第3話図書室にいた彼女
要らなくなったの、と言った後、彼女は席を立ち、さよなら、と一言告げて僕の前から姿を晦ましてしまった。
その場には僕だけがいて、他の誰もがいなくなってしまった。
窓の揺れる音に目を向けると、外では大降りの雪だった。
それから彼女の訃報が学校に届いたのは、雪が溶け始ていた3月の中旬を過ぎて、新学期へ移行する為の準備をしている時期だった。
生徒の死というニュースはそうそうあるものでは無い為、新学期が始まってからも度々どこかのクラスで話題に上る事があった。
話題に上る中で確実な情報と言えるものは少なかったが、自殺した、という事だけは事実なようで、理由は訃報が届く前日に、地元の新聞の中で女子生徒が自殺したという見出しがあったからだそうだ。
それを聞いた僕は彼女の死に驚いたという訳でも無かった。
なぜなら、あの時の見た彼女の表情は、僕だけが見た灰色だったから。
彼女の事を何一つ知らなかった僕は、しかしどうした事だろう、彼女を喪った事で、望外にも己の一部が削り取られたかのような感覚に陥ったのだ。
彼女が死んでから縹渺とした日々を過ごした僕は、クラスメイトや担任の先生にあれこれ理由をでっちあげて彼女の名前、住所を調べ上げたが、それはさよならを告げて雪に溶けこんでしまった彼女の事を、より強く想うようになるだけだった。
僕を図書室に縛り付けた彼女。
僕の青春に灰色を落としていった彼女。
死をもって僕の心を離さなかった彼女。
きっと僕は彼女の事が好きだったのかもしれない。
対して本を読み続ける事で満たされていた彼女の精神は、僕が本に取って代わる存在であると認識していたのだろう。
勿論これはティーポットが太陽の周りを回っていると主張するような事だと分かっている。
それでも、僕の声に応える人はもういないのだ。
気付けば外では降りしきる雪が強まっていた。
見る人を誘いこむ雪が、僕を外へと向かわせた。
外は一面灰色がかった雪景色。
僕は1歩足を踏み入れる。
ザクザクと自然に作られたなだらかな雪の表面を踏み荒らして進む。
雪は更により一層強まっていく。
僕は1歩1歩足を踏み入れる。
小さな川に架かった橋を渡り、身体がどんどん冷たくなってゆくのを感じながらも、僕は目的地に辿り着いた。
図書室の彼女 読書=ミナサン @1_2_55_65_7567
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