図書室の彼女
読書=ミナサン
第1話放課後の彼女
僕は図書室にいる。
辺りには象のように知識を蓄えられた書物どもが死んだように静寂を保ち続けている。
灰色の空間。
外では雪が降り始めていた。
図書室の奥に安置されている、使われることも無くなった長机の表面を指でなぞりながら、僕は今は亡き彼女の事を想った。
僕の彼女はよくこの灰色に身を溶け込ませていた。
まるで自分自身が灰色になりたいとでも言うように、気付けば図書室に立ち寄っていて、片っ端から本を読んで、そこには他者を寄せ付けない異常さを纏ってすらいた。
いつも図書室にいた彼女と世界を繋ぎ止めているのは微かに揺れる髪と静かな息遣いだけで、それ以外の感覚は全て本の中に取り込まれてしまったようだった。
対して僕は案外人並みだった。多少読書を嗜む程度の、肝胆相照らす仲の友人と学生らしく過ごす碌碌な学生の一人に過ぎなかった。
そんな僕が彼女を知ったのは入学したての頃。
僕と友人達で校内を駄べりながら歩いていた時に、友人の1人が「図書室にどんな本が置いてあるか見てみね?」と提案したのが切っ掛けだった。
お互い部活に入らず暇を持て余していた僕らは特に断る理由も無かった為、彼の提案に「ああ…」と軽く返事を返すだけで特に期待をする訳でもなく、校舎の端にただ存在するだけの図書室へと足を運んだのだった。
図書室の床は冷たくて固い。
人が利用する為に作られた部屋でありながらそこに人の気配は無く、僕らが部屋に入らなければ辛うじてその体制を保つ事も出来ないように見えた。
そんな中に彼女はいた。
彼女以外に座る事が無い椅子に座り、積み上げた物語の観測者に徹しているかのような静謐さを漂わせて、本の頁を捲っていた。
彼女の整った横顔にやや艶のある黒のセミロング、若干かき上げられた髪から覗かせている耳と首の横に付いている一つのホクロが大人びた印象を持たせていた。
その時は話しかける訳でもなく、僕はただ綺麗な人が居たという印象を持ったのみで、また彼女もこちらに気をとめる事もなかった。
その後、そもそも何も目的を持たず図書室に立ち寄った僕らは10分と経たずにその場を後にした。
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