屁の視点を見てみよう。彼らもまた必死だったのだ。


「まずいな。ついに腸の中がガスで充満してしまった。このままでは、腸が圧迫されてしまう。こうなったら、尻からガスを放出するしかない」


 屁は自らが膨張しすぎたことを判断して、体外に放出する道を選んだ。長く曲がりくねった腸を進み、肛門へと向かう。


「おい、屁。どうしたんだ?」


「お前は実! どうしたもこうしたもない。俺が腸に溜まってしまったから放出しないといけなくなったんだ」


「俺も一緒に行っていいか?」


「ダメです」


「そっかー。じゃあ諦めるわ」


「物分かりがいい実で助かった」


 今回は実が一緒に出ることはない比較的大人しい屁であった。しかし、その屁の量は凄まじい。もし体外に放出されたら、とんでもない音量の屁になるのは間違いない。


 そして、屁は肛門へと辿り着いた。そう。ここで男は自分の屁が肛門に迫ってくることに気づいたのだ。


「誰だ!」


 肛門は屁に認証を求めた。肛門は言わば、人類が社会生活を営むために必要な器官なのだ、ここのセキュリティが甘いとその人は社会的に死んでしまう。だから、厳重なチェックが必要なのだ。もし、実を自在に通してしまったのなら、それはもう大惨事になる。


「屁です」


「なんだ。屁か。なら通って良し」


 肛門は特に屁に本人認証をすることなく、通そうとした。もし、実が屁と偽ってたとしても間違いなく通していたであろう。


「いや待て……あるじが括約筋に力を入れている。今は通行止めだ」


 屁はほぼフリーパス状態ではあるが、それでも脳の命令により通行規制がかかることがある。しかし、ガスは止まらない。


「もうダメです。限界です。そこまで来ています」


「仕方ない。こうなったら括約筋と勝負だ」


 こうして、屁は括約筋と格闘を始めたのだ。絶対に貫こうとすると絶対に守り抜こうとするかつやくきん。その矛盾なる存在が戦っているのだ。


 しかし、人類なら知っているはずだ。この盾はあまりにも脆いことを。そして、屁のなんとしてでも貫こうとする意思を。そう……どんなに括約筋を鍛えても、最強の矛に勝てるはずがないのだ。


「いっけえええええ!!」


 屁が貫き、そして出そうになる。


 ブフォフォオオオ!! もの凄い爆音が響き渡る。時刻は22時。夜中。美しい夜景が見えるレストランにて、ロマンチックな雰囲気に似つかわしくない音が響いた。


 この音を出した主は恥ずかしそうに俯いている。折角のデートを台無しにする爆音。だが、仕方ない。生理現象には誰も勝てないのだ。今まで1度も屁をしたことがないものだけが石を投げることを許される状況。


「ご、ごめんなさ」


 音を出した主が謝ろうとしたその時。その主と一緒にデートしていた男もまた爆音で屁を出したのだ。


「え?」


「すみません。出ちゃいました」


 女が屁を出した次の瞬間に男は屁を出してしまった。同時多発テロ。毒ガス兵器が巻き散らかされたレストランは周囲の客は「なんだこのカップルは」と迷惑そうな目で見ている。


 だが、それとは打って変わってカップルは幸せそうだった。女は、自分だけ恥をかく状況になると思っていた。だが、男が屁を出したことによって、その恥から少し救われたのだ。


 この人は自分を守るために一緒に屁をしてくれた。女はそう解釈した。実のところは、男もただ単に限界だったのだが、女にとってもはどうでもいいことだった。


 この人は私のためならどんな汚名も被ってくれる。そんな素敵な想いが募って、女は男に惚れてしまったのだ。


 こうして2人は結ばれてゴールインした。この2人が結ばれるきっかけになったのは屁だったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肛門は入り口ではありません。出口です 下垣 @vasita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ