第2話放課後の彼女 2
次に出会ったのは5月にしては少し暖かいと感じる日の、これもまた放課後だった。
部活に入っていなかった友人らは皆どこかしらの部活に所属するようになり、ただ僕だけが放課後に暇を持て余すようになった。
学校の近くのゲームセンターにでも行くことも考えたが、それよりも本を読むことの方が有意義に思えた僕は必然的に図書室に足を運ぶようになった。
そして、その時から彼女とは毎日のように会うことになる。
彼女はいつも一言も喋らず、黙々と本を読むだけだったが、僕も特別会話をしたい訳では無かったから、同じ長机を共有して本を読むだけの関係に不満は無く、寧ろ充実すらしていた。
そんな日々が縷縷と過ぎてゆき、──僕と彼女は偶にお互いの読み終わった本を交換することもあったが、それ以上のことは無かった──自然と僕が読む本の数も増えたのだが、同時に彼女と過ごす時間もまた多くなった。
僕が夏休み明けにいつも通り図書室に足を運んで本の虫となっていた時だった。
これまで彼女の前に山のように積まれていた本の数が減っていたことに気付いた。
その時は、まぁそういう日もあるだろう、と思っていたが、本は減る一方で、10月に入った頃には夏休み前の半分にも満たない数の本が所在なさげに長机の上に乗っているのみとなった。
何故本が減っているのか聞き出せないまま11月が終わり、そのまま冬休みの2日前に差し掛かってしまった。
その頃には最早彼女の前に本は1冊も積まれてはおらず、彼女が手元に持っている本のみとなっていた。
かたや僕の前には山のように本が積まれているようになっていた。
その日になって漸く僕は彼女に初めて声を掛けた。
「どんな本を読んでいるの?」
「……」
彼女は沈黙していた。
しかしページを捲る手は止まっており、こちらの質問にどう返そうか思案していたのだろう。
「………………ウェルテルの悩み」
3つ分の呼吸を置いて彼女は答えた。
これまでの時間が再来していた。
お互いが無言のまま時間だけが過ぎてゆく。
しかし、不思議と心地よい静寂だった。
僕はたっぷりと間を空けてから件の話を持ち出した。
「……今日はそれだけなんだね、以前はもっと読んでいた気がするけど」
「……」
再びの沈黙。
「…………要らなくなったの」
そう答えた彼女はこちらと目を合わせようとはしなかった。
しかし、相変わらず灰色だった彼女の表情にはどこか温かさが感じられた。
それが最初で最後の会話である。
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